停電が長引くと、まず途絶えるのは“通信・照明・冷蔵”。 これらを守る切り札がソーラーパネル+蓄電による“小さな発電所”です。本ガイドは、防災で失敗しないために必要な選び方・電源設計・運用・安全・メンテ・トラブル対策を、初めての人でも実装できる粒度まで一気通貫で解説します。読み終えたらすぐに家族人数 × 72時間の電力計画まで作れる内容です。
災害時にソーラーパネルが必要な理由
停電下でまず守るべき“3つの生命線”
- 通信(スマホ/ラジオ/モバイルWi‑Fi):連絡・情報取得が止まると意思決定が遅れます。5〜10W級でも確保可能。
- 照明(LEDランタン):夜間の転倒・怪我を防止。低消費電力で長時間運用が可能。
- 冷蔵(小型冷蔵/保冷):食材・薬・保冷剤。必要電力は上がるため昼に蓄電→夜に放電が基本設計。
ソーラーの強み:無補給・分散自立・静音
- 燃料不要で在庫切れの心配なし。分散配置により単一点障害に強く、静音・排気ゼロで避難所でも扱いやすい。
- 可搬性:ポータブルは折りたたみ+軽量で持ち出せる。自宅・車中泊・避難所のどこへも展開可能。
他電源との役割分担(発電機・車載給電)
- 発電機:大出力・天候非依存だが燃料/騒音/排気の課題。日中に短時間運転→蓄電へ充電で併用が現実的。
- 車載給電:機動的だが燃料消費と一酸化炭素リスク。始動は屋外・排気クリアが大前提。ソーラーの曇天穴埋め用途に。
防災用ソーラーパネルの選び方
パネルタイプ比較(ポータブル vs 据え置き)
タイプ | 特徴 | 防災での主用途 | 長所 | 注意点 |
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ポータブル折りたたみ | 20〜200W級、軽量・収納性◎ | 避難/車中泊/自宅ベランダ | 展開が速い・持ち出せる | 曇天や冬は発電低下。転倒/盗難対策が必要 |
据え置き(固定) | 200W〜数kW、常設架台 | 在宅避難の基幹電源 | 発電量が大きい・常時運用 | 施工費・設置場所・日照条件のハードル |
結論:まずは100〜200Wのポータブル+蓄電で“最低限の自立”。在宅中心なら200〜300Wで余裕を作る。
セル種類と選び方(単結晶/多結晶/薄膜)
種類 | 変換効率 | 暑さの影響 | 重さ/柔軟性 | 向く用途 |
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単結晶 | 高い(◎) | やや低下 | 標準 | 小面積で高出力・防災全般 |
多結晶 | 中程度(○) | 類似 | 標準 | 価格重視 |
薄膜 | 低〜中(△) | 熱影響に比較的強い | 軽量/柔軟(◎) | 取り回し・軽量重視 |
重要スペックの“読み方”
- 変換効率:高いほど同サイズで出力大。20%前後が実用目安。
- コントローラ:MPPTは曇天・低照度に強く、実発電の底上げ。価格重視ならPWM。
- 端子/出力:USB‑A/C直出し+DC/MC4で拡張性。USB‑C PD/QC対応だとスマホ高速充電が可能。
- 耐久:防水等級(IPX4〜)/耐熱/耐衝撃。折り目の縫製・ケーブル根元の補強は要確認。
- 温度係数:高温で出力は低下。仕様に**−%/°C**表記。背面放熱の余白が効く。
電源設計の基礎(サイズの決め方)
“必要量を消費から逆算”の基本式
- 日次必要量(Wh)=Σ〔機器W × 使用h〕
- 必要パネル(W)=〔日次Wh ÷ 実発電時間(h)〕 ÷ システム効率
- 実発電時間:晴れ3〜5h/薄曇り1〜2h
- システム効率(コントローラ/配線/温度ロス含む):0.6〜0.7
機器別“消費電力の実感値”
機器 | 消費電力の目安 | 1日の使用時間 | 日次必要量(Wh) |
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スマホ充電×2台 | 5W | 2h | 10 |
LEDランタン(中) | 5W | 6h | 30 |
ラジオ/トランシーバ | 3W | 4h | 12 |
モバイルWi‑Fi | 6W | 6h | 36 |
ノートPC | 40W | 2h | 80 |
タブレット | 12W | 2h | 24 |
小型扇風機(USB) | 8W | 5h | 40 |
小型冷蔵庫(省エネ) | 60W | 4h(圧縮機稼働換算) | 240 |
合計例 | | | 472Wh/日 |
設計例:必要472Wh/日、晴天発電4h、効率0.65 → 必要パネル ≒ 472÷(4×0.65) ≒ 181W。実装は200W級で余裕を見込む。
蓄電サイズの目安(停電の長さで決める)
想定 | 推奨蓄電 | ねらい |
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24時間 | 300〜500Wh | 通信・照明・軽PCを確実に |
72時間 | 500〜1000Wh | 冷蔵の一部維持・家族運用 |
1週間 | 1000Wh以上 | 曇天の谷を越える余力 |
USB‑C PD/インバータの基礎
- USB‑C PD:スマホ/タブレット/軽PCはDC直充電で高効率。AC変換ロスを省ける。
- インバータ:AC家電は純正弦波推奨。瞬間最大出力と始動電流(冷蔵等)を確認。
季節・天候・設置で変わる“実発電”
季節と天候の補正感覚(日本)
- 冬:日照短・低角度で夏の6〜8割まで低下。
- 曇天/雨:公称の1〜3割まで落ちることも。負荷の時差運用が鍵。
- 高温:パネル温度上昇で出力低下。背面に空気層を。
緯度別おおまかな傾斜角ガイド
地域 | 目安角 | 備考 |
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札幌 | 35〜45° | 冬寄りに角度を増やすと冬季が有利 |
東京 | 30〜40° | 年間バランス型 |
那覇 | 20〜30° | 低角でも夏の直射で十分 |
設置のコツ:方位・角度・影・固定
- 方位:南向きが基本(ベランダは日射時間優先)。
- 角度:影が動く時間帯はこまめに追尾。
- 影:部分影でも出力急低下。支柱・紐で影回避。
- 固定:風対策(カラビナ・ペグ・重し)。盗難防止にワイヤーロック。
運用テクニック:昼は充電、夜は放電
充電の導線設計(おすすめフロー)
- 日中:パネル → MPPT → ポータブル電源/モバイルバッテリーへ集中充電。
- 夕〜夜:蓄電からLED・通信・保冷へ放電。電気ケトル/ドライヤー等の大電力は避ける。
- 常時:スマホはUSB‑C PDで短時間にまとめて充電し、放電サイクルを削減。
需要側マネジメント(節電は最大の発電)
- 調理:カセットコンロや保温調理で電力を使わない。
- 暖房/保温:断熱・衣類重ね着・湯たんぽ。電気毛布は就寝直前の短時間のみ。
- 照明:必要な場所を必要な明るさで。拡散ランタンを中心に。
優先順位テーブル(停電72h想定)
優先 | 電力用途 | 目安配分 |
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1 | 通信・情報 | 20% |
2 | 照明・安全 | 20% |
3 | 食の安全(保冷) | 35% |
4 | 生活快適(扇風機/PC) | 20% |
5 | その他 | 5% |
配線・保護・安全の要点
配線の基礎(直列/並列と電圧降下)
- 並列:電圧一定・電流加算。扱いやすく防災向き。
- 直列:電圧加算・電流一定。細線で長距離OKだが、部分影に弱い。
- 電圧降下:長い/細いケーブルで損失増。太めのケーブル・短配線を心がける。
保護機能チェック
- 過充電/過放電/過電流/短絡保護は必須。
- 温度保護:高温停止は正常。換気と日陰で冷却。
- 逆流防止:夜間の逆流を防ぐダイオード/コントローラ機能を確認。
リチウム蓄電の安全
- 衝撃・水濡れ禁止、炎天下の車内放置NG。
- 充電中は可燃物から離す。異臭/膨張は即停止・隔離。
メンテナンスと保管
定期点検スケジュール
- 月次:パネル表面の清掃、ケーブル摩耗、端子の緩み確認。
- 季節替え:角度見直し、影の変化点検。
- 年次:蓄電の容量テスト(実放電で残量確認)。
保管のコツ
- 折りたたみは乾燥→収納袋。湿気少なめ・直射日光を避ける。
- 付属ケーブルは結束バンドで緩く束ねる(断線防止)。
想定シナリオ別・モデルプラン
個人(ワンルーム/持ち出し重視)
- 100Wパネル+300Wh蓄電+USBランタン。
- 行動導線:ベランダで充電→夜は室内運用。モバイルバッテリー1万mAh×2で小回り。
家族3〜4人(在宅72h)
- 200〜300Wパネル+500〜1000Wh蓄電。
- 役割分担:昼の追尾担当/残量記録/夜の配分管理。小型冷蔵は保冷剤併用で稼働時間を圧縮。
車中泊避難(移動+在宅併用)
- 200Wパネル+1000Wh蓄電+車載12V。
- 走行充電・ソーラー・停車中は日陰で人、日向でパネル。換気と盗難対策を忘れずに。
よくある失敗と対策
失敗例 | 原因 | 対策 |
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思ったより発電しない | 影/角度/高温/曇天 | 影回避・角度最適化・背面放熱・容量余裕 |
冷蔵が動かない | 始動電流不足/インバータ波形 | 純正弦波/瞬間最大出力の余裕を確保 |
充電が遅い | PD非対応/ケーブル品質 | PD対応・短く太いケーブルに交換 |
ケーブルが熱い | 細線/長距離/接触不良 | 太線・短配線・端子再圧着 |
盗難/転倒 | 固定不足/監視不十分 | ワイヤーロック・重し・目視範囲に設置 |
クラス別“おすすめ構成”テンプレ
クラス | 構成 | 想定シーン | できること |
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ミニマム | 60Wパネル+200〜300Wh蓄電+USBライト | 個人避難/短期停電 | スマホ・LED・ラジオ |
ベーシック | 120〜200Wパネル+500〜800Wh蓄電+LED多数 | 家族72h | 通信・照明・PC・保冷短時間 |
アドバンス | 300Wパネル+1000Wh蓄電+車載12V | 在宅長期/車中泊併用 | 小型冷蔵・扇風機・端末多数 |
避難所・近隣での“共有運用”マナー
- 充電ステーションは導線を塞がない位置に設置。
- 優先順位(医療機器/連絡用端末)を掲示。時間制で公平運用。
- ケーブルの名札化・盗難防止ワイヤーでトラブル抑止。
導入チェックリスト(一気に揃えるために)
- 100〜300Wパネル(USB‑C PD/MC4対応)
- MPPTコントローラ/ポータブル電源(500〜1000Wh)
- USB‑C PDケーブル(短く太め)とMC4延長(太線)
- LEDランタン(調光/吊り下げ)
- モバイルバッテリー(人数分)
- 固定具(カラビナ/ペグ/ワイヤーロック)
- 収納袋/防水カバー、清掃用クロス
まとめ|“小さな発電所”を家庭に持とう
防災用ソーラーパネルは、停電時の通信・照明・冷蔵を守る“自立電源”。 まずは必要Whを逆算し、100〜200W級+蓄電から始め、季節・天候・影を味方に。
今日のアクション:①家族の1日Whを試算 ②200W級パネル+MPPT対応蓄電を選定 ③ベランダや駐車場で展開テストと影チェック ④配分ルールを家族で決める。備えた分だけ、停電は“日常化”できます。