水道、川、滝、お風呂、雨どい。私たちのまわりの水は、いつも高いところから低いところへ進みます。これは偶然ではなく、地球がはたらかせている重力という力がつくり出す自然のルールです。
この記事では、重力と水の流れを小学生にもわかりやすい言葉でていねいに説明し、家や学校でできる観察と実験、宇宙とのくらべかた、歴史の豆知識までたっぷり紹介します。さらに、暮らしや防災に役立つ考え方、学びを深めるコツまで加え、読みおわるころには、身の回りの「流れ」が目で見えるように感じられるはずです。
1.水が下へ流れるのはなぜ?—いちばん大切な考え方
1-1.地球の重力がすべてを下に引っぱる
地球には、ものを地球の中心へ引っぱる力がはたらいています。これが重力です。ボールが落ちるのも、人が地面に立てるのも、水が下に進むのも、同じ重力のしわざです。
川は高い山から谷をくだり、やがて一番低いところである海にたどりつきます。もし重力がなければ、海や空気は地球のそばに留まれず、私たちは地面に立つこともできません。重力は「地球に生きる」ための土台なのです。
1-2.位置エネルギーが小さいほうへ移り変わる
高い場所にある水は、低い場所にある水より位置エネルギーが大きい状態です。自然は、エネルギーが大きい状態から小さい状態へ移ろうとします。
すべり台で体が下に進むのと同じで、水も高い所から低い所へ自分から進みたがるのです。コップの水を机にこぼすと、わずかな傾きでも低い方にすーっと広がるのは、そのほうが全体のエネルギーが小さくて楽だからです。
1-3.地面のかたちが道しるべになる
同じ重力の下でも、地面が平らか、斜面か、くぼんでいるかで、水の行き先は変わります。雨のあとに水たまりができるのは、そこが周りより少し低いからです。
家の床や道路にも目に見えにくい傾きがあり、水は「どこが一番低いかな?」と探すようにして集まる性質があります。重力が進む方向を決め、地形が道順を決めると考えると分かりやすくなります。
2.位置エネルギーと地形でわかる「流れ」の法則
2-1.高いほど勢いがつく—落差が流れを強くする
同じ量の水でも、高い所から落ちるほうが勢いが出ます。滝の近くで水しぶきが強いのは、落ちる高さ(落差)が大きく、位置エネルギーがたくさん速さに変わるからです。
山の上流で石がころがりやすいのも、落差が大きく流速が速いためです。逆に、平野に出ると川幅が広がり、落差が小さくなるのでゆったり流れます。
2-2.道がせまいと速くなる—水の通り道の影響
水の通り道がせまいと、水はぎゅっと押し合いながら速くなります。用水路やホースの口を指で細くすると、噴き出す勢いが増すのを観察できます。
これは、同じ量の水が通ろうとすると、せまい所では速くならないと通りきれないからです。逆に、池や湖のように広い場所では、流れがゆっくりになり、泥や葉っぱが沈みやすくなります。
2-3.でこぼこと摩擦—失われるエネルギー
川底の石やでこぼこは、水の動きをさまたげる力(摩擦)を生みます。だから山の上流は速いのに、広い平野の川はゆっくりになります。位置エネルギーは、速さだけでなく音や熱にも移り変わっています。
雨どいの中でゴーッと音がするのは、壁とのこすれや空気との混ざり合いによって、エネルギーの一部が音に変わるからです。
3.家と学校でできる観察・実験—安全第一でたしかめよう
3-1.ペットボトルで穴の高さをくらべる
空のペットボトルに水を入れ、側面の上・中・下に小さな穴を開けます(大人といっしょに安全に作業)。上の穴から出る水より、下の穴のほうが遠くへ飛びます。
これは、下ほど水の深さが大きく、位置エネルギーが圧力としてはたらくためです。穴を指でふさいだり開けたりして流れの変化を比べると、圧力と流れの関係がよりよく分かります。
3-2.家の排水を観察する
お風呂の栓を抜くと、水はうずをつくりながらいちばん低い排水口へ向かいます。台所や洗面台でも、傾きと排水口の位置をよく見ると、水は必ず低い方へ集まっていきます。
うずの向きは、排水口の形や水の動かし方に左右されます。コップの中でぐるっと水を回してから流すと、うずが強くなることも確かめられます。
3-3.校庭の流れ道を地図にする
雨のあと、校庭の傾きや水たまりの位置をメモにして、ミニ地図を作ります。水がどこからどこへ進むか、高い→低いの線を書き足すと、見えない「流れの道」がはっきりします。
土の部分とコンクリートの部分でしみこみ方が違うことにも気づけます。土は水を飲みこむので水たまりが消えやすく、コンクリートははじくので表面を流れやすいのです。
実験はすべりやすい場所をさけること、刃物や熱湯を使わないこと、後片づけをきちんとすることを守りましょう。室内で行うときは、新聞紙やビニールを敷き、電気製品の近くでは水を使わないようにしましょう。
4.世界を広げて考える—宇宙・月・歴史の視点
4-1.月や火星は重力が弱い
月の重力は地球の約6分の1です。もし月に大きな川があったら、同じ落差でもゆっくり流れるはずです。火星も地球より重力が弱く、ものの落ち方や水の動き方がちがって感じられます。
重力が弱いほど、水は下に引っぱられる力が小さく、ゆるやかな斜面でも長い時間をかけて進むことになります。
4-2.宇宙では水が球になる
宇宙飛行士の映像で、水が丸い玉になって浮かぶ様子を見たことがあるかもしれません。重力がほとんどはたらかない環境では、水は下へ落ちず、表面張力のはたらきで丸くまとまります。
スポイトで小さな水の玉を作ってそっと離すと、玉どうしがくっついて一つになることもあります。重力が弱くなると、私たちが当たり前に見ている「流れる」という現象自体が別の姿を見せるのです。
4-3.ニュートンの気づき—落ちるリンゴと同じ法則
イギリスの学者ニュートンは、ものが落ちる現象と、月が地球のまわりを回る動きが同じ力(重力)で説明できることに気づきました。リンゴが落ちる理由と、川が海へ向かう理由は、根っこではつながっています。身近な出来事から普遍の法則を見つける姿勢は、理科の学びの大切な出発点です。
5.暮らしにひそむ重力の知恵—安全・防災・上手な使い方
5-1.安全にくらすための流れの理解
雨の日は坂道の下や用水路の近くに水が集まりやすいことを覚えておくと、安全な通学路を選ぶ助けになります。
家の中でも、洗濯機や冷蔵庫の裏は床がへこんでいないかを確認すると、水漏れ時の流れ先が予測できます。自転車置き場の下にすのこを置いて床とのすき間をつくると、突然の水たまりでも持ち物がぬれにくくなります。
5-2.節水や掃除にいかす
流し台は傾きを利用して、汚れを排水口へ集めると効率よくきれいになります。庭の水まきも、地面の高低を意識すると少ない水で広く行き渡ります。ベランダ掃除では、最初に一番高い所から水を流し、ほうきで低い方へ集めると短い時間で仕上がります。
5-3.学びを続けるコツ
同じ場所でも、晴れ・雨上がり・冬・夏で流れは表情を変えます。季節や天気を変えて何度も観察すると、重力と水のチームワークがより立体的に見えてきます。観察ノートに日付・天気・場所・気づきを書きためると、自分だけの科学図鑑ができます。
水と重力の「流れ」をひと目でつかむ早見表
| できごと | どう見える? | 重力との関係 |
|---|---|---|
| 川や滝の流れ | 高い所から低い所へ進む | 重力で水が下へ引っぱられ、海へ集まる |
| お風呂の排水 | 栓を抜くと一気に流れる | いちばん低い排水口へ水が集まる |
| 雨の落下 | 雲からまっすぐ落ちてくる | 重力が雨粒を地面へ引き寄せる |
| すべり台 | 上から下へ加速する | 位置エネルギーが速さに変わる |
| ペットボトルの穴 | 下の穴ほど遠くまで飛ぶ | 深いほど圧力が大きく、勢いが増す |
| こぼれたジュース | 床のすみや低い方へ広がる | 低い場所へ自然に集まる |
| 海や湖の水面 | 水平に落ち着く | 重力で一定の高さを保とうとする |
| 宇宙の水 | 丸い玉になって浮く | 重力が弱く、下へ流れない |
観察のコツ:上の表を手がかりに、家・学校・公園で同じ出来事を写真やスケッチに残すと、比べる力が伸びます。
よくある質問(Q&A)
Q1.水はいつでも下へ流れるの?
A. はい。ただし、ポンプなどで力を加えると上へ持ち上げられます。自然にまかせると、水はより低い場所へ進みます。ストローで水を吸い上げられるのは、口の中の空気をへらして圧力差をつくっているからです。
Q2.同じ量の雨でも、場所によって水たまりの大きさがちがうのはなぜ?
A. 地面の高低差や土のしみこみやすさがちがうからです。低くて固い場所ほど水がたまりやすいのです。落ち葉が多い地面では、葉っぱがスポンジのように水をため、流れ方がゆっくりになることもあります。
Q3.水が速く流れる条件は?
A. 落差が大きい、通り道がせまい、水の量が多い、底がなめらかなときに速くなります。逆に、落差が小さく、川幅が広く、底がでこぼこだと、流れはゆっくりになります。
Q4.海の水はどうしてこぼれないの?
A. 海全体が地球の重力で中心へ引っぱられ、水平な面を保つからです。波が立っても、全体としては元の高さにもどります。台風のときに海の水位が一時的に上がるのは、風と気圧の影響で水が動かされるからで、重力が海を元の形に戻そうと働きます。
Q5.氷や雪も下へ動くの?
A. はい。雪は重力で斜面をすべり落ちることがあります。山の上の氷河も、長い時間をかけてゆっくり下へ流れています。水と同じく、高い→低いの道をたどるのです。
用語辞典(やさしい言いかえ)
重力:地球がものを下へ引っぱる力。
位置エネルギー:高い場所にあることで持っているためられた力。低い場所へ行くと小さくなる。
落差:水が落ちる高さのちがい。大きいと勢いが出る。
摩擦:ものどうしがこすれ合って動きをさまたげる力。
表面張力:水の表面がうすい膜のようにはたらく性質。小さな水が丸くなる原因。
排水口:水を外へ出す口。いちばん低い所に作られている。
圧力:水や空気が押す力。深いほど大きくなる。
まとめ—「高い→低い」は自然が選ぶらくな道
水が高いところから低いところに流れるのは、重力がつねに下向きに力をはたらかせ、位置エネルギーが小さいほうへ移り変わるからです。地形の高低差、通り道の広さ、底のでこぼこが、流れの速さや強さを決めます。家や学校での観察や安全な実験をくり返せば、見えにくかった「流れの道」がはっきり読めるようになります。
今日からさっそく、雨上がりの校庭や台所の水の動きを目で追い、自然のしくみを体で感じてみましょう。気づきをノートに残し、次の雨の日や季節の変わり目にもう一度同じ場所を見に行くと、理解はさらに深まります。


