日本は世界有数の地震多発国。 いつ・どこで・どの規模の揺れが来てもおかしくありません。だからこそ、平時の準備=発災時の行動力です。本記事では、よくある疑問(「家具の固定は必要?」「非常食はどれくらい?」「避難場所はどう決める?」)に、現場視点の運用できる解で応えます。
家の安全設計→持ち出しと備蓄→発災時の行動→避難生活→復旧と平時の見直しまで、5章立て・表つきで徹底解説。印刷して使えるチェック表、家族構成別の数量目安、季節ごとの微調整まで一気通貫で網羅しました。
3ステップで始めるなら:①家具固定と避難動線の確保(今日)/②持ち出し袋の更新(今週末)/③在宅7日備蓄と家族訓練(今月中)。
1. 家の中での地震対策|安全な環境づくり
家具固定とレイアウトの設計(転倒・落下・移動の3対策)
最優先は“倒さない・落とさない・滑らせない”。 本棚・タンス・食器棚・冷蔵庫はL字金具+下部ストッパー+滑り止めの三層固定が基本。食器棚は耐震ラッチで開き戸をロック、ガラス戸は飛散防止フィルム(厚め)で強化。テレビ・電子レンジ・水槽・プリンターは耐震ジェルマットで滑走防止。吊り照明・額縁・背の高い観葉植物は就寝動線から退避。
〈部屋別の危険マップ例〉
部屋 | 高リスク要因 | 具体対策 | 最終確認の合言葉 |
---|---|---|---|
寝室 | 背の高い家具・落下物 | 家具撤去/低い家具へ入替、窓にフィルム | 寝室は“何も落ちてこない空間” |
リビング | 大型テレビ・吊り照明 | テレビ固定、照明位置変更 | 子どもの頭上は空ける |
キッチン | 吊戸棚・食器の飛散 | 耐震ラッチ・滑り止めシート | 扉は揺れても開かない |
玄関 | 物の山・靴の散乱 | 無置物化、非常靴の定位置化 | 10秒で外へ出られる |
安全ゾーンと避難動線の確保
“安全ゾーン”を部屋ごとに決めて家族で共有。 机の下・柱際・低い家具の陰など、直撃を避けられる場所をテープでマーキング。玄関・廊下・ベランダ前は物を置かないを徹底。非常はしごは取り出し→設置→下降を実演し、タイムを測ると弱点が見えます。枕元にはスニーカー・ヘッドライト・ホイッスル・革手袋を常備し、暗闇でも手探りで取れる配置に。
高齢者・子ども・ペットの配慮
介助が必要な家族は低ベッド+手すり+足元灯で夜間の転倒を防止。ベビーベッド周囲は吊り物撤去、サークルは床面固定。ペットケージは転倒防止ベルト、首輪には迷子札+マイクロチップ登録。持病のある家族はお薬手帳のコピーと服用スケジュールをリュックへ。
〈住宅内チェック表(印刷用)〉
項目 | 具体策 | 頻度 | 目安 |
---|---|---|---|
家具固定 | L字金具+耐震ポール+滑り止め | 半年ごと | 背高家具は3点留め |
ガラス対策 | 飛散防止フィルム貼付 | 年1点検 | 寝室・居間優先 |
避難動線 | 玄関・廊下・窓前を無置物化 | 毎週 | 家族で5分点検 |
枕元装備 | 靴/ライト/笛/手袋 | 毎月 | 夜間模擬で到達確認 |
2. 非常用持ち出し袋と備蓄品|最低3日、可能なら7〜14日
持ち出し袋(一次持ち出し):“今すぐ出る”ための装備
重さは体重の10〜15%以内が目安。個人袋(自分専用)+共用袋(家族で1つ)で分担し、取り違え防止に名札・色分けを。胸ポケットに連絡カード、外側ポケットにホイッスル・ヘッドライトを固定。
〈一次持ち出し標準セット〉
カテゴリ | 品目 | 数量の目安 | メモ |
---|---|---|---|
水・食 | 500ml水・高エネ食品 | 水×3本+バー2〜3 | 8〜12時間分 |
情報・光 | 手回しラジオ・ヘッドライト | 各1 | 予備電池も同袋 |
通信 | モバイルバッテリー・ケーブル | 1+1 | 満充電維持 |
衛生 | 携帯トイレ・ティッシュ・除菌 | 3〜5回分 | 消臭袋つき |
防寒 | アルミシート・レインポンチョ | 各1 | 体温保持最優先 |
現金・身分 | 現金・身分証コピー・連絡カード | 小銭含む | 複製2部 |
保護具 | 手袋・簡易ヘルメット・マスク | 各1 | 破片・粉じん対策 |
重量の目安:大人(7〜9kg)/小学生高学年(4〜6kg)/高齢者(5kg以内で分散)。
在宅避難(二次備蓄):1〜2週間を自宅でしのぐ
停電・断水・物流遅延を前提に、水は1人1日3L×7〜14日、主食+たんぱく+汁物の3点構成でそろえます。カセットコンロ・ガスボンベ(最低3本、推奨6〜9本)、紙皿・ラップ・割り箸で洗い物ゼロ運用。トイレは凝固剤つき携帯トイレ+消臭袋を家族人数×5〜7日分、トイレットペーパーは1人1ロール/週が目安。
〈在宅備蓄プラン例(大人2+子1)〉
資源 | 目安 | 備考 |
---|---|---|
飲料水 | 3L/人/日 × 3人 × 7日=63L | 2L×10本+500ml×43本など分散 |
主食 | アルファ米・パックご飯 21食 | 電子レンジ不要を優先 |
たんぱく | ツナ・サバ・鶏・豆 21食 | プルトップ缶中心 |
汁物 | スープ・味噌汁 21食 | 体温保持に寄与 |
野菜 | 野菜ジュース・乾燥野菜 | 1日1本目安 |
燃料 | ガスボンベ 6〜9本 | 調理+湯沸かし想定 |
水容器 | 折りたたみタンク10〜20L | 給水所用 |
特別なニーズへの対応(家族ごとのカスタム)
- 乳幼児:液体ミルク・オムツ・おしりふき・使い捨てビブ・お気に入りのスナック。
- 高齢者:嚥下配慮の介護食・常用薬7〜14日分・服薬タイマー・杖/歩行補助具替えゴム。
- アレルギー持ち:原材料表示を事前確認、専用品の“避難所非常用”箱を作成。
- ペット:フード・水・トイレ砂・証明書類(ワクチン/飼い主情報)・キャリー・排泄用袋。
水の確保と浄水の基本
保存水+給水タンク+浄水手段(煮沸/浄水器/塩素剤)の三層で。浄水剤は使用量と接触時間をラベルで確認。
3. 地震発生時の行動|冷静・簡潔・反復可能
緊急地震速報〜初動30秒:姿勢を低く、頭と首を守る
「DROP(低く)—COVER(隠れる)—HOLD ON(つかまる)」が基本。机の下に潜り、頭と首を保護。近くに机がなければ鞄や座布団で頭部を覆う。ガス火は揺れが収まってから安全確認のうえ操作。窓際から離れ、スニーカーを履く。
室内:火→出口→情報
揺れが収まったら火気→ブレーカー/ガス元栓の順に確認。むやみに外へ飛び出さず、落下物が少ない通路から安全ゾーンへ。家族の安否はショートメッセージ・SNS・安否サービスを優先(音声通話は混雑)。
屋外:上からの危険を避ける
ビル外壁・ガラス・看板・電柱から離れ、広い場所へ斜め退避。ブロック塀・自販機・古い外壁沿いは避ける。海岸や河口付近では津波を想定して高台へ、川沿いは堤防付近を避ける。
移動中・運転中:急停止しない
車はゆっくり路肩へ停車、ラジオで情報確認。緊急車両の通行帯を空ける。状況によりキーを残して徒歩避難も。エレベーターは最寄り階で降り、閉じ込め時は非常ボタンで通報。
〈発災時アクション早見表〉
状況 | 最初の30秒 | 30秒〜3分 | 3分以降 |
---|---|---|---|
室内 | 机下→頭部保護 | 火気確認→出口確認 | 連絡・情報収集 |
屋外 | 上方警戒→離脱 | 広場へ移動 | 家族と合流 |
運転 | 徐行停車 | ラジオで情報 | 徒歩避難判断 |
連絡と集合のルール作り
家族で集合場所(第一/代替)と集合時間を決め、連絡できない時の行動を文書化。安否連絡は**“短文・定型文・既読で確認”**が効率的。
4. 避難生活の実務|安全・衛生・心身のバランス
避難所:衛生とプライバシーを確保
マスク・手指消毒・ウェットティッシュで感染対策。段ボール間仕切り・パーテーションで視線・動線を調整。就寝スペースは非常口・トイレ・出入口から適度に離れ、ヘッドライトと貴重品は枕元。音/光/寒さの三点を抑えると疲労が激減します。
在宅避難:エネルギーとトイレを設計
冷蔵庫は**“先に傷みやすい→常温可→備蓄”の順で消費。カセットコンロは換気と一酸化炭素中毒対策を徹底。トイレは排泄→凝固→密封→一時保管**の一方向動線を作り、消臭袋+手袋をセットで準備。ラジオ・SNSで配給や給水情報を定期チェック。
体調・メンタル:小さなリズムを守る
水分・塩分・睡眠・軽運動の4本柱。ストレッチや深呼吸、15分の日光浴で体内時計を整える。会話・日記・甘味は手軽なストレス対策。子どもや高齢者には入眠儀式(同じ音・同じ言葉)が有効。寒さにはアルミシート+毛布の二層、暑さには打ち水・扇風・遮光を。
〈避難生活の優先タスク〉
分野 | 重要タスク | コツ |
---|---|---|
衛生 | 手指消毒・歯みがき代替 | 口腔ケアが体調維持の土台 |
休息 | 遮光・防寒・静音 | イヤーキャップ+アイマスク |
情報 | ラジオ・掲示板・公式SNS | デマ回避、一次情報を確認 |
省エネ | 充電ルール作り | 夜間は機内モードで節電 |
ペット同伴時の注意
避難先の方針を事前確認。キャリー・トイレ用品・給水器をセットで。鳴き声対策にカバー布、ストレス軽減に普段の匂いのタオル。
5. 地震後の復旧と平時の見直し|備えは“回す”もの
安全確認と記録の基本
自宅の構造・ガス臭・配線損傷・水漏れを点検。異常時は無理せず専門へ。室内の損壊は写真記録を残し、保険手続きに備える。ガラス破片は厚手手袋+段ボール+テープで回収。
物資と生活の再構築
食料・水の残量をリスト化し、不足分を優先補充。洗濯・入浴が難しい期間は体拭き・着替え・換気で清潔度を確保。近隣と物資・情報をシェアし、孤立を防ぐ。
定期メンテと訓練のルーティン化
ローリングストックで食品・水を回し、ボンベ・電池・医薬品の期限を月1確認。家族訓練は「夜間地震シナリオ」で、靴→ヘルメット→消火→集合→持出まで5分で再現できるかを指標に。季節ごとに暑さ/寒さグッズを入替え。
家の耐震と地域ネットワーク
家具固定の再点検、古い家屋は耐震診断で弱点を把握。町内会・学校・職場の避難計画と合流地点を共有し、安否確認の合言葉を決めておく。近所の**要配慮者名簿(自家用メモ)**で支援の優先順位を把握。
〈月次・季節・年次の見直し表〉
頻度 | チェック内容 | 具体アクション |
---|---|---|
月次 | 水・電池・バッテリー・医薬品 | 期限と残量をアプリ/紙で更新 |
季節 | 衣替え・暑寒対策・カイロ/冷却材 | リュックの中身を季節版に入替 |
年次 | 家具固定・保険・家族訓練 | 夜間想定で避難ドリルを実施 |
よくある誤解と正解(クイックガイド)
誤解 | 実は… | 代替の正解 |
---|---|---|
「揺れたらすぐ外へ」 | 外は落下物だらけで危険 | まずは屋内で頭部保護→様子見 |
「通話が一番早い」 | 回線輻輳でつながりにくい | 短文メッセージ/既読確認 |
「冷蔵庫は最後に食べる」 | 先に傷むものからが正解 | 冷→常温→備蓄の順 |
「ガスは直後に閉める」 | 揺れが強いと自動遮断も | 安全確認後に操作 |
まとめ|“事前の準備”が命を守る最短コース
地震は選べませんが、備え方は選べます。 家の安全設計、3〜14日分の現実的な備蓄、発災時の簡潔な行動手順、避難生活の衛生と睡眠、そして復旧とルーティン見直し。この5点を今日から1つずつ進めるだけで、生存確率も生活の質も着実に上がります。まずは家具固定のやり直しと持ち出し袋の総点検、そして家族の集合場所・連絡手段の再確認から。準備は最良の“お守り”です。今すぐ動きましょう。