停電時に固定電話は使えるか|給電方式の仕組みガイド

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防災

結論から先に:固定電話が停電でも使えるかは、回線の種類と給電の仕組みで決まります。アナログ(メタル)回線は電話局からの線路給電電源不要の受話器なら通話可能。

一方、光・ケーブル・IP電話宅内機器への電気が止まると発着信不可になります。本稿は、家庭の配線図に落とし込めるよう、仕組み→可否早見→電源確保→通話運用→点検・訓練→復旧の順で、具体的手順・表・計算例まで掘り下げて解説します。


  1. 要点先取り(まずここだけ)
  2. 1.固定電話の給電方式を理解する(仕組みの地図)
    1. 1-1.アナログ(メタル)回線:電話局からの線路給電
    2. 1-2.光回線(ひかり電話等):宅内機器が命綱
    3. 1-3.ケーブル電話(同軸)・IP電話(インターネット)
    4. 1-4.ISDN・PBX・宅内交換機の注意
    5. 1-5.屋内配線の型(単独・分岐)と影響
  3. 2.停電シナリオ別「使える/使えない」早見表
    1. 2-1.可否早見(家庭側の停電/地域停電/設備障害)
    2. 2-2.親機タイプ別の停電耐性
    3. 2-3.集合住宅での留意点(MDF・共用設備)
    4. 2-4.停電の長期化と通信の混雑
  4. 3.家側でできる停電対策:最小電力で“通話をつなぐ”
    1. 3-1.最小構成の電源確保(持続時間の算出)
    2. 3-2.配線と置き場所の工夫
    3. 3-3.“停電に強い電話機”を1台用意
    4. 3-4.非常用の発電・給電の選び方(簡易)
    5. 3-5.USB電源・小型照明との組み合わせ
  5. 4.非常時の通話運用:回線を“占有しない”知恵
    1. 4-1.発信先の優先順位と“短く・決め文句”
    2. 4-2.代替連絡手段の併用
    3. 4-3.FAX・通報機器・見守り機器の注意
    4. 4-4.短文テンプレ(そのまま使える)
  6. 5.点検・訓練・復旧:止めない仕組みを作る
    1. 5-1.停電前のチェックリスト(年2回)
    2. 5-2.停電発生時の初動
    3. 5-3.復電後の復旧手順
    4. 5-4.よくあるトラブルと対処
    5. 5-5.訓練の流れ(所要15分×年2回)
  7. 6.運用設計の実例:24時間つなぐ“ミニ計画”
    1. 6-1.家庭(光回線・3人家族)の例
    2. 6-2.集合住宅(管理室・掲示)の例
  8. Q&A(よくある疑問)
  9. 用語辞典(やさしい言い換え)
  10. まとめ:回線の“型”と“電源”で決まる

要点先取り(まずここだけ)

  • 回線の型で可否が決まる
    • アナログ回線+電源不要受話器=停電に強い。
    • 光・ケーブル・IP宅内装置への給電が止まれば不通。外部電源で延命。
  • 最小構成の電源を守る:ONU・通話装置・親機の合計Wから必要Whを逆算。200Whで約9時間、500Whで約24時間が目安(17W構成)。
  • 混雑回避は通話の短文化:「無事/場所/次の連絡」の30秒定型家族代表一本化。
  • 準備は紙と配線の見える化:回線の種類・配線図・非常時の手順をA4で1枚にまとめ、装置の棚へ貼る。

1.固定電話の給電方式を理解する(仕組みの地図)

1-1.アナログ(メタル)回線:電話局からの線路給電

  • 電話線(2芯)に待機の直流呼出用の交流が重畳され、電源不要の受話器家庭側のコンセントが無くても通話できる。
  • ただし親機がAC依存(コードレス・留守録・FAX一体など)の場合は停電で不通受話器直結型を1台備えると強い。

1-2.光回線(ひかり電話等):宅内機器が命綱

  • ONU(回線終端装置)と通話装置(ホームゲートウェイ)が家庭のコンセントで動作。
  • 停電時はONU/HGWが停止し発着信不可無停電電源装置(UPS)やポータブル電源一定時間の継続は可能。

1-3.ケーブル電話(同軸)・IP電話(インターネット)

  • ケーブルモデム(通話対応)や宅内ルーター家庭電源に依存。
  • 一部に内蔵電池搭載機もあるが数時間規模長期停電では外部電源が必要。

1-4.ISDN・PBX・宅内交換機の注意

  • ISDNTA(終端装置)が必要でAC停止=不通
  • 事務所・集合住宅の小型交換機(PBX)も本体電源が落ちれば全台不通

1-5.屋内配線の型(単独・分岐)と影響

  • 単独配線:壁のモジュラーに受話器を直挿し切替が簡単で停電時の確認がしやすい。
  • 分岐配線:家中に複数の差し口。親機の故障や混線が起きやすく、停電時の切り分けに時間がかかる。

2.停電シナリオ別「使える/使えない」早見表

2-1.可否早見(家庭側の停電/地域停電/設備障害)

回線方式家庭のみ停電地域が停電事業者設備障害備考
アナログ(メタル)(シンプル電話のみ)条件付き可(局舎の非常電源次第)不可親機AC依存型は不可
光(ひかり電話等)不可(UPS等で可)条件付き不可(局側OKでも宅内機器が停電)不可ONU/HGWに電源必須
ケーブル電話不可(装置内電池で数時間可)条件付き不可不可事業者側電源が鍵
IP電話(ネット)不可不可不可ルーター・網双方の電源が必要

ポイント“親機が電源不要”דアナログ回線”の組み合わせだけが停電に強い

2-2.親機タイプ別の停電耐性

親機タイプアナログ線光・ケーブル・IP
受話器直結型(電源不要)強い宅内機器が止まるため不可
コードレス親機(子機)不可不可
留守番電話・FAX一体不可(AC必要)不可

2-3.集合住宅での留意点(MDF・共用設備)

項目ありがちな仕様停電時の影響対処
共用設備PBX/光収容本体電源停止で全戸不通発電・UPS対象に含める
MDF室施錠・入室制限復旧作業が遅延連絡経路・鍵管理を明確化
監視・通報電源依存停電で通報不可代替巡回・掲示で補完

2-4.停電の長期化と通信の混雑

  • 大規模停電では電話局・中継設備は非常電源で持続するが、呼量集中でつながりにくい。
  • 短い通話・定刻連絡・発信先の絞り込みで回線占有を避ける。

3.家側でできる停電対策:最小電力で“通話をつなぐ”

3-1.最小構成の電源確保(持続時間の算出)

  • 公式:持続時間(h)= 電源容量(Wh) × 0.8 ÷ 合計W(0.8は変換ロスの目安)。

例:光回線の一式(家庭)

機器消費電力の目安
ONU6W
ホームゲートウェイ8W
通話親機(AC必要)3W
合計17W
  • 200Wh200×0.8÷17 ≒ 9.4時間
  • 500Wh約23.5時間
  • 1000Wh約47時間(2日弱)

必要容量を逆算する早見

目標運用時間合計17Wの場合の必要Wh(目安)
6時間約130Wh
12時間約255Wh
24時間約510Wh
48時間約1020Wh

迷ったら**「24時間×一式」**を基準に。家族構成と昼夜で見直す。

3-2.配線と置き場所の工夫

  • ONU・HGW・親機を同じ棚に集約し、一括でUPSにつなぐ。
  • ケーブルを短めに整理し、抜け止めタップで不意の抜けを防ぐ。
  • 熱こもり防止(通風・埃対策)と掃除のしやすさを優先。

3-3.“停電に強い電話機”を1台用意

  • アナログ線を契約中なら、電源不要のシンプル受話器壁のモジュラーに直挿しで運用。
  • コードレスしかない家庭は、親機が停電すると子機も不可直結受話器を予備で備える。
  • 光のみ契約の場合はUPS/ポータブル電源の整備が実質必須。

3-4.非常用の発電・給電の選び方(簡易)

電源特徴向き
無停電電源装置(UPS)瞬断に強い・自動切替短時間停電が多い地域
ポータブル電源大容量・屋内安全長時間停電に備える家庭
車の給電シガー口や外部電源で補う駐車場が近い・ガソリン余裕

3-5.USB電源・小型照明との組み合わせ

  • USB給電ランタン壁に向けて照らせば少電力で広く明るい
  • 充電は昼間にまとめて行い、夜間は通信・照明のみに絞る。

4.非常時の通話運用:回線を“占有しない”知恵

4-1.発信先の優先順位と“短く・決め文句”

  • 順位例:119/110/災害対策本部 → 家族代表 → 近隣支援。
  • 定型文:「無事/けが/場所/次の連絡時刻」。30秒以内を目標に、同じ内容を繰り返さない

4-2.代替連絡手段の併用

  • 公衆電話(非常時は優先的に通じやすい)。
  • 災害伝言ダイヤル・災害用伝言板家族で訓練
  • 集合住宅掲示板・回覧・掲示テンプレ、**小型無線機(特定小電力)**の活用も検討。

4-3.FAX・通報機器・見守り機器の注意

  • FAX・火災報知連動通報・見守り装置電源と回線の両方が必要。
  • 停電時に停止する前提で、**代替(巡回・掲示・隣戸確認)**を準備。

4-4.短文テンプレ(そのまま使える)

  • 家族へ:「こちら無事。住所○○。次は19時に同番号へ。—名前」
  • 近隣へ:「○号室、けが無し。明朝8時に再確認します。」

5.点検・訓練・復旧:止めない仕組みを作る

5-1.停電前のチェックリスト(年2回)

項目確認ポイント
回線の種類アナログ/光/ケーブルの別を把握
親機の電源電源不要受話器を1台用意
配線図ONU・HGW・親機の位置と接続を図示(A4)
電源UPS/ポータブル電源の容量・動作試験
連絡計画家族代表・連絡時刻・短文テンプレ
公衆電話最寄り位置を紙地図に書き込み

5-2.停電発生時の初動

1)家だけか地域全体かを確認(夜景・近隣に聞く)。
2)UPSの稼働残容量を確認、持続時間を家族で共有。
3)30秒の短文連絡で状況共有、通話回数を減らす
4)直結受話器がある場合は試験発信で状態確認。

5-3.復電後の復旧手順

  • ONU→HGW→親機の順に電源を入れ直す(1台ずつ数分待つ)。
  • ダイヤル音・発着信をテスト。
  • 留守電・FAXの時刻子機の再登録を確認。

5-4.よくあるトラブルと対処

症状原因対処
発信できないONU/HGWの固着再起動・配線差し直し
子機だけ通話不可親機AC停止親機の電源復帰・直結受話器で代替
雑音・断続線路の劣化・接触不良モジュラー差し直し・親機交換で切り分け
留守電が動かない時刻ずれ・設定消失時刻合わせ・設定復元

5-5.訓練の流れ(所要15分×年2回)

1)ブレーカーOFF模擬→ONU/HGWの停止を確認。
2)UPSへ切替→通話可否を確認。
3)短文連絡テンプレで家族代表へ発信。
4)復電手順(ONU→HGW→親機)を実演し、手順書に追記


6.運用設計の実例:24時間つなぐ“ミニ計画”

6-1.家庭(光回線・3人家族)の例

項目内容
目標24時間固定番号を維持
機器ONU 6W/HGW 8W/親機 3W(合計17W)
電源ポータブル電源 600Wh(余裕を見て)
配置一つの棚に集約、UPS→電源→機器の順
連絡12:00/19:00の定刻短文、公衆電話の位置共有

6-2.集合住宅(管理室・掲示)の例

項目内容
回線管理室の回線は種別を掲示(アナログ/光)
電源UPS対象に管理用回線・放送・監視を含める
掲示通話は30秒定刻医療優先」の掲示を作成
MDF室・機械室の鍵管理と立会い手順を文書化

Q&A(よくある疑問)

Q1.電話機に電池が入っているが、停電でも使える?
A. それは親機の機能用で、回線装置の電源とは別です。アナログ回線+電源不要受話器でなければ通話できません。

Q2.光回線で停電中、携帯の“テザリング”でIP電話は?
A. ルーターが動き、IP電話アプリが使えれば可能ですが、回線混雑・電池消耗の面で長時間運用には不向きです。

Q3.集合住宅の管理室にある電話は強い?
A. アナログ直通なら強い場合がありますが、PBXや光収容だと機器電源が必須。掲示で種類を明示しましょう。

Q4.ひかり電話のためにUPSを入れる価値は?
A. 短〜中時間の停電固定番号を維持できる利点があります。医療・見守りの連絡先を固定にしている家庭は有効です。

Q5.公衆電話はいつでも動く?
A. 優先的に復旧・接続されやすいですが、設備障害・浸水・断線で使えないことも。最寄り位置を紙地図に記入を。

Q6.災害時、通話はどれくらいに抑えるべき?
A. 目安は30秒以内無事/場所/次連絡時刻の3点で十分です。

Q7.コードレス子機だけ残したい。方法は?
A. 親機が動かないと子機は不可。親機+子機+UPSでまとめて給電するか、直結受話器を別に用意。

Q8.FAXは停電時に送受信できる?
A. ほとんどのFAXはAC必須アナログ線電源不要の受話器があれば音声通話は可能ですが、FAX機能は使えません。

Q9.IP電話の番号だけは維持したい。
A. UPS+ポータブル電源ONU/HGWへ給電すれば維持可能。長期停電では発電・車給電も選択肢。

Q10.高齢の親に最小の備えを一つだけ勧めるなら?
A. アナログ回線+電源不要受話器の常備。無ければ公衆電話の位置を紙に短文連絡の練習を。


用語辞典(やさしい言い換え)

線路給電:電話局側から電話線に電気を流すこと。
ONU:光回線の終端装置。光を電気の信号に変える箱。
ホームゲートウェイ(HGW)通話や通信をまとめる箱
ケーブルモデム:同軸ケーブルの通話・通信の変換器
PBX:建物内の小さな電話交換機
UPS(無停電電源装置)停電でも短時間は電気を出せる装置
災害伝言ダイヤル:災害時に音声で安否を残す・聞く仕組み。
MDF室:集合住宅の回線の分岐室


まとめ:回線の“型”と“電源”で決まる

停電時の固定電話は、回線の型(アナログか、光/ケーブルか)と宅内・局側の電源で可否が決まります。アナログ+電源不要受話器は強く、光・ケーブルはUPS等で電源を付けて守る

連絡は短く・定刻・優先順位で。今日、自宅の回線方式と配線図を紙に描き、非常時の給電手順を棚に貼っておきましょう。必要容量は合計Wから逆算24時間運用を基準に用意すれば安心です。

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