「買う→使う→補充」を止めない仕組みが、非常時の安心を生む。 本稿は、家庭の備えを期限で回す技術に特化した実務ガイドです。
日付の書き方・置き方・入替サイクル・記録と当番・買い足し基準まで、誰が見ても同じ動きになるルールに落とし込みます。さらに季節・家族構成・費用の観点を足し、表・テンプレ・チェックリストを充実させました。今日から運用を始められます。
1.全体設計:目標日数・3層在庫・家族補正
1-1.目標日数の決め方(まずは3日→7日→14日)
- 最初の目標は3日(72時間):停電・断水の初動を越える基本線。
- 次は7日:物流の遅れや医療受診の待ちに備える。
- 最終目標14日:広域障害や季節要因(台風・大雪)にも揺らがない家計と量へ。
家族構成での増減目安
家族構成 | 水(1日/人) | 食(1日/人) | 備考 |
---|---|---|---|
大人 | 3L | 2,000kcal | 飲用2L+調理1L |
子ども | 2L | 1,400〜1,800kcal | 年齢で調整 |
乳幼児 | 1.5L | 個別対応 | ミルク・離乳食を別枠 |
ペット | 個体差 | 個体差 | フード+水を別管理 |
3人家族・14日分の総量早見表(例)
品目 | 目安量 | 補足 |
---|---|---|
飲料水(2L) | 21本 | 飲用のみ(調理水は別) |
調理水 | 約21L | 米・汁物・洗浄用の最小限 |
主食 | 米7kg相当 or 麺・米を組合せ | 火力事情で配分 |
たんぱく質 | 缶詰30〜40個 | 魚・豆・肉を混在 |
野菜・海藻 | 乾物・粉末スープ14食分 | 食物繊維を確保 |
嗜好品 | おやつ14回分 | 士気維持・子ども対策 |
熱源 | カセットボンベ12〜18本 | 調理1〜2回/日想定 |
量は家族の食べる力・季節・アレルギーで加減。水は多めが安心。
1-2.3層在庫の考え方(食・水・暮らし)
- 日常層:普段使い。台所・洗面など使う場所に近い。回転が速い。
- 予備層:押し入れ・納戸。賞味期限1年以内を中心に並べ、月次で回す。
- 長期層:床下・高所・玄関収納。長期保存品(米・水・乾物)や季節用品。
- ※持出袋(携行層)は別枠で管理。家族分同配置にして、取り違いを防ぐ。
品目ごとの保存年数目安(目安)
品目 | 保存の目安 | メモ |
---|---|---|
水(ペット) | 1〜5年 | 直射・高温を避け底上げ保管 |
米(無洗米) | 6〜12か月 | 夏は短め。密閉+冷暗所 |
缶詰(魚・豆) | 3〜5年 | 凹み・膨らみは使用しない |
乾麺・餅 | 1〜2年 | 湿気に注意 |
カセットボンベ | 7年程度 | さび・高温NG、直射避け |
1-3.季節と体調で補正する
- 夏:水・塩分・粉末飲料・冷感タオルを増量。
- 冬:即食(火を使わない)・カイロ・保温シートを厚めに。
- 持病あり:主治医の指示に合わせ薬・経口補水・低刺激食品を上乗せ。
1-4.“使い切る献立”を前提に設計
- 同じ缶詰を3銘柄以上に分散し、飽きと偏りを避ける。
- 主食+汁+たんぱくの三点セットで1食の形に。
- 辛味・香りの小袋(七味・のり)を添えると士気が上がり消費が進む。
2.日付の付け方:書式・配置・先入れ先出し
2-1.日付表記は「YYYY/MM/DD」で統一
- 例:2025/10/05。桁で迷わず、家族全員が読める。
- 購入日と期限日を両方書く(どちらかだけはNG)。
- 年/月のみ印字の品は月末日(例:2026/03→2026/03/31)で登録し、60日・30日・7日の警告線を付ける。
ラベル記載例(上から大→小)
行 | 記載 | 例 |
---|---|---|
1 | 期限 | 2027/03/31 |
2 | 購入 | 2025/10/05 |
3 | 個数/容量 | 350g×3 |
4 | 備考 | アレルギー・味 |
2-2.置き方の原則(先入れ先出し)
- 新しい物は奥、古い物は手前。棚の左→右で期限が近い順に流す。
- 箱のフタ面に期限の大きな数字を貼る(探す時間をゼロに)。
- 同銘柄を縦二列にして手前列を使い切ってから奥列を前出し。
2-3.動線で決める保管場所
- よく使う物=使う場所に(缶詰は台所、トイレ袋はトイレ)。
- 重い水は低い位置、軽い乾物は上段。
- 非常持出袋は玄関近くで家族分同配置。
家の中の配置テンプレ
品目 | 場所 | 棚段 | ラベル色 | 補足 |
---|---|---|---|---|
水2L | 玄関収納下段 | 1段目 | 青 | 床置きは避ける |
缶詰 | 台所パントリー | 2段目 | 黄 | 開けやすい順 |
レトルト | 台所パントリー | 3段目 | 黄 | 種類別に箱分け |
トイレ袋 | トイレ背面 | 1段目 | 緑 | 使用手順を貼る |
カセットボンベ | 納戸 | 下段 | 赤 | 火気・直射日光NG |
ラベル色の意味(家族で統一)
色 | 品目例 | ねらい |
---|---|---|
青 | 水・飲料 | 迷わず手が伸びる |
黄 | 主食・レトルト | 食の基礎を素早く確保 |
緑 | 衛生・トイレ | 場所連動で迷いを減らす |
赤 | 火・ガス関係 | 注意喚起と誤使用防止 |
3.入替サイクル:週・月・季で回すしくみ
3-1.週次:動く物を回す(飲料・パン・菓子)
- 日曜夜=週次チェック。期限30日以内は今週のおやつ/朝食に回す。
- 買い足しメモを冷蔵庫の表に置き、使ったら□にチェック。外出時に写メして買い忘れ防止。
3-2.月次:主力を回す(缶詰・乾物・レトルト)
- 第1土曜=月次棚卸。期限6か月以内は翌月の献立に組み込む。
- 同銘柄の偏りを避け、味の違う缶詰を3種以上に。
3-3.季節:防災セット・薬・電池を総点検
- 春・秋の2回にまとめて実施。
- 乾電池の液漏れ、薬の期限、カイロの袋破れを集中確認。
- 季節用品(カッパ、保温シート、冷感タオル)を持出袋に入替。
入替サイクル早見表
頻度 | 対象 | 期限基準 | 行動 |
---|---|---|---|
週次 | 飲料・パン・菓子 | 残30日 | 消費→同数補充 |
月次 | 缶詰・乾物・レトルト | 残6か月 | 献立化→箱ごと入替 |
季節 | 薬・電池・防災品 | 季ごと | 総点検→配置更新 |
3-4.“使い切り献立”7日見本(家の味でアレンジ)
日 | 主食 | おかず | 汁 | ひと工夫 |
---|---|---|---|---|
1 | レトルト米 | さば味噌缶 | わかめスープ | 七味・ねぎ乾燥 |
2 | うどん | ツナ+コーン | かき玉 | しょうがチューブ |
3 | オートミール粥 | とり塩缶 | 中華スープ | ごま・のり |
4 | 乾麺そば | 大豆トマト缶 | コンソメ | 粉チーズ少量 |
5 | レトルト米 | いわし缶 | 味噌汁 | 切り干し大根追加 |
6 | そうめん | サバ水煮+梅 | 吸い物 | 梅干し・青じそ粉 |
7 | 餅 | きなこ・あん | すまし | 甘味で士気アップ |
使い切る献立にすると、期限切れゼロに近づく。
4.記録とアラート:家族当番・一覧表・警告線
4-1.家族当番を回す(忘れない仕掛け)
- 第1土曜=月次棚卸を当番制に。
- 当番は「買い足し・ラベル・配置」まで一括で担当。
- 次回当番を冷蔵庫のカレンダーに書き、引き継ぎメモを残す。
4-2.期限一覧表をつくる(紙+電子)
- 紙:A4一枚に品目/個数/期限/保管場所を一覧。
- 電子:スマホの予定に期限残60日・30日・7日で3回の通知。
期限一覧テンプレ
品目 | 個数 | 期限 | 保管場所 | 警告線 | 対応 |
---|---|---|---|---|---|
水2L | 12 | 2026/01/31 | 玄関下段 | 60日 | 献立で消費→補充 |
さば缶 | 8 | 2027/03/15 | 台所2段目 | 6か月 | カレーに転用 |
レトルト米 | 10 | 2026/06/30 | 台所3段目 | 3か月 | 週末昼食で消費 |
4-3.“警告線”で迷いをなくす
- 残60日:消費計画に入れる(献立へ移す)。
- 残30日:今月中に使い切る(週末に消費)。
- 残7日:非常持出袋からは外し、即消費。代替を補充。
4-4.棚卸チェックリスト(A4で印刷)
項目 | □ |
---|---|
水の本数・期限を確認(床から浮かせてあるか) | □ |
缶詰の膨らみ・さび無し | □ |
乾麺・米の湿気無し・虫害無し | □ |
カセットボンベの本数・さび無し | □ |
常備薬・救急品の期限 | □ |
予備電池の液漏れ無し | □ |
持出袋の中身更新(季節物入替) | □ |
期限一覧表と現物の差分ゼロ | □ |
5.買い足しと費用最適化:最低在庫点・単価・代替
5-1.最低在庫点(MIN)の決め方
- MIN=(1日の使用量×目標日数)−手元消費分。
- MINを下回ったら必ず補充。上回るときに特売で追加。
- 賞味期限の長短を混ぜる(長期:短期=2:1)と回転と安心が両立。
5-2.買い物リストのテンプレ
- 使ったら□にチェック→外出前に写メ。
- 同じ棚に戻すまでが仕事。棚番号を決めると迷わない。
買い物リスト(例)
品目 | 目標 | 現在 | 補充数 | 備考 |
---|---|---|---|---|
水2L | 12 | 7 | 5 | 期限近い物から前出し |
さば缶 | 12 | 8 | 4 | 種類を分散 |
レトルト米 | 15 | 9 | 6 | 小袋も混ぜる |
カセットボンベ | 6 | 3 | 3 | 夏は少し増やす |
5-3.価格上昇時の代替と基準
- 主食:レトルト米→乾麺・オートミールへ一部置換。
- たんぱく質:高い缶詰→豆缶・魚粉を組み合わせ。
- 飲料:ペット飲料→粉末+水で自作。
単価比較の目安(例)
品目 | 単価(平常) | 単価(高騰時) | 代替案 | ひと言 |
---|---|---|---|---|
レトルト米200g | 120円 | 180円 | 乾麺・餅 | 水量と燃料で選ぶ |
さば缶190g | 180円 | 260円 | 豆缶・魚粉 | たんぱく質は確保 |
スポ飲500ml | 120円 | 160円 | 粉末+水 | 塩分と糖分を調整 |
5-4.ケーススタディ:暮らし方別の運用
単身(ワンルーム):棚は少なく、水は2L×6本を床から浮かせて保管。缶詰は6種×2個に分散し、週末に2個消費→2個補充で回す。
共働き+子1:月次棚卸を朝食前の15分に固定。献立表に期限近い品を1日1品入れるだけで回る。
三世代同居:味の好みが分かれるので同じ主食を多品種で。アレルギーはラベル4行目に明記。
5-5.費用のミニ試算(例・概算)
- 3人×7日:水2L×11本、主食(米・麺)約3,500円、缶詰・乾物約4,000円、その他2,000円 → 合計約1万円台後半。
- 月あたりの積立:1,000〜2,000円を備蓄封筒へ。使ったら補充で平準化。
Q&A(よくある疑問)
Q1.置く場所がない。どう増やす?
A.棚の高さを変える、ベッド下の薄箱、玄関の下段を活用。重い物は低い位置が基本。段ボール+板で底上げし、通気を確保。
Q2.期限切れが出た。捨てる?
A.自己責任での可否は個々に異なるため、ルールは“切れる前に回す”。60日線→30日線で必ず消費。切らしにくい配置と献立化が近道。
Q3.家族が勝手に食べてしまう
A.「日常層」と「予備層」を場所で分ける。食べたら□チェック→補充の簡単ルールを徹底。色ラベルで誰でも判断できるように。
Q4.アレルギー・宗教上の制限がある
A.****ラベル4行目に明記。買い物リストにも代替品を併記して混乱を防ぐ。来客用の予備箱も1箱あると安心。
Q5.水の置き場が暑い
A.****直射日光・高温を避け、床から少し浮かせる。段ボール+板で簡易台を作る。車内放置は避ける。
Q6.お金がかかる
A.まず3日分を普段買う銘柄で少しずつ。特売日に補充し、週次で回すとムダが減る。**嗜好品は“ごほうび枠”**で計画的に。
Q7.紙の管理が苦手
A.期限一覧を写真に撮ってスマホの待ち受けに。月の最初の平日に通知が来るよう登録する。
用語辞典(やさしい言い換え)
ローリングストック:普段使いしながら買い足して、常に一定量を保つ方法。
先入れ先出し:先に入れた物を先に使う並べ方。
警告線:期限が近づいたときに行動を決める境目(60日・30日・7日など)。
MIN(最低在庫点):この数を下回ったら必ず補充する基準。
予備層:日常とは別に置いておく備蓄のこと。
棚卸:在庫を数えてズレを直す作業。
まとめ:書く・置く・回すで“止まらない備え”
期限は“数字で見える化”、置き方は“先入れ先出し”、回し方は“週・月・季の三拍子”。家族で当番・色ラベル・警告線を共有し、使ったら補充を習慣にすれば、備えは増やしすぎず減らしすぎない理想の状態を保てます。今日、1枚のラベルと1行のカレンダー登録から始め、**来週の“使い切る献立”**で一気に回し始めましょう。