要点先取り:電気と水が同時に止まったら“優先順位・配分・衛生動線”で生き残る
停電と断水が同時に起きると、冷蔵・調理・通信・トイレ・手洗いのすべてが止まる。 混乱を避ける鍵は、(1)命に直結する順の優先順位(体温>水>衛生>食>情報)、(2)電力と水の配分ルール(数字で合意)、(3)汚れがきれい側へ逆流しない衛生動線(一方通行)を事前に紙で決めておくこと。この記事は家族会議でそのまま使える運用シートとして作成し、役割分担カード/配分表/点検カレンダーまで一体で運用できるよう設計した。
まず3つだけ実行:①LEDランタンを各部屋に常設、②配分表を冷蔵庫に貼る、③**月1の訓練(15分)**を決める。これで初動の7割は整う。
1.発災0~6時間:初動の定形化|安全・情報・資源確保
1-1.安全確認と遮断(電気・火・ガス・水)
- ブレーカー:場所と落とし方を家族で共有。感電・漏電を避ける。
- 火気:ろうそく原則禁止。LED一択。カセットコンロは換気→着火→調理→消火の順を声出しで確認。
- ガス・水道:漏れ・破損・異臭があれば閉。異常がなければむやみに閉め切らない(復旧工程に影響する場合がある)。
- 家内安全:倒れ物・ガラス片は靴・手袋で処理し、出入口・階段を確保。
1-2.情報の取得と共有(通信の節電運用)
- 電池ラジオ/手回しラジオで広域情報を先に取得。スマホは追認に回す。
- スマホは15分ごとにまとめて起動(機内→オン→連絡→機内)。家族連絡は定刻送信へ切替。
- 集合地点・次回連絡時刻を耐水メモに記し、紙連絡表を全員のポケットへ。
1-3.資源の初期配分(今日と明日の線引き)
- 飲料水:**1人500mlを“今日の先取り”**として確保。残りは翌日以降へ温存。
- 冷蔵庫:開閉禁止。保冷剤・凍ペットで庫内温度を延命。
- 電力:モバイルバッテリーは残量下位の端末から順に充電。昼間に車でまとめ充電を計画。
1-4.家族内ロール(役割)の即時決定
役割 | 仕事 | 引き継ぎタイミング |
---|---|---|
司令(親) | 優先順位の決定、配分表の承認 | 6時間ごと交代 |
水番 | 給水・配水・トイレ凝固剤の管理 | 各食後に報告 |
電力番 | 充電・ライト管理・通電時間の記録 | 就寝前に報告 |
衛生番 | 手指衛生・動線の清掃・ごみ管理 | トイレ使用の都度 |
やってはいけない初動:不安で家電を試しに入切、頻回の冷蔵庫開閉、ろうそく点灯。どれも寿命を削る。
2.電力の使い方を“見える化”|優先順位・配分・代替手段
2-1.電力優先順位(家庭の合言葉)
照明>通信>冷蔵>その他。命と連絡に直結するものを常に先へ。調理はガス(カセット)へ退避が基本。
2-2.デバイス別の配分と連続運用時間(目安)
用途 | 優先度 | 消費の目安 | 配分ルール | 代替 |
---|---|---|---|---|
LEDランタン | 高 | 5Wh/h | 部屋ごと1台/就寝前後のみ点灯 | 反射板で増光 |
スマホ | 高 | 10〜20Wh/満充電 | 連絡時のみ起動/昼間充電 | 家族1台に集約 |
ルーター | 中 | 5〜10Wh/h | 30分/回線確認時のみ通電 | ラジオ優先 |
冷蔵庫 | 中 | 50〜100Wh/h | 開閉最小/保冷剤併用 | クーラーボックス |
調理機器 | 低 | 高負荷 | 原則不使用 | カセットコンロへ |
ポイント:ろうそく原則禁止(延焼・酸欠)。LED+反射で十分明るい。
2-3.停電モードの端末設定(節電チューニング)
- スマホ:機内・低電力・画面最小・通知限定。写真・動画の送受信を夜間に一括。
- LED:天井反射(やわらかい光)+足元灯(転倒防止)の二灯。
- モバイル電源:20〜80%の範囲で回すと劣化が抑えられる。
2-4.発電・蓄電の構成(最小→拡張)
レベル | 構成 | できること | 注意 |
---|---|---|---|
最小 | 500Wh電源+ソーラー100W | 通信・照明の長期維持 | 雨天は発電低下 |
標準 | 1,000Wh電源+200W | 冷蔵庫の間欠運転 | ケーブル発熱に注意 |
拡張 | 車中インバータ併用 | 昼間に集中充電 | 車庫内アイドリング不可(換気) |
2-5.停電モード家電の運用表(再掲+補足)
家電 | 使い方 | やめること | 備考 |
---|---|---|---|
冷蔵庫 | 開閉最小、保冷剤・凍ペット併用 | 扉の頻回開閉 | 庫内に温度計を吊る |
洗濯機 | 原則停止 | 連続運転 | 復電後は槽洗浄 |
電子レンジ | 原則停止 | 解凍・加熱 | 調理はカセットへ |
トイレ温水洗浄 | 停止 | 通電のまま | 清掃はウェットに切替 |
掃除機 | 手動へ | 長時間運転 | ほうき+チリトリに置換 |
3.水の使い方を“数字で合意”|飲用・生活・衛生の三分法
3-1.1日の配分(成人の目安)
用途 | 目安/人/日 | 備考 |
---|---|---|
飲用 | 1.0〜1.5L | 気温・活動で変動、カフェイン飲料は換算外推奨 |
調理・食品 | 0.5L | インスタント・乾物の戻し含む |
衛生(手洗い・口腔・簡易洗浄) | 0.5L | ウェット・アルコール併用で削減 |
合計:2.0〜2.5L/人/日。3日分=6〜7.5L/人を最低ラインに。
3-2.家族属性別の補正(追加配慮)
区分 | 目安/日 | 備考 |
---|---|---|
乳幼児 | 1.0〜1.5L | ミルク用の煮沸・調乳を考慮 |
妊娠・授乳 | 2.0L前後 | 便秘・脱水予防を優先 |
高齢 | 1.5L目標 | 少量高頻度で摂取 |
発熱時 | +0.5〜1.0L | 経口補水液を優先 |
3-3.断水時の“水源ミックス”
- 飲用:ペット水/スーパー給水/浄水タブレット。
- 生活:風呂の残り湯/雨水(ろ過)/給水車。※飲用不可を明示。
- 非常用トイレ凝固剤:1回1包。バケツ+二重袋運用で臭気と漏れを抑える。
3-4.配水表(家族用テンプレ)
人 | 飲用(L) | 調理(L) | 衛生(L) | 合計(L) |
---|---|---|---|---|
A | ||||
B | ||||
C |
ルール:朝の段階で“その日分”を各自ボトルに分配。見える化で争いを防ぐ。
3-5.やってはいけない水の取り扱い
- 不明な容器の再利用(薬品容器など)は厳禁。
- 雨水の直接飲用は禁止。必ずろ過・煮沸・薬剤のいずれかを併用。
- トイレ洗浄に飲料水を使わない(簡易トイレを使う)。
4.食・衛生・トイレの“逆流しない動線”|一方通行で清潔を守る
4-1.調理と食事(火は小さく・水は少なく)
- 主力はカセットコンロ。通気・耐熱ボード・一酸化炭素警戒を守る。
- 一鍋化:米→雑炊/パスタ→スープで水・洗い物を削減。
- 使い捨て皿+耐熱ビニールで洗浄水ゼロを実現。
- 優先消費リスト:生鮮→冷蔵→乾物→缶の順。痛みやすい物から先に。
4-2.衛生(手・口・体)
- 手:流水→なければウエット→アルコールの順。爪は短く。
- 口:少量水うがい→ガーグル用紙コップで使い回し禁止。
- 体:濡れタオル拭き→部分おしぼり→乾いた肌着へ交換。おむつ・生理用品は日数分+1日の余力。
4-3.トイレ(ニオイ・漏れ対策)
- 二重袋+凝固剤。大は2包を目安。
- 便座前に吸水マットで滴り防止。汚物袋は結び目二重。
- 密閉ごみ箱はベランダ側に一時保管。直射日光は避ける。
4-4.動線の設計(汚れ→清潔の一方通行)
場所 | 役割 | 置く物 | 置かない物 |
---|---|---|---|
玄関 | 汚れの受け皿 | 長靴・雨具・汚れ箱 | 食料・清潔用品 |
キッチン | 調理・配給 | コンロ・鍋・使い捨て皿 | 汚れ物・工具 |
洗面所 | 手・口・体 | 水・ウエット・タオル | ゴミ袋満杯品 |
4-5.ペット・アレルギー・薬の配慮
- ペット:飲水・トイレ砂を3日分確保。人の水と混ぜない。
- アレルギー:成分表示を紙で控える。配給食受取り時の確認メモを用意。
- 薬:1日分ケースに小分け。お薬手帳の写しを防水袋へ。
5.72時間の運用スケジュール|再評価・休息・近隣連携
5-1.タイムライン(例)
時間帯 | やること | 具体動作 |
---|---|---|
0〜6h | 初動 | 遮断・通路確保・情報取得・電水配分表作成 |
6〜24h | 生活維持 | 一鍋化、冷蔵開閉最小、排せつは二重袋 |
24〜48h | 体力維持 | 睡眠確保、体拭き、栄養バランス補正 |
48〜72h | 見直し | 電力と水の残量再計算、近隣と物々交換・給水情報共有 |
5-2.近隣連携の基本
- 物資の重複(カセット・電池サイズ)を交換して効率化。
- 情報掲示板を玄関外に作り、不在時でも伝言が残るように。
- 要配慮者(高齢・乳幼児・障がい)の見守り当番を決める。
5-3.休息とメンタル(光・音・睡眠)
- 二灯照明(天井反射+足元)で不安を軽減。耳栓・アイマスクを配布。
- 家族の役割を交代し、**1日1回30分の“何もしない時間”**を確保。
- 子どもには役割カード(ライト番・水番)で参加意識を高める。
付録A:家の配置・備蓄・点検のテンプレ
A-1.“停電+断水モード”配置図(要約)
- 玄関:泥汚れ受けスペース、長靴、雨具、ゴミ袋、吸水マット。
- リビング:LEDランタン、反射テープ、家族掲示板、モバイル電源。
- キッチン:カセットコンロ、ボンベ、鍋、使い捨て皿・箸、保冷剤、耐熱ボード。
- 洗面所:水・ウエット・アルコール、簡易トイレ一式、手袋、除菌剤。
- 寝室:ブランケット、アルミシート、耳栓・アイマスク、足元灯。
A-2.備蓄リスト(最小構成→拡張)
品目 | 最小構成 | 拡張 | 備考 |
---|---|---|---|
飲料水 | 2.5L/人/日×3日 | 7日分 | 期限をボトルに記入 |
簡易トイレ | 1人×5回/日×3日 | 7日分 | 凝固剤・二重袋 |
ランタン | 1部屋1台 | 予備1 | 乾電池は単一→単三変換でも可 |
モバイル電源 | 500Wh | 1,000Wh | ソーラー100W併設で安心 |
ボンベ | 3本/家庭/週 | 6本 | 火気と換気の両立 |
保冷剤 | 冷凍庫満たす量 | 追加保冷バッグ | 保冷剤リレーに活用 |
ウエット・アルコール | 1家族1パック/週 | 2〜3パック | 手・口・体の順で使用 |
A-3.点検カレンダー(毎月第1日曜)
- LED点灯、モバイル電源残量、ボンベ本数、トイレ在庫、保冷剤凍結を確認。
- 配分表テンプレを新しい月の紙に差し替える。
A-4.月15分のシミュレーション訓練(テンプレ)
1)照明OFF→LEDへ切替え。
2)スマホ機内→定刻連絡で家族に“訓練”送信。
3)配分表にその日の数値を記入。
4)カセット点火→湯沸し→消火を声出しで実演。
5)簡易トイレの袋装着→外しまでを練習。
6)気づきを掲示板にメモ。
Q&A(よくある疑問を一気に解決)
Q1.冷蔵庫はどれくらい保つ?
A.開閉最小+保冷剤で数時間〜半日が目安。先に痛みやすい食材から消費する。
Q2.水が足りない。何を削ればいい?
A.洗い物ゼロ化(一鍋・使い捨て皿)と体拭きの部分化で削減。飲用は削らない。
Q3.カセットコンロは室内で安全?
A.換気・耐熱ボード・可燃物1m離隔を守れば使える。ニオイ・頭痛を感じたら即停止し換気。
Q4.スマホの電池が心許ない。
A.機内モード+必要時のみオン、家族1台に集約、昼間に車で充電が効く。
Q5.簡易トイレの捨て方は?
A.自治体の非常時ルールに従う。密閉・表示を徹底し、屋外日陰で一時保管。
Q6.マンションで断水。タンクから抜ける?
A.機器の破損・衛生リスクがあるため独断での排水・分解は不可。給水所や配水を待つ。
Q7.発電機を室内で使ってもよい?
A.不可。一酸化炭素中毒の危険。屋外・風下・離隔が必須。
Q8.乳幼児のミルクはどう作る?
A.飲用水を優先し、清潔な鍋で一度沸騰→適温。調乳後はすぐ飲む。
Q9.配給食にアレルギー表示がない。
A.疑わしい物は口にしない。成分を紙で照合し、代替の持参品を優先。
Q10.夜が怖くて眠れない。
A.天井反射+足元灯の二灯にし、見回り役を決める。耳栓・アイマスクも有効。
用語辞典(やさしい言い換え)
- 配分表:1日で誰がどれだけ使うかの紙。口論を減らす道具。
- 二灯照明:天井を照らす灯り+足元灯。安心して動ける。
- 一鍋化:料理を一つの鍋で完結。水・燃料・洗い物が少ない。
- 逆流しない動線:汚れ→きれいの一方通行。感染や匂いを広げない。
- 保冷剤リレー:冷凍→冷蔵→クーラーへ順に使い回すこと。
- 配分ミーティング:朝に必要量を決める家族会議。数字で合意する時間。
- 役割カード:水番・電力番などの担当札。交代を可視化する。
まとめ
停電と断水が同時でも、優先順位(体温>水>衛生>食>情報)、電力・水の配分、逆流しない衛生動線の3セットを紙で固定すれば慌てない。今日、LEDランタン常設・配分表印刷・月15分訓練を決め、ボンベ・簡易トイレ・保冷剤の在庫を点検。第1日曜の点検カレンダーを家族で回せば、次の72時間は、もう設計済みだ。