土砂災害警戒情報の色別行動|避難判断の実践ガイド

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防災

土砂災害は、雨の強さだけでなく地形・地質・斜面の工事履歴・過去の崩れやすさが重なって起こります。画面に色が増えるほど、迷っていられる時間が減っていくと考えてください。

本記事は、土砂災害警戒情報の色別行動を軸に、家族と地域でそのまま使える避難判断の手順を、表・チェックリスト・声かけ例・役割分担の雛形まで含めて具体化しました。夜間・高齢者・介護中・車いす・乳幼児・ペットなど、移動に時間がかかる状況にも対応できるよう、一段早い判断の基準を明記しています。


  1. まず押さえる要点:色=今すぐ決めること
    1. 色は“危険の濃さ”ではなく“決断を遅らせられる余地”
    2. 右往左往を防ぐ「3本柱」
    3. 家の“弱いところ”は色の一段手前で対処
      1. 色別・動きの優先(総合表・家族掲示用)
  2. 自宅と地域の“崩れやすさ”を見極める(面・線・点)
    1. 面:地形と土質(ひろがる弱点)
    2. 線:沢筋・水路・谷地形(集中する弱点)
    3. 点:擁壁・石積み・切土の角(局所の弱点)
      1. 我が家の弱点チェック表(記入式)
  3. 色別に“やめる・やる・行く”を決める(詳説)
    1. 黄色系(注意):準備の完了ライン
    2. 赤系(警戒):外に出る用事は中止へ
    3. 紫系(危険):命を守る行動を最優先
    4. 黒系(極めて危険):屋外移動は原則中止
      1. 色別・家族の役割分担(記入式)
  4. 兆候を見逃さない:目・耳・足・においのサイン
    1. 目で見るサイン
    2. 耳で聞くサイン
    3. 足・においで感じるサイン
      1. 兆候→直行動の対応表
  5. 夜間・高齢者・車いす・通学時の実務(細則)
    1. 夜間は一段早く(視界と時間の不利)
    2. 高齢者・車いす(移動に時間が必要)
    3. 乳幼児・妊婦・ペット
    4. 通学・通勤(時間帯が重なる場合)
  6. 避難先・持ち物・連絡運用:迷わない仕組み
    1. 避難先は“近くて高い”から決める
    2. 在宅上階避難のつくり方(家の中の安全地帯)
    3. 持ち物は肩掛け1つに集約
    4. 出る前の安全処置(余裕があれば)
    5. 連絡は短文・定刻・二重化
      1. 避難先・持ち物・連絡の記入表
  7. 復旧時の安全:二次災害を避ける
    1. 帰宅・点検の順番
    2. 片付け時の装備
    3. 感電・再崩落・感染の回避
  8. ケーススタディ:5つの家の判断
    1. 例1:崖下の平屋(家族3人)
    2. 例2:台地の縁にある2階建て(高齢者同居)
    3. 例3:集合住宅(地下駐車場あり)
    4. 例4:盛土の新興住宅地(小中学生のいる家庭)
    5. 例5:山間部に通勤する単身者
  9. Q&A(よくある疑問)
  10. 用語辞典(やさしい言い換え)
  11. まとめ:色は“迷わない段取り表”にする

まず押さえる要点:色=今すぐ決めること

色は“危険の濃さ”ではなく“決断を遅らせられる余地”

濃い色ほど、遅らせられる時間が少ないという意味です。色が一段上がったら、やることを一段前倒しに切り替えます。逆に色が一段下がっても、準備は解かないのが原則です(ぶり返しに備える)。

右往左往を防ぐ「3本柱」

1)どの色で何をやめるか(外作業・車移動・見回り)。
2)どの色でどこへ行くか(在宅上階・近隣高所・指定避難所)。
3)誰が誰に知らせるか(短文・定刻・二重化)。

家の“弱いところ”は色の一段手前で対処

崖下・沢筋・盛土・裏山が近い家、古い擁壁や石積みがある家は、表示色より一段早く動きます。夜間・高齢者・乳幼児・車いす・要介護など移動に時間がかかる家族も同様です。

色別・動きの優先(総合表・家族掲示用)

表示色の目安今すぐやめる今すぐやる移動の目安
黄色系(注意)斜面側の外作業・裏山側の見回り排水口清掃・情報確認・非常用荷物の肩掛け在宅待機でよいが徒歩避難先を確定
赤系(警戒)車移動・河川横断・買い出し在宅上階へ移動、カーテン閉、玄関にライト・笛・連絡カード近隣高所明るいうちに避難開始
紫系(危険)屋外全般・車の回収・ペットの捜索命を守る行動(上階・高台・避難)・頭部保護ためらわない避難。徒歩優先、両手を空ける
黒系(極めて危険)すべて(屋外移動含む)上階の内側で退避、斜面から最遠の部屋へ原則避難完了済み。やむを得ない移動のみ短距離で

合言葉:色が一段上がる=**「やめる・やる・行く」**を一段前倒し。


自宅と地域の“崩れやすさ”を見極める(面・線・点)

面:地形と土質(ひろがる弱点)

  • 台地の縁・扇状地・盛土造成地雨が集まりやすい保持が弱い
  • 粘土質水を含むと重くなり崩れやすい砂質早く流れる
  • 埋め立て・切土と盛土の境は水の通り道になりやすい。

線:沢筋・水路・谷地形(集中する弱点)

  • 細い谷や人工水路と斜面の接点は崩れやすい。
  • 裏山の斜面に雨で刻まれた溝がある家は一段前倒しで退避。
  • 川の曲がり・合流・狭い谷は水位変化が急。

点:擁壁・石積み・切土の角(局所の弱点)

  • 古い擁壁・控え壁のない高い石積みは要注意。
  • 雨が噴き出す・地面や擁壁の音が変わるなどの前触れは即退避
  • 電柱や樹木の傾き・根元の土の洗掘も危険サイン。

我が家の弱点チェック表(記入式)

該当あり/なし具体地点色が上がった時の行動
最低標高の通り・盆地底上階・内側の部屋へ移動
沢筋・水路沿い・合流点徒歩で近隣高所へ
擁壁・石積み・切土角擁壁付近に近寄らない

作図のコツ:紙地図に丸(面)・線・点を書き込み、危険の順位を家族で決めておく。


色別に“やめる・やる・行く”を決める(詳説)

黄色系(注意):準備の完了ライン

  • やめる:斜面側の庭仕事、裏山側の見回り、河川敷の運動。
  • やる排水口・側溝の清掃非常用荷物の肩掛け携帯の充電家族グループの短文連絡(例:「黄→排水口清掃完了」)。
  • 行く:在宅上階の斜面から最も遠い部屋を再確認。避難靴懐中電灯を枕元へ。

赤系(警戒):外に出る用事は中止へ

  • やめる:車での迎え・買い物、川沿いの移動、ペットの散歩。
  • やるカーテンを閉め、窓から離れた場所に座る。ヘッドライト・笛・連絡カードを玄関へ。ブレーカー位置・ガス元栓を家族で共有。
  • 行く徒歩で行ける高所(学校・集会所・寺社の高台)へ明るいうちに避難開始。高齢者・幼児は先行

紫系(危険):命を守る行動を最優先

  • やめる:車の回収・ペットの探し回り・荷物の追加。
  • やる2階以上・斜面反対側の部屋へ移動。枕・布団・ヘルメットで頭部を保護。扉を閉めて間仕切りを増やす。
  • 行く:徒歩で近隣高所へ。靴は滑りにくい運動靴両手は空ける(肩掛けひとつ)。

黒系(極めて危険):屋外移動は原則中止

  • やめる:屋外全般。車での避難は不可
  • やる上階の内側で退避、斜面から最遠の部屋で身を低く。停電に備えライト確保。
  • 行く:原則として前段階で避難完了。どうしても移動が必要なら建物沿い・短距離・人数最少で。

色別・家族の役割分担(記入式)

役割担当締切
側溝清掃・荷物肩掛け・充電1時間以内
在宅上階への移動・連絡すぐ
徒歩避難・隣家への声かけ直ちに
上階内側で待機・人数確認直ちに

兆候を見逃さない:目・耳・足・においのサイン

目で見るサイン

  • 斜面や擁壁のひび・ふくらみが広がる。
  • 地面から水が噴く/濁り水が増える
  • 小石や落ち葉が急に流れ始める泥の筋が伸びる。

耳で聞くサイン

  • ゴロゴロ・ミシミシといった低い音。
  • 水路の轟音が急に大きくなる/鈍い破裂音がする。

足・においで感じるサイン

  • 地面の振動や傾き、歩くとぬかるみが深くなる
  • 泥くさいにおいが強くなる。
  • 玄関ドアの開閉が急に重い(建物がわずかにゆがむ)。

一つでも当てはまれば、色に関係なく即退避。判断は早すぎるくらいでちょうど良い

兆候→直行動の対応表

兆候直ちにやること
擁壁のふくらみ・ひび拡大擁壁側に近寄らず、反対側の上階へ
地面からの湧水・濁りブレーカーを切る準備、徒歩避難開始
轟音・振動・破裂音建物内の内側に集合、最短で高所へ
泥の筋が家の方へ延びる玄関を閉め、裏側から退避開始

夜間・高齢者・車いす・通学時の実務(細則)

夜間は一段早く(視界と時間の不利)

  • 赤→紫の切り替え前に在宅上階近隣高所へ。
  • 足元灯・ヘッドライト・笛を玄関に。非常連絡は短文で。
  • 徒歩避難は明るいうちに決断するのが原則。

高齢者・車いす(移動に時間が必要)

  • 黄色系の段階で準備完了赤系で退避開始
  • 玄関椅子・持ち上げない移乗・スロープで動線を単純化。
  • 介助は二人短文合図(「立ちます→立ちます」「止まります→止まります」)で統一。

乳幼児・妊婦・ペット

  • 抱っこひも・キャリー両手を空ける
  • 粉ミルク・水・簡易食玄関の肩掛け袋に常備。
  • ペットは首輪・名札・リード探し回らないのが安全に直結。

通学・通勤(時間帯が重なる場合)

  • 学校・会社の基準前日夕方に確認。
  • 帯状の強雨が接近する時間帯は見合わせ
  • **代替(在宅・時間差・遠隔)**を先に決める。

避難先・持ち物・連絡運用:迷わない仕組み

避難先は“近くて高い”から決める

  • 第一:自宅の上階・斜面から最遠の部屋
  • 第二徒歩10分以内高所の建物
  • 第三:地域の指定避難所(距離・高低差・夜間の安全を確認)。
  • 経路斜面の上側を避け、建物沿いを選ぶ。橋のたもとは避ける。

在宅上階避難のつくり方(家の中の安全地帯)

  • 窓から離れた部屋耐力壁に近い位置を選ぶ。
  • カーテン閉・家具の転倒防止・扉を閉めて間仕切りを増やす。
  • ヘルメット・毛布・水を常備。

持ち物は肩掛け1つに集約

  • 薬・連絡カード・貴重品
  • 懐中電灯・予備電池・笛
  • 飲料水・小さな行動食。両手を空けるのが原則。
  • 携帯の充電器(小型の蓄電池)。

出る前の安全処置(余裕があれば)

  • ブレーカーを落とす/ガス元栓を閉める。
  • 窓と雨戸を閉め、をかける。
  • 玄関の水の通り道を確保。

連絡は短文・定刻・二重化

  • 短文:「上階へ移動」「徒歩で高所へ」など。
  • 定刻:00分・30分に状況共有。
  • 二重化:携帯の短文メッセージ+電話、停電時はラジオで補完。
  • 家族外への連絡落ち着いてから(家族の合図を最優先)。

避難先・持ち物・連絡の記入表

項目第一候補第二候補備考
避難先徒歩分・高低差
連絡先固定回線/携帯
持ち物肩掛け1つに集約

復旧時の安全:二次災害を避ける

帰宅・点検の順番

1)足元の安全(ぬかるみ・滑り・流木)。
2)電気・ガス・水の確認(異常があれば専門へ)。
3)擁壁・石積みの変化、地面の段差の有無。
4)屋内の傾き・ドアの開閉の重さ。

片付け時の装備

  • 長靴・手袋・ヘルメット・ゴーグル・厚手の服
  • マスクで泥の粉じんを吸い込まない。
  • 単独作業を避け、声を掛け合う

感電・再崩落・感染の回避

  • 水に浸かった電気器具は触らない。
  • 崩れた斜面には近寄らない(二次崩落)。
  • 手洗い・消毒を徹底し、けがは早めに処置

ケーススタディ:5つの家の判断

例1:崖下の平屋(家族3人)

黄色系で側溝清掃と荷物肩掛け。赤系で上階がないため近隣の高所明るいうちに避難。紫系の前に全員到着が目標。

例2:台地の縁にある2階建て(高齢者同居)

黄色系で玄関スロープ設置・玄関椅子。赤系で2階の内側へ移動。紫系なら徒歩で寺社の高台へ。合図は短文二度

例3:集合住宅(地下駐車場あり)

黄色系で地下封鎖準備。赤系で地下閉鎖・中層駐車へ移動。紫系は上階の内側で待機。黒系到達前に避難完了が原則。

例4:盛土の新興住宅地(小中学生のいる家庭)

黄色系で学童の迎えを前倒し。赤系で在宅上階+近隣の高所を同時に確保。紫系前に家族全員集合→徒歩で高所へ

例5:山間部に通勤する単身者

黄色系で車は前日から高台へ。赤系で通勤は取りやめ在宅上階へ。紫系なら徒歩で近隣の高所へ。


Q&A(よくある疑問)

Q1. 赤系から紫系に急に変わった。間に合う?
A. 在宅上階→近隣高所の二段階で。屋外長距離の移動は避け、まず建物内の安全側へ。

Q2. 仕事でどうしても出る必要がある。
A. 赤系以上は原則中止。やむを得ない場合、最短・高所側の道だけ、徒歩+合図装備で。

Q3. ペットはどうする?
A. 命優先キャリー・首輪・水を玄関に。探し回りはしないことが飼い主の安全に直結します。

Q4. 車での避難は?
A. 土砂・冠水・渋滞の危険が高いので徒歩が基本。どうしても必要なら黄色系の段階で安全地へ移動済みに。

Q5. 情報が多すぎて混乱する。
A. 色→行動表家族の役割表にしぼり、00分・30分に短文で共有。音声通話は最後の手段に。

Q6. 雨が弱まった。片付けに出てもいい?
A. ぶり返し二次崩落が怖い。色が一段下がっても準備は解かない。外作業は明るい時間帯のみ、複数で。

Q7. どこに車を停めておけば良い?
A. 高台・中層の立体駐車場が無難。地下・谷底・崖下は避ける。

Q8. 近所で「安全らしい」と聞いた。信じて良い?
A. うわさでは動かない。家族の基準(色→行動表)で判断し、公式の発表自宅周辺の兆候を優先。


用語辞典(やさしい言い換え)

土砂災害警戒情報:雨で崖や斜面が崩れやすくなったことを知らせる情報。
在宅上階避難:家の上の階・斜面から遠い部屋へ移動して身を守る方法。
盛土:土を盛って作った地盤。水に弱いことがある。
沢筋:山や丘の水が集まる細い谷
擁壁:土が崩れないよう支える壁。古いもの・高いものは注意。
がけ崩れ:斜面の表面の土や石が短時間で崩れ落ちること。
土石流:山の谷や沢を土砂と水が一気に流れ下る現象。速度が速い。
地すべり:斜面の深い層がゆっくり動く現象。雨が長く続くと起きやすい。
控え壁:擁壁を後ろから支える出っ張り。無いと力に弱い。
透水性:水を通しやすいかどうかの性質。


まとめ:色は“迷わない段取り表”にする

土砂災害は、迷いが積み重なるほど危険が増します。色が一段上がるたびに、やめる・やる・行くを一段前倒し——この段取りを家族で共有し、短文・定刻・二重化の運用で確実に動かしましょう。夜間・高齢者・崖下は一段早く。最終目的は、いつでも命を守る行動に即切り替えられることです。

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