シンガポールは、アジアでも屈指の経済的成功を遂げた国家として知られ、安全・清潔・効率的で住みやすい都市国家と称されます。税制やビジネス環境、教育、医療制度など、移住先として非常に高い評価を受けており、実際に多くの外国人がその恩恵を受けています。
しかし、その一方で、現地に住んでみて初めて気づく「シンガポールならではの不便さ」や「ストレス」も数多く存在します。短期旅行では感じづらい問題も、長期滞在や移住となると無視できないものに変わることも多いのです。
この記事では、シンガポールへの移住を検討している方に向けて、理想と現実のギャップを明らかにするため、5つのカテゴリーに分けてシンガポールの“欠点”を詳しく掘り下げていきます。充実した移住生活のためには、こうしたデメリットを事前に理解しておくことが不可欠です。
生活コストが非常に高い
家賃が高額で庶民の生活には厳しい現実
シンガポールは国土が非常に狭く、土地の価格が高騰しやすいため、賃貸住宅の家賃相場も非常に高水準にあります。特に都市部に住む場合、外国人が選びがちなコンドミニアムの家賃は月30〜60万円にも達することがあり、現地採用者や自費移住者にとっては深刻な負担となります。HDB(公営住宅)もありますが、外国人には制限があるため選択肢は限られます。
教育・医療コストも安くはない
インターナショナルスクールや私立校の学費は年間200万〜500万円にのぼるケースもあり、子育て世帯にとって大きな経済的プレッシャーとなります。医療費についても、外国人が利用しやすい私立病院では診察費や検査費用が割高で、民間保険に加入しなければ医療費が膨らむリスクがあります。
日用品や食品の物価も上昇傾向
ローカルのホーカー(屋台)で食事をすれば比較的安価ですが、日本食や欧米系の食材、輸入製品を多く使用する生活スタイルを選んだ場合、食費や日用品の支出が大幅に増えることも少なくありません。外食中心の生活では、毎月の生活費が日本よりも高額になる可能性があります。
法律・社会規範の厳格さに戸惑う場面も
罰金文化と監視社会的な側面
シンガポールは“ファイン・シティ(罰金都市)”というニックネームを持つほど、さまざまな行為に対して罰金が科せられます。公共の場での喫煙、電車内での飲食、ゴミのポイ捨てなど、細かなルールが多く、うっかり違反してしまうと高額な罰金を課されることも。
表現の自由が制限される場面がある
政治的発言やメディアの自由に関しては、他の先進国に比べて制約があると指摘されています。SNSやブログなどでも、政府批判が問題視されるケースがあり、自由な発信が制限される可能性があることを理解しておく必要があります。
過剰なマナー遵守がプレッシャーになる
公共空間ではマナー遵守が徹底されており、少しのルール違反にも周囲の視線や指摘が飛ぶことがあります。日本以上に厳しいマナー文化に馴染めないと、精神的な負担を感じることがあります。
常に高温多湿な気候と自然環境の制約
年中蒸し暑い気候に体調を崩す人も
シンガポールの気候は年間を通して高温多湿で、最高気温が30度を下回ることはほとんどありません。屋内は冷房が効いていますが、外出時との温度差による体調不良を訴える人も多く、健康管理に注意が必要です。
スコールによる行動制限と不快感
突然の激しいスコールは日常茶飯事で、朝晴れていても午後には土砂降りになることも珍しくありません。外出中に傘がないと大きな不便を感じることがあり、計画的な行動が求められます。
煙害(ヘイズ)や大気汚染のリスク
近隣諸国の焼畑農業の影響で、年に数回は「ヘイズ(煙害)」が発生することがあり、空気の質が大幅に悪化します。呼吸器に持病のある人や小さな子どもにとっては深刻な健康リスクとなる可能性があります。
文化・言語・人間関係のハードル
多民族国家ならではの価値観の違い
中華系・マレー系・インド系を中心に構成される多民族国家であるため、宗教や価値観、食文化の違いが日常生活に強く反映されます。多様性を尊重する姿勢は重要ですが、慣れるまでに戸惑う場面も少なくありません。
シングリッシュに馴染むまで時間がかかる
英語が公用語とはいえ、実際に使われているのは“シングリッシュ”と呼ばれる独特な英語。語順や発音、スラングが多く、日本人が学んだ一般的な英語とは大きく異なります。慣れるまではコミュニケーションの誤解や戸惑いがつきものです。
ローカル社会に溶け込むには時間が必要
シンガポール人はフレンドリーではあるものの、仕事仲間や近隣住民と本音で付き合えるようになるにはある程度の時間と努力が必要です。言葉や文化の壁によって、孤独感を覚える外国人も少なくありません。
永住・定住に向けた制度的なハードル
永住権(PR)取得の難易度が年々上昇
永住権の取得は高収入・専門スキル・長期滞在など厳しい条件が課せられており、申請しても許可されないケースが多く見られます。家族帯同の有無や納税額なども審査の材料となるため、戦略的な準備が求められます。
市民権取得はさらに高い壁がある
市民権を取得するには、永住権を長年保持していることや、国への帰属意識、場合によっては兵役や選挙参加などの義務を引き受ける覚悟も必要になります。簡単には手に入らない制度です。
外国人が受けられない制度も多い
土地付き住宅の購入制限、社会保障制度の制限、金融商品の一部利用不可など、外国人であることによる不便さは少なくありません。将来的な資産形成や老後の生活設計を考えるうえで、制約要因となることがあります。
まとめ:シンガポールの現実を受け入れたうえで賢い判断を
シンガポールは多くの面で住みやすく、魅力的な移住先であることは間違いありません。しかし、移住や定住を本気で考えるならば、その裏にある「制約」や「現実的な不便さ」にも目を向ける必要があります。
生活費の高さ、法律の厳格さ、文化的ギャップ、永住制度の複雑さなど、多くの課題が存在するのも事実です。ですが、それらを理解し、対策を講じたうえでの移住ならば、理想と現実のギャップを最小限に抑えることができ、より充実した海外生活を実現できるでしょう。
一方的な理想だけで移住を決めるのではなく、リスクや課題を理解したうえで、自分にとって最適な海外生活の形を見つけることが、シンガポール移住成功への第一歩となるはずです。