水に落とした直後の5分が勝負です。やってはいけない行動を避け、正しい順番で手を動かせば、復旧の可能性は大きく高まります。本稿は、現場で迷わないように時系列で実行できる手順書として設計しました。NG行動の理由、初動1時間と乾燥72時間の実務、チェック項目、復旧できない時の選択肢、そして再発防止の装備と運用までを一気通貫で解説します。印刷やスクショで手元マニュアルとしてお使いください。
1. 水没直後のNG行動とその理由(まず読んで止める)
1-1. 電源・充電・加熱の三大タブー
見た目が無事でも内部は濡れています。電源を入れる/充電する/加熱するは致命傷に直結します。
- 電源を入れる:濡れた回路に電流が流れショート。一度は起動しても、以後の不安定化(フリーズ・再起動ループ)を招きます。
- 充電する:水分が残る充電回路は瞬時にショート。端子焼損・発熱・異臭の恐れ。
- ドライヤー・ヒーターで加熱:熱で接着剤や防水シールが劣化。残水が蒸気化して別部位に結露拡散、腐食を早めます。
ワンポイント:ワイヤレス充電(置くだけ充電)も通電に該当します。完全乾燥前はNG。
1-2. 振る・吹く・叩くのダメージメカニズム
- 振る:スピーカー穴やマイク穴から奥へ奥へと水が移動。
- 口で吹く/エアダスター至近:水が霧化して基板全面に拡散。
- 叩く:精密部品へ機械的ダメージを重ね、復旧難度が上昇。
1-3. 液体の種類で変わる深刻度と初動
同じ水でも、液体成分でリスクが大きく変わります。種類をメモしておくと修理・復旧判断がスムーズです。
液体 | 破壊因子 | 直後の要点 | 備考 |
---|---|---|---|
海水 | 塩分・導電・腐食促進 | 真水で素早くすすぎ→乾燥 | 塩を残すと急速腐食 |
プール・入浴剤 | 塩素・添加物 | すすぎ→乾燥 | 化学腐食に注意 |
砂糖/乳成分入り飲料 | 糖・脂質の粘着 | 拭き取り→軽い真水すすぎ→乾燥 | 乾くとボタン固着 |
雨水・真水 | 比較的軽症 | 拭き取り→乾燥 | それでも腐食は進む |
アルコール高濃度 | 脂溶性汚れ移送 | メーカー推奨外。揮発性に過信しない | 可燃性・樹脂劣化の懸念 |
1-4. 典型NG行動と起こる故障(早見表)
NG行動 | 何が起こるか | 典型症状 |
---|---|---|
すぐ電源ON | 回路ショート | 起動ループ、画面点滅、異常発熱 |
すぐ充電 | 充電回路焼損 | 充電不可、端子変色、焦げ臭 |
ドライヤー温風 | シール劣化・結露拡散 | 後日スピーカー不良、錆び |
強く振る/吹く | 水の奥押し込み | マイク不良、カメラ曇り |
電子レンジ/オーブン | 重大危険 | バッテリー破裂・火災 |
注意:生米に埋めるは粉混入で端子を傷めやすく、期待効果も低いため推奨しません。
2. 初動1時間の正しい応急処置(段取りで差が出る)
2-1. タイムライン:60秒 → 10分 → 60分
60秒以内
- 端末を引き上げ即時シャットダウン(画面点灯中でも必ず電源オフ)
- ケース・保護フィルム・ストラップ・アクセを外す(乾きの障害を除去)
10分以内
3) SIM・microSDを抜き、乾いた布で押し当て吸い(擦らない)
4) 充電端子・スピーカー穴を下向きにして静置(振らずに重力排水)
60分以内
5) 外周の水をキッチンペーパーで吸い取り(こすらない)
6) 乾燥剤(シリカゲル)を多めに入れた密封袋へ。涼しく風通しの良い場所に置く。
NG:この段階での通電テスト/充電/温風乾燥は復旧率を落とします。
2-2. 家に乾燥剤がないときの代替案
手段 | やり方 | 期待度 | 注意 |
---|---|---|---|
扇風機の弱風 | 50cm以上離し連続送風 | 中 | ホコリ混入に注意 |
除湿機の近く | 直風を避けて近置き | 中 | 温風直撃は避ける |
密封袋+乾いたタオル | タオルで外水分を吸収 | 低〜中 | 一日ごとに交換 |
2-3. データと安全のために分解しない
自己分解は防水パッキン損傷→以後の修理費増。水没インジケーター(白→赤)は誤操作で反応させやすく、保証や診断に影響。内部乾燥は専門業者の超音波洗浄+減圧乾燥が安全です。
応急処置チェックリスト(保存用)
項目 | 目安 | メモ |
---|---|---|
通電禁止(電源・充電・無線充電) | すぐ | 再起動もしない |
外装の吸水 | 10分以内 | 押し当て吸水、こすらない |
SIM/SD退避 | 10分以内 | 乾燥保管 |
乾燥剤密封 | 60分以内 | シリカゲル多め |
乾燥待ち | 24〜72時間 | 途中テスト厳禁 |
3. 乾燥・復旧の実務(24〜72時間の過ごし方)
3-1. ベストプラクティス:自然乾燥+乾燥剤
- 密封袋に端末+未開封シリカゲルを複数。24時間ごとに乾燥剤を交換。
- 直射日光/高温は避け、20〜30℃・湿度50%以下を目安に静置。
- 端子やスピーカーが下向きになる角度で固定(重力排水を継続)。
3-2. 生米・温風・無水エタノールの是非
- 生米:粉が端子に付着、吸湿力も弱く非推奨。
- ドライヤー温風:接着剤劣化・結露拡散で逆効果。使うなら冷風・遠距離・弱のみ。
- 無水エタノール:理屈上は置換できても、樹脂・接着・塗装への影響と可燃性のリスク。素人作業は避けましょう。
3-3. 復旧テストの丁寧な手順
72時間後、段階的に確認します。
- 通電せず外観確認(レンズ曇り・端子の水滴・異臭の有無)
- 電源ボタン短押しで起動の有無のみ確認(ここでも充電はまだ)
- 起動後の機能確認:画面タッチ・明るさ自動調整(近接/照度センサー)/スピーカー・受話・マイク・録音/カメラ前後・動画・AF/物理ボタン・バイブ/Wi‑Fi・モバイル回線・Bluetooth・NFC/おサイフ
- 最後に充電(ケーブル→必要に応じワイヤレス)。異音・異臭・異常発熱があれば即中止。
乾燥手段の比較
方法 | 期待度 | 時間 | リスク |
---|---|---|---|
自然乾燥+シリカゲル | 高 | 24〜72h | 低(推奨) |
扇風機/除湿機(弱) | 中 | 12〜48h | 低〜中 |
生米 | 低 | 24〜72h | 粉混入 |
ドライヤー温風 | 低 | 数h | 接着劣化・結露 |
電子レンジ/オーブン | 不可 | — | 重大危険 |
4. 復旧しない/不安が残る時の選択肢
4-1. 修理前に準備・伝えるべき情報
- 水没日時・場所・液体の種類(海水/風呂/飲料など)
- 電源操作履歴(入れた/入れていない)と試した乾燥手段
- 端末のロック解除方法、可能なら二段階認証の回避策
- バックアップの最終日時(iCloud/Google/PC)
4-2. データ復旧の可能性と費用感(目安)
- 起動不可でも基板洗浄・部品交換で抽出できる例あり。
- コストは状態/機種で差が大きく、一般に数万円〜十数万円の幅。
- 何よりデータ優先なら、通電せず専門のデータ復旧業者へ直行が安全。
4-3. 保証・保険・キャリアの水濡れ対応
- メーカー保証は多くが水濡れ対象外。
- 端末補償や携行品保険加入なら交換・修理の自己負担軽減が見込めます。免責金額/回数を事前確認。
TIP:水没は時間勝負。修理や復旧の相談は乾燥中の段階で予約すると動きが早いです。
5. 再発防止の現実策(装備×運用)
5-1. 防水性能(IP等級)の正しい理解
表示例 IP68 は粉塵完全耐性(6)+耐水(8)を意味。ただし試験は真水・常温・静止水が条件。海水・温水・石鹸水・高水圧は想定外です。防水=無敵ではないと心得ましょう。
表示 | 耐水目安 | 注意点 |
---|---|---|
IPX4 | 生活防水(飛まつ) | キッチンの水しぶき程度 |
IPX7 | 一時的浸水(1m/30分) | 動かない水での試験 |
IPX8 | メーカー定義の強耐水 | 海水・温水は一般に対象外 |
5-2. 装備の最小構成と運用ルール
- 防水ポーチ(タッチ対応)を雨天・水辺で常用。
- ストラップ付きケースで落下→水没を予防。首掛けなら両手が空き安全。
- 端子用止水キャップで侵入リスクを低減(定期清掃を忘れずに)。
- 帰宅後は端子内の水分チェックを習慣化。濡れたら通電前に乾燥剤密封。
予防策のコスト対効果
施策 | 目安コスト | 効果 | 補足 |
---|---|---|---|
防水ポーチ | 1,000〜3,000円 | 水辺での安全性大 | タッチ操作対応を選ぶ |
乾燥剤+密封袋 | 数百円 | 応急成功率↑ | 旅行ポーチに常備 |
ストラップ付きケース | 1,500〜4,000円 | 落下・紛失予防 | 斜め掛けが便利 |
止水キャップ | 数百円 | 端子侵入を抑制 | こまめに脱着清掃 |
5-3. シーン別の備えと行動テンプレ
- お風呂・サウナ:持ち込まない。どうしてもなら防水ポーチ+湯面上固定、終わったら真水拭き→乾燥。
- 海/プール:塩素・塩分は腐食促進。上がったら真水すすぎ→吸水→乾燥剤密封を当日中に。
- 豪雨・自転車:胸ポケット/外ポケットは避け、内側の防水ポケットに。停車して操作。
6. ケース別の即応マニュアル(迷ったらここ)
6-1. トイレに落とした
- ゴム手袋で回収→電源オフ→外装吸水
- 可能なら外装を真水で軽くすすぎ(汚水成分を落とす)
- 乾燥剤密封72h→復旧テスト
6-2. 洗濯機で回した/泡まみれ
- すぐ停止→回収→電源オフ
- 洗剤成分を真水で丁寧にすすぐ→吸水
- 乾燥剤密封→72h→テスト。異臭や泡残りは専門洗浄を検討。
6-3. 海や川で沈めた
- 回収→真水ですすぎ→吸水
- 乾燥剤密封72h→テスト。塩害の可能性が高く、早期の専門洗浄が有利。
6-4. 雨の中で使い続けた
- 端子/スピーカーを下にして水抜き→吸水
- 24h乾燥→機能テスト→問題あれば追加48h乾燥。
6-5. 飲料(コーヒー/ジュース/ミルク)
- 砂糖・脂肪は固着の元。軽い真水すすぎ→吸水
- 乾燥剤密封72h→ボタン/スピーカーの粘りが残る場合は洗浄依頼。
7. 自分でできる健康診断メニュー(復旧後)
7-1. 端末全体のセルフチェック
- 画面:明るさムラ・タッチ抜け・ゴーストタッチの有無
- カメラ:曇り・ゴミ・黒点、動画の音ズレ
- 音:着信音量・通話時の相手の聞こえ方、ノイズ
- 通信:Wi‑Fi/Bluetooth/NFC/モバイル回線の安定性
- バッテリー:異常発熱・残量の急低下・膨張
7-2. 数日後に出やすい遅延症状
- 充電しづらい/角度で途切れる(端子腐食)
- スピーカー音が小さい/割れる(メッシュ残水/塩残り)
- カメラ内部のうっすら曇り(微量残水)
→ 改善しなければ洗浄・部品交換を検討。
8. よくある誤解Q&A(実務基準で回答)
Q1. 生米は本当にダメ?
A. 端子に粉が入りやすく、吸湿力も低い。乾燥剤密封が圧倒的に有効です。
Q2. 日向に置いて干せば早い?
A. 高温で接着剤が弱り、結露が拡散。日陰・常温・低湿が鉄則。
Q3. 防水スマホだから安心?
A. 条件付きの試験値。海水・温水・石鹸水・高水圧は想定外。過信は禁物。
Q4. とりあえずワイヤレス充電なら安全?
A. 通電は通電。完全乾燥前はNGです。
Q5. 無水エタノールで洗えばOK?
A. 樹脂や接着・塗装に影響、可燃性も。専門設備がない場合は避けましょう。
Q6. 何時間待てば電源を入れてよい?
A. 目安は72時間。液体の種類や侵入量で延長推奨。
まとめ:焦らず 通電しない・動かさない・乾かす
水没対応は通電しない・動かさない・乾かすの三原則に尽きます。電源・充電・無線充電を断ち、静置して乾燥72時間。復旧しなければ、液体の種類と実施処置を整理し専門家へ早期相談。日頃から防水ポーチ・乾燥剤・密封袋を常備し、IP等級の限界を理解して運用する――この少しの準備が、明日のスマホと大切なデータを守ります。