夜、おそとを見上げたら「今日は月が見えない!」――それは月がどこかへ行ってしまったからではなく、「新月(しんげつ)」という特別なならび方になっているから。
この記事では、新月のしくみ、月の満ち欠けのリズム、見えない夜の本当の理由、観察のコツや自由研究アイデア、そして月と地球・太陽の深い関係まで、やさしく・たっぷり解説します。読んだその日から空を見上げたくなる内容です。
月が見えたり見えなかったりするわけ
月は自分で光っていない
月はたいようの光を反射して光って見えます。つまり、月そのものが光っているわけではなく、「どの面に光が当たっているか」で、地球から見える形が変わります。鏡に光を当てると反対側が明るくなるように、月も“光の当たる向き”しだいで見え方が大きく変わるのです。
太陽・地球・月のならびがカギ
月は地球のまわりを回る(公転)ので、日に日に太陽との角度が変化します。太陽→月→地球の順にならぶと、地球からは月の暗い面しか見えません。これが“見えない月=新月”。反対に太陽→地球→月の順にならぶと、月の明るい面がすべて見えて満月になります。
新月はどこにいる?
新月の月は、昼の空で太陽の近くにあります。太陽の光がとても強いので昼は見えず、夜になるころには月が地平線の下にいて見えません。月は消えたのではなく、向きの関係で「見えないだけ」です。
月の満ち欠けをまるごと理解
29.5日のリズム(朔望月)
月の満ち欠けは約29.5日でひと回り。この1周を「朔望月(さくぼうげつ)」といい、新月をスタートとして、少しずつ形がふくらみ、満月をすぎるとかけていき、また新月に戻ります。およそ1か月で“ぐるり”と同じ順番をくり返しているのです。
形の名前と見える時間のめやす
- 新月:見えない。太陽と同じ方向。星がよく見える夜になりやすい。
- 三日月:日の入り後の西の空に細い弓の形。毎日すこしずつ太くなる。
- 上弦(じょうげん)の月:半月(右半分が光る)。夕方から夜によく見える。
- 十三夜・十四夜:ほぼ満月。昔からお月見を楽しむ風習がある。
- 満月:まん丸。太陽の反対側にあり、夜に高くのぼる。
- 下弦(かげん)の月:半月(左半分が光る)。深夜~明け方に見やすい。
- かけていく細い月:明け方の東の空に細い弓。新月へ近づく。
新月から満月までの“光のふくらみ”
新月の2~3日後、細い三日月が西空に現れます。暗い部分がほのかにぼんやり見えることがあり、これは地球からの反射光で照らされた**地球照(ちきゅうしょう)**です。満月に近づくほど、月ののぼる時刻が早まり、夜の時間に長く見えます。満月をすぎるとかけていき、見える時刻はだんだん遅い夜から明け方へ移動していきます。
「今夜見えない」の本当の理由いろいろ
① 新月だから見えない
月の明るい面が地球側に向いていないため、夜空では見えません。これは毎月1回必ず起こる自然のリズムです。
② 天気や明るさの影響
雲・霧・黄砂・強い街明かり(光害)で月がかくれることがあります。細い月はとくに埋もれやすく、晴れていても地平線近くのもやで見えないことも。
③ 地平線・時刻・方角の落とし穴
三日月は日没直後の西、下弦の月は夜明け前の東など、形ごとに“出る向きと時刻”が違います。方角や時間が合っていないと、晴れていても見つかりません。
月が見えない主な理由(早見表)
原因 | しくみ | 対策・ヒント |
---|---|---|
新月 | 太陽と地球の間に月が入り、明るい面が見えない | 数日待って西の夕空を観察。細い月が戻る |
雲・霧 | 雲や湿気が月光をさえぎる | 天気図や雲の切れ間をチェック。高台へ |
光害 | 街の明かりで細い月が見えにくい | 明かりの少ない公園や郊外へ移動 |
方角ちがい | 形ごとに出る方向・時刻が違う | 月齢カレンダーで方角と時刻を確認 |
新月と自然のつながり(潮の満ち引き・日食・暦)
潮の満ち引きと大潮(おおしお)
月と太陽の引力で海の水位が上下します。新月と満月のころは、ふたりの引っぱる力が同じ向きになって大潮になり、満ち引きの差が大きくなります。海辺の観察にもぴったりの時期です。
日食は新月のときだけ
新月のとき、月が太陽の前をちょうど横切ると日食が起こります(部分・金環・皆既など)。毎月起きないのは、月の通り道が少し傾いていて、太陽と重なる角度がめったにそろわないからです。※太陽を観察するときは、専用の下じきや眼鏡が必要で、直接見てはいけません。
旧暦(きゅうれき)と暮らし
むかしの暦は月の満ち欠けが基準。新月を「朔(さく)」、満月を「望(ぼう)」と呼び、行事や農作業の目じるしにしてきました。今でも十五夜などの風習が残っています。
月のひみつをもう一歩:同じ「かお」がいつも見えるわけ
潮汐(ちょうせき)ロックというしくみ
月はいつも同じ面(“うさぎの模様”の面)を地球に向けています。これは月の自転(自分で回る)と公転(地球のまわりを回る)の速さが同じだから。重力の引っぱり合いで、長い時間をかけて同じ面を向けるように落ち着いた状態を潮汐ロックといいます。
じゃあ、裏側は見られないの?
地球からは見えませんが、宇宙探査機の写真では“月の裏側”もくわしく分かっています。表側よりクレーター(穴)が多いのが特徴です。
観察してみよう(自由研究にそのまま使える)
懐中電灯とボールで“新月”を再現
- 懐中電灯=太陽、ボール=月、自分の顔=地球に見立てます。
- 懐中電灯を正面、ボールを顔の前に置くと、顔から見えるボールの面は暗くなります。これが新月。
- ボールを顔のまわりで回して、三日月→半月→満月→下弦…の変化を観察しましょう。
月ノートの作り方
- 毎日同じ時刻に空を見て、月の形・色・方角・高さを記録。
- 月齢カレンダーで名前(上弦・下弦など)を調べ、絵で描く。
- 天気や気温、見えた星もメモ。1か月後、満ち欠けのリズムが見えてきます。
1か月チャレンジ(モデル計画)
- 1週目:新月~細い月を探す。地球照に注目。
- 2週目:上弦の月を毎日同じ時間に撮影。
- 3週目:満月前後で“影の長さ”や“明るさ”を比べる。
- 4週目:下弦の月を早起きして観察。見える時刻の違いを体感。
安全のポイント(とても大切)
- 太陽に近い細い月を見るときでも、太陽を直接見ないこと。
- 夜の観察は、足元を照らすライトと反射材の服を。
- 私有地や車道に入らない。家の人といっしょに観察しよう。
月の満ち欠け・見える時間と方角(まとめ表)
形 | 見える主な時間帯 | 見えやすい方角 | 太陽との位置関係 | ひとことメモ |
---|---|---|---|---|
新月 | -(見えない) | - | 太陽と同じ方向(太陽-月-地球) | 星がよく見える夜になりやすい |
三日月 | 日没直後~宵 | 西 | 太陽の少し東側 | 地球照が見えることも |
上弦の月 | 夕方~夜半 | 南~西 | 太陽と直角 | 右半分が光る“半月” |
十三夜~十四夜 | 日没後~深夜 | 東~南 | 太陽の反対側に近い | ほぼ満月。お月見向き |
満月 | 夕方~明け方 | 東→南→西 | 太陽の正反対(太陽-地球-月) | 明るい。影の観察も楽しい |
下弦の月 | 深夜~明け方 | 南~東 | 太陽と直角 | 左半分が光る“半月” |
かけていく細い月 | 明け方 | 東 | 太陽のすぐ西側 | 見のがしやすい“細い弓” |
もっとくわしく:北半球・南半球での見え方のちがい
傾きが“上下”を変える
日本(北半球)では、上弦は右が明るく、下弦は左が明るいのがふつうです。南半球では反対に見えます。これは、観察している場所によって空の傾き(天球の向き)が変わるからです。
季節で“月の角度”が変わる
太陽の通り道(黄道)の高さが季節で変わるため、細い月の傾きや、のぼる・しずむ位置も季節ごとに少しずつ違って見えます。春と秋では同じ三日月でも角度の印象が変わります。
月の表面も観察してみよう
クレーターと“海(うみ)”
双眼鏡や小さな望遠鏡があれば、満月以外の夜に月の表面が見やすくなります。暗い“海(うみ)”と呼ばれる平原や、丸いクレーター(岩がぶつかった跡)がたくさん見つかります。
影の“境目”は宝の山
半月のころは明るい部分と暗い部分の境目(ターミネーター)に影がはっきり出て、凹凸(でこぼこ)がとても見やすくなります。満月の夜よりも、半月前後のほうが立体感が分かるのです。
ミニクイズ(家族や友だちと挑戦)
- 新月の月は、昼間どのあたりにいるでしょう?(ヒント:太陽の…)
- 三日月の暗い部分がうっすら見える現象の名前は?
- 大潮が起こりやすいのは新月ともう一つ、いつ?
- 上弦の月は右と左、どちらが光る?(北半球の場合)
- 日食が起こるのは新月?満月?
(答え:1. 太陽の近く 2. 地球照 3. 満月 4. 右 5. 新月)
よくある質問(Q&A)
Q1:新月の夜は、星がいつもより多く見えるの?
A:月明かりがないので、暗い星が見えやすくなることが多いです。ただし、天気や街明かりしだいです。
Q2:新月でも、月の形がうっすら見えることがあるのは?
A:地球からの反射光で月の暗い部分が照らされる地球照です。三日月のころに見つけやすいです。
Q3:新月は毎月同じ日?
A:いいえ。満ち欠けは約29.5日周期なので、カレンダーの日付は少しずつずれていきます。
Q4:月が昼間に見えるのはなぜ?
A:月は一日中空にあります。太陽と離れているときは昼でも見えます。満ち欠けによって見える時刻が変わります。
Q5:三日月の“角度”が季節で変わるのは?
A:太陽と月の通り道(黄道)の高さが季節で変わるため、細い月の傾きも違って見えます。
Q6:満月なのに丸く見えないことがある?
A:うす雲やもやでにじんだり、満月の“ぴったり”から半日ほどずれていたりすると、わずかに欠けて見えることがあります。
Q7:もし月がなかったらどうなる?
A:夜がもっと暗くなり、潮の満ち引きが小さくなって、海の生き物や地球の環境に大きなえいきょうが出ると考えられています。
用語じてん(やさしいことばで)
- 新月(しんげつ):月が見えないとき。太陽と同じ方向にいて、明るい面がこちらを向いていない。
- 満月(まんげつ):まん丸に見える月。太陽の反対側にある。
- 上弦・下弦:半月。上弦は右半分、下弦は左半分が光る(北半球)。
- 地球照(ちきゅうしょう):地球に当たった太陽光が月を照らし、月の暗い側がうっすら見える現象。
- 公転(こうてん):月が地球のまわり、地球が太陽のまわりを回る動き。
- 自転(じてん):天体が自分自身の軸のまわりを回る動き。
- 朔望月(さくぼうげつ):新月から次の新月までの約29.5日の期間。
- 黄道(こうどう):太陽や月、惑星が通る空の道すじ。季節で高さが変わる。
- 南中(なんちゅう):天体がその日の空で一番高くなること。
- 大潮(おおしお):新月・満月のころに起きる、満ち引きの差が大きい潮のこと。
- 潮汐ロック:重力の影響で、天体が常に同じ面を相手に向ける状態。
まとめ:見えない夜にも“月のスタート”がある!
月が見えないのは、新月という満ち欠けのスタートに当たるから。太陽・地球・月のならび方と光の当たり方を知ると、「見えない夜」も宇宙のリズムの一部だと分かります。次の夜から少しずつ戻ってくる細い月、半月、満月…と、空は毎日少しずつ表情を変えます。
今夜から月ノートを始めて、方角と時刻を意識して空を見上げてみましょう。見えない夜にも発見があり、見える夜には喜びが待っています。宇宙は、いつでもあなたの頭上に広がっています。