日本は毎年、多数の台風が接近・通過し、暴風・豪雨・高潮・広域停電といった複合リスクが生活と産業に影響を与えます。ただし被害の現れ方は全国一律ではなく、海岸線の向き、山地と平野の配置、河川網、離島の有無、都市インフラの集中といった要素で大きく変わります。
本稿では、編集部独自の観点で**「日本で台風の影響を受けやすい都道府県」をランキング化し、各地域のリスクプロファイル(何が危ないのか)と実務的な備え(どう守るのか)を、今日から使えるレベルで徹底解説します。さらに、上陸・接近・通過の定義や年ごとの進路偏り**、在宅継続と避難の切替基準までを加え、迷わず動ける意思決定の型を提示します。
日本で1番台風が多い都道府県ランキング|TOP5
評価の考え方と注意点
「多い」の解釈は上陸数だけでなく、接近・通過頻度、暴風域に入る回数、高潮・豪雨の重なりを含めた総合評価とします。年ごとの気圧配置や進路の偏りで実際の順位は変動するため、ここで示すランキングは危険度の相対比較として読み、自分の住まいに引き直して具体化することが重要です。“上陸”は台風中心が海岸線を越えること、“接近”は一定距離内に入ること、**“通過”は本州近傍を移動することを指し、生活被害はこの区分だけでは測れません。したがって、満潮時刻・地形・人口密度などの文脈を常に重ねて判断します。
TOP5一覧(サマリー)
順位 | 都道府県 | 主な特徴 | 典型リスク | 重点対策キーワード |
---|---|---|---|---|
1位 | 沖縄県 | 台風の主要航路・離島分散 | 暴風・高潮・長期停電 | 耐風窓・雨戸/非常電源・水/前倒し避難 |
2位 | 鹿児島県 | 多雨・急峻地形・離島 | 豪雨・土砂・物流遮断 | 土砂回避の昼間避難/在宅7日運用 |
3位 | 高知県 | 太平洋直撃・流域が大きい | 河川氾濫・越水・暴風 | 止水板・排水清掃/窓の飛散防止 |
4位 | 宮崎県 | 九州東岸で暴風域に入りやすい | 強風・高潮・河川増水 | 海沿い退避/満潮前移動/堤防に近づかない |
5位 | 和歌山県 | 紀伊半島の地形で直撃しやすい | 山間部の土砂・沿岸の高潮 | 山側と海側の二重想定/早めの水平避難 |
年による変動と指標の違い
上陸の有無だけで安全とは言えません。暴風域に入る時間の長さ、満潮時刻と高潮予測の重なり、線状降水帯の成立などが被害の実像を左右します。**「どの指標を見たら、どの順で動くか」を家庭で文章化しておくことが、地域差を乗り越える最短ルートです。“危険のピークに入る前に動く”**という時間軸を、家族ルールとして固定化しておきましょう。
南西諸島と九州南部の最前線|沖縄・鹿児島・宮崎
沖縄県|暴風と高潮、そして長期停電への構え
沖縄は台風の通り道にあり、暴風半径が広い大型台風の影響を繰り返し受けます。外海に面した沿岸では高潮と高波が重なり、港湾・臨海インフラ・低地集落に浸水が及びやすくなります。離島分散により復旧人員と資材の到達が天候に左右されるため、非常電源・飲料水・生活用水を7日分で設計し、避難は日没前の前倒しを基本に据えるのが現実的です。窓は雨戸+飛散防止フィルムで二重化し、屋根・外壁の点検と補修をシーズン前に完了させます。携帯基地局の非常電源が尽きる局面を想定し、ラジオ・複数回線・車載電源で情報源を多重化しておくと、孤立リスクを大きく下げられます。
鹿児島県|多雨+急峻地形+離島の複合リスク
南九州は梅雨〜台風期の降水が多く、急峻な山地・火山地形と重なることで短時間の増水・斜面崩壊が起きやすい構造です。離島も多く物流・医療アクセスが止まりやすいため、在宅継続と避難の切替閾値(冠水深・警戒情報の段階・夜間移動の可否)を紙で明文化しておくと迷いが減ります。火山灰の堆積は側溝やマンホールの詰まりを招き、豪雨時の排水能力を低下させるため、降灰後の清掃を平時から家庭ルールに組み込みましょう。
宮崎県|東岸特有の暴風と河川リスク
宮崎は太平洋からの強風と大雨が重なりやすく、沿岸部の高潮・内陸の河川増水の両面に注意が必要です。満潮×高潮予測が重なる時間帯を軸に海沿いからの退避を前倒しし、在宅の場合も2階以上の垂直避難を併用して被害の天井を下げます。農地・畜産施設では停電時の保冷・給餌・排水の運用手順を紙で定義し、燃料・飼料の前倒し確保をルーティン化します。
太平洋側本州の要警戒ゾーン|高知・和歌山と共通の落とし穴
高知県|流域の大きさがもたらすスピード感
高知は太平洋に正対しており、台風の直撃と線状降水帯の双方にさらされます。上流の雨が短時間で下流に到達するため、越水・氾濫のスピード感が別格です。止水板・逆流防止・排水清掃を平時のルーティンに組み込み、窓の飛散防止フィルムと雨戸で室内の安全度を底上げします。車は前日までに高所へ移動し、橋梁・堤防の横風を避ける徒歩ルートを地図で複線化しておきます。
和歌山県|紀伊半島の地形が強める二重リスク
和歌山は南からのうねりと強風を受けやすく、沿岸の高潮・波浪と山間部の土砂・河川増水を同時に警戒する設計が要です。海側・山側の二重シナリオを家族で共有し、夜間は避難を前倒しする時間ルールを決めておきます。観光・林業・農業の現場では、従業員の安全確保と設備の退避手順を季節前に訓練しておきましょう。
紀伊・四国の共通ポイント|海と川の“時間”を読む
高潮は潮位と風・気圧の重なり、河川は上流雨量の到達時間で危険が迫ります。満潮2時間前までに移動を完了し、堤防や河川敷に近づかない原則を徹底すると、判断がぶれません。地下・半地下の駐車場や店舗は初期被害が集中しやすいため、逆止弁・止水板・陳列棚の嵩上げで被害の初動を抑えます。
台風が多い地域の共通点|地理・気象・都市インフラ
地理的要因|海岸線の向きと山地の配置
太平洋に開いた海岸線、湾奥のボトルネック、急峻な山地と広い扇状地は、暴風の増幅・高潮の遡上・短時間増水を引き起こします。地下・半地下の空間は初期被害が集中しやすく、早い段階の退避が重要です。干拓地・埋立地では地盤高と潮位をあらかじめ把握し、ポンプ停止時の浸水深シナリオを家庭で共有しておきましょう。
気象的要因|進路の偏りと線状降水帯
台風の発生海域と偏西風の位置関係で進路は毎年偏ります。近年は海面水温の高さや大気循環の変化により、強い勢力のまま北上するケースが増え、内陸でも被害が拡大しやすくなっています。動きの遅い台風は降水が積み重なり、ダム放流や支流の合流タイミングが被害の山を作るため、**“時間差の氾濫”**を前提に行動計画を立てます。
都市インフラ|臨海部の集積と停電の長期化
臨海部の空港・港湾・倉庫・発電設備が同時に被災すると、物資・人流・電力の復旧が遅れます。通信基地局の非常電源が尽きると情報取得が難しくなるため、情報源の多重化(ラジオ・複数回線・車載受電)が実務上の命綱になります。冷凍・医療・半導体など温度・無停電が命の産業は、自家発・蓄電・手動切替の訓練を季節前に実施しましょう。
台風への備えと防災対策|住まい・家族・物資を“運用”に落とす
住まいの守り|窓・屋根・止水の三位一体
住まいの弱点は窓・屋根・低い開口部に集約されます。窓は雨戸+飛散防止フィルムで二重化し、屋根の補修・固定具点検をシーズン前に終えます。勝手口・床下換気口・ガレージは簡易止水板・隙間テープ・土のうを組み合わせ、一方向からの水の侵入を抑えます。排水溝・雨樋の清掃は費用対効果の高い減災行動です。マンション上層階でもベランダ排水の詰まり・飛散物が被害を拡大させるため、植木鉢・物干しの屋内退避を前日までに完了しましょう。
家族の行動|“指標を見たら即行動”の文章化
満潮時刻×高潮予測・土砂災害警戒情報・河川水位など、指標ごとに取る行動(在宅継続/垂直避難/水平避難)を紙で明文化し、夜間前の前倒しを基本にします。徒歩で到達できる避難先を複数設定し、車は冠水路に入らないルールを共有すると、混乱時もブレません。要配慮者(高齢者・乳幼児・障がいのある方・ペット)の搬送順・持ち出し品・集合場所をカード化し、玄関に掲示しておきます。
物資の設計|72時間から“7日運用”へ
飲料水は1人1日3L×7日分、主食は乾物・レトルト・缶詰の組み合わせで1人1日600g相当を目安に積み上げます。ポータブル電源+車載DCで通信・照明・最低限の調理を賄い、非常用トイレ・除菌アルコール・手袋を衛生セットとして一箱にまとめます。開封日のラベリングと季節ごとの棚卸しで、運用が止まりません。処方薬・眼鏡・補聴器の予備、現金の小口分散も忘れずに準備します。
警戒指標→行動テンプレート(家庭用)
指標 | 閾値の目安 | 取る行動 |
---|---|---|
高潮 | 満潮の2時間前・高潮予測が重なる | 海沿いから退避、車を高所へ、2階へ垂直避難 |
河川 | はん濫危険水位付近 | 堤防・河川敷に近づかない、避難完了を前倒し |
土砂 | 土砂災害警戒情報発表 | 昼間のうちに水平避難、谷筋・橋を避ける徒歩ルート |
風 | 最大瞬間風速30m/s超の予測 | 屋外物の撤去、窓から離れた部屋で待機 |
停電 | 広域停電の可能性が高い | 冷蔵庫の温度を下げる、モバイル電源を満充電、扉の開閉最小化 |
72時間前からの準備タイムライン(家庭向け)
相対時刻 | 想定 | 実務のポイント |
---|---|---|
T−72〜48h | 進路が概ね絞られる | 備蓄の最終補充、窓・屋根の点検、ガソリン・現金の小口化 |
T−48〜24h | 強度・潮位の重なり確認 | 車の高所移動、ベランダの撤去、冷蔵庫の温度を下げる |
T−24〜0h | 雨風本格化 | 前倒し避難の実行、ブレーカー位置の確認、屋内で安全な部屋へ移動 |
居住形態別の着眼点(自宅を“地形”で診る)
居住形態 | 起こりやすい被害像 | 重点対策 |
---|---|---|
戸建て(低地・沿岸) | 浸水・塩害・飛来物 | 止水板・逆流防止・金属部防錆、車の高所退避 |
戸建て(山際・谷筋) | 土砂・倒木・道路寸断 | 斜面の湧水・ひび割れ監視、徒歩避難の複線化 |
マンション上層 | 風圧・エレベーター停止 | 窓の養生、階段移動の計画、水の分散備蓄 |
地下・半地下併設 | 初期の浸水集中 | 逆止弁・止水板・重要物の嵩上げ |
まとめ|“ランキング”は出発点、守るのは運用
台風の多さは年と進路で表情が変わるものの、沖縄・鹿児島・高知・宮崎・和歌山の上位県では暴風・高潮・豪雨・土砂の複合災害に備える設計が欠かせません。結論は明快です。窓・屋根・止水の三位一体で家を守り、指標を見たら即行動の家族ルールを紙で共有し、72時間から7日運用へ備蓄を上書きする。満潮・河川・土砂・風・停電の各指標を時間軸で読み、ピーク前の移動完了を守れば、どの年・どのコースの台風でも被害の天井を確実に下げられます。ランキングを眺めて終わらせず、今日いまこの瞬間から住まいと家族の運用を更新してください。