地震や誤操作でガスが止まった——その“止めた主犯”は、多くの場合、屋外のガスメーター(マイコンメーター)です。 本稿は、遮断の仕組みと条件、復旧(リセット)の正しい手順、復旧してはいけない場面の見分け方、さらに家庭・店舗での予防運用までを、だれでも安全に再現できる形で徹底解説します。
まずは、異臭や爆発の危険を感じたら復旧操作をしない——この一点を強く覚えてください。あわせて、においがしなくても“音・見た目・体調の異変”があれば中止が基本です。
1.ガスメーターは何を監視しているのか(仕組み)
1-1.マイコンメーターの基本構造
流量センサー・圧力センサー・地震センサー(加速度)を内蔵し、異常を検知すると電磁弁を閉じて遮断します。前面には表示窓(エラー表示)と復帰ボタンがあり、遮断理由のヒントが表示されます。乾電池内蔵型や外部電源型などがあり、電源が弱っていると表示が薄い・点滅が不規則になることがあります。
1-2.“安全の三本柱”:揺れ・流量・漏れ
- 揺れ(地震などの強い加速度):一定以上の揺れで自動遮断し、二次被害(火災)の発生を抑える。
- 流量(長時間の過大流量):器具の消し忘れ・複数口最大火力の長時間運転などを検知。
- 漏れ(圧力の異常低下・機器内検知):配管の外れ・ゴム管の劣化・器具故障などを推定し遮断。
1-3.メーターの置き場所と確認ポイント
多くは屋外の玄関わき・マンションのパイプシャフト・建物側面にあります。表示窓の点滅・エラーコード・赤ランプを確認し、ガス栓の開閉位置と合わせて状況を把握します。物置・植木・自転車でふさがないこと、足場が濡れて滑らないことも安全上の基本です。
1-4.都市ガスとプロパン(LPガス)のちがい(運用面)
項目 | 都市ガス | プロパン(LPガス) | メモ |
---|---|---|---|
供給 | 地中の配管から供給 | 各戸のガス容器から供給 | どちらも屋外にメーター |
におい | 特有のにおいを付けてある | 同様ににおい付け | 少しでも異臭→使用中止 |
停電の影響 | 機器が電気依存なら使用不可 | 同左 | メーター復旧だけで全て動くとは限らない |
注意:いずれの方式でも、におい・音・破損を感じたら復旧操作はしないでください。
2.遮断される主な条件と“ランプの読み方”
2-1.代表的な遮断条件(家庭用の目安)
区分 | 主な遮断条件の例 | 何が起きたとき? | ランプ/表示の例 | まずやること |
---|---|---|---|---|
揺れ | 一定以上の強い揺れ | 地震・大型車の衝撃 | 「地震」表示/赤点滅 | すべての火を消し、器具栓・元栓を閉める |
長時間流量 | 大きな流量が続いた | 長時間の炊事・風呂追いだき・消し忘れ | 「使用量超過」など | 器具を止め、ガス臭がしないか確認 |
圧力低下/漏れ推定 | 圧力が急落 | 配管の外れ・劣化・器具故障 | 「遮断」点滅 | 換気し、臭い・音の有無を確認 |
器具異常 | 点火不良・立消え連続 | コンロや給湯器の不調 | 器具エラー+メーター点滅 | 器具側を停止し、復旧可否を判断 |
表示語や記号は機種で異なります。 **赤点滅+「ガス止」**などが見える場合は、復旧前に必ず“におい・音・見た目”を確認してください。
2-2.“復旧してはいけない”危険サイン
- **ガス臭(甘い匂い・タマネギ臭など)**がする。
- 「シュー」という連続音、配管・ゴム管の外れが見える。
- 火の気・火花・電気スイッチの操作が近くにある(換気扇のスイッチも含む)。
- 水没・転倒・機器の破損がある。
- 体調の異変(頭痛・めまい・目の刺激など)がある。
上記のいずれかがあれば復旧操作は中止。 すべての火を消し、窓を開けて換気し、元栓を閉めてから専門窓口に相談してください。
2-3.遮断後にまずやる一次確認
- すべてのガス器具の火を消す(コンロ・給湯器・ストーブ)。
- 器具栓・元栓を閉める(ゴム管がある機器は差し込み確認)。
- ガス臭の確認・換気(窓・ドアを開ける)。
- 屋外メーター周りの安全(足場・照明・遮蔽物)を整える。
- 人員の役割(確認・操作・見張り)を手短に決める。
3.安全に行う復旧(リセット)手順
3-1.標準的な復旧の流れ(家庭用の例)
- 器具栓・元栓が閉になっていることを確認。
- 屋外のガスメーター前面の復帰ボタンをしっかり押す(1〜2秒)。
- ランプが点滅し**「約1〜3分の安全確認中」**に入る。
- この間は一切ガスを使わない(点火しない・器具を操作しない)。
- 点滅が消え、通常表示に戻ったら完了。一つの器具だけを開にして試験点火し、異常がなければ他も使用再開。
途中で点火すると再遮断されることがあります。点滅中は待つが鉄則です。
3-2.復旧直後の“安全確認5点”
確認項目 | 方法 | 目安 |
---|---|---|
におい | 鼻を近づけず、周囲で違和感を感じないか | 違和感なしが前提 |
音 | 「シュー」など連続音が無いか | 音なし |
見た目 | ゴム管の亀裂・抜け、金具のゆるみ | 異常なし |
炎 | コンロの炎色が青く安定しているか | 青い炎・安定 |
換気 | 給気口・換気扇(電源可時)の作動 | 十分な換気 |
3-3.うまく復旧しないときの切り分け
- すぐに再遮断する:どこかの器具栓が開、または器具側異常の可能性。すべて閉にして再度1〜3分待機。
- 表示が復帰しない:電池切れ・水濡れ・配線不良などの可能性。復旧は行わず相談。
- コンロは点くが給湯器が動かない:給湯器側の異常や電気の供給不足が原因のことがあります。機器マニュアルのリセット操作を実施し、それでも不可なら相談。
3-4.店舗・事業所での追加配慮
- 複数メーター/複数系統がある場合、系統ごとに復旧。厨房・客席・給湯を順番に試験動作。
- 換気設備(電源式)が停電の場合は、ガス機器の再使用を見合わせます。
- 開店前チェック表を入口に掲示し、復旧担当・立会い担当を分ける。
4.“止まらせない”ための日常運用と点検
4-1.遮断を招きやすい使い方を避ける
- 長時間の強火・複数口同時最大火力は避ける(過大流量判定)。
- ゴム管の劣化・ゆるみを定期確認(圧力低下/漏れ判定の原因)。
- 強い揺れ後の器具連続使用は避け、いったん元栓閉→再開で安全側に。
- 屋外メーター周りの整理整頓(物置・植木・自転車を遠ざける)。
4-2.家族・従業員への“声かけルール”
- **「臭いがしたら復旧しない」**を徹底。
- 復帰ボタンを押したら3分は触らない——貼り紙をメーター横に。
- 使い終わりに器具栓を閉める——自動消火だけに頼らない。
- 子ども・高齢者には**合図(手順カード)**で共有。
4-3.月次チェックリスト(屋外・屋内)
項目 | 方法 | 基準 |
---|---|---|
メーター周辺 | 物置・植木等の遮蔽物を退避 | 表示窓とボタンに手が届く |
ゴム管 | ひび・白化・硬化の目視 | 少し曲げて割れ無し |
器具火力 | 炎色・形の確認 | 青い炎・安定 |
換気 | 給気口・換気扇の作動 | 油汚れ除去・回る |
警報器 | 作動ランプ・試験ボタン | 正常表示 |
4-4.季節・天候ごとの注意
季節・状況 | 起こりやすい事象 | 予防・対策 |
---|---|---|
冬(凍結) | 配管の凍結・割れ | 保温材・風除け、復旧前に割れ確認 |
梅雨・豪雨 | メーター周りの水没 | 高さのある台・排水の確保 |
台風・強風 | 配管の揺れ・転倒物 | 周辺の片付け・固定 |
5.ケース別:地震・長時間使用・器具故障・浸水の対処
5-1.地震後の対処フロー(家庭)
- 火を消す→窓開け→元栓閉。
- 臭い・音が無いことを確認。
- メーターで復帰操作→3分待機→単独器具で試験点火。
- 異常があれば使用中止し相談。
5-2.長時間の調理・風呂運転後
- 一度すべての器具を止める→数分冷却→順次再開。
- 再遮断が出るなら、使用量の同時ピークを下げる(火力を分散)。
5-3.器具故障が疑われるとき
- 立消え・失火が連続→器具側の点検を優先。
- 換気が不十分だと安全装置が働くことも。給気口を開ける。
5-4.浸水・台風後の留意点
- 水没・冠水跡がある場合は復旧操作を行わない。
- 器具内部に泥・水分が入った可能性があるため、専門点検を依頼。
- メーター台座・配管支持金具の曲がり・外れも確認。
6.Q&A(よくある疑問)
Q1.復帰ボタンは何回まで押してよい?
A.短時間に何度も押すのは避けます。 基本は一次確認→1回押す→待機。それで復旧しなければ原因切り分けへ。
Q2.停電中でもガスは使えますか?
A.都市ガス・プロパンとも機器や換気設備が電気依存なら使えません。点火・ファン・給湯が電気式のことが多い点に注意。
Q3.外でメーターを操作してもよい?
A.自宅・自店舗のメーターなら標準手順の範囲で可**。臭い・音・破損がある場合は触らず相談。
Q4.においが分かりにくいときの目安は?
A.換気後も目がしみる・頭痛・めまいなど体調異変があれば使用中止**し、相談してください。
Q5.賃貸でメーターが触れないと言われた
A.管理会社のルールに従います。 ただし火を消す・換気・元栓を閉めるは即時に行って構いません。
Q6.雪でメーターが埋まった/凍った
A.復旧操作は行わず、まず雪の除去・周辺の乾燥**を。無理に叩いたり温水をかけたりしないでください。
Q7.高齢の家族だけのときは?
A.メーター位置・復旧手順を絵入りカード**で冷蔵庫などに掲示。合図を決め、電話で付き添うのが安心です。
7.用語辞典(やさしい言い換え)
マイコンメーター:小さな計算機が入ったガスメーター。異常を見つける。
復帰ボタン:遮断を解除するためのボタン。押した後は待機が必要。
元栓:家や部屋に入る前のガスの大もとを止める栓。
器具栓:コンロやストーブのそばにある小さな栓。
立消え:火が勝手に消えること。風や換気不足でも起こる。
フラッシング:管の中のガスや空気を安全に入れ替える操作の総称。
逆止弁:水やガスが逆向きに流れないようにする弁。
二次圧:メーターの下流側の圧力。器具へ向かう圧力のこと。
可燃性ガス警報器:においが分かりにくいときに役立つ、ガスを検知して知らせる器具。
8.まとめ:止めるのはメーター、再開の主役もメーター
遮断は命を守るための“正しい作動”です。 だからこそ、におい・音・破損がないことを確かめ、手順通りに一度だけ復旧することが安全最短ルート。点滅中は待つ、異常があれば触らない。
この二つを合言葉に、**家庭・店舗で“止まらない運用”と“止めた後の正しい復帰”**を整えておきましょう。月次の点検・季節ごとの対策・掲示物の整備まで行えば、地震・停電・長時間使用のどの場面でも落ち着いて対処できます。