飛行機にポータブル電源(リチウム電池を内蔵した蓄電機)を持ち込めるかどうかは、**電力量(Wh:ワット時)と持ち込み方法(手荷物/預け荷物)**で判断されます。結論から言えば、100Wh以下なら原則持ち込み可、100Whを超えて160Wh以下は航空会社の許可が必要、160Whを超えると基本不可というのが世界的なおおまかな枠組みです。
本稿では、この基本線を土台に、なぜ制限があるのか、当日の手続きで何が問われるのか、適した機種の選び方や代替策は何か、乗り継ぎ時の注意と“通過しやすい見せ方”まで詳しく説明します。最後に申請メール文例・前日チェックリスト・容量換算の早見表も用意しました。
機内持ち込みの基本を正しくつかむ
なぜ持ち込みに制限があるのか(安全の理由)
ポータブル電源はリチウム電池の発熱・短絡(ショート)が起きたとき、発火が連鎖するおそれがあります。客室なら乗務員が初期消火や冷却で対応できますが、貨物室では目が届きません。このため預け荷物は不可、手荷物のみという大原則が生まれました。電力量が大きいほど制御が難しく危険度が上がるため、100Wh・160Whを目安に段階的な制限が置かれています。機器の状態が悪い(へこみ、膨らみ、割れ、液漏れなど)場合は、容量にかかわらず持ち込みを断られることがある点も覚えておきましょう。
判断の物差しは「ワット時(Wh)」
持ち込みの可否は電力量で決まります。製品の銘板や説明書にWhが書かれていれば、その数値が基準です。もしV(電圧)とAh(アンペア時)しか書かれていない場合は、Wh=V×Ahで計算します。たとえば3.7V×20Ah=74Whなら持ち込み可、14.8V×10Ah=148Whは許可が必要、25.9V×8Ah=207Whは持ち込み不可という判断になります。表示が消えて読めない機器は、仕様書や購入時の箱の写真を用意すると通過が円滑です。容量表示がmAhのみの機器は、Wh=(mAh÷1000)×Vで求められます(下の表を参照)。
表示パターン別の換算例
表示のしかた | 例 | 計算 | 結果 |
---|---|---|---|
Whがある | 99Wh | — | 99Wh(そのまま) |
VとAhのみ | 14.8V・10Ah | 14.8×10 | 148Wh(許可が必要) |
VとmAhのみ | 3.7V・26800mAh | 3.7×26.8 | 約99Wh(持ち込み可) |
手荷物・預け荷物の取り扱いの違い
ポータブル電源は預け荷物に入れられません。必ず手荷物で持ち込みます。機内では電源ボタンが誤って入らないようにし、端子の保護をしておくと検査が早く済みます。客室内の電源(座席の差し込み)に本体を充電しながら使うことは避ける案内がされることもあります。使用可否は機材や航空会社の運用で変わるため、搭乗前に確認しておきましょう。手荷物の大きさ・重さの規定も超えないよう、リュックでの安定した運搬を心がけます。
持ち込み区分の早見表(一般的な目安)
区分 | 電力量(Wh) | 取り扱い | 台数の目安 | 主な用途の例 |
---|---|---|---|---|
A | 100Wh以下 | 手荷物で持ち込み可 | 制限なし(常識の範囲) | 端末充電・小型照明 |
B | 100Wh超〜160Wh以下 | 航空会社の許可が必要 | 2台までが一般的 | ノートPC多数、撮影機器 |
C | 160Wh超 | 旅客機では基本不可 | — | 陸送・現地手配を検討 |
出発前にやること——容量確認・航空会社の規定・申請
Whの見方と計算を自分でできるようにする
製品の銘板・取扱説明書・公式ページのいずれかでWhを確認します。見つからない場合はV×Ahで計算し、計算過程を紙に控えると検査時に説明しやすくなります。容量表記の写真を撮っておくのも有効です。ラベルが剥がれている中古品は通過に時間がかかるので、できれば明確な表示がある個体を選びます。**国際的な安全試験の合格表示(例:耐衝撃・耐圧・温度試験の合格を示すもの)**が外箱や説明書にある場合は、印刷して同封しておくと説明がしやすくなります。
航空会社ごとの取り扱いを事前に確認する
枠組みは似ていますが、細則(台数・申請窓口・記載方法)は会社ごとに違います。出発の数日前に公式サイトを読み、必要なら事前申請を済ませます。日系・米系の代表的な取り扱いは下表のようなイメージです(実際の運用は各社の最新案内を優先)。**乗り継ぎ便・共同運航(コードシェア)**は特に差が出やすく、全区間の会社分を確認しておくのが安全です。
航空会社 | 100Wh以下 | 100Wh超〜160Wh | 160Wh超 |
---|---|---|---|
ANA | 持ち込み可(手荷物) | 事前許可で可(台数制限あり) | 不可 |
JAL | 持ち込み可(手荷物) | 事前許可で可(台数制限あり) | 不可 |
United | 持ち込み可(手荷物) | 事前許可で可(台数制限あり) | 不可 |
Delta | 持ち込み可(手荷物) | 事前許可で可(台数制限あり) | 不可 |
台数・申請の考え方と乗り継ぎの落とし穴
100〜160Wh帯は多くの会社で2台までが一般的です。乗り継ぎがある旅程では、すべての会社と経由地の空港で同じ基準が通用するとは限りません。片方で許可が出ても、別の区間で止められることがあります。行きと帰りで機材や委託会社が違うこともあるため、往路・復路それぞれ確認します。機器が複数人分あるなら、一人ひとつずつ分散させると、台数制限を超えずに通過しやすくなります。
申請時に準備しておく情報
項目 | 例 | 備考 |
---|---|---|
製品名・型番 | 例:XXXX 100 | 外箱や銘板の表記を写す |
容量 | 99Wh/148Wh など | 計算式を添えると親切 |
台数 | 1〜2台 | 同行者分の有無も記載 |
収納方法 | 手荷物・端子保護あり | ケース名は不要、内容を簡潔に |
空港での流れと通過のこつ——検査・端子保護・収納
事前申請から搭乗口までの動き
100〜160Whの範囲は、事前申請→チェックインで提示→保安検査で再確認という流れが一般的です。係員から端子の保護や電源オフを求められたらその場で対応します。許可メールや受付番号の控えを紙で持っておくと、通信が不安定な空港でも安心です。機内混雑時には、早めに搭乗口へ向かうと落ち着いて対応できます。
保安検査で見られるポイント
検査ではX線装置で内部の状態を確認し、容量表示の有無や端子の状態を目視します。端子がむき出しのままだと短絡(ショート)の恐れがあるため、保護キャップや絶縁テープで覆います。本体のスイッチは誤作動しないようオフにし、外箱や袋に入れて別の金属と触れ合わないようにしましょう。防炎素材の小袋があれば、そこに入れておくと説明がしやすく、周囲にも安心です。
機内での扱いと注意
機内では座席下や頭上棚に平置きし、高温になる場所やソフトケースの奥深くにはしまいません。充電や給電の可否は会社と機材により異なり、機内の電源から本体を充電する行為は断られることがあります。端末への短時間の充電など低負荷の使い方にとどめ、発熱・におい・異音があればすぐ乗務員へ申告します。到着後は、税関で電池の持ち込みに関する質問をされることもあるため、容量表示の写真をすぐ見せられるようにしておくと安心です。
梱包含意のチェック(空港で慌てないために)
観点 | 良い例 | よくあるNG |
---|---|---|
端子保護 | キャップ・絶縁テープで覆う | むき出しのままバッグに投入 |
電源状態 | 物理スイッチをオフ | スイッチが押されやすい位置に収納 |
収納 | 個別袋に入れて金属と接触させない | 充電ケーブルと絡めて収納 |
表示 | 容量表示の写真を用意 | ラベルが剥がれて説明できない |
機内持ち込みに適した機種の考え方と代替策
100Wh以下の小型機は扱いやすい
100Wh以下は多くの会社で許可不要で持ち込めます。スマホや小型端末の充電が主目的なら、この帯の機種が最も確実です。重さは1〜1.5kg程度が目安で、肩掛けやリュックでも負担が少なく済みます。機体サイズの制限が厳しい路線でも、縦置きで足元に収まることが多く、混雑時も扱いやすいのが利点です。
100Wh以下の例(取り回し重視)
メーカー | 型番 | 容量(Wh) | 重さの目安 |
---|---|---|---|
Anker | PowerHouse 100 | 97 | 約1.2kg |
Jackery | Explorer 160(100Wh版) | 100 | 約1.5kg |
EcoFlow | RIVER Mini | 99 | 約1.3kg |
※同名でも容量違いの派生があるため、必ず銘板の数値で確認します。
100〜160Whは申請と台数管理が前提
この帯は許可と台数制限が前提になります。二台までが通例のため、家族分で持ちたい場合は一人ひとつに分ける、あるいは100Wh以下を複数に切り替えるなどの工夫が必要です。重さ・体積が増えるほど検査での取り回しにも時間がかかる点を考慮します。出張で撮影・測定がある場合は、**現地での電源確保(会場の貸し出し・コンセント位置)**も同時に確認しておくと安心です。
160Wh超は基本不可——現地手配や発送という選択肢
160Whを超える容量は旅客機では基本的に不可です。どうしても大容量が必要な撮影や測定などは、現地でレンタルする、陸路で発送する、複数の100Wh級に分散する、といった代替案を検討します。帰路のことまで考えると、往復の確実性を最優先に、旅程の初期段階で判断しておくのが得策です。海外の長期滞在では、現地での購入→滞在先へ置いて帰るという選択も現実的です。
よくある疑問と落とし穴——実務の視点で解決
Q. 機内でポータブル電源をずっと使ってよい?
A. 長時間の高出力運転は避けるのが無難です。座席の電源から本体を充電することを禁じる案内もあります。短時間・低負荷での利用にとどめ、におい・発熱・異音があればすぐ申告します。
Q. 乗り継ぎ空港で基準が違って止められない?
A. あります。経由地や提携会社で運用の差が出ることがあります。往復の全区間について、会社名・便名・機材を控えたうえで事前確認し、許可メールや画面を印刷しておくと説明が早く済みます。
Q. 端子はどう保護すればいい?
A. 保護キャップが最も確実です。なければ絶縁テープで端子を覆い、別の金属と触れない袋に入れます。電源スイッチはオフ、ケーブルは外す、本体は衝撃の少ない位置に収める、という三点を守ります。
Q. 表示が摩耗して容量が読めないが、どう説明する?
A. 取扱説明書や公式ページの仕様表の印刷、購入時の製品箱の表示写真を用意します。V×Ahの計算式と結果を紙に書き添えると、検査員との会話がスムーズです。
Q. 手荷物の重さ・大きさに不安がある
A. 各社の規定を超えると、持ち込み自体ができないことがあります。重い機種は肩掛けよりリュックが安全で、手で持つ時間を短くするだけでも疲労と落下のリスクが減ります。階段や動く歩道では、片手を空けて転倒防止を優先しましょう。
Q. そもそも飛行機に持たずに済ませたい
A. 現地のレンタルや宿・会場の電源調達、100Wh級の小型機の複数運用、**宅配での事前発送(航空便以外)**など、旅の目的に応じた選択肢があります。移動の手間と通過の確実性を天秤にかけて選ぶのが実務的です。
申請メールの文例(100〜160Wh・2台)
件名:ポータブル電源の機内持ち込みについて(事前申請)
本文:
〇月〇日 〇〇便(〇〇→〇〇)に搭乗予定の〇〇です。
下記のポータブル電源を手荷物として持ち込み希望です。
・製品名/型番:XXXX 100
・容量:148Wh(14.8V×10Ah)
・台数:2台(同行者1名が1台携行)
・収納方法:端子保護・電源オフ・個別袋に収納
可否と必要手続きがあればご教示ください。よろしくお願いいたします。
出発前日のチェックリスト(5分で確認)
項目 | 確認内容 | 完了 |
---|---|---|
容量表示 | 銘板のWh、または計算メモを用意 | □ |
端子保護 | キャップまたは絶縁テープで覆った | □ |
電源 | 物理スイッチをオフ、誤作動防止 | □ |
収納 | 個別袋に入れ、金属と接触しない | □ |
書類 | 許可メールの印刷/画面、購入箱の写真 | □ |
まとめ——「数値で判断・手荷物で管理・事前に相談」
飛行機でのポータブル電源は、100Wh以下は持ち込み可、100〜160Whは許可、160Wh超は不可が大枠です。判断はWhの数値がすべての起点であり、手荷物での管理と端子保護・電源オフが通過の早道です。換算方法を自分で説明できるようにしておくこと、許可の控えを紙で持つこと、乗り継ぎ先や共同運航便の取り扱いまで確認することが、旅を滞らせない三本柱です。安全と確実性を最優先に、あなたの旅の目的にふさわしい電源計画を選べば、空の移動も安心して乗り切れます。