留守番の安全は「準備8割・当日2割」。 思いつきの口頭指示ではなく、決めた手順を紙と端末に残すことで、子どもは迷わず行動できる。
この記事では、年齢別の許可範囲、連絡の型、家のゾーニング、禁止事項、想定外への備えを一体で設計する方法を、家庭でそのまま使える文章と表で詳解する。目的は、一人の時間を危険なく、自信の芽を育てる時間に変えること。誰が読んでも同じ行動がとれるよう、台本(スクリプト)・貼り紙・チェック表まで用意した完全版だ。
1.全体設計と年齢別の目安——「できること」を明文化する
1-1.年齢別の留守番時間と許可範囲(目安)
年齢や個性で幅はあるが、段階的に増やすのが安全。 はじめは10〜15分の短時間から試し、成功体験を積んで少しずつ延ばす。 以下はあくまで目安。家庭の事情に合わせて上限時間は親が必ず決める。
年齢目安 | 連続時間 | できること(許可) | 禁止の例 |
---|---|---|---|
小1〜小2 | 10〜30分 | 玄関施錠確認・トイレ・手洗い・テレビ視聴 | 火気・料理・ベランダ・来客対応 |
小3〜小4 | 30〜60分 | 電話の受発信・軽食の取り出し(冷蔵庫) | ガス使用・入浴・鍵の持ち出し忘れ |
小5〜小6 | 60〜120分 | 電子レンジの温め・宿題・簡単な洗濯物取り込み | 換気扇OFFでの調理・外出 |
中学生 | 120分〜 | 簡単な調理(IH)・近所への短時間買い物 | 長時間の火気・人を家に上げる |
ミニテストで準備度を確認
□ 帰宅→施錠→手洗い→連絡 の順を言える/実演できる
□ 住所を番地まで言える/画面で見せられる
□ 110番・119番の使い分けを説明できる
□ 電子レンジの安全操作(停止・取り消し)ができる
1-2.「家ルール」をドア裏と端末に常設する
玄関の内側にA4一枚で貼り、同じ内容を端末のメモにも入れる。大文字・短文・三行以内/項目が読み返しやすい。帰宅→施錠→手洗い→連絡→宿題の固定ルーティンは太字で示し、絵アイコンを添えると速く理解できる。**合言葉(家族だけが知る言葉)**を紙の裏面に記し、助け先にだけ共有する。
1-3.親の準備——当日の配置と見える化
鍵の定位置、非常ボタンの位置、非常食の置き場を写真つきで紙に。Wi‑Fi名とパスも貼っておくと連絡が確実になる。ブレーカー位置・消火具の場所は矢印マークで示し、マンションは管理室・非常階段の位置も追記。ペットがいる家はケージ/ゲートの使い方を図解し、餌やりは留守番中は行わないを原則にする。
2.連絡手順を型にする——迷ったら紙どおりに動く
2-1.連絡先カードを作る(冷蔵庫に貼る)
**「誰に、何で、どの順番で」**を固定する。不通時の次善先まで書き、電話・メッセージ・ビデオ通話の優先順位も明記。カードは月1で見直し、変更箇所に日付を入れる。
呼び先 | 連絡手段 | 目安の文例 | 不通時 |
---|---|---|---|
おうち(保護者) | 通話/メッセージ | 「○○です。いま家に着きました」 | 5分後に祖父母へ |
祖父母・近所の助け先 | 通話 | 「お母さんに連絡つきません。○○が一人です」 | 10分後に別の助け先へ |
学校(学童含む) | 通話 | 「○年○組○○です。連絡がつかず不安です」 | 近所の助け先へ |
110番/119番 | 通話 | 「住所は○○。○○が起きました」 | 可能なら保護者へ報告 |
通話台本(貼り出し用)
「もしもし、わたしは 氏名、学年 です。住所 は ○○市○○町○丁目○番。いま家で一人です。(火事/けが/不審者) です。助けてください。 切らずに指示をください。」
2-2.報告のタイミングと内容
到着時/予定変更時/異変発見時/就寝前の4タイミングで短文報告。既読がつかない時は5分待ち→助け先へ。写真で状況を送る練習もしておくと、説明が苦手でも伝わる。
報告テンプレ(例)
「到着・施錠・手洗い・宿題開始・軽食○○時予定。体調△、異常なし」
2-3.つながらない時の3段階
1)5分待ち再発信 2)助け先へ 3)危険なら110番/119番。**“危険か迷う時は安全側”**を合言葉にする。停電・通信障害に備え、固定電話の使い方・近所の助け先までの徒歩ルートも紙で残す。
3.家のゾーニングと禁止事項——触る場所を減らす
3-1.安全ゾーン/注意ゾーン/禁止ゾーン
色で分けると覚えやすい。 例:緑=安全(リビング・学習机)/黄=注意(キッチン・洗面)/赤=禁止(火元・ベランダ・工具)。赤ゾーンへ一人で入らないを徹底する。オートロックの集合住宅は共用部に一人で出ない、エレベーターに知らない人と乗らないも明記。
3-2.玄関・来客対応の固定台本
インターホン越しでの完結が鉄則。 ドアは開けない。宅配は置き配固定、受け取りサインは原則しない。
台本A(知らない人):
「いま手が離せません。後で保護者が連絡します。 失礼します。」台本B(宅配):
「置き配でお願いします。 サインは 後ほど保護者が連絡します。」
3-3.キッチン・水回りのライン
火は使わない。電子レンジは台本どおり。 入浴は保護者がいる時のみ。 洗濯機はチャイルドロック、浴槽の栓は抜いておく。 ベランダは全面禁止が基本。
禁止事項チェック表(貼り出し用)
場所 | やってはいけないこと | 代わりにどうする? |
---|---|---|
玄関 | 知らない人に対応・ドアを開ける | インターホンのみ・置き配 |
キッチン | ガス火・包丁 | レンジで温める・カット済み食品 |
ベランダ | 乗り出す・身を乗り出して洗濯物 | 室内干し棒を使う |
窓 | 身を乗り出す・鍵を開ける | カーテンを閉めるだけ |
共有部 | 勝手に外出 | 窓際で保護者の連絡を待つ |
4.食事・電気・ネット——「安全に済む型」を最初に決める
4-1.食事の型(温めのみ運用)
冷蔵庫の「留守番棚」にラップ済み軽食・飲み物を置き、電子レンジに番号シール(例:「1=30秒」「2=1分」)を貼る。火は使わない、油は使わない、熱い容器はふきんで持つ。のどを詰まらせない一口サイズを基本にし、食物アレルギーは表示つき容器で混同を防ぐ。
留守番タイムテーブル(例)
時刻 | 行動 | 備考 |
---|---|---|
帰宅〜5分 | 施錠・手洗い・報告 | 玄関の貼り紙どおりに動く |
〜30分 | 宿題・読書 | 画面時間は使わない |
〜60分 | 軽食・休憩 | 温めのみ/水筒の飲み物 |
〜終了 | 片付け・就寝前報告 | 明日の準備チェック |
4-2.電気・停電・ブレーカー
停電になったら落ち着いて待機。 懐中電灯の置き場所とブレーカーの位置を図で示す。感電の恐れがある水漏れを見たら近づかない。ガス臭い時は火気厳禁・換気扇は回さない・窓を少し開ける・連絡までを台本化する。
停電時の連絡テンプレ
「停電です。家は安全。懐中電灯あり。ブレーカー位置は把握。待機します。」
4-3.ネットと端末の使い方
動画は○分まで・ゲームは○分までの画面時間を先に決め、終わったら次の予定(歯みがき・明日の準備)に自動で移れるタイマー連動を使う。知らない人からの連絡は返さない。顔・住所・学校名は送らない。位置情報の共有はOFFにする。
留守番セットの置き場所表
品目 | 置き場 | メモ |
---|---|---|
連絡先カード | 冷蔵庫 | 変更時は上書き |
懐中電灯 | 玄関・リビング | 電池は半年ごと交換 |
予備鍵(室内) | 目立たない場所 | 家族だけの合言葉で共有 |
軽食 | 冷蔵庫上段 | 名札シールで取り違い防止 |
常備薬 | リビング棚 | 用量・服用時間を明記 |
5.想定外への備えと訓練——「自動で動ける」まで練習
5-1.緊急時の行動フロー
火事・地震・不審者・体調不良の4ケースを台本化し、玄関と冷蔵庫に貼る。
1)危険を避ける(火から離れる・低い姿勢・ドアを開けない)
2)助けを呼ぶ(110/119→保護者→助け先)
3)安全な場所にとどまる(玄関から外に出ない・集合場所への移動など家の方針に統一)
110番・119番の言い方(要約版)
「住所 は ○○。氏名・学年 は ○○。何が起きたか は ○○。ケガ人 は(いる/いない)。一人 です。指示をください。」
5-2.家の中の「避難三角」を決める
倒れにくい家具のそば・柱の近く・低い机の下など、安全帯を家族で確認。夜間の停電時は足元灯で動線を確保。マンションは非常階段の経路と集合場所も地図で示す。
5-3.ロールプレイ訓練のやり方
週末に10分、台本を読み上げ→実演→振り返り。成功をほめるのが定着の近道。**「迷ったら安全側」**を合言葉にし、タイマーで時間管理する。感覚過敏や注意の切替が難しい子には、絵カードや色分けを多用すると効果的。
トラブル別・最初の一手(貼り出し用)
できごと | 最初の一手 | 次の一手 |
---|---|---|
地震 | 机の下・頭を守る | おさまったらガス確認・連絡 |
火の煙 | 低い姿勢・口を覆う | 119番・玄関は開けない |
体調不良 | 横になり水分 | 連絡カード順に通話 |
不審者 | ドアを開けない・返事しない | 110番・近所へ助け要請 |
家族内役割(例)
保護者A=一次連絡/保護者B=バックアップ/祖父母=駆けつけ担当/近所Aさん=一時避難先
Q&A(よくある疑問)
Q:何歳から留守番してよい?
A:家庭や子の成熟度次第。まず10〜15分の試行から。成功を重ねて時間を延ばす。夜間は日中より短く設定する。
Q:兄弟での留守番は?
A:**役割(施錠・連絡・時計係)**を分けるとスムーズ。ケンカ時の距離のとり方(別室・5分クールダウン)も決めておく。
Q:電話が苦手。
A:定型文を紙に。読み上げでOK。「○○です。家にいます。○○が起きました」。写真送信やスタンプ合図も併用する。
Q:ゲームが止まらない。
A:タイマーを親がセットし、終わったら次の予定(歯みがき・入浴準備)を紙に。端末はリビング限定にする。
Q:宅配が来た。
A:置き配のみ。受け取りサインはしない。玄関は開けない。在宅を悟られない返答を練習する。
Q:鍵をなくした。
A:外に出ないで助け先へ連絡。合言葉で室内の予備鍵の場所を確認。予備鍵の屋外保管はしない。
Q:体調が悪くなった。
A:横になり水分、体温を測る、保護者へ連絡。改善しなければ119番へ。
用語辞典(平易な言い換え)
連絡先カード:誰に何で連絡するかをまとめた紙。
ゾーニング:家の中を安全・注意・禁止に分けること。
留守番棚:冷蔵庫に作る子ども用の取り出し棚。
画面時間:動画やゲームなど端末を見る時間の合計。
避難三角:倒れにくい家具の周りにできる安全な空間。
合言葉:家族だけが共有するキーワード。身元確認に使う。
まとめ
留守番の安全は、紙の台本×家の見える化×短時間からの練習で作られる。年齢に合った許可範囲を決め、連絡手順を固定し、赤ゾーンに入らないことを徹底する。今日、玄関裏に家ルールを1枚貼り、冷蔵庫に連絡先カードを置き、10分のロールプレイを行おう。子どもは決められた道筋があるほど、落ち着いて行動できる。