受水槽と直結給水の違いを知る|断水リスク理解ガイド

スポンサーリンク
防災

同じ“水道”でも、建物の給水方式が違えば、停電・断水・長期不在時のリスクはまったく異なります。 本稿は、集合住宅・戸建て・店舗・オフィスで使われる受水槽方式直結給水方式を、仕組み・非常時の強さ・水質管理・コスト・運用の5視点で徹底比較。

さらに、建物条件ごとの最適解と、非常時の具体的な行動計画、住民への周知テンプレート、簡易計算式までを一冊にまとめました。“自分の建物の方式を正しく知る”ことが、断水や停電で迷わない第一歩です。


受水槽と直結給水の“仕組み”を一枚で理解する

受水槽方式(タンク貯留+ポンプ給水)とは

建物内(地上・地下・屋上)に受水槽で一旦ため、加圧ポンプ高置水槽(屋上タンク)から各戸へ送水する方式です。水を貯めてから配るため、断水直後も短時間は給水を維持できます。一方で停電時はポンプ停止により上階で止水しやすく、屋上タンクがあれば重力で中低層に限定して供給できる場合があります。

流れのイメージ
道路本管 → 受水槽 →(加圧ポンプ)→ 立て管 → 各戸水栓/屋上タンク → 自然流下 → 各戸

直結給水方式(本管→各戸へ直接)とは

道路の配水管の圧力をそのまま利用して、水道本管から直接各戸へ届ける方式です。タンクがないため水が新鮮で、停電の影響を受けにくい(※建物側で増圧しない直圧の場合)。ただし本管側の圧力低下や断水を即時に受けるのが特徴です。

流れのイメージ
道路本管 → 直結分岐 → 立て管 → 各戸(※直結増圧は途中にポンプ)

直結のバリエーション(直圧/増圧)

  • 直結直圧:本管圧のみで供給。低層〜中層の一部で主流
  • 直結増圧小型ポンプで圧力を上乗せ中高層で採用。停電時は低層だけ辛うじて出ることも。

構成要素と役割の早見表

要素受水槽方式の役割直結方式の役割故障時の影響
受水槽一時貯留・初流の吸収なし水質悪化・残量枯渇
高置水槽停電時の重力給水なし転倒・水漏れリスク
加圧ポンプ圧力確保直結直圧は不要/増圧で使用停止=水圧低下・止水
逆止弁逆流防止逆流防止故障で逆流・汚染

断水・停電に強いのはどっち?:非常時耐性を比較

断水時の挙動(本管側の供給停止)

  • 受水槽タンク分は即時に枯れない。ただし残量は有限で、住民数×使用量で減少。衛生上、長期貯留は不可
  • 直結本管停止=即止水。復旧と同時に再開しやすいが、濁りの初流対策が必要。

延命時間の概算式
延命時間(時間)=タンク有効容量(L)÷【人数×一人あたり使用量(L/時)】
例)有効容量20,000L、100人、1人0.8L/時 ⇒ 約250時間(節水下では短縮)

停電時の挙動(建物側の電力喪失)

  • 受水槽+加圧ポンプポンプ停止=上階が止水屋上タンクがあれば中低層へ重力給水が可能。
  • 直結(直圧)建物側の電源に依存しない(地域の配水場が稼働している前提)。
  • 直結増圧増圧ポンプ停止で水圧低下。低層のみ出る場合あり。

非常時シナリオ別・影響早見表

シナリオ受水槽直結直圧直結増圧備考
本管断水タンク分で延命即止水即止水受水槽は節水運用が鍵
建物停電ポンプ停止/屋上タンクで一時使用継続圧力低下/停止非常用電源の有無で差
断続的な濁水タンクで初流を吸収直接影響直接影響受水槽は清掃・安全弁が重要
長期不在滞留で水質悪化注意滞留少ない滞留少ない定期的な流し替えが必要

停電と階層の関係(目安)

方式停電時に使える可能性条件
受水槽+屋上タンク中低層のみ一時可水位・配管高低差・弁開度に依存
受水槽のみ(加圧)不可ポンプ停止で停止
直結直圧地域配水場が生きていること
直結増圧低層のみ可ポンプ停止で上階不可

水質管理・保守・費用の現実:誰が何をどれだけやる?

水質の新鮮さと衛生管理

  • 受水槽定期清掃・点検・残留塩素の確認が必須。動物侵入・沈殿・藻などタンク特有のリスクに注意。
  • 直結本管からの直送滞留が少なく新鮮。ただし、宅内配管の劣化(赤水・ピンホール)に留意し、末端の流し替えを定期実施。

点検・保守スケジュールの目安

項目頻度主担当備考
受水槽内清掃年1〜2回管理者覗き口・浮き球・排水弁も点検
水質簡易検査(残留塩素・濁り)月1回管理者記録表に残す
ポンプ作動確認月1回業者/管理者異音・振動・漏れ
逆止弁・弁座点検年1回業者逆流・圧損の確認
末端フラッシング半年1回管理者直結でも実施推奨

保守・更新の手間と費用感(目安)

項目受水槽方式直結方式補足
清掃・点検年1〜2回(槽内清掃/水質検査)不要(槽なし)配管洗浄は共通課題
ポンプ機器定期点検/更新費直圧は不要増圧は必要更新周期は設計に依存
電気代常時加圧で発生直圧は低い/増圧は発生非常電源も検討
初期改修槽・配管・制御で大きい直結化工事は比較的軽い本管圧/地域基準で可否判断

10〜15年の総保有コストの考え方(簡易)

総保有コスト=初期工事+更新(ポンプ・弁)+清掃点検×年数+電気代×年数
“清掃・電気代の削減”と“非常時の強さ”の両天秤で比較します。


建物条件で選ぶ:最適解と切替判断のロードマップ

マンション(中高層):ライフライン優先の視点

  • 現状が受水槽+加圧非常用電源の確保節水運用マニュアルを先に整備。中長期で直結増圧への切替を検討(地域水圧と本管径が条件)。
  • 現状が直結増圧ポンプの冗長化/保守契約停電時のバイパス運転(低層のみ供給)を検討。

低層集合・店舗:コストと衛生の視点

  • 直結直圧を基本に、受水槽撤去清掃費・電気代の削減効果。昼ピークの水圧同時使用に耐えられるかを確認。

戸建て:シンプル・低コストの視点

  • 直結直圧が標準。敷地内配管の劣化・凍結対策を優先。非常時は給水車や簡易タンクの受け入れ体制を用意。

ケーススタディ:3つの建物で比較

建物現状課題打ち手
A:12階マンション受水槽+加圧停電で上階止水非常用電源・屋上タンクの水位監視・直結増圧検討
B:6階マンション直結増圧ポンプ停止で圧低下二重ポンプ・低層優先バイパス・節水周知
C:2階長屋+店舗直結直圧昼ピークで圧不足節水器具・使用時間分散・一部補助タンク

切替可否の評価ステップ(管理組合向け)

  1. 地域水圧・本管径の確認(事業者に照会)
  2. 屋内配管の耐圧・老朽度の点検
  3. 消防/雑用水設備との関係(別系統の確認)
  4. **停電時シナリオ(非常電源/重力給水)**の策定
  5. **総保有コスト(10〜15年)**で比較・合意形成

非常時運用:備蓄・臨時給水・周知の実務

停電・断水を前提にした“運転モード”

  • 受水槽残量表示の見える化階別の使用制限エレベータ停止時の配水ルートを決める。屋上タンクの“重力給水”で使える範囲を平時に検証。
  • 直結初流の濁り排水の周知、水圧低下時の同時使用制限夜間の節水タイムを設定。

復旧時のフラッシング手順(例)

  1. 外の散水栓→共用部→各階立て管→各戸末端の順で開放。
  2. 初流1〜2分を排水し、濁り・臭いが消えたら停止。
  3. 給湯器は最後に通水し、エラー解除を確認。

1人1日あたりの備蓄目安と置き場

  • 飲用・調理1.5〜2.0L/人・日
  • 生活(手洗い/トイレ等)2〜4L/人・日(再利用で圧縮可)
  • 置き場直射日光を避け、床から5cm上用途別ラベルで分かりやすく。

臨時給水の受け入れ動線(建物内)

  • 敷地内の台車ルート受け渡し場所容器の色分け(飲用/生活)を平時に設計。
  • 掲示物テンプレ:「配水開始時刻/1世帯上限/並び方/初流は捨て水」などをA4一枚にまとめて掲示。

Q&A(よくある疑問)

Q1.受水槽の水は停電中でも使えますか?
A.屋上タンクがあれば重力で中低層に短時間使える場合がありますが、加圧ポンプ停止で上階は基本的に使えません。 非常用電源や手動バイパスの有無を事前に確認しましょう。

Q2.直結は停電に強いのですか?
A.建物側に加圧設備がなければ、停電の影響を受けにくい方式です。 ただし、地域の配水場や送水ポンプが停止する規模の停電では影響します。

Q3.水質はどちらが良い?
A.直結は滞留が少なく新鮮な傾向。 受水槽は清掃・点検を適切に行えば安全に利用できます。どちらでも宅内配管の劣化には注意が必要です。

Q4.マンションを直結化すると何が変わる?
**A.タンク清掃やポンプ電気代が減る一方、直結増圧ではポンプ保守が残ります。 停電時の給水方針(低層のみ供給など)を合わせて設計しましょう。

Q5.断水が長引いたら?
A.受水槽は“延命”が可能ですが有限。 直結は復旧=即再開。いずれも給水車の受け入れ動線家族の節水運用が重要です。

Q6.長期不在時の注意点は?
A.受水槽は滞留による水質悪化に注意し、帰宅時は末端を流し替え。 直結でも久しぶりの通水は初流を排水してから使用します。

Q7.濁りや臭いが出た場合の対処は?
A.初流の排水→末端の順開放→貯湯器は最後の手順でフラッシング。改善しない場合は管理者へ連絡し、受水槽・配管の点検を依頼します。


用語辞典(やさしい言い換え)

受水槽:建物の中で水をためる大きなタンク。
高置水槽:屋上にあるタンク。高さを使って水を流す。
直結直圧:道路の水道管の圧力でそのまま各戸に送る方式。
直結増圧:ポンプで少し圧力を足して各戸に送る方式。
初流(しょりゅう):断水復旧などで最初に出てくる水。濁りやすい。
残留塩素:水の中に残る消毒の力。水の安全を守る目印。
逆止弁:水が逆向きに流れないようにする弁。
フラッシング:配管の中の水を流して入れ替えること。
立て管:上下に伸びる太い配管。
重力給水:高いところから低いところへ自然に水が流れるしくみ。


まとめ:方式の“違い”を知れば、非常時に迷わない

受水槽は“ためて配る”強みを非常時延命に活かし、直結は“新鮮さと電源非依存”を日常と停電時の安定に活かす。 建物条件(高さ・本管圧・配管状態)と管理体制で最適解は変わります。まずは自分の建物の方式を確認し、停電・断水のシナリオ別に行動手順を作っておきましょう。今日の一枚のチェックリストが、明日の“水の不安”を減らします。

タイトルとURLをコピーしました