要点先取り:いざという時に“迷わない型”を決めておく
3本柱で考える(運ぶ・持つ・休む)
避難の成否は移動(運ぶ)・携行(持つ)・回復(休む)の3本柱に集約できる。まず子の体重・月齢と親の体力から運搬手段(抱っこ/背負子/ベビーカー)を決め、荷物は“常に携行・サブ・預け”の三層に分ける。さらに休むための最低セット(保温・水分・排泄・睡眠)を固定化し、家族カードと集合地点を一次→二次→最終の三段で決めておく。
年齢・体重別の現実解(行動量の目安付き)
年齢目安 | 体重目安 | 主運搬手段 | 1時間の移動目安 | 連続行動の上限 | 補足 |
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0〜6か月 | 3〜7kg | 前抱っこ | 1.5〜2km | 40分 | 授乳・オムツ優先、細切れ移動 |
7〜18か月 | 7〜11kg | 前抱→背負子 | 2〜3km | 60分 | 視界確保と親の安定重視 |
1.5〜3歳 | 10〜15kg | 背負子+手つなぎ | 3〜5km | 80分 | 歩行・抱上げを交互 |
3〜5歳 | 14〜18kg | 歩行中心+簡易ハーネス | 4〜6km | 90分 | ペース管理が要点 |
(平地・休憩含む。坂・階段・雨天は目安の7割で計画) | | | | | |
最低限の“親子セット”と出発前チェック
- 親:両手が空く前開きザック(25〜30L)、ヘッドライト、雨具、反射材。
- 子:帽子・薄手の上着・靴下2足、名札、笛。
- 共通:水500mL×人数、簡易トイレ×回数、ブランケット(銀面付が便利)。
- 出発前の指差し:名札/笛/水/照明/トイレ→よし。
運搬手段の選び方|抱っこ・背負子・ベビーカーを状況で使い分ける
抱っこ紐(前向き・腰抱き)の使いどころ
新生児〜低月齢で威力を発揮。密着で保温でき、サッと授乳に移行しやすい。難点は親の前方視界と長時間での腰・肩負担。ウエストベルト+肩ベルトの二点支持型を選ぶと疲れにくい。冬は親の上着の内側、夏は通気のよい生地を選ぶ。
背負子(バックキャリー)の強みと調整手順
視界が広く、段差・階段に強い。親の重心線に近いため長時間でも安定。ヘッドレストとサンシェードで首・頭を守れる。調整は①腰ベルトの高さ→②肩ベルト→③胸ベルト→④背面長→⑤荷重バランスの順。難点は乗せ降ろしの手間と雨風での露出だが、レインカバー・つば付き帽子で補える。
ベビーカー(B型・バギー)の限定条件
舗装・平坦で長距離を運べるが、段差・階段・冠水・砂利で詰む。手がふさがるため緊急回避が遅い。避難路に階段や狭い路地がある場合は主力にしない。使うなら軽量+折りたたみ1秒で、抱上げ搬送ができるものを。荷物は荷台に偏らせず、転倒防止バンドを併用。
三方式の比較表(強み・弱み・向く場面)
項目 | 抱っこ紐 | 背負子 | ベビーカー |
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両手の自由 | ○ | ○ | × |
段差・階段 | △ | ◎ | × |
長時間の疲労 | 高い | 低い | 低い(親)/高い(持上げ時) |
雨・風耐性 | 体で覆える | 装備次第 | レインカバー必須 |
緊急回避 | 速い | 速い | 遅い |
荷物搭載 | 小 | 中 | 大 |
向く場面 | 低月齢・寒冷 | 坂・階段・長距離 | 平坦・屋内連絡 |
結論:背負子+親ザックを主力、低月齢は前抱を併用、**ベビーカーは“状況限定の補助”**とする。 | | | |
親が二人/一人のときの組み合わせ
- 二人:親A=背負子+ザック/親B=先導+手つなぎ。交代は40〜60分ごと。
- 一人:背負子+25Lザック。休憩点を地図で先取りし、夜間は移動を短く。
荷物の最適化|“常に携行・サブ・預け”の三層で軽く強くする
三層ルール(何を、どこに)
- 常に携行(親ザック):命の4要素(水・排泄・保温・照明)+本人確認・最小の食。
- サブ(子の小リュック/ウエスト):おやつ・小型水・タオル・ビニール。
- 預け(避難所/車):替え衣類・予備紙おむつ・粉/液体ミルク・調理具・寝具。
必携品の中身(親ザック25〜30Lの例)
区分 | 品名 | 目安 | メモ |
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水分 | ペット水 | 500mL×人数 | 交換は半年ごと |
排泄 | 簡易トイレ | 1人5回/日×1.2 | 黒袋・消臭材も |
保温 | ブランケット | 1人1枚 | 銀面は外に向ける |
照明 | ヘッドライト | 1台+予備電池 | 両手を空ける |
身分 | 名札・家族カード | 人数分 | 写真・血液型等 |
食 | ゼリー・ビスケット | 1人1〜2袋 | アレルギー表記確認 |
医 | 解熱・絆創膏 | 必要量 | 服薬表を同封 |
清潔 | おしり拭き | 10枚×2 | 手指にも使える |
乳幼児用品の“回数換算”と小分け術
品目 | 目安 | 7時間外出時 | 小分けのコツ |
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紙おむつ | 月齢+1回/5h | 4〜6枚 | 1回分ずつジップ袋 |
おしり拭き | 1袋/日 | 小分け10枚×2 | 乾燥防止に2重袋 |
ミルク | 1回×2予備 | 哺乳びん2+スティック4 | 粉と水を別管理 |
離乳食 | 1食+予備1 | パウチ型 | スプーンは2本 |
着替え | 上下1式×予備 | 1式 | 圧縮袋で省体積 |
軽量化のコツ(迷ったらここを削る)
- 共有できる物(ブランケット・消毒)は家族で1セットに。
- 紙→布の切替は洗浄水が増えるため、災害初期は紙優先。
- 最小単位(1回分)で回数管理。余りは“預け層”へ。
1時間/半日/24時間キット例(親子合算)
時間 | 水 | 食 | 排泄 | 保温・睡眠 | 清潔 | その他 |
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1時間 | 500mL×人数 | — | 簡易トイレ×人数 | 薄手ブランケット | おしり拭き少量 | 名札・笛 |
半日 | 1L×人数 | 軽食 | ×人数×5回 | ブランケット2 | 除菌・手袋 | 予備電池 |
24時間 | 2L×人数 | 3食 | ×人数×10回 | マット+上掛け | 使い捨てエプロン | 充電池 |
ルートと行動計画|“歩幅・休憩・合流”を数で決める
ペース設計(歩幅・歩速・休憩)
条件 | 歩速 | 休憩 | 備考 |
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背負子+親ザック | 3.0〜3.5km/h | 10分/40分 | 水分は大人200mL |
前抱っこ | 2.5〜3.0km/h | 10分/30分 | 腰に負担、交代前提 |
ベビーカー | 3.5〜4.0km/h | 10分/60分 | 路面条件が命運 |
ルートの作り方(危険回避の3原則)
1)階段・狭隘路・橋・崖沿いを避ける。
2)トイレ・水・屋根の三点が30分ごとにある道を選ぶ。
3)一次→二次→最終集合の三段構えで合流しやすくする。
災害タイプ別の切替(地震・浸水・強風・猛暑・寒波)
災害 | 切替の要点 | 避ける場所 |
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地震 | ガラス・落下物の少ない道へ | 看板下・狭い路地 |
浸水 | 標高の高い道を選択 | 川沿い・地下道 |
強風 | 建物沿いを歩かない | 樹木・足場・仮設塀 |
猛暑 | 30分ごと日陰休憩 | 照り返しの強い道 |
寒波 | 風よけ優先 | 橋上・開けた広場 |
連絡と合流の定型文・合図・札
- 短文:「無事/○○公園へ/30分後合流」。
- 合図:笛1長=集合、3短=助けて、ライト2点滅=合流。
- 札:集合地点に**「山田 14:30 学校体育館へ」と耐水メモ**を残す。
タイムライン例(徒歩3km/背負子)
時刻 | 行動 | 目安 |
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10:00 | 出発・点呼 | 名札・笛確認 |
10:40 | 休憩1 | 水分・おやつ |
11:20 | 休憩2 | トイレ・抱き替え |
12:00 | 到着 | 昼食・整頓 |
避難所・車中での運用|泣き・授乳・睡眠を“静かに回す”
泣きの三大原因(寒い・空腹・痛い)と3分対処
- 寒い:体幹を覆うブランケット+帽子、親の上着で風よけ。
- 空腹:少量高カロリーのゼリー・ビスケット、授乳・調乳へ移行。
- 痛い:抱っこの角度・お腹の張り、靴・衣類の当たりを確認。
授乳・調乳の設営(静かな角)
- 風下・人の流れの外側に目隠しを立てる。
- **湯は“保温ボトル”**で確保、スティック/液体ミルクで衛生的に。
- 哺乳びん2本で交互に使用・洗浄、拭き取り→自然乾燥の順。
ねんね環境の最小セットと防音・遮光
品 | 目的 | メモ |
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ブランケット | 保温・遮光 | 薄手+アルミ面が両用で便利 |
使い捨ておむつ替えシート | 清潔 | 地面・車内の両対応 |
耳栓(親) | 親の休息 | 交代制で仮眠を確保 |
アイマスク | 子の入眠 | 明かりを遮る |
車中避難の注意点(静か・安全・換気)
- 換気:窓を1cm×対角で開け、CO警報器を置く。
- 座席配置:チャイルドシートは前向き固定、荷物は床面へ。
- 夜間:ヘッドライト・小型ランタンで手元だけ照らす。窓目隠しで車内の安心感を高める。
避難所での周囲配慮と家族の気持ちの守り方
- 音・においの配慮:袋は二重、消臭を併用。
- 場所取りより動線:出入口・トイレ・水場に近いが人流の外側を選ぶ。
- あいさつの一言:到着時に**「子ども連れです。ご迷惑があれば言ってください」**と伝えると雰囲気が和らぐ。
トラブル対処・チェックリスト・Q&A・用語辞典
よくある失敗と回避チェック
失敗 | 何が起きる | 先に打つ手 |
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ベビーカーに積み過ぎ | 後方転倒 | 荷重は座面内側、ベルト併用 |
水をケチる | 脱水・便秘 | 少量多回を徹底(大人200mL/回) |
1包で小を何回も | におい・衛生悪化 | 原則1回1包、短時間のみ例外 |
夜間に真っ暗 | 転倒・迷子 | ヘッドライト+反射材を全員 |
名札なし | 合流遅延 | 名札・家族カードの常時携行 |
15分ミニ訓練テンプレ(家で月1回)
1)抱っこ紐・背負子の装着→30秒で「よし」。
2)親ザックの指差し(水・照明・トイレ・名札)。
3)家→一次集合点まで5分歩行(段差回避)。
4)ベンチで水分、簡易トイレの流れを口頭で確認。
5)帰宅→補充(使った分+1)。
Q&A(困りごと先回り)
Q1.ベビーカーは持つべき?
A.段差・階段が多いルートは不向き。背負子+親ザックを主力、舗装平坦が続く区間限定で使う。
Q2.子が歩きたがる/座りたがらない。
A.10分歩く→10分背負うの交代制。ごほうび行程表(シール)で気持ちを切替。
Q3.泣きが止まらない。避難所で気まずい。
A.寒さ・空腹・痛みの順にチェック。ブランケット・おやつ・抱き直しで3分ルール。人の流れの外側へ移動。
Q4.荷物が重すぎる。
A.常に携行=命の4要素に絞り、預け荷物へ逃がす。紙→布は水が増えるので初期は避ける。
Q5.夜間の移動が不安。
A.ヘッドライト+反射材を家族全員に。歩きスマホ禁止、足元と合図だけを見る。
Q6.親が一人で二人の子を運ぶには?
A.上の子=歩行+手つなぎ/下の子=背負子。連結ロープは短く、人が少ない側を歩く。
Q7.雨で冷え切った。
A.濡れた衣類を即交換。体幹→四肢の順で温め、甘い飲み物を少量ずつ。
Q8.食物アレルギーが心配。
A.成分表示を事前に撮影しておき、代替食品(米せんべい等)を小分けで持つ。
Q9.下痢・嘔吐のとき。
A.安全係数を上げて袋を多めに。電解質飲料を少量ずつ。嘔吐物も凝固剤→二重袋。
Q10.避難が長期化。
A.**寝具(マット+上掛け)**を“預け層”へ移し、昼寝の固定時間を決める。日課表で不安を下げる。
用語辞典(やさしい言い換え)
- 背負子(せおいこ):子どもを背中に乗せて運ぶ道具。
- 親ザック:親が背負う両手が空く大きめのかばん。
- 一次/二次/最終集合:順番に集まる場所。来られない時は次に進む取り決め。
- 家族カード:氏名・連絡先・集合地点を書いた名刺サイズの紙。
- 命の4要素:水・排泄・保温・照明。まずこれを守る。
- 仮集積:ごみ出しまでの一時保管。日陰・風通しがよい場所。
まとめ
乳幼児家庭の避難は、運ぶ(抱っこ/背負子/ベビーカー)・持つ(三層ルール)・休む(泣き・授乳・睡眠)の“型”で回すのが近道だ。背負子+親ザックを主に、命の4要素を常に携行し、ルートは三段集合・30分ごとの水・屋根で描く。
今日、体重と距離を当てはめて家族の避難図を作り、親子セットを玄関下段に固定。月1回の15分ミニ訓練で装着→歩行→補充までを繰り返し、迷いを“手順”に変える。