停電が長引くほど、火力の節約=食と安全の継続力になる。本ガイドは、カセットガス缶(CB缶・OD缶)と固形燃料を中心に、最少の燃料で温かい食事を回し続ける実践法を、設営・調理・献立・衛生・トラブル対応まで一冊にまとめた。
フタと風防で沸騰を短く、保温で仕上げるが合言葉。家族構成や手持ちの道具に合わせてそのまま運用できるよう、表・早見表・分刻み手順・Q&A・用語辞典をそろえた。屋内で火を扱う際は一酸化炭素・不完全燃焼・転倒火災に最大限の注意を払うこと。
※屋内使用の基本:換気(対角開放)・一酸化炭素警報器・不燃下敷き・水平設置の4点を必ず確保。寝室・密室・可燃物近接は避ける。
1.まず整える安全と設営|燃料・器具・換気の優先順位
1-1.燃料の在庫と節約の基本
- 一日の目安(大人2人):CB缶1〜1.5本 or 固形燃料(25g)8〜12個。沸騰→保温へ切り替えると3〜4割節約できる。
- 優先順位:①飲料・スープ・主食、②温菜、③焼き付け・揚げ物。香ばしさは後回しにして継続性を優先。
- 保管:ガス缶は直射日光・高温を避ける。サビ缶は使用しない。固形燃料は密閉袋に入れて湿気を避ける。
1-2.器具の選び方(熱効率)
- 小径×深型の鍋(片手鍋/雪平/小型クッカー):蒸発面が小さく熱が逃げにくい。
- フタ必須:フタの有無で沸騰時間が2〜3割変わる。ガラス蓋は様子確認に便利。
- 風防・反射板:炎を鍋底へ集中。CBコンロはボンベ過熱防止距離を守る。周囲10cmは可燃物を置かない。
- 五徳の安定:鍋底が小さい場合は鍋敷きリングで安定化。
1-3.換気・設置・消火のルール
- 対角に窓を10cm以上開放し、30分ごとに1〜2分の強制換気。
- 不燃の下敷き(タイル・金属トレー・レンガ)で水平を保つ。布・段ボールのみは不可。
- 消火手段:濡れ布巾・消火スプレー・砂を手の届く位置に。油へ注水は厳禁。子ども・ペットは半径1m内に入れない。
2.省燃料の調理技(ハイブリッド運用)|沸騰短時間→保温長時間
2-1.基本式:短時間加熱+長時間保温
- 米(無洗米):沸騰3〜5分→保温15〜20分。湯量は1合180ml+数%。仕上げに10秒だけ強火で水気を飛ばすと粒が立つ。
- 乾麺(そば・うどん・パスタ):沸騰2分→保温8〜10分。同鍋で具(粉末スープ・乾物)を合わせる。
- 根菜スープ:沸騰3分→保温20分で煮含む。薄切り・小さめがコツ。
2-2.保温道具で伸ばす“見えない火力”
- タオル保温:毛布・ダウン・新聞紙で鍋を包む(ハイボックス代用)。
- 発泡箱保温:発泡スチロール箱に布で巻いた鍋を入れると安定保温。床は不燃材に。
- 魔法瓶:春雨・オートミール・ドライスープの湯戻しや、湯せん温度の維持に最適。
2-3.火加減いらずの“湯せん調理”(味移りなし)
- 食材を耐熱袋に入れ、80〜90℃の湯に放置。主食・主菜・副菜を同時に温められる。
- 例:親子丼の具/カレー/さば缶アレンジ/鶏むねしっとり/温野菜。
2-4.固形燃料の“きっちり使い切る”
- 25g×1個=約10〜15分の火力。湯沸かし→湯せんの二段活用で無駄ゼロ。
- 風は最大の敵。風防+側面反射板で効率UP。やけど防止に鍋つかみを常備。
2-5.“吸水式”でさらに節約(前処理)
- パスタ100gを水で30分浸す→沸騰1分→保温5分でアルデンテに近づく。
- 乾燥豆・春雨・切り干し大根は事前の水戻しで加熱時間を短縮。
3.燃料別の目安とメニュー設計|家族人数で最適化
3-1.燃料消費の目安(大人2人・1日)
用途 | CB缶 | OD缶 | 固形燃料(25g) |
---|---|---|---|
お湯500ml×3回 | 0.4本 | 0.3本 | 3個 |
主食(米2合/乾麺200g) | 0.5本 | 0.4本 | 4個 |
汁物・おかず1回 | 0.3本 | 0.3本 | 3個 |
合計/日 | 1.2本 | 1.0本 | 10個 |
風・気温・器具で±30%差。フタ・風防・保温が節約の三種の神器。
3-2.家族人数・日数別のざっくり在庫表(CB缶換算)
家族/日数 | 2日 | 3日 | 7日 |
---|---|---|---|
1人 | 1.5〜2本 | 2〜3本 | 5〜7本 |
2人 | 3本 | 4〜5本 | 8〜10本 |
4人 | 5〜6本 | 7〜8本 | 15〜18本 |
固形燃料なら25g×1日10個/2人を基準に人数・日数で乗算。
3-3.一日サンプル献立(省燃料版)
- 朝:湯せんおにぎり(ラップ包み→湯せん3分)、味噌汁(粉末+乾燥わかめ)。
- 昼:スープパスタ(沸騰2分→保温8分、具は同鍋で粉末スープ)。
- 夜:鍋一つ親子丼(鶏・玉ねぎを湯せん袋で加熱→ご飯にのせる)、キャベツ塩昆布あえ(火を使わない)。
3-4.三日分の回し方(買い足し不要の基本セット)
- 1日目:米中心(腹持ち優先)。
- 2日目:麺中心(ゆで汁をスープに再利用)。
- 3日目:雑炊・おじや中心(燃料最少・体を温める)。
3-5.“鍋は一つ”の段取り
- 朝の湯を魔法瓶へ確保。
- 昼はスープと麺を同鍋で同時進行。
- 夜は湯せん袋を複数入れて主菜+副菜を同時に温める。
3-6.アレルギー・離乳食・高齢者の配慮
- 湯せん個別袋で交差を回避。柔らかさは保温時間で調整。塩分は粉末だし少量+酢で旨味を足す。
4.片付け・水の節約・衛生|洗わない工夫で続ける
4-1.“洗わない”調理テク
- 耐熱袋/クッキングシートで鍋汚れをゼロ化。袋は湯せん→食器へ移す。
- ラップ+紙皿の二層で食器洗い不要。ラップを剥がせば再使用できる。
- 菜箸・スプーンは人数分を用意し、洗浄の回数を減らす。
4-2.水の再利用
- 湯せんの湯は翌朝の湯沸かしへ再利用(フタをして保管)。
- 麺のゆで汁はスープのベースに(塩分は味見で調整)。
- 野菜のゆで汁は味噌汁や雑炊へ回す。
4-3.衛生の要点(食中毒とカビを避ける)
- 生肉・生魚は素手で触らない→袋調理で完結。
- まな板は使い捨てシートで代替。
- ふきんは使い切りペーパーへ。
- 消毒は製品表示どおりに薄め、換気して使用。混ぜない。
4-4.ゴミと匂いの抑え方
- ラップで包む→密封袋→ふた付き容器へ。
- 酢水で食器を拭うと匂いが残りにくい。
5.トラブル回避とQ&A|よくある疑問に先回り
5-1.火力が上がらない(寒冷時)
- CB缶は冷えに弱い。缶を手で温める/交換、風防を徹底。直火で温めない。OD缶は比較的寒さに強いが基本は同じ。
5-2.鍋が焦げる
- 湯せん方式へ切り替える。直加熱は水分の多い料理に限定。弱火長め→保温仕上げで焦げを防ぐ。
5-3.ガスが途中で尽きた
- 固形燃料へ即シフト。湯せん&保温で仕上げる。炎が消えた直後の缶交換は冷却後に行う。
5-4.風が強い・炎が流れる
- 屋内でも窓際は避ける。風防+反射板を増やし、コンロ位置を壁側へ(ただし可燃物距離は厳守)。
5-5.子ども・高齢者がいる
- 半径1m立入禁止の床印をテープで貼る。やけど防止の手袋を近くに置く。
5-6.省燃料クッキングのQ&A(拡張)
Q1.家の中でカセットコンロは使える?
換気・警報器・不燃下敷き・水平の4点が整えば可能。狭い密室や寝室は避ける。
Q2.魔法瓶だけで米は炊ける?
湯かけ飯は可能(無洗米を熱湯で15〜20分)。炊飯ほどの食感は出ないが主食確保に有効。
Q3.固形燃料1個で何ができる?
湯500mlの沸騰+湯せん数分が目安。連続2個で米1合の湯沸かし→保温蒸らしが現実的。
Q4.味付けはどうする?
粉末だし・塩・酢が省燃料の味方。酢は少量で旨味と保存性を高める。
Q5.匂いと煙が心配
焼くより湯せん・煮るを選ぶ。ラップ&紙皿で食器を包み、ゴミは密封。
Q6.調理音で近所が気になる
湯せん・保温中心なら音は小さい。金属同士をぶつけない置き方を心がける。
Q7.ガス缶の寿命は?
製造年月を確認し、古い缶やサビ缶は使わない。保管は高温多湿を避ける。
Q8.食物アレルギーが心配
個別袋で湯せんすれば交差を回避。表示確認を徹底し、症状が出たら服薬・受診。
6.省燃料レシピ集(袋調理&一鍋)|10メニュー
6-1.湯かけ飯(主食)
無洗米1合に熱湯180〜200mlを注ぎ、フタして15〜20分。仕上げに10秒加熱で水気を飛ばす。
6-2.親子丼の具(袋)
鶏もも100g・玉ねぎ薄切り1/4・だし・醤油・砂糖・水少量を密封袋。80〜90℃で10分→溶き卵を袋に入れ1分保温。
6-3.さば缶ねぎ雑炊(一鍋)
湯300mlにご飯茶碗1・さば水煮・ねぎ・塩少々。沸騰1分→保温5分。
6-4.切り干し大根の即席みそスープ(同鍋)
湯300ml+切り干しひとつかみ。沸騰1分→保温5分。食べる直前にみそ。
6-5.やわらか鶏むね(袋)
むね肉100g・塩ひとつまみ・砂糖少々・油少々を袋へ。80℃で15分保温。ほぐして万能。
6-6.湯せんおにぎり(袋)
ラップでにぎったおにぎりを袋に入れて湯せん3分。芯まで温かい。
6-7.スープパスタ(同鍋)
水戻しパスタ100g+湯300ml+粉末スープ。沸騰2分→保温8分。
6-8.コーン卵とじ(袋)
コーン缶・だし・醤油少しを袋で5分保温→溶き卵を入れ1分。
6-9.温やさい(袋)
キャベツ・にんじん・ブロッコリを袋で10分保温。塩・油少々で和える。
6-10.甘酒風ミルク(やさしい飲み物)
牛乳または豆乳+甘酒少量を湯せん5分。温まって落ち着く。
7.チェックリスト&運用ノート(配布用)
7-1.点火前チェック
- □ 換気:対角開放/警報器作動
- □ 設置:不燃下敷き/水平/周囲10cm空ける
- □ 消火:濡れ布巾・消火スプレー・砂
- □ 立入禁止:半径1mにテープ
7-2.燃料在庫ノート(例)
日付 | CB缶 残本数 | 固形燃料 残個数 | 使用目的メモ |
---|---|---|---|
10/05 | 8 | 60 | 朝の湯・昼麺・夜親子丼 |
10/06 | 7 | 50 | 予備:来客分を想定 |
7-3.三つの合言葉
「フタ・風防・保温」/「沸騰は短く」/「温かさは長く」
用語辞典(やさしい言い換え)
CB缶/OD缶:家庭用カセットコンロ用/登山用のガス缶。寒さへの強さがやや違う。
湯せん:袋や器ごとお湯に浸して温める方法。
保温調理:短時間の加熱後、布や箱で包んで余熱で火を通す方法。
風防:炎が風で流されないよう囲う板。
反射板:炎の熱を鍋へ戻す板。燃費が良くなる。
水戻し:乾物や麺を先に水でふやかす下処理。加熱時間が短くて済む。
不燃下敷き:燃えない素材の板。床や台を守るために敷く。
まとめ|“沸騰は短く、温かさは長く”で回し続ける
停電の台所は、火を使う時間を最小化し、余熱と保温で仕上げるのが正解だ。小径深型の鍋+フタ+風防を基本に、湯せんと保温調理で味移りなく同時並行。人数・日数の在庫表で燃料の見通しを立て、洗わない調理で水を節約する。合言葉は**「沸騰は短く、温かさは長く」**。これだけで食卓は続き、家族の気力も保てる。