要点先取り:非常時こそ“食べられるもの”を先に確保する
災害時は原材料の確認・調理環境・配給の標示が不十分になりがちです。アレルギーがある家庭は、発災前から**(1)非含有食品の固定化**、(2)代替食材の置換表、(3)誤食防止の色分け運用を整えることで、誤食・栄養不足・交差接触のリスクを大幅に減らせます。本ガイドは家族会議でそのまま使える在庫表・置換表・運用ルールとして作成し、避難所での受け取り手順・携行キット・記録テンプレまで一体で運用できるよう設計しました。
まず今日やる3ステップ:①家族ごとのNG原材料リストを紙に固定、②対応食品を“赤袋”で一式分ける、③3日分と7日分の“食べられる献立”を印刷して台所に貼る。これで非常時の食事運用は7割整います。
1.設計の基本方針:除去・置換・運用を分けて考える
1-1.除去(食べないものを明文化)
- 家族ごとの“NGリスト”を原材料名で固定(製品名ではなく小麦/卵/乳成分/そば/落花生/えび/かに/大豆/ごま/くるみなど)。
- 表示ゆれ(例:乳→乳成分・バター・ホエイ、卵→卵白粉・卵由来、麦→小麦グルテン等)は同一禁止として扱う。
- “製造工場で◯◯を使用”の注意書きは交差接触の可能性として別枠で管理。症状の強さと主治医の指示で安全側に寄せる。
表示ゆれ・注意表(例)
基本成分 | ラベルに出やすい表現 | 扱い |
---|---|---|
乳 | 乳成分/ホエイ/カゼイン/バター/チーズ | 乳と同一禁止 |
卵 | 全卵/卵白(粉)/卵黄/マヨネーズ | 卵と同一禁止 |
小麦 | 小麦粉/グルテン/パン粉/醤油(一部) | 小麦と同一禁止 |
そば | そば粉/十割そば/二八そば | そばと同一禁止(十割でも交差注意) |
落花生 | ピーナッツ/ピーナッツ油(精製度注意) | 原則禁止 |
大豆 | しょうゆ/味噌/豆乳/きなこ | 大豆と同一禁止(許容範囲は医師方針に従う) |
1-2.置換(代替食材の即時決定)
- 主食・たんぱく・風味付けの3階層で置換先をあらかじめ決め、同じ銘柄で慣らしておく。
- 初物は非常時に使わない。平時の練習→採用の順で固定化する。
1-3.運用(保管・調理・配膳のルール)
- 色分け運用:赤=アレルギー対応専用、青=一般。袋・容器・鍋・まな板・トング・スポンジまで赤/青の二系統でそろえる。
- 調理順序は対応→一般。油・ゆで汁の再利用は禁止。湯せん袋は対応専用を用意。
- 配給品は“原材料照合→受領”。不明は保留し、代替(白米・お湯・塩など単純な組合せ)を依頼する。
三層フレーム早見表
層 | 決めること | 具体例 |
---|---|---|
除去 | NG原材料の固定 | 乳・卵・小麦・落花生・そば・えび・かに 等 |
置換 | 代替を用意 | 小麦→米麺/春雨、乳→豆乳/ライスミルク、卵→片栗粉+水 |
運用 | 色分け・順序・保管 | 赤袋・赤鍋・赤トング/対応→一般の順 |
2.アレルゲン別の“代替食材置換表”とストック量
2-1.小麦の代替(主食・麺・とろみ)
- 主食:米・玄米・もち米・オートミール(グルテン不使用表示)。
- 麺:米麺・春雨・十割そば(小麦混入の注意表示を確認)。
- とろみ:片栗粉・コーンスターチ。小麦由来のルウは避ける。
2-2.乳の代替(飲料・コク・脂質)
- 飲料:豆乳・ライスミルク(大豆不可はライスミルク)。
- コク出し:豆腐クリーム(絹+塩少々)・白みそ・じゃがいも潰し。
- 脂質:オリーブ油・なたね油。マーガリン類はラベル要確認。
2-3.卵・大豆・ナッツの代替(まとめ)
- 卵の代替:片栗粉+水、マッシュポテト粉、白みそ・きなこでコク補強。
- 大豆の代替:ツナ・サバ缶・鶏むねレトルト、飲料はライスミルク。
- ナッツの代替:香ばしさはごま・炒り米、食感は乾燥コーン・砕きせんべいで置換。
ストック量の目安(1人あたり/7日)
区分 | 量 | 備考 |
---|---|---|
主食(米・米麺等) | 14食分 | 1日2食主食想定/“7日棚”にまとめる |
たんぱく(缶・レトルト) | 14個 | 魚・肉・豆(可否に応じて)を分散 |
野菜(乾燥・缶・ジュース) | 14サービング | 色が違うものを混在(赤・緑・黄) |
補助(油・塩・砂糖) | 小瓶各1 | 小分けで衛生維持/使った分だけ即補充 |
置換チャート(例)
使えない | 代替1 | 代替2 | 味の補強 |
---|---|---|---|
パン(小麦) | 米パン | おにぎり | 海苔・ごま |
牛乳 | 豆乳 | ライスミルク | 砂糖ひとつまみ |
卵焼き | 片栗粉の“もっちり焼き” | マッシュポテト焼き | 白みそ |
3.“誤食ゼロ”の在庫・調理・配膳ルール
3-1.在庫の色分けとラベリング(家中の配置)
- 赤=アレルギー対応専用、青=一般。同じ棚に混在させない。赤箱は子どもの目線より上へ。
- 製品袋に“OK/NG原材料”を手書き、購入日・期限も前面に。先入れ先出しを徹底。
- 持出袋にも赤袋セット(主食×2、たんぱく×2、野菜×2、スプーン・紙皿)を常備。
3-2.調理器具の分離(赤/青の二系統)
- 鍋・フライパン・まな板・包丁・トングは赤と青で別セット。スポンジ・布巾も分離。
- 油・ゆで汁の再利用は禁止。最初に触れた食材の痕跡が残るため。
- 湯せんは**“赤専用袋”**を用い、鍋の外側も拭き取ってから一般に使用。
3-3.配膳の順序・座席の動線・配給の受け方
- 盛付は“対応→一般”、トングの使い回し禁止、1皿1トングを原則に。
- 座席は対応者を奥へ。一般の皿が対応者の前を横切らない動線を作る。
- 配給受け取りは原材料照合→受領の二段階。不明品は丁寧に辞退し、**代替(白米・お湯)**を依頼。
誤食防止の運用表(現場用)
場面 | 禁止事項 | 代替手順 |
---|---|---|
在庫 | 混在保管 | 赤箱=対応、青箱=一般/棚を分ける |
調理 | 同一鍋・同一油 | 赤鍋で対応→洗浄→青鍋で一般/油は別容器 |
配膳 | 共用トング | 色分けトング/1皿1トング |
4.“食べられる献立”を先に決める:3日分と7日分の型
4-1.3日分(火と水を最小)モデル献立
- 朝:米粉クラッカー+ツナ、野菜ジュース
- 昼:レトルト粥(米)+ふりかけ(乳・卵不使用)
- 夜:米麺のスープ(乾燥野菜+塩)+サバ缶
- 間食:ようかん・ゼリー・果物缶(ラベル確認)
調理テンプレ:湯せん→袋のまま盛る→袋で廃棄で洗い物ゼロ。一鍋雑炊は米+缶汁+水少量→3〜5分で完成。
4-2.7日分(回転で飽きを防ぐ)主食ローテ
曜日 | 主食 | たんぱく | 風味 |
---|---|---|---|
月 | ごはん | ツナ | 海苔・塩 |
火 | 米麺 | 鶏レトルト | 乾燥ねぎ |
水 | オートミール粥 | サバ缶 | 白みそ |
木 | もち米 | 焼き鳥缶 | 梅 |
金 | 玄米 | いわし缶 | ごま |
土 | 米パン | 豚レトルト | きざみ昆布 |
日 | おかゆ | 卵代替つなぎの団子 | しょうが |
彩りと食物繊維は乾燥野菜ミックス・切り干し大根・乾燥わかめで上乗せ。海苔・ごま・梅干しが香りと塩分の調整に有効。
4-3.栄養の骨組み(PFC+色)と“ひと皿化”
- P(たんぱく):魚缶・鶏レトルト・(大豆不可なら)肉中心。毎食1品を目安。
- F(脂質):オリーブ油/なたね油を小さじ1ずつ足し、カロリー不足を防ぐ。
- C(炭水化物):米・米麺・オートミールをローテーション。
- 色(野菜):赤=トマト缶/緑=わかめ・ブロッコリー/黄=コーンを日替わりで。
- ひと皿化:主食+たんぱく+野菜を丼・スープ・焼きの1皿で完結し、洗浄水ゼロへ。
5.避難所・配給・記録と携行キット(サポート)
5-1.受け取り前の確認手順(声出し)
1)原材料名を読む(家族のNGと照合)。
2)同一ライン製造の注意書きを探す。
3)不明は受け取らない。代替(白米・お湯・塩等)を頼む。
4)“お断りメモ”(食べられない原材料)を提示する。
5-2.持ち込み運用・携行キット
- 赤袋(対応食)を1日2食分は常に携行。**折りたたみスプーン・紙皿・赤トング(小)**で交差接触を回避。
- 携行キット例:対応主食×2/対応たんぱく×2/乾燥野菜×2/塩・砂糖小袋/使い捨て手袋/ウェット/ミニ温度計。
- 家族カード:氏名・NG原材料・緊急連絡先・かかりつけを耐水カードに印刷し、胸ポケットへ。
5-3.体調変化の記録と受診目安
日付/時刻 | 食べた物 | 症状 | 対処 | メモ |
---|---|---|---|---|
救急受診の目安:咳・息苦しさ・全身のじんましん・唇/舌の腫れ・ぐったり。すぐ119番。医師処方の緊急薬(例:アドレナリン自己注射など)は本人と保護者が携行し、使用手順を家族で共有。
5-4.サポート:Q&A(抜粋)と用語辞典・相談フレーズ
Q&A(抜粋)
Q1.“製造工場で◯◯使用”は全部避けるべき?
A.交差接触の可能性を示す注意。症状の強さと主治医の指示で判断し、非常食は安全側に寄せる。
Q2.代替ミルクは何が使いやすい?
A.ライスミルクは癖が少ない。豆乳不可の家庭でも扱いやすく、粉末タイプは保存性に優れる。
Q3.避難所で表示がない配給は?
A.成分不明は受け取らない。白ごはん・お湯など単純な組み合わせを依頼し、手持ち対応食で補う。
Q4.家族の一般食と一緒に作れる?
A.別鍋・別食器・別トング、調理順“対応→一般”、油・スープ再利用不可を守れば可。
用語辞典(やさしい言い換え)
- 交差接触:調理や保管の途中で禁忌の成分が少し混ざること。
- 置換:使えない材料を別材料に入れ替えること。
- 表示ゆれ:同じ成分でも表記が違うこと(例:乳/乳成分)。
- 赤袋運用:対応食だけを赤い袋・食器・鍋で分けて使う決まり。
- OK/NGリスト:食べて良い・だめを原材料名で書いた紙。
相談フレーズ(配給所で)
- 「この食品の原材料名が分かる紙はありますか?」
- 「白ごはんとお湯だけ頂けますか。家で対応食を合わせます。」
- 「この成分が入っていると体調を崩します。代わりの品はありますか?」
まとめ
非常時も**“食べられるもの”を先に**。**除去(NGの固定)→置換(代替)→運用(色分け・順序)**の三層を紙で決め、赤袋運用と別鍋調理を今日から練習しましょう。在庫は主食・たんぱく・野菜を7日分、配給は原材料照合ができるものだけ。家族カードと携行キットを整えておけば、誤食・栄養不足・交差接触の三大リスクを最小化できます。