駐車場での“当てキズ”や擦りキズ。気づいた瞬間のショックは大きいですが、浅いキズなら自分で十分きれいに直せます。本記事では色番号の調べ方→下地処理→色のせ→クリア→段差ならし→研磨→保護の順に、失敗しないタッチアップ作業を徹底解説。
さらにキズの深さ診断表、道具と費用の相場、塗装種類(ソリッド/メタリック/パール)別のコツ、季節・環境・濃色/淡色ごとの注意、応急処置と本補修の切り替え、やってはいけないNG例、Q&A、用語辞典まで一気にまとめました。
安全上の注意:有機溶剤を含む製品を扱います。風通しの良い場所で、保護手袋・保護めがね・マスクを着用し、火気厳禁を徹底してください。
1.まず判定:タッチアップで直せるキズか?
1-1.キズの深さを見極める(塗装構造のどこまで?)
- クリア層のみ:白っぽいスリ傷。研磨+コーティングで消えることが多い。
- ベース色層まで:色が欠けて素地がチラ見え。タッチアップ+ならしで目立たなくできる。
- 下地(サフェーサー)〜金属まで:サビのリスクあり。防錆→タッチアップ→段差ならしが必須。
1-2.“やる・やらない”の判断フロー
- 指爪が引っかからない→磨きのみでOK。
- 引っかかる&色が欠けている→タッチアップへ。
- 金属露出・へこみ・折れ→板金塗装を検討(自分での対応は難度高)。
1-3.キズ別おすすめ処置早見表
キズの状態 | 推奨処置 | 目安時間 | 仕上がりの期待度 |
---|---|---|---|
クリア細線傷 | 研磨+コーティング | 30〜60分 | 高 |
ベース色欠け(点/線) | タッチアップ+ならし | 60〜120分 | 中〜高 |
金属露出(点サビ) | 防錆→タッチアップ | 90〜180分 | 中 |
えぐれ・へこみ | 板金塗装 | 数日〜 | 最高(プロ) |
1-4.塗装種類と難易度の目安
種類 | 見分け方 | 難易度 | ポイント |
---|---|---|---|
ソリッド(単色) | くっきりした単色 | 低 | 色ズレが出にくい |
メタリック | きらめき有 | 中 | 薄塗りを回数で色味を合わせる |
パール(三層) | 角度で色が変わる | 中〜高 | 色→パール→クリアの順を守る |
2.準備:色番号の特定と道具の揃え方
2-1.色番号(カラーナンバー)の探し方
- 運転席側のドア開口部やエンジンルーム内の銘板にカラーコードが記載。例:**「カラー:1K0」**など。
- 見つからない場合は車検証の型式を控え、販売店や用品店で照合。
2-2.必須・あると便利な道具(拡張版)
種類 | 用途 | 例 | 目安費用 |
---|---|---|---|
タッチアップ塗料(色) | 欠けの補修 | 純正ボトル/ペン | 1,000〜2,500円 |
パール層用塗料 | パール車用 | 指定パール液 | 1,000〜2,500円 |
クリア塗料 | 艶・保護 | ペン/ボトル | 800〜1,800円 |
希釈液(うすめ液) | 粘度調整 | メーカー指定 | 400〜800円 |
脱脂剤 | 油分除去 | シリコンオフ等 | 600〜1,200円 |
極細筆/極細綿棒 | 塗布 | ネイル用極細等 | 300〜1,000円 |
つまようじ/滴下針 | 点置き | 盛り調整に便利 | 100〜500円 |
マスキングテープ | 保護・ガイド | 低粘着/曲線用 | 200〜400円 |
マスカー(養生シート) | 周囲保護 | ドア1枚分 | 300〜600円 |
耐水ペーパー | 段差ならし | #1500/#2000/#3000 | 300〜600円 |
サンディングブロック | 均一研磨 | 消しゴム可 | 200〜600円 |
研磨剤(3種) | 仕上げ | 細目→極細→超微粒子 | 800〜1,800円 |
マイクロファイバー | 拭き取り | 毛足短め | 400〜1,000円 |
防錆剤/さび転換剤 | 金属露出時 | 点サビ処理 | 800〜1,800円 |
保護具 | 安全 | 手袋・めがね・マスク | 1,000円前後 |
2-3.作業環境の整え方(温湿度・照明・足場)
- 直射日光・風・砂埃を避ける。屋内やテント内で20〜25℃/湿度50%前後が理想。
- 照明は2方向以上(上+斜め)。斜光で段差・ムラが見えやすい。
- 足場は片側のドアを全開にしても安全な広さを確保。ドアストッパーで急開防止。
3.実践手順:タッチアップの正しい流れ
3-1.下地処理(成功の8割)
- 洗車→乾燥:泥・粉塵を徹底除去。
- 脱脂:シリコンオフを無毛布に含ませ、一点に残さないよう拭く。
- サビ処理(必要時):240〜600番で軽く整え、防錆剤を点塗り→規定時間乾燥。
- マスキング:キズの両脇0.5〜1mm外側に細幅テープ。エッジ保護。
- 下地色(必要時):地金が見える場合はプライマーを点で薄く入れる。
3-2.色のせ(ベースカラー)
- 極細筆の先端だけに塗料を取り、点置き→引き伸ばしでキズ溝の中だけを埋める。
- 厚塗り禁止。1回薄く→10〜20分乾燥→2回目の積層で段差を少しずつ埋める。
- メタリック/パールは角度で色が変わるため、極薄を回数で合わせる(厚く塗ると暗く沈む)。
3-3.パール層(該当車のみ)
- 指定のパール液を極薄で1〜2回。ベース色の明るさを保つことを最優先。
3-4.クリアのせ(保護・艶)
- カラーが面一(つらいち)より少し低い段階でクリアを点置き。
- はみ出し厳禁。表面張力で盛るイメージで1〜2回。
- 最低3〜6時間、可能なら一晩乾燥。
3-5.段差ならし(サンディング)
- #2000→#3000の耐水ペーパーを数cm角に切り、水で十分湿らせる。
- 平らなブロックに巻いて軽く往復。“トントン→すべらす”のリズムで盛り上がりだけを削る。
- 指腹と光の反射で段差を確認。周囲の塗膜を削りすぎないこと。
3-6.研磨→艶出し→保護
- コンパウンド細目→極細→超微粒子の順で小面積ずつ。
- マイクロファイバーは清潔な面をこまめに交換。
- 最後にコーティング/ワックスで保護膜を作り、水はじきと防汚を付与。
3-7.色なじみの微調整(上級)
- 仕上げで周囲を極軽くぼかし磨き。境界の光の段差を和らげる。
- 濃色は磨き跡(オーロラ)が出やすいので超微粒子→脱脂拭きで締める。
4.仕上がりを左右するコツ/NG例/比較表
4-1.“仕上がりが変わる”7つのコツ(拡張)
- 薄く重ねる:厚塗りは段差と色ムラの元。
- 乾燥を待つ:せっかちに触らない。規定時間厳守。
- 溝の中だけに塗る:外へはみ出さない筆技が命。
- 段差はサンディングで:塗って誤魔化さない。
- 磨きは小さく始める:周囲の艶引けを防止。
- 照明を変えて確認:上+斜光でムラと傷を拾う。
- 気温・湿度を管理:高温=速乾ムラ/低温=硬化遅れに注意。
4-2.やってはいけないNG例
- 濃色でのコンパウンドかけ過ぎ→オーロラ傷が増える。
- 暑い直射下での作業→速乾でムラ・ピンホール。
- 脱脂不足の上から塗る→密着不良で剥離。
- 一発で厚塗り→盛り上がり・色ズレが目立つ。
- 粗い番手で広範囲研磨→塗膜のやせ・白ボケ。
- 硬化前に雨に当てる→白濁・染みの原因。
4-3.自分で直す/プロに出す 判断のめやす
状態 | 自分で | プロがおすすめ | 理由 |
---|---|---|---|
点傷・線傷(10cm以内) | ◎ | △ | タッチアップ範囲 |
複数面にまたがる傷 | △ | ◎ | 色合わせ・面調整が難しい |
えぐれ/へこみあり | △ | ◎ | 板金・パテ成形が必要 |
パール三層で広範囲 | △ | ◎ | 調色・膜厚管理が難度高 |
4-4.費用と時間の違い(再掲・詳細)
項目 | 自分で(タッチアップ) | プロ(板金塗装) |
---|---|---|
費用 | 2,000〜6,000円(道具込み) | 2万〜10万円超(範囲次第) |
作業時間 | 1〜3時間+乾燥 | 数日(入庫〜受け取り) |
仕上がり | 近距離で痕跡あり得る | 新車寄りの均一仕上げ |
保証 | — | 店舗保証が付く例あり |
5.メンテ&再発防止:直した後にやること
5-1.サビ・再劣化を防ぐ習慣
- 洗車後は必ず乾拭き。ドア下縁の水溜まりを残さない。
- 季節ごとにコーティング。防汚膜で微傷の進行を抑える。
- 黄砂・花粉の時期は早めの洗い流しで染みを防止。
5-2.ドアパンチ対策
- 端車に駐車、風の強い日は離して停める。
- ドアエッジモールやマグネット式ガードの併用も有効。
- 駐車場の通路側を避けるなど配置でリスク低減。
5-3.再補修のタイミング
- 色ズレや段差が気になれば1〜2週間空けてから二次研磨 or 追いクリア。塗膜の完全硬化後に行う。
- 冬季は硬化が遅いため期間を長めにとる。
6.Q&A(よくある疑問)
Q1.色が微妙に合わない。どうしたら?
A.メタリック/パールは角度で見え方が変わるため、極薄で回数を重ねて調整。周囲を軽く磨くと馴染みやすい。
Q2.筆ムラが出る。
A.筆の毛量を最小にして点置き中心に。高温時はムラになりやすいので朝夕に作業。
Q3.削りすぎて色まで落とした。
A.慌てず再度ベース→パール(該当時)→クリア。乾燥→ならし→磨きでやり直せます。
Q4.スプレーは使わない方がいい?
A.点傷・線傷なら筆タイプが安全。スプレーは広範囲になりやすく色ズレが目立つ。
Q5.どの研磨剤を選べばいい?
A.基本は細目→極細→超微粒子の三段階。いきなり粗い番手はオーロラ傷の原因。
Q6.濃色車で磨き後の“モヤ”が消えない。
A.照明を変えて微傷の向きを把握。超微粒子→アルコール脱脂で仕上げ。
Q7.樹脂モールのキズはどうする?
A.****塗装ではなく樹脂用コートや専用補修剤で対処。溶剤の強い製品は変形の恐れがあるため注意。
Q8.雨が降ってきたら?
A.クリア硬化前は絶対に濡らさない。屋根下へ移動し、白濁が出たら乾燥後に軽研磨→再クリア。
Q9.応急処置はある?
A.外出先では脱脂→色を点置き→乾燥→簡易ワックスまで。後日段差ならしと本研磨を実施。
7.用語辞典(平易な言い換え)
- タッチアップ:キズの欠けた部分だけに塗料を足す方法。
- 段差ならし:盛り上がった塗面を耐水ペーパーで平らにする作業。
- サフェーサー:色の下にある下地。傷が深いとここまで見える。
- 面一(つらいち):周囲と同じ高さに揃った状態。
- オーロラ傷:磨き跡が虹の帯のように見える症状。
- プライマー:金属や樹脂に上塗りを密着させる下塗り剤。
- ぼかし:境界をなだらかに見せる磨き・塗りの工夫。
8.季節・環境・色で変わる注意点
8-1.季節別のコツ
- 春(花粉・黄砂):早めに洗い流し。染みが残る前に中性シャンプー。
- 夏(高温):速乾ムラが出やすい。朝夕に作業し日陰を確保。
- 秋(雨が多い):親水性コートで水はけを良くし作業後の残水を減らす。
- 冬(低温):硬化が遅い。乾燥時間を長めにとる。
8-2.色別のコツ
- 濃色(黒/紺/赤):磨き跡が出やすいため超微粒子で締める。疎水/親水の保護が無難。
- 淡色(白/銀):撥水で見栄え良好。水垢は早めに除去。
9.応急処置と本補修の切り替え
9-1.外出先の最小セット
- 脱脂シート・綿棒・小筆・小瓶タッチアップ・簡易ワックス。
9-2.本補修へ移行するタイミング
- 1週間以内に段差ならし→研磨を実施。白濁やムラが出たら再クリアで整える。
10.印刷用チェックリスト(作業前→作業後)
作業前
- _カラーコード確認:
- _キズの深さ:クリア/色/下地/金属
- _道具一式:筆・綿棒・脱脂剤・塗料・クリア・耐水ペーパー(#2000/#3000)・研磨剤(細/極細/超微粒子)・保護具
- _作業場所:屋内/テント、風対策、照明(上+斜光)
作業中
- _脱脂済み
- _薄塗り→乾燥→重ね済み
- _はみ出し無し
- _クリアは面一手前で盛り、十分乾燥
作業後
- _段差ならし(#2000→#3000)
- _研磨(細→極細→超微粒子)
- _保護(コート/ワックス)
- _1〜2週間後の確認日を記録
まとめ:ポイントは“薄く・待つ・削って整える”
薄く重ねて、しっかり乾かし、段差は削って整える。 この3原則を守れば、近づいてもわからない仕上がりにぐっと近づきます。色番号の確認・環境づくり・下地処理を丁寧に行い、焦らず一工程ずつ進めましょう。
自分で直せる範囲は広く、道具代も数千円で済むことがほとんど。まずは小さな点キズからチャレンジし、成功体験を積み上げてください。