余震期の入室再開判断フロー|点検順序と許容基準ガイド

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防災

強い揺れの直後は、建物がまだ揺れる前提で動くのが安全です。焦って室内に戻るより、外で状況をそろえ、順序と基準を先に決めてから点検すれば、二次被害を大きく減らせます。

本記事は、家庭・小規模事業所・集合住宅の管理者が、誰でも同じ判断に近づけるための入室再開フロー許容基準を、表・チェックリスト・実例で具体化した実践ガイドです。時間目安や撮影方法、再開後の巡回までを網羅し、**迷ったら立ち止まる“しきい値”**も明確に示します。


  1. 結論サマリー:先に外、次に設備、最後に室内
    1. 1. 先に外まわりを確認(倒壊・落下の芽をつぶす)
    2. 2. 次に設備(ガス・電気・水・下水)を遮断→個別確認
    3. 3. 最後に室内(落下・転倒・破片・有害物)を片付けてから再開
    4. 入室再開の三条件(満たせなければ見送り)
      1. 3色タグでの全体判断(自主管理用)
  2. フロー全体図:5段階で“立ち止まるポイント”を作る
    1. 段階0 初動整え(1〜2分)
    2. 段階1 外周一周(2〜5分)
    3. 段階2 設備安全化(遮断→点検)
    4. 段階3 室内上部→中段→足元
    5. 段階4 重要室の重点確認
    6. 段階5 条件付き再開と監視
  3. 許容基準(外周・構造・設備・室内):“線引き”の例
    1. 外周・構造:見た目の兆候と線引き
      1. 傾き・ひびの簡易測定
    2. 設備(ガス・電気・水・下水):止め方→見方→戻し方
    3. 室内:落下・破片・有害物の線引き
  4. 点検の実践:順序・道具・記録のコツ
    1. 点検順序は「危険が落ちてくる方向」から
    2. 点検道具:最小でもこれだけ
    3. 写真記録の「5同」
      1. 点検記録シート(配布用)
  5. 再開後の監視:いつ退避に戻すかの“しきい値”
    1. 時間軸での巡回(目安)
    2. 退避に戻す条件
      1. 監視項目の早見表
  6. ケーススタディ(3例)
    1. 例1:木造戸建(築25年)
    2. 例2:RCマンション5階(角部屋)
    3. 例3:小規模店舗(路面)
  7. Q&A(よくある疑問)
  8. 用語辞典(やさしい言い換え)
  9. まとめ:順序と基準が“焦り”を止める

結論サマリー:先に外、次に設備、最後に室内

1. 先に外まわりを確認(倒壊・落下の芽をつぶす)

屋根・外壁・塀・バルコニー・配管・電線・樹木の傾きや落下物を外から一周で点検。危険が1つでも“赤”なら、入室再開は見送ります。外周は2〜5分の短時間で良いので、とにかく全周を切らさず見るのがコツです。

2. 次に設備(ガス・電気・水・下水)を遮断→個別確認

止めてから見るが原則。におい・音・濁り・漏れ・メーターの異常回転など、**設備ごとの“黄色サイン”**が消えるまで再開しません。止め方→見方→戻し方の順で、記録しながら進めます。

3. 最後に室内(落下・転倒・破片・有害物)を片付けてから再開

天井・壁・家具・ガラス・家電・薬品・電池を上→中→下の順で確認。避難経路を先に確保し、出入口がいつでも開くことを最後にもう一度確認します。初回の在室は**短時間(目安15分)**から。

入室再開の三条件(満たせなければ見送り)

1)逃げ道が常に開いている(通路・ドアの確保)
2)火気・漏電・ガス・液体の危険がゼロ
3)天井からの落下/壁のはらみがない(上を見て音も確認)

3色タグでの全体判断(自主管理用)

総合判断再開の可否具体例
軽微条件付きで可(短時間→段階的)ひび極小、設備異常なし、落下なし
注意要監視・在室者を最少にひび小・一部転倒、設備は復旧済み
危険入室禁止・要専門点検大きな割れ・傾き・におい・漏れ

フロー全体図:5段階で“立ち止まるポイント”を作る

段階0 初動整え(1〜2分)

  • 人数確認(二人一組が基本)。
  • 防護具(手袋・マスク・保護めがね・ヘッドライト)。
  • 連絡役の決定(外に一人残し、見張り+連絡)。

段階1 外周一周(2〜5分)

  • 外壁・基礎貫通ひび斜めの大割れモルタル剥落
  • 屋根棟板金の浮き瓦のずれ・落下、雨どい外れ。
  • 塀・フェンスぐらつき控えの不足、基礎の割れ。
  • バルコニー・庇手すり緩み床の段差、吊り金物の脱落。
  • 周囲の落下物:ガラス・看板・瓦片の散乱。

段階2 設備安全化(遮断→点検)

  • ガス:元栓閉→におい・シュー音・メーター異常回転。
  • 電気主幹ブレーカーOFF→浸水・焼け跡・こげ臭。系統ごとに復帰。
  • 水道:濁り・赤水→少量排水で確認、漏れを点検。
  • 下水:逆流・悪臭・床排水のあふれ、封水切れ。
  • 給湯器・ボンベ:固定バンドの緩み、配管の折れ・にじみ。

段階3 室内上部→中段→足元

  • 上部:天井板のたわみ、照明の外れ、吊戸棚の開放、梁の割れ。
  • 中段:食器棚・本棚の固定、耐震金具、引き戸の外れ/かみ合い不良
  • 足元:ガラス破片・液体こぼれ・電池の散乱、床のふわつき
  • 開口部:ドア・サッシが閉まったまま固着していないか。

段階4 重要室の重点確認

  • キッチン:こんろの変形、ゴム管のひび、油のこぼれ。
  • 浴室・トイレ:タンクの割れ、床防水のふくれ、配管のにじみ
  • 寝室避難経路の直線化、頭上落下のゼロ化、割れ物撤去。
  • 子ども部屋・高齢者部屋:段差・コード・敷物のつまずき源除去。

段階5 条件付き再開と監視

  • 短時間から再開(黄は在室者を最少に)。
  • 監視項目を紙に書いて貼る(ひび、におい、音、湿り)。
  • 赤に変化したら即退避し、フローを段階1からやり直し

許容基準(外周・構造・設備・室内):“線引き”の例

外周・構造:見た目の兆候と線引き

兆候緑(許容)黄(要注意)赤(危険)
外壁のひび**髪の毛程度(〜0.3mm)**で伸びなし0.3〜1mm、斜めに連続1mm超貫通窓角から斜め
基礎の割れ表面の細筋のみ幅0.5mm前後で短い幅1mm超段差鉄筋露出
柱・梁の欠け塗装欠けのみ角の小欠損木口・鉄骨が見える
屋根のずれ目視で不明瞭一部ずれ・浮き瓦落下棟外れ
塀の傾き目測で垂直軽い傾き・ぐらつき明確な傾斜ひび連続
サッシのかみ合い開閉に支障なしこすれる・ずれる閉鎖不能/枠の変形
床の傾きビー玉が止まるゆっくり転がるはっきり転がる/沈む

:黄判定は短時間の入室のみ。赤は入室禁止専門点検が前提。

傾き・ひびの簡易測定

  • ひびの幅名刺/紙片を当てて写真撮影。
  • 傾きビー玉水の入ったコップで確認。
  • 再確認:同じ場所・角度・距離で撮り、変化を見る。

設備(ガス・電気・水・下水):止め方→見方→戻し方

設備止め方見方(異常)戻し方(正常時)
ガス元栓・メーター弁を閉においシュー音、メーター回り続け窓開→においゼロ→各機器OFF→メーター復帰→元栓開
電気主幹OFF焦げ臭濡れ・浸水焼損乾燥→系統ごとにON(重要→一般)
水道止水栓閉赤水濁り漏れ透明まで少量放水→止水栓開
下水一時停止逆流悪臭床排水あふれ封水回復(水を張る)→再開
給湯器電源OFF/ガス閉配管にじみ固定緩み固定確認→試運転は最後
LPボンベバルブ閉転倒/バンド外れ直立固定→配管点検後に開栓

室内:落下・破片・有害物の線引き

兆候
家具の固定全固定・移動なし1点外れ・10cm以内の移動転倒扉破損
ガラス破片片付け済み細片が点在広範囲散乱・足元危険
液体こぼれ水・飲料洗剤・油少量薬品・灯油・不明液
天井・照明異常なしカバー外れたわみ・落下の恐れ
壁面表面のこすれ石こうの粉落ちふくらみ/剥離が拡大
匂いなし弱いこげ/下水強いガス/こげで即退避

点検の実践:順序・道具・記録のコツ

点検順序は「危険が落ちてくる方向」から

上→中→下。次に出入口→通路→居室避難口の確保を最優先し、重い家具は後回しでも通路を開けます。片付けは小さい物から外へが基本です。

点検道具:最小でもこれだけ

  • 手袋(厚手)・踏み抜き防止インソール
  • ヘッドライト(両手を空ける)
  • マスク・保護めがね
  • 養生テープ・布ガム(ひびの仮押さえ、ガラスの補強)
  • ビニール袋・ほうき・ちりとり・雑巾
  • 紙と油性ペン(記録)・印をつける付箋

写真記録の「5同」

同じ場所・同角度・同距離・同明るさ・同サイズで撮り、前後比較をしやすくします。黄判定は監視項目として次の余震後に再撮影。撮影前に名刺/紙片を当てて幅の目印を残すと正確です。

点検記録シート(配布用)

場所兆候時刻追記
北外壁窓角から斜め0.7mm10:20次の余震後再確認
台所こんろゴム管細かいひび10:30交換予定
玄関ガラス破片片付け済10:40——

再開後の監視:いつ退避に戻すかの“しきい値”

時間軸での巡回(目安)

  • 0〜2時間:30分ごとにひび・におい・音を確認。
  • 2〜6時間:1時間ごと。水回りのにじみ電源まわりの温度に注意。
  • 24時間:朝夕の外周一周を復活し、写真を更新。

退避に戻す条件

  • 余震が明確(立って歩けない・物が落ちる)→即退避、段階1から。
  • ひびが伸びる・にじむ・音がする黄→赤に格上げ、入室禁止
  • におい・こげ臭・湿り・しみの再発→設備完全停止換気→外へ

監視項目の早見表

区分具体例対応
ひびの変化長さ・幅・段差の増加退避→外周点検に戻る
ミシミシパキ退避→専門点検へ
においガス臭・こげ臭・下水臭設備停止→換気→退避
天井しみ・壁の湿り範囲拡大で退避

ケーススタディ(3例)

例1:木造戸建(築25年)

外周で屋根のずれ小、外壁に0.4mmの斜めひび。設備は問題なし。黄判定とし、在室を15分以内に制限。翌朝の外周一周で変化なし→緑に降格し、通常再開。

例2:RCマンション5階(角部屋)

外周は異常なし。室内で食器棚の移動10cm、サッシのこすれ黄判定監視項目にサッシを追加。夕方の余震でこすれ悪化赤判定、入室停止し専門点検へ。

例3:小規模店舗(路面)

看板の金具緩み、店内にガラス細片赤水が一時発生。電気は主幹OFFのまま片付け、赤水解消後に水回り再開。看板撤去後に緑判定で短時間営業から復帰。


Q&A(よくある疑問)

Q1. ひびの幅はどう測る?
A. 名刺や紙片で比較し、写真に重ねて記録。同じ場所・角度で再撮影します。

Q2. ガスのにおいが微かにする。入っていい?
A. 入室禁止元栓を閉じ、窓は屋外から開放火気厳禁で専門点検へ。

Q3. 電気はいつ戻す?
A. 主幹OFF→各系統ごとにON濡れ・焼け跡・こげ臭があれば復旧延期

Q4. 赤水が出る。飲んで大丈夫?
A. 飲用不可透明になるまで排水し、必要なら煮沸。長引く場合は給水を利用。

Q5. 家具転倒で通路がふさがれている。
A. 出口側から小さい物を動かし、通路を先に開ける重い物は後回し

Q6. 子ども・高齢者・ペットがいる。どう再開する?
A. 黄判定の部屋は入れない安全な一室を先に整えて短時間利用に留めます。

Q7. 夜間で暗い。点検はどうする?
A. ヘッドライト足元灯上→中→下を確認。写真は朝に撮り直し。

Q8. 一人暮らしで二人一組が難しい。
A. 隣家と声かけし、外に見張りを置く。連絡先を紙に書いて玄関内側に掲示。


用語辞典(やさしい言い換え)

貫通ひび:壁の裏まで届く割れ。雨や風が通る。
主幹ブレーカー:家全体の電気を一度に止めるスイッチ。
封水:排水口の水のふた。下水のにおいをせき止める水。
段差ひび:片側が上下にずれる割れ。動きが大きいサイン。
赤水:管のさびが混じって赤くなる水。
かみ合い不良:戸や窓が枠に合わずこすれる状態。


まとめ:順序と基準が“焦り”を止める

余震期の入室は、外→設備→室内の順序と、緑・黄・赤の基準があれば、迷いが減ります。危険は後回しにせず“立ち止まる”。初回は短時間から再開し、監視項目を決めて次の余震ごとに再点検。ルールを紙1枚に落とし、家族・職場で共有しておきましょう。

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