停電・浸水・落雷・粉じん流入の後にいきなりスイッチを入れるのは厳禁です。内部に水分やほこり、破損が残ったまま通電すると、発煙・発火・感電・再故障の危険が一気に高まります。
本ガイドは、家庭でできる安全確認→乾燥・清掃→段階通電→動作確認→再点検を、機器の種類別に落とした実務マニュアルです。必要な道具、記録の残し方、家族への周知テンプレ、保険・修理の境界線まで、**今日から使える“通電前チェック”**としてお役立てください。
要点先取り(まずここだけ)
- 濡れ・結露の疑いが少しでもあれば通電しない。 乾燥目安は48〜72時間、倒れた冷蔵庫は直立6〜12時間待機。
- 通電は短く・弱く・一つずつ。 単独口で弱運転1〜3分→停止点検→通常運転。
- 焦げ臭・白煙・異音・局所高温のどれか一つでも出たら即停止→抜く→離れる。
- 延長コードのタコ足・細線×。 試験は直差しかスイッチ付短尺延長。
- 記録を残す。 日時・乾燥時間・弱運転時間・異常の有無・担当者を表に記入し、次回点検へつなげる。
0.被害状況別の初動:何が起きたかで手順が変わる
0-1.停電のみ(浸水・落雷なし)
- まずブレーカーの状態を確認し、分岐OFF→主幹ON→分岐を一つずつON。
- 家電は**重要度順(照明→冷蔵庫→通信機器→その他)**で単体試験。
0-2.浸水・雨漏り・結露が疑われる
- 分解せず外装と配線を乾燥。風通しの良い日陰で48〜72時間。
- 塩分を含む水(海水・融雪剤)がかかった場合は清水で拭き洗い→乾燥。
0-3.落雷・過電圧の疑い
- サージ保護タップが焼損・作動痕を示す場合は機器より先にタップを交換。
- 電源投入は情報機器から最後にする(先に冷蔵庫・照明)。
1.通電前の“絶対条件”と準備
1-1.安全三原則(満たせないなら通電禁止)
- 濡れ・結露の可能性が残る → 通電しない(最低48〜72時間の乾燥)。
- 焦げ臭・異音・破損を認める → 専門修理へ(テスト対象外)。
- アース・漏電遮断器の確認未了 → テスト不可。
1-2.用意する道具
- スイッチ付延長(短尺・太線)、単独口。
- 漏電遮断器(ブレーカー)の位置図と試験ボタンの扱い方メモ。
- 非接触温度計、タイマー、明るい懐中電灯、軍手/保護メガネ。
- 乾いた布・綿棒・綿棒用アルコール、ドライヤーの冷風、掃除機(ほこり吸い)。
1-3.場の整え方(姿勢と置き方)
- 可燃物を30cm以上離す(壁・カーテン・紙箱)。
- 足元を乾かす、水気のある雑巾は撤去。
- 片手操作(もう片手は背中・ポケット)で感電経路を作らない。
- プラグは水平にまっすぐ、浮き差し禁止。
2.乾燥・清掃・目視点検:通電前の下ごしらえ
2-1.乾燥の基準と時間目安
状況 | 乾燥方法 | 目安時間 | 補足 |
---|---|---|---|
表面が濡れた | 乾拭き→日陰で送風 | 24〜48h | 差込口は綿棒→冷風 |
内部に結露の疑い | 日陰・送風・上下面を開放 | 48〜72h | 家具から外し熱がこもらない位置へ |
倒れた冷蔵庫 | 直立して待機 | 6〜12h | 冷媒オイル戻り待ち |
海水・泥水 | 拭き洗い→送風乾燥 | 72h | 塩分・泥の除去が先 |
2-2.清掃の要点
- ほこり・油汚れは発火の引き金。吸い取り→拭き取り→乾拭きの順。
- 吸気口・放熱口(冷蔵庫裏・電子レンジ側面・PC底面)にほこりの固まりがないか。
- 電源コードの汚れは固く絞った布→乾拭きで仕上げ。
2-3.目視点検チェックリスト
- 電源コード:ひび割れ、折れ跡、発熱痕。
- プラグ:変形、黒ずみ、緩み。
- 筐体:割れ、へこみ、水跡。
- におい:焦げ臭、薬品臭。
- 動作部:ファンやベルトの異常、埃絡み。
3.段階通電の手順:弱→短時間→単機
3-1.ブレーカー復帰の順番
1)主幹OFFのまま各分岐をOFF。
2)主幹ON→重要回路(照明・冷蔵庫)から順に1回路ずつON。
3)異音・臭い・遮断の有無を1分観察。
3-2.家電単体テストの流れ
1)直差し(単独口)。
2)電源OFFのままプラグ挿入→スイッチ入り切りで瞬時反応を確認。
3)弱運転/低出力で1〜3分。
4)停止→手・鼻・耳の三感で再点検(温度・臭い・音)。
5)問題なしなら通常運転5〜15分へ。
3-3.異常徴候と即時中止の基準
- 焦げ臭/金属臭/白煙。
- 触れないほどの熱、局所だけ熱い。
- ブレーカー再遮断、警告表示。→即停止・プラグ抜き・離れる。
3-4.温度・時間の目安(家庭向け)
機器 | 弱運転の例 | 初回時間 | 通常運転延長 | 触れたときの目安 |
---|---|---|---|---|
冷蔵庫 | 省エネ運転 | 5分 | +10〜15分 | 背面「じんわり」程度 |
洗濯機 | 槽洗浄・空回し | 3分 | +5分 | 異音・水漏れゼロ |
電子レンジ | 水入りコップ短時間 | 30秒 | +30〜60秒 | 匂い正常 |
エアコン | 送風 | 10分 | +10分(冷/暖) | 室外機の音安定 |
4.種類別:主要家電の通電テスト要点
4-1.冷蔵庫・冷凍庫
- 設置:背面放熱スペース5cm以上、水平。
- 流れ:電源投入→コンプレッサー音確認→庫内灯・表示確認→15分後背面がじんわり温かいか。
- 注意:倒れていた場合は直立6〜12時間待機後に通電。
4-2.洗濯機(全自動・ドラム)
- 排水・給水:ホースの割れ・詰まり。
- 流れ:電源ON→空回しで回転音と水漏れ→給水→排水各3分。
- 注意:防振ゴムずれ、排水口逆流。
4-3.電子レンジ・電気ケトル・トースター
- 清掃:庫内の水分・油を除去。
- 流れ:レンジは水の入ったコップを短時間→湯気と異音確認。ケトルは半分の水で1サイクル。
- 注意:延長コード不可、焦げ臭で即停止。
4-4.エアコン(室内機・室外機)
- 前準備:フィルター清掃・水抜き、室外機の落下物除去。
- 流れ:送風10分→冷房/暖房に切替→ドレン排水の確認。
- 注意:結露水の逆流、室外機の異音。
4-5.パソコン・ルーター・テレビ
- 前準備:電源ユニット周辺のほこり除去。
- 流れ:PCは起動→ファン音・異臭確認、ルーターは風通し確保、TVは映像・音・リモコンの反応を確認。
- 注意:バックアップは起動直後に。
4-6.IH調理器・電子ポット・炊飯器
- 前準備:鍋底の水分拭き、底面センサーの汚れ除去。
- 流れ:低出力で1分→鍋底の温度上がりを確認→停止→通常運転へ。
- 注意:底面の焦げ付き・樹脂の変形は使用中止。
4-7.換気扇・空気清浄機・除湿機
- 前準備:フィルター清掃、ほこり吸い。
- 流れ:弱運転で1〜3分→回転音がスムーズか確認→通常運転。
- 注意:水受けトレーのカビ・水漏れ。
4-8.掃除機・ドライヤー・電動工具
- 前準備:吸気口・フィルターのごみ除去。
- 流れ:弱運転で1分→焦げ臭・火花**(大きいスパーク)**の有無を確認。
- 注意:カーボンブラシすり減りは専門点検へ。
4-9.照明・充電器・電池機器
- 前準備:口金・差込口の乾拭き。
- 流れ:短時間点灯→熱や匂い→通常点灯。
- 注意:粗悪な充電器は発熱・異臭の恐れ、使用中止も選択肢。
5.記録・周知・再点検:家族で守る運用
5-1.通電記録シート(最低限の項目)
日時 | 機種名 | 場所 | 乾燥時間 | 清掃済 | 初回弱運転 | 異常有無 | 対処 | 担当 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
10/7 14:00 | 冷蔵庫 | キッチン | 48h | ◯ | 15分 | 無 | – | A |
5-2.家族への掲示テンプレ
- 「通電前に声かけ」ルールを紙にして冷蔵庫に貼る。
- 危険サイン表(焦げ臭・白煙・異音・高温)を見える場所へ。
- 子ども・高齢者が勝手に電源を入れない工夫(プラグ抜き・ブレーカーOFF)。
5-3.再点検のタイミング
- 初回テストの24時間後に再触診・再嗅覚・再聴覚。
- 1週間後にねじの緩み・異音の再発を確認。
- 季節家電は使用前の年1回、このシートで予備点検。
5-4.修理・廃棄の判断ライン
- 水が入った痕跡(錆・白い結晶・水跡)が基板周辺に見える→通電せず修理・廃棄。
- 電源コードの芯見え・プラグの変形→即交換。
- 塩分水に浸かった可能性が高い→清水で拭き洗い→十分乾燥でも不安なら専門へ。
6.トラブルの兆候と初動(早見表)
兆候 | あり得る原因 | 初動 | 次の一手 |
---|---|---|---|
焦げ臭・白煙 | 配線ショート・油汚れ発火 | 即停止・抜く・離れる | 自然鎮火後に外装確認、専門へ |
金属臭・うなり音 | モーター・コンデンサ異常 | 停止・冷却 | 通電再開せず修理相談 |
局所高温 | ほこり詰まり・接触不良 | 停止→吸い取り・清掃 | 改善しなければ専門へ |
ブレーカー落ち | 漏電・過電流 | 分岐を切り分け | 漏電遮断器の試験→業者手配 |
点滅・ちらつき | 接触不良・安定器劣化 | 電源OFF→口金清掃 | 改善なければ交換 |
通信機器が不安定 | サージ・過熱 | 再起動・冷却 | 電源装置交換・配線見直し |
チェックリスト(印刷用)
- 乾燥は48〜72時間を満たした
- プラグ・差込口を綿棒+冷風で仕上げた
- 吸気口・放熱口のほこりを除去した
- 直差し/短尺延長で試験した(タコ足×)
- 弱運転→停止→通常運転の順を守った
- 三感チェック(温度・におい・音)を実施した
- 記録表に日時・時間・異常を記入した
Q&A(よくある疑問)
Q1.乾いたように見えるが、すぐ使って良い?
A. 目視だけでは不十分。48〜72時間の乾燥を待ち、プラグと差込口は綿棒+冷風で仕上げます。
Q2.延長コードで試して良い?
A. スイッチ付・短尺・太線の延長で単独口なら可。タコ足・細線・巻き取りのままは厳禁です。
Q3.ブレーカーが何度も落ちる。
A. 分岐ごとに切り分けて原因を特定。漏電の可能性があるため再試験禁止のうえ専門へ。
Q4.PCや冷蔵庫の中身が心配。
A. PCは起動直後にバックアップ。冷蔵庫は庫内温度の回復を待ち、生鮮の安全性を確認して判断。
Q5.見た目が無事でも不安。
A. 音・におい・温度の三感チェックを短時間で。違和感が一つでもあれば停止→相談。
Q6.サージ保護タップは再使用できる?
A. 焼け跡・変形・作動表示がある場合は交換。無傷でも落雷後は交換推奨です。
Q7.洗濯機に泥水が入った。
A. 通電せず排水口周りの泥を取り除き→乾燥。不安なら専門点検へ。
Q8.エアコンから水が垂れる。
A. ドレン詰まりの可能性。停止→排水口清掃。改善しなければ業者へ。
用語辞典(やさしい言い換え)
漏電遮断器:漏電を感じると自動で電気を切る装置。
弱運転:機器の最小出力で動かすモード。
直差し:延長やタコ足を使わず壁のコンセントに差すこと。
触診・嗅覚・聴覚チェック:手の温度感・におい・音で異常を探る基本点検。
サージ:落雷などで起こる一時的に高い電圧。機器を傷める。
ドレン:エアコンなどの排水管。
まとめ:通電は“短く・弱く・一つずつ”
通電テストは短時間・低出力・単独運転が鉄則です。乾燥→清掃→目視→段階通電→再点検の順を守れば、火災・感電・再故障の危険は大きく下げられます。家族で声かけルールと記録シートを共有し、今日の復旧を安全第一で進めましょう。