夏の夜、街灯や自動販売機の光のまわりに虫が集まるのはなぜでしょう。 その答えには、虫の目のしくみと走光性(そうこうせい)というふしぎな性質、そして月を道しるべにする飛び方が深く関わっています。
この記事では、小学生にもわかる言葉で、理由・種類・観察方法をていねいに解説し、自由研究にそのまま使える表や実験のコツ、安全とマナーまで網羅します。読み終えるころには、夜の明かりの下で見える虫の動きが理由としくみとして見えてくるはずです。
1.夜に虫が光に集まるのはなぜ?——走光性と目のひみつ
複眼(ふくがん)がとらえる光の世界
虫の目は複眼という小さな目(個眼)がたくさん集まってできています。明るさの変化や動きに敏感で、暗がりでもわずかな光をキャッチできます。
さらに、多くの虫は紫外線(わたしたちには見えない光)に反応でき、青白い光やUVを強く感じるため、夜のライトに気づきやすいのです。人間が気づかないちらつきの速さ(光が点いたり消えたりする速さ)にも敏感なので、光の種類ごとの違いが行動に表れます。
走光性(そうこうせい)という性質
多くの夜行性の昆虫は光へ向かって進む性質=走光性を持っています。光のある方向へ進むと障害物をよけやすい/開けた場所に出やすい/仲間やえさに出会いやすいという利点があったと考えられ、ガ・カブトムシ・コガネムシ・ユスリカなどに強く見られます。
一方で、ゴキブリなど**暗い方へ逃げる「負の走光性」**を示す虫もいて、種によって光とのつき合い方がちがうことがわかります。
「光=方向の手がかり」になる仕組み
暗い夜、遠くの安定した光(例:月)を一定の角度で保つように飛ぶと、まっすぐ進めるという性質が役に立ちます。光は進む向きを決める“コンパス”の役目を果たしているのです。
ところが、近くに強い光があると角度の計算がくるい、光のまわりを円を描くように回り込みやすくなります。
| 観点 | 虫のしくみ・性質 | 光への反応 | 観察のヒント |
|---|---|---|---|
| 目(複眼) | 明暗・動きに敏感/紫外線を感じる種が多い | 青白い光・UVに強く反応 | 白色灯と黄色灯で集まり方を比べる |
| 行動(走光性) | 光へ向かうと安全・えさに出会いやすい | 光源の近くで旋回・停止 | 光の位置や高さを変えて行動を記録 |
| 方向感覚 | 光を一定角度で保つと直進できる | 近い光だと角度がずれ、回り込みが発生 | 街灯の周りで飛行の軌跡を観察 |
| 体内時計 | 夜に活動しやすいリズム | 夕方〜夜に活発化 | 日の入り後の1〜3時間に注目 |
2.月の道しるべと人工の光——方向感覚が乱れるわけ
月を使った「一定角度の飛行」
夜空の月はとても遠く、位置がほとんど変わらないため、虫は月光を一定の角度に保って飛ぶことで、直線的に移動できます。これは長い進化の中で身についた飛び方と考えられ、森や草原の「広い場所」を効率よく移動するのに役立ちました。
近い光にまどわされる仕組み
街灯や玄関灯などの近くにある強い光を月と同じように扱うと、角度を一定に保とうとして円を描くように回り込み、結果として光の周りをぐるぐる飛ぶ行動が起きます。光源にぶつかる/明かりのそばで止まるのは、この方向制御の“ずれ”が原因です。窓ガラスや白い壁があると、反射した光でも同じことが起き、虫が窓に集まる現象につながります。
光の色・強さ・紫外線の影響
青白い光やUVを多く含む光源ほど、虫は集まりやすい傾向があります。反対に、黄色っぽい暖色の光はやや集まりにくく、一部のLEDは設計によって紫外線をほとんど出さないため、集まり方が弱い場合があります。明るさが同じでも**光の色(波長)**しだいで反応が変わる点がポイントです。
| 光の種類 | 集まりやすさ | なぜ集まりやすい/にくいのか | 観察のコツ |
|---|---|---|---|
| 白色蛍光灯 | 高い | 青〜UVを含みやすい | 同じ場所・時間で黄色灯と比較する |
| 水銀灯 | とても高い | 強い紫外線成分 | 夏の夜に安全に距離を取り記録する |
| 暖色LED | 低い〜中 | UVが少なく黄色寄り | ほかの光と並べて差を見つける |
| UVライト | 非常に高い | UVに強反応する種が多い | 保護具と大人の同伴で安全に |
| 白熱灯 | 中 | 光は黄色寄りだが熱が強い | 熱による接近行動にも注目 |
3.どの虫が光に集まる?——集まる種・集まらない種の見分け
夜に集まりやすい虫のタイプ
ガ、カブトムシ、コガネムシ、カナブン、ユスリカ、カミキリムシなどは、夜行性+走光性が強いため光に集まりやすい代表です。樹液をさがす途中で光に吸いよせられることも多く、木の近くの街灯はとくににぎやかになります。
ガでもオスとメスで反応がちがう場合があり、合図(におい)を出すタイミングと光の条件が重なると集まりやすくなります。
昼型の虫はどうして集まらないの?
クワガタムシ、ハチ、アリ、セミ、トンボ、バッタなどは昼行性で、夜は休む・かくれる行動をとるため、光にはほとんど集まりません。 同じ種類でも気温・湿度・季節で反応が変わることがあります。たとえば暑い夜や湿った夜は、活動が活発になり、いつもより多く見られることがあります。
種ごとの特徴を表で整理
| 虫のグループ | 活動時間 | 光への集まりやすさ | 行動の特徴 | 観察のポイント |
|---|---|---|---|---|
| ガ | 夜 | とても高い | 光の周りで旋回・着地が多い | 光色ごとの種類差に注目 |
| カブトムシ/コガネムシ | 夜 | 高い | 樹液ポイントに向かう途中で寄る | 樹木と光の距離を記録 |
| ユスリカ | 夜 | 高い | 光柱の中で群れを作る | 風の有無で数が変化 |
| クワガタ | 夕〜夜 | 中〜低 | 種・気象で差が大きい | 湿度・気温も記録して比較 |
| ハチ・アリ・セミ・トンボ | 昼 | 低い | 夜は休む・隠れる | 昼の生息場所観察に切り替える |
| ホタル | 夜 | 中(強光はむしろ避ける) | 自分の光で合図する | 暗い場所で静かに観察 |
4.観察・実験ガイド——自由研究で「理由」を確かめる
光の色と高さで比べる実験
同じ場所・同じ時間帯に、白色灯/暖色LED/UVライトなど光の種類を用意し、高さ(地面近く・胸の高さ・頭上)も変えて、集まった虫の種類と数を比較します。
安全のため必ず大人といっしょに行い、肌の露出・目の保護にも注意します。観察は10分区切りで数えると、時間変化の比較がしやすくなります。
場所・天気・時刻をそろえてデータを取る
観察条件をそろえると、光の違いによる効果が見やすくなります。無風〜微風の晴れた夜は数が安定しやすく、強風・大雨・急な冷えこみでは集まりが弱くなります。
月の明るい夜(満月近く)と暗い夜(新月近く)で集まり方がどう変わるか比べるのもおすすめです。
観察ノートの書き方(自由研究テンプレート)
下の表を写して使い、同じ条件・同じ時刻でくり返すと、変化がわかりやすくなります。スケッチをそえると、あとで種類を調べるときに役立ちます。見分けに迷ったら、色・大きさ・羽の形・触角の長さなどの手がかりを書きのこしましょう。
| 日付 | 時刻 | 天気・風 | 月の明るさ | 光の種類/高さ | 場所 | 集まった虫の種類と数 | 気づいたこと |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 8/10 | 20:00 | はれ・微風 | 半月 | 白色蛍光灯/胸の高さ | 公園A | ガ12・ユスリカ多数 | 白い光に集中していた |
| 8/10 | 20:00 | はれ・微風 | 半月 | 暖色LED/胸の高さ | 公園A | ガ3・ユスリカ少数 | 黄色い光は少なかった |
安全とマナーの早見表
| 項目 | してよいこと | さけたいこと |
|---|---|---|
| からだの保護 | 長そで・長ズボン・帽子・上着 | 半そで短パンで長時間の観察 |
| 目の安全 | 強い光を直視しない/UVライトは保護具 | 近距離で長時間UVをあてる |
| 生き物の配慮 | 触らず観察・写真だけ・元の場所を守る | むやみに捕まえる・持ち帰る |
| 場所の配慮 | 住民の迷惑にならない時間と声量 | 夜中の大声・私有地への立ち入り |
5.Q&Aと用語辞典——疑問をまとめ、言葉をおぼえる
Q&A(よくある疑問)
Q1:虫はなぜ白い光に多く集まるの?
A:多くの虫は青〜紫の光や紫外線に敏感で、白い光はそれらをふくみやすいためです。
Q2:LEDだと虫が減るのは本当?
A:****暖色系やUVをほとんど出さない設計のLEDでは集まりにくいことがあります。ただし、LEDの種類によってちがいます。
Q3:ホタルは光に集まるの?
A:ホタルは自分で光を出して合図します。強い人工の光は合図が見えにくくなるため、近づかないこともあります。観察するときはフラッシュ撮影をしないなど、ていねいに見守りましょう。
Q4:どうして同じ場所でも日によって数がちがうの?
A:****気温・湿度・風・月の明るさなどの条件で、活動量が大きく変わるからです。前日までの雨量やその日の地面の温度も関係します。
Q5:観察のときに注意することは?
A:****長そで・長ズボン・帽子で肌を守り、目に光を直視しないこと。虫や自然を傷つけない観察を心がけ、終わったら場所を元どおりにしましょう。
Q6:家の玄関に虫が来ないようにするには?
A:必要なときだけ照明を点ける、黄色よりの光に変える、隙間をふさぐ、網戸を閉めるなどで減らせます。虫よけスプレーは使い方を守って屋外で短時間だけにしましょう。
用語ミニ辞典(やさしい言いかえつき)
| ことば | 意味 | やさしい言いかえ |
|---|---|---|
| 複眼 | 小さな目がたくさん集まった虫の目 | たくさんの小さな目 |
| 走光性 | 光に向かって進む性質 | 光へまっすぐ進むくせ |
| 負の走光性 | 光から遠ざかる性質 | 暗い方へにげるくせ |
| 紫外線(UV) | 目に見えない短い波長の光 | 見えない強い光 |
| 夜行性/昼行性 | 夜に活動/昼に活動する性質 | 夜型/昼型 |
| 光害 | 人工の光が生き物に悪い影響を与えること | 明かりのえいきょう |
| 体内時計 | 朝と夜のリズムを作るしくみ | 体の時間わり |
まとめ
虫が夜に光へ集まる理由は、複眼の特性と走光性、そして月を道しるべにする飛び方にあります。 近くの強い人工の光は方向感覚をみだし、虫が光の周りを回る・止まる行動を引き起こします。光の色・紫外線の量・高さを変えて観察すると、種類ごとの違いがよくわかります。
安全に気をつけ、表とスケッチで記録を残せば、自由研究としても高い完成度に仕上がります。夜の観察から見えてくるのは、身近な自然が持つしくみの美しさです。明かりの下の小さなドラマを、やさしい目と科学の心で見つめてみましょう。


