宇宙と聞いてまず思い浮かぶのは、底冷えするような超低温か、太陽のような灼熱か――。正解はその“どちらも”です。宇宙には、絶対零度に限りなく近い 2.7ケルビン(K) から、数百万度・数億度に達する高温まで、想像を超える温度差が共存しています。本記事では、宇宙の平均気温の正体、場所ごとに異なる温度環境、温度の測り方、温度が生む宇宙の営み、工学・探査への影響 までを、やさしい言葉で徹底解説。
宇宙の平均気温は約2.7K――そのわけ
2.7Kの正体は「宇宙背景放射」
宇宙の“基準温度”はおよそ 2.7K(−270.45℃)。これは、ビッグバンの“名残”である 宇宙マイクロ波背景放射(CMB) が、宇宙全体を満たしているためです。空のどこを見ても、ほぼ同じ温度の電波(マイクロ波)が観測されます。
絶対零度とのちがいと「冷えきらない」理由
絶対零度(0K) は、原子の熱運動が止まる理論上の下限。ですが宇宙は背景放射でほんのり“温められ”、完全な0Kには到達しません。しかも真空では熱の伝わり方が 放射 しかなく、温度はゆっくりしか変化しません。
一様なのにムラがある?微小ゆらぎの意味
CMBはほぼ一様ですが、温度には ごくわずかなムラ(ゆらぎ)が存在します。この小さな差が、のちの 銀河・星・惑星 といった構造の“タネ”になりました。温度のわずかな違いが、宇宙の大模様を決めたのです。
宇宙はなぜ冷たいのか——3つの理由
- 物質が少ない(伝導・対流がほぼ起きない)/2) 膨張により光が伸びて冷える/3) 放射冷却 が支配的。これらが合わさり、宇宙の平均は極低温に落ち着きます。
場所でこんなに違う!宇宙の温度地図
恒星の内部と外層で見える温度の段差
太陽の 表面は約5,500℃、中心は約1,500万℃。さらに大質量星では中心温度が 1億℃超 に達することも。外層ほど冷えるとは限らず、太陽の コロナ は 100万〜数百万℃ と超高温(加熱の仕組みは研究が続いています)。
星間・分子雲・星の“ゆりかご”は驚くほど冷たい
星と星の間に広がる 星間空間 は超低密度で、温度は 数K〜数十K。星の卵が育つ 分子雲 は 10K前後(−263℃ほど) が一般的。冷たさが分子を守り、星作りの材料が保たれます。
銀河団・銀河間の“熱い宇宙”もある
銀河団には 数千万Kの高温ガス(銀河団ガス) が満ち、X線 で明るく輝きます。銀河の少ない空隙(ボイド)では背景に近い 2.7K。場所により“極寒”と“灼熱”が共存します。
近地球空間の“日なた”と“日陰”の落差
低軌道では、太陽光が当たる面が +120℃、影側は −150℃ 近く。空気が無く 対流 が起きないため 放射 だけで温度が決まります。宇宙機は 多層断熱(MLI) と ヒーター/ラジエータ で体温調節。
温度の目安(保存版)
場所・現象 | 温度の目安 | 補足 |
---|---|---|
宇宙全体の基準(CMB) | 約2.7K(−270.45℃) | ビッグバンの名残が作る“宇宙の底冷え” |
宇宙空隙(ボイド) | 約2.7K前後 | 物質が極端に少ない領域 |
分子雲(星の卵の材料) | 10〜50K(−263〜−223℃) | 低温で分子が保たれる |
散光星雲(電離ガス) | 約1万K | 若い星の紫外線で加熱 |
銀河団ガス(ICM) | 数千万K | X線で観測される超高温ガス |
太陽表面(光球) | 約5,500℃ | 私たちが目にする太陽の“顔” |
太陽コロナ | 100万〜数百万℃ | 加熱機構は研究が進行中 |
太陽中心 | 約1,500万℃ | 水素の核融合が進む場所 |
大質量星の中心 | 1億℃以上 | 重い元素の合成が進む極限状態 |
中性子星表面 | 数十万〜数百万K | 超高密度天体の“地表” |
ブラックホール降着円盤 | 数百万〜数億℃ | 摩擦・重力で加熱 |
地球周回軌道(日なた) | 約+120℃ | 直射で加熱、断熱材で制御 |
地球周回軌道(日陰) | 約−150℃ | 放射冷却で大きく低下 |
目安値。天体の種類・年齢・環境で大きく変わります。
宇宙の温度を決める基本ルール(やさしい物理)
放射平衡:受け取る熱と捨てる熱のつり合い
天体や機器の温度は 「吸収するエネルギー=放射で捨てるエネルギー」 のつり合いで決まります。太陽光をどれだけ 反射(アルベド) し、どれだけ 放射(放熱) できるかがカギ。
吸収率・放射率・色
表面の材質や色で 吸収率 と 放射率 が変わります。黒に近いほど吸収・放射が大きく、温度応答も強くなります。宇宙機のサーマル設計は、ここを緻密に最適化します。
光を通すか遮るか(光学的厚さ)
ガスや塵の“濃さ”は 光学的厚さ で表され、厚いほど内部は冷えやすく、薄いほど外からの光で加熱されやすい。星雲の温度構造を左右する重要な指標です。
どう測る?宇宙の温度の測り方
光の“色と明るさ”から温度を読む(赤外線・電波)
冷たい塵やガスは 赤外線、さらに冷たい領域は 電波 でよく見えます。放たれる光の分布から 黒体放射 の考えを使って温度を推定。背景放射の2.7Kもこの方法で精密に測られました。
線の“太さ”や“位置”で知る(スペクトル解析)
天体の光には元素ごとの“すじ”= スペクトル線 が含まれます。線の 幅(熱運動の速さ)や 位置(運動によるずれ)から、ガスの温度・密度・動きを推定。星・星雲・銀河の温度計として欠かせません。
X線・サンヤエフ‐ゼルドビッチ効果で“熱い宇宙”を見る
銀河団の超高温ガスは X線 で直接観測。さらに、背景放射の光が高温電子で散乱される サンヤエフ‐ゼルドビッチ効果 を使うと、温度と密度の分布を別の角度から測れます。
探査機の実測と、計算の組み合わせ
惑星・衛星の近くでは、探査機の 温度計・放射計 が直接はかります。遠い天体は 観測データ+数値シミュレーション で温度分布を再現。近年は AI画像解析 の進歩で精度が上がっています。
観測手段と測る対象(対応早見表)
観測の光 | 得意な対象 | わかること |
---|---|---|
電波 | 背景放射、分子雲、COなど | 超低温ガスの温度・量・流れ |
赤外線 | 塵、原始星、系外惑星 | 冷たい物体の温度分布、成長段階 |
可視光 | 恒星表面、電離ガス | 星の表面温度、星雲の目安温度 |
紫外線 | 高温の薄いガス | 電離度、加熱の痕跡 |
X線・γ線 | 超高温ガス、降着円盤、爆発現象 | 数百万度以上の極限温度、衝撃波 |
温度がつくる宇宙の営み
星と惑星が生まれる温度条件
冷たい分子雲(〜10K) は、重力が勝ると収縮。中心が温まり 原始星 になり、十分熱くなると核融合が始まって 恒星 が誕生。周囲の 原始惑星系円盤 では温度差により、内側は岩石惑星、外側は氷・ガスが集まりやすくなります。
元素合成と高温の現場
恒星の中心や超新星、降着円盤など 高温の現場 では、軽い元素から重い元素が作られます。宇宙にある鉄・金・ヨウ素といった 私たちの体を形づくる元素 は、こうした高温環境で生まれ、のちに宇宙へ放出されました。
宇宙温度と化学反応
極低温では化学反応は遅くなりますが、塵の表面で分子が作られ、紫外線で壊され、また作られる——この“低温化学”が生命材料の前駆体を育てます。
居住可能条件と温度
居住可能域(ハビタブル帯) は、恒星からの距離と大気の温室効果で決まります。温度が安定して液体の水が保てるかどうかが、生命探しの第一関門です。
工学・探査に直結する「温度」の話
宇宙船と宇宙服の温度調節システム
宇宙服は −150℃〜+120℃ の極端な環境に耐えるため、液冷下着(冷却チューブ)、断熱層、ヒーター を内蔵。宇宙機は MLI、ラジエータ、サーマルスイッチ で自動的に“体温調節”します。
月・水星・小天体の極端温度
大気がほぼ無い天体は日較差が巨大。月面は日中 約+120℃、夜間 約−170℃。水星は +430℃/−180℃。小惑星の表面温度は自転周期・表面の色で大きく変化します。
系外惑星の温度を見る
系外惑星は、平衡温度(恒星から受ける光と放射のつり合い)でおおよそを推定します。大気の有無・成分・雲で実際の地表温度は大きく変わります。
宇宙の“環境別”温度帯(一覧)
環境 | 代表温度帯 | 備考 |
---|---|---|
真空の平均 | 2.7K | CMBが作る基準 |
分子雲の核 | 7〜15K | 星形成の種 |
電離星雲 | 8,000〜12,000K | HII領域 |
銀河団ガス | 10^7〜10^8 K | X線が強い |
低軌道衛星外板 | −150〜+120℃ | 日陰/日なた差 |
月・水星表面 | −180〜+430℃ | 大気が無く日較差大 |
ガス惑星上層 | 100〜数千K | 高度・成分で変化 |
降着円盤内縁 | 10^6〜10^8 K | ブラックホール周辺 |
宇宙の“相”を知る:星間物質の温度と密度
相(フェーズ) | 代表温度 | 代表密度 | 主な場所・特徴 |
---|---|---|---|
分子相 | 10〜50K | 高密度 | 星形成領域、分子が豊富 |
中性原子相(冷) | 50〜200K | 中密度 | HI雲、電波で観測 |
中性原子相(温) | 6,000〜10,000K | 低密度 | 銀河円盤の広域 |
電離相 | 8,000〜12,000K | 低密度 | 若い星周辺のHII領域 |
コロナ相 | 10^5〜10^6K | 非常に低密度 | 超新星衝撃波で加熱 |
星間物質は、加熱(紫外線・衝撃波)と冷却(放射)のバランスで、温度の違う“相”に分かれます。相の移り変わりが、星の誕生と死を循環させるエンジンです。
まとめ・実務に役立つ付録
Q&A(よくある質問)
Q1. 宇宙は2.7Kで“ほぼ一定”なの?
A. 基準は2.7Kですが、天体の近くや降着円盤など 局所的に大きく上下 します。宇宙は“冷たい背景の上に熱い島が点在”しているイメージです。
Q2. 宇宙空間では物はすぐ凍る?
A. 空気が無く 熱が逃げにくい ため、速くは凍りません。放射 で少しずつ冷えていきます。日なたなら逆に加熱されます。
Q3. なぜ宇宙服は大げさな装備なの?
A. 日なたと日陰で 数百℃の差 があるため、断熱・冷却・加熱 を同時に行う必要があるから。体温を一定に保つ仕組みが詰まっています。
Q4. 宇宙の平均温度は今後どうなる?
A. 宇宙の 膨張 が続く限り、背景放射はゆっくり 低下。平均温度もさらに下がります。
Q5. 太陽の表面より外側のコロナが熱いのはなぜ?
A. 強い 磁場 や 波 によってエネルギーが運ばれ、外層が加熱されると考えられています。詳細は現在も研究中です。
Q6. 月や小惑星はなぜこんなに日較差が大きいの?
A. 大気が無い ため熱を運ぶ対流がなく、表面は日なたで急加熱、夜は放射で急冷します。
Q7. 系外惑星の温度はどうやって推定?
A. 恒星からの受熱と放射の 平衡温度 を計算し、大気・雲・温室効果で補正します。日面通過時の赤外観測で直接推定できる場合もあります。
Q8. ブラックホール自体は“熱い”?
A. ブラックホールそのものの温度は極端に低いとされますが、周囲の降着円盤 は摩擦・重力で 超高温 になります。
用語ミニ辞典(やさしい言い換え)
- ケルビン(K):温度の単位。0Kが絶対零度。水の氷点は約273.15K。
- 絶対零度:熱運動が止まると考えられる理論上の下限温度(0K)。
- 宇宙マイクロ波背景放射(CMB):ビッグバン直後の光が冷えて現在は電波になったもの。宇宙全体をほぼ一様に満たす。
- 黒体放射:物体が温度に応じて放つ光。色と明るさから温度を見積もれる。
- 分子雲:星間ガスが濃く冷えた雲。星の卵の材料が集まる場所。
- HII領域:若い星の強い紫外線で水素が電離した“温かい星雲”。
- 降着円盤:物質が天体に落ち込む前に円盤状にまとまったもの。摩擦や重力で高温になる。
- 居住可能域(ハビタブル帯):液体の水が安定して存在できる距離の範囲。
- 放射冷却:赤外線として熱を宇宙へ放つことで冷える現象。
- アルベド:表面の反射率。大きいほど太陽光をはね返して温度が上がりにくい。
温度早見表(携帯版・再掲)
区分 | 温度の目安 | 覚え方 |
---|---|---|
宇宙の基準 | 2.7K | 宇宙の“空気の温度”のような基準 |
星のゆりかご | 10K前後 | 冷たいほど星作りが進む |
星雲(電離ガス) | 1万K | 若い星の光で温められる |
太陽表面 | 約5,500℃ | 私たちが見ている太陽の温度 |
太陽コロナ | 100万〜数百万℃ | 表面より外側が熱い特別地帯 |
銀河団ガス | 10^7〜10^8 K | 宇宙最大級の“熱い海” |
降着円盤 | 数百万〜数億℃ | 宇宙屈指の“灼熱工場” |
近地球空間 | +120℃ / −150℃ | 日なたと日陰の差が極端 |
この記事の使い方(運用メモ)
- 初学者向けの 導入講義 やワークシートの素材に。
- 理科授業・自由研究の 温度比較 ネタに。
- 宇宙関連の 展示・商品説明 のテンプレートに。
結論:宇宙は“冷たい背景の上に熱い現場が点在する世界”。この温度差こそが、星や銀河、そして私たちの材料を生み出し続けています。温度を知れば、宇宙の営みがぐっと身近に なります。