停電は「どれくらい発電できて、何をどれだけ動かせるか」の見える化で不安が減ります。本ガイドは、太陽光発電(屋根/ベランダ/持ち運び)+蓄電池(家庭用/ポータブル)を前提に、日照・方位・傾き・影を読み解き、重要負荷の優先順位→一日の運転台本→悪天時の節電段階までを数値と手順で整える実務書です。比較表・早見表・チェックリスト・Q&A・用語辞典付き。
1.非常時出力計画の考え方|全体像を先に決める
1-1.三段構えの基本方針(昼→夕→夜)
1)昼:発電が主役。まず蓄電へ充電し、余剰で家事(炊飯/洗濯/湯沸かし)をまとめて実行。
2)夕:日没前に残量(SoC)点検。夜に備え放電上限を設定。
3)夜:重要負荷だけを運転(冷蔵・照明・連絡・扇風機)。電子レンジ/電熱は原則使わない。
1-2.“重要負荷”の定義と優先順位(迷わない順)
- 命に関わる:医療機器、乳幼児や薬の冷蔵。
- 安全・情報:照明、スマホ/ラジオ/無線、充電。
- 衛生・生活:扇風機、炊飯、湯沸かし、短時間の洗濯。
優先は「命→情報→衛生→快適」。家族で合意して紙に固定し、非常時に議論しない。
1-3.“1日運転台本”の型(印刷して冷蔵庫へ)
朝:残量_%/天気_(快晴/薄曇/雨)→ 目標充電_%
昼:家事(炊飯/洗濯/湯沸かし)集中→ 余剰で通信充電
夕:残量再点検→ 夜の放電上限_%/電子レンジ禁止
夜:照明+扇風機のみ/就寝前:残量_%(40%切らない)
1-4.72時間と7日間の設計(段階的に強くする)
- 最初の72時間:1〜1.5kWh/日を目標(照明・通信・冷蔵の維持)。
- 7日まで:食事は非電気の選択肢(水戻し・固形燃料)を増やし、電力は通信と冷蔵へ集中。
2.日照・方位・傾き・影|発電量を読み解く
2-1.方位と傾きの目安(屋根・ベランダ)
- 南向きが基本。東/西は午前/午後に強み。北向きは大幅減(係数0.6前後)。
- 傾きは**緯度±10°が目安。都市部ベランダは15〜30°**の緩い角度が扱いやすい。
方位×傾きによる発電係数(南=1.00の概算)
方位/傾き | 10° | 20° | 30° | 40° |
---|---|---|---|---|
南 | 0.97 | 1.00 | 0.98 | 0.94 |
東 | 0.86 | 0.88 | 0.89 | 0.87 |
西 | 0.86 | 0.88 | 0.89 | 0.87 |
北 | 0.55 | 0.60 | 0.62 | 0.61 |
※ 年間の概算係数。季節/気温/汚れで変動。
2-2.温度・汚れ・影の影響(現実値のコツ)
- 温度上昇で出力は低下(夏の屋根は高温)。風通しと裏面の空気層で抑える。
- 汚れ・ほこりは朝夕の柔らかい布で軽く拭う。水が貴重な時は乾拭き+ブロワ。
- 部分的な影でも直列接続は大きく落ちる。並列や影に強い接続を検討。
2-3.天気別の発電目安(1kWパネル/1日)
天気 | 夏 | 春/秋 | 冬 | 備考 |
---|---|---|---|---|
快晴 | 4.0〜5.5kWh | 3.5〜4.5kWh | 2.0〜3.0kWh | 温度/影で上下 |
薄曇り | 2.0〜3.0kWh | 1.5〜2.5kWh | 1.0〜1.8kWh | 反射光が効く |
雨天 | 0.3〜0.8kWh | 0.2〜0.7kWh | 0.1〜0.5kWh | 最低限運用 |
2-4.コントローラと配線の基本(落とさないために)
- 太陽→蓄電は**最大電力点追従(MPPT)**が有利(難しい言葉だが、より上手に取り込む装置)。
- 配線の太さ/長さで損失。短く太く、端子の緩みゼロ。
- 屋外ケーブルの防水、足に引っかけない導線を徹底。
3.負荷(家電)の設計|何Whをどれだけ動かすか
3-1.家電の消費早見表(一般家庭の例)
機器 | 消費電力のめやす | 1時間の電力量 | 非常時の使い方 |
---|---|---|---|
冷蔵庫(中型) | 70〜150W(平均) | 70〜150Wh | 開閉を減らし間欠運転 |
炊飯器 | 300〜700W | 300〜700Wh | 昼の高発電帯にまとめ炊き |
電気ポット | 700〜1000W | 700〜1000Wh | 保温しない→魔法びんへ |
電子レンジ | 1000W前後 | 1000Wh | 短時間・単独使用のみ |
扇風機 | 20〜40W | 20〜40Wh | 夜の熱中症対策に有効 |
LED照明 | 5〜10W | 5〜10Wh | 必要部屋のみ |
洗濯機 | 200〜500W | 200〜500Wh | 正午前後に短時間 |
スマホ充電 | 5〜10W | 5〜10Wh | 昼に集中充電 |
ノートPC | 20〜40W | 20〜40Wh | 省電力設定で |
ルーター | 6〜12W | 6〜12Wh | 復電までは親機テザリングも |
3-2.“昼稼働・夜温存”の家事スケジュール(例)
- 炊飯・洗濯・湯沸かしは10:00〜14:00に集中。
- 冷蔵庫は昼に温度を下げて蓄冷、夜は開閉最小。
- 夜は照明+扇風機中心、電子レンジ/電熱は原則停止。
3-3.必要蓄電容量の簡易算出(計算の型)
1日の使用予定電力量(Wh)=各機器の**(消費W×使用h)**の合計
必要蓄電容量(Wh)=1日の使用予定×悪天係数(1.3〜1.8)
例:合計1200Wh/日、悪天係数1.5 → 1800Wh以上を確保
3-4.“同時使用禁止”リスト(ブレーカを守る)
- 電子レンジ+電気ポット
- 炊飯器+ドライヤー
- 洗濯機(脱水)+電子レンジ
瞬間の合計Wが連続出力を超えないよう、時間で分ける。
4.機器構成と運転モード|停電時の動かし方
4-1.構成パターン別の使い勝手
構成 | 例 | 強み | 注意点 |
---|---|---|---|
家庭用蓄電池+屋根パネル | 5kW+7kWhなど | 自動切替・重要負荷回路が使える | 設定で非常時優先を確認 |
ポータブル電源+ベランダパネル | 200W×2+1kWh | 設置が簡単、持ち出し可 | 天気に左右、配線保護を厳守 |
両方併用 | 屋根+ポータブル | 冗長性が高い | 充電の優先順位を決める |
4-2.充電・放電の優先順位(推奨型)
1)日中:パネル→蓄電池(80〜90%で止める設定があれば活用)
2)日中の余剰:**家事(炊飯/洗濯/湯沸かし)**に回す
3)夜間:重要負荷のみに放電(冷蔵・照明・連絡)
4-3.“交流と直流”の使い分け(ロスを減らす)
- 直流(USB/車の口)は変換ロスが少ない。スマホ/LEDは直流優先。
- **交流(家庭用コンセント)は便利だがロス10〜15%**を見込む。
- 延長コードは太く短く、耐荷重を守る。
4-4.安全の基本(絶対に守る)
- 屋内で発電機を使わない(一酸化炭素)。
- 逆流(作業員側へ電気が戻る)を起こさない。分電盤の工事は有資格者のみ。
- 雨天の屋外接続部は防水+足元の段差養生。
5.今日から作れる“我が家の出力計画”
5-1.わが家の発電・蓄電シート(記入例付き)
項目 | 記入欄 | 記入例 |
---|---|---|
パネル枚数・合計W | ____W | 400W×2=800W |
方位・傾き | ____ | 南20° |
日照の良い時間 | ____ | 10:00〜14:00 |
蓄電容量 | ____Wh | 1024Wh |
充電方式 | ____ | 太陽+AC(復電時) |
重要負荷 | ____ | 冷蔵/照明/通信 |
同時禁止の組合せ | ____ | レンジ+ポット 等 |
5-2.1日運転台本(貼り付け用テンプレ)
朝:残量_%/天気_ → 目標充電_%(80〜90)
昼:炊飯/洗濯/湯沸かし集中→ 通信・照明を満充電
夕:残量再点検→ 夜の放電上限_%(40以上)
夜:照明+扇風機/電子レンジ禁止/就寝前に残量記録
5-3.悪天時の節電メニュー(段階表)
段階 | 残量/天気 | 対応 | 備考 |
---|---|---|---|
A | 快晴・残量>70% | 通常運用、昼に家事集中 | 余剰で湯→魔法びんへ |
B | 薄曇・残量40〜70% | 電子レンジ中止、洗濯短縮 | 冷蔵開閉を減らす |
C | 雨天・残量<40% | 炊飯中止(水戻し)・照明最小 | 連絡は文字中心 |
5-4.“月1メンテ”チェック(5分で完了)
- パネルの固定/汚れ、配線の緩み/破損。
- 蓄電池の充放電テスト(20分だけ)。
- 非常用テーブル(本書の表)を最新に更新。
Q&A|よくある疑問と答え
Q1.雨が続くとどれくらい動かせる?
1kWパネルで0.3〜0.8kWh/日が目安。蓄電容量を厚めに見て、食事は火器や水戻しに切替。
Q2.冷蔵庫は止めずに運用できる?
開閉を減らし、昼に温度を下げて蓄冷、夜は間欠運転で持たせる。
Q3.炊飯器と電気ポット、どちらを優先?
炊飯器は総量が大きいが短時間で昼集中、電気ポットは保温しない運用なら有効。
Q4.電子レンジをどうしても使いたい
正午前後の発電ピークに単独で短時間。同時使用はしない。
Q5.方位が北向きしか取れない
係数0.6前後を想定。枚数増設や日中の家事集中で補う。
Q6.ポータブル電源だけでも効果はある?
ある。小型パネルでも昼の充電→夜の照明・通信に回すだけで安心感が変わる。
Q7.パネルを窓際に立てかけても大丈夫?
転倒防止と日射の角度に注意。落下防止の固定と反射の近隣配慮を必ず。
Q8.家族がつい電気を使いすぎる
段階表を冷蔵庫に貼り、C段階に入ったら電子レンジ・電熱の封印を全員で共有。
用語辞典(やさしい言い換え)
蓄電容量(Wh):電気をどれだけためられるか。1000Wh=1kWh。
出力(W):一度にどれだけの機器を動かせるか。
変換ロス:直流↔交流の切替で失われる分。
重要負荷回路:停電時に優先的に電気を回すための家の回路。
間欠運転:つけたり止めたりして電気を節約する動かし方。
最大電力点追従(MPPT):太陽から上手に取り込む装置の仕組み。難しい言葉だが、より多く充電できると覚えればOK。
まとめ|数字で迷いを減らす
非常時は感覚に頼らない。方位・傾き・天気で発電の上限を見積もり、家電のWhで使い道を決め、1日運転台本で家族の動きをそろえる。今日、わが家の発電・蓄電シートを埋めて冷蔵庫に貼る。段階表/同時禁止リストを加えれば、誰が見ても迷わない運転ができる。