要点先取り:命を守るのは“情報の二重化×3拠点分散×更新習慣”
まず決めるのは「誰が、何を見て、すぐ行動できるか」
災害時に最初に必要なのは正確な服薬情報と連絡先を1ページで提示できること。家族・救護者・薬局のどれが見ても今すぐ投薬と連絡が再開できるよう、紙・画像・クラウドの三重バックアップを基本にする。医師・薬剤師の指示が最優先であり、帳票は伝達と再開の橋渡しだと位置づける。
3拠点分散(家・職場/学校・携帯)の原則
家(玄関下段)/職場や学校(机の一段目)/携帯(スマホと財布)に、同じ内容の簡易版シートを配備。古い版が出回らないよう、毎月の更新日を固定して差し替える。家族カードに最終更新日と差替え担当者を記入。
リスク別の優先度(まず何を印刷するか)
リスク | 先に印刷する項目 | 補足 |
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服薬が複数・変更が頻回 | 要点サマリー1枚 | 誤投与防止が最優先 |
注射/吸入など手順が必要 | 発作・緊急手順カード | 図解・太字の手順 |
アレルギー/禁忌あり | 赤枠の禁忌欄 | 1行目に大きく表記 |
デバイス使用(血糖/酸素) | 設定表 | 電池・センサーの数も |
帳票化のゴール
- 救護者が1分で理解できる要点サマリー。
- 薬局がそのまま入力できる薬剤一覧。
- 家族が手順通りに補充できる在庫・受診・問い合わせ表。
- 更新・廃版管理が誰でも再現できる運用ルール。
帳票テンプレートの作り方|1枚で全体像、2枚目で詳細、付録で運用
1枚目:要点サマリー(救護・家族向け)
- 氏名・生年月日・血液型・主治医・かかりつけ薬局
- 診断名(簡潔)・禁忌薬・アレルギー
- 現在の内服一覧(朝/昼/夕/寝前)と頓服
- 緊急連絡先(家族・主治医・薬局)
- 発作時の対応・注射/吸入の手順(太字・番号で)
2枚目:詳細(薬局・医療者向け)
- 薬剤名(一般名/製品名)・用量・用法・開始日・変更履歴
- 過去の副作用・中止理由
- 自己注射・在宅酸素などデバイス設定
- 最新検査値(直近6か月)(可能な範囲で)
付録:運用ページ(家族・本人向け)
- 在庫表・受診予定・処方切れ時の行動
- 電池・センサー在庫、保管温度の注意
- 更新チェックリストと差替え手順
用語は“短く・平易に”
「心臓の薬(頻脈)」「血圧の薬(朝一回)」のように家族が読み上げられる言い換えも併記する。医療名は残しつつ、現場で誤解が生まれない言い換えを心がける。
記載例と表|このまま転記して使える(書式の見本)
要点サマリー記入例(1枚目)
項目 | 記載例 |
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氏名/生年月日 | 山田 太郎/1975-05-12 |
主治医・診療科 | 佐藤内科 医師 佐藤健 |
かかりつけ薬局 | ひまわり薬局(03-1234-5678) |
診断名 | 高血圧、気管支ぜんそく、花粉症 |
アレルギー | ペニシリン(発疹) |
禁忌薬 | β遮断薬(ぜんそく増悪のため) |
緊急連絡先 | 妻:山田花子 090-xxxx-xxxx |
発作時の対応 | ゼーゼー→吸入2回→改善なければ救急要請 |
内服・頓服一覧(1枚目向け)
時間帯 | 薬剤(一般名/製品名) | 用量/用法 | 用途の言い換え |
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朝 | アムロジピン(アムロジン) | 5mg 1錠 | 血圧の薬 |
昼 | なし | — | — |
夕 | モンテルカスト(キプレス) | 10mg 1錠 | ぜんそく予防 |
寝前 | ロラタジン(クラリチン) | 10mg 1錠 | 花粉症 |
頓服 | サルブタモール吸入 | 1回2吸入 | 苦しい時 |
詳細(2枚目向け)
薬剤名(一般/製品) | 量 | 用法 | 開始 | 変更履歴 | 副作用・中止理由 |
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アムロジピン/アムロジン | 5mg | 朝1 | 2024/11 | 2025/02 増量検討 | 浮腫軽度 |
モンテルカスト/キプレス | 10mg | 夕1 | 2023/04 | — | — |
ロラタジン/クラリチン | 10mg | 就寝前1 | 2025/01 | — | 眠気ややあり |
サルブタモール吸入 | 規定量 | 発作時 | 2022/07 | 2024/03 吸入指導 | 動悸時休止 |
検査・デバイス欄の例
項目 | 値/設定 | 日付 | メモ |
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血圧(家庭) | 128/78 | 2025/09 | 朝夕2回平均 |
HbA1c | 5.8% | 2025/08 | — |
PEF(ぜんそく) | 420L/分 | 2025/07 | 黄色域で吸入追加 |
吸入器設定 | 規定 | — | スペーサー併用 |
家族役割分担(更新・受診・在庫)
役割 | 担当者 | 頻度 | 内容 |
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更新担当 | 親(A) | 毎月1日 | PDF更新・差替え |
在庫担当 | 親(B) | 毎週日曜 | 錠数チェック・補充連絡 |
受診同行 | 祖父母 | 受診日 | メモの追記と伝達 |
3重バックアップの作り方|紙・画像・クラウド+差替え運用
紙:停電・電池切れでも読める
- A4版(2枚)を透明ポケットに入れて玄関下段へ。
- A6版(1枚)を財布・防災ポーチへ。
- 色分け:本体は白、子どもは水色、高齢家族は薄黄など家内で統一。
- 赤枠でアレルギー・禁忌を囲む。
画像:スマホで即提示
- スマホの写真に**「医療」アルバム**を作り、要点サマリーの写真を先頭に。
- ロック画面メモに**「お薬手帳→写真→医療」と一言。緊急時に家族でも提示**できる。
クラウド:離れていても共有
- 家族グループでPDFを共有。更新日は毎月1日に固定。
- ファイル名はYYYYMM_氏名_服薬で統一し古い版はアーカイブ。共有権限は家族のみに限定。
更新運用のコツ(院外・院内のズレ防止)
- 受診日に変更点を赤ペンで紙へ追記→帰宅後にPDF更新→三拠点差し替え。
- 月末チェックで在庫と次回受診日を家族カードへ記入。
- 古い紙は破棄、クラウドは**“old”フォルダへ移動**。
個人情報の守り方(必要十分の掲載)
- 最低限の識別情報(氏名・生年月日)に絞り、住所や詳細既往は必要時に提示。
- スマホは画面ロック・生体認証、クラウドは家族グループのみ。
- 財布のA6版は封筒型ケースで外から読めないように。
在庫・受診・緊急時の運用|“誰でも回せる”仕組みを数で決める
在庫表(家族が見ても分かる)
薬剤 | 1日の回数 | 残数 | 残日数 | 補充タイミング |
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アムロジピン5mg | 1 | 24錠 | 24日 | 残10日で補充 |
モンテルカスト10mg | 1 | 14錠 | 14日 | 残7日で補充 |
ロラタジン10mg | 1 | 20錠 | 20日 | 残10日で補充 |
サルブタモール吸入 | 頓用 | 2本 | — | 1本未満で補充 |
受診・処方切れ時の手順(掲示用)
1)帳票の1枚目を持参。
2)主治医が不在→診療所名の近隣医療機関へ連絡。
3)薬局が休止→別薬局へ。お薬手帳PDFを提示。
4)禁忌・アレルギーは最初に口頭で伝える。
緊急携行セット(外出ポーチ)
- A6要点サマリー、頓服(ぜんそく・片頭痛など)、人工涙液/保湿、使い捨て手袋、メモとペン。
- 血糖測定器や自己注射は予備電池・針も小分け。寒冷地は電池を内ポケットで保温。
デバイス系の停電対策・保管温度
デバイス/薬 | 注意点 | 代替・運用 |
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インスリン | 高温・凍結NG | 保冷剤+断熱袋、日陰保管 |
自己注射 | 針の破損・衛生 | 針予備、シャープス容器代替に硬質ボトル |
在宅酸素 | 電源確保 | 予備バッテリ・避難所の電源位置確認 |
災害タイプ別の配慮(地震・水害・停電)
災害 | 先にやること | 避けること |
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地震 | 眼鏡・帳票を玄関下段から回収 | 家具周辺の滞留 |
水害 | 帳票を防水袋へ移す | 低い棚・床置き |
停電 | 紙版が主力と再確認 | スマホ頼みの運用 |
症状別の追加欄サンプル|現場で迷わない短文指示と“見える化”
ぜんそく(色:青)
- 息苦しい・ゼーゼー→吸入2回→10分で改善なければ救急要請。
- 冷気で悪化→マスクで温める。
- 家族へ:発作の時刻と回数をメモ。
糖尿病(色:緑)
- 低血糖:ブドウ糖タブレット15g→15分後再測。
- 針・センサーの予備は三拠点。
- 食事が遅れる時は主治医の指示票を確認。
てんかん(色:紫)
- けいれん:頭を守る→時間を測る→5分超で救急要請。
- 頓用薬の置き場は家族で共有。
アナフィラキシー(色:赤)
- 全身じんましん・息苦しさ→自己注射→救急要請。
- 食物・薬の禁忌リストを赤枠で強調。
妊娠・授乳中/小児・高齢の特記事項
区分 | 配慮 | 記載例 |
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妊娠中 | 服薬可否の最新指示 | 産科の指示日付を書く |
授乳中 | 投与タイミング | 授乳前/後の目安を記載 |
小児 | 体重と用量 | 体重更新日を明記 |
高齢 | 飲み忘れ対策 | 朝・昼・夕の仕切りケース利用 |
Q&Aと用語辞典|迷いをなくす最後の1枚
よくあるQ&A
Q1.薬の一般名と製品名、両方必要?
A.必要。薬局や地域で表記が違うことがあるため、どちらでも照合できるようにする。
Q2.家族に医療の言葉が難しい。
A.言い換えを併記。例:降圧薬(血圧の薬)、気管支拡張薬(息を楽にする)。
Q3.更新を忘れる。
A.毎月1日に固定し、冷蔵庫のカレンダーにチェック欄を作る。差替え担当も決める。
Q4.スマホが壊れたら?
A.紙が主力。玄関下段のA4と財布のA6で代替できるようにしておく。
Q5.個人情報が心配。
A.紙は家族だけが分かる場所へ。スマホは画面ロック、クラウドは家族グループ限定で共有。
Q6.主治医が変わった/休診が続く。
A.帳票の連絡先を即更新。近隣の受入医療機関の連絡先も予備欄に追加。
Q7.薬が急に変わった。旧名しか分からない。
A.一般名を併記していれば同等薬の照合がしやすい。
用語辞典(やさしい言い換え)
- 一般名:薬の成分名。場所が変わっても同じ。
- 製品名:薬の商品名。薬局によって違うことがある。
- 用量・用法:どれだけ・いつ飲むか。
- 禁忌:使ってはいけない条件や薬。
- 頓服:症状が出た時だけ飲む薬。
- 在庫:手元に残っている数。
- PEF:息の勢いの指標(ぜんそくの目安)。
- デバイス:測定器や吸入器などの器具。
- 家族カード:更新日・置き場・担当者をまとめた紙。
まとめ
1枚目の要点サマリー+2枚目の詳細+付録の運用ページを紙・画像・クラウドで三重に持ち、家・職場/学校・携帯の三拠点に分散する。
受診日に赤ペン追記→PDF更新→差し替えの流れを毎月の習慣にすれば、誰が見ても1分で正しく動ける服薬体制が整う。今日からテンプレを写して、家族分を玄関下段にそろえ、更新担当・在庫担当を決めて運用を回すところまで一気に進めよう。