楽しい一日は“退く準備”から。 本稿は、海水浴・釣り・サーフィン・海沿い散歩などの海辺レジャーで、津波避難を迷わず実行するための実務ガイドです。
出発前の設計、現地到着15分のルーティン、揺れ・引き波・サイレンの初動、高台ルートの歩き方、持ち物と家族別運用、そしてQ&Aと用語辞典までまとめました。さらに本版では、潮位と時間帯の見方、港・堤防・砂浜での違い、夜間の視認性向上、ペット同行時の工夫も加えて、現地で即使える密度に拡張しています。
1.出発前の準備と判断:地形・警報・合流を“言葉にする”
1-1.行き先の地形を3色で塗り分ける
- 赤(危険):砂浜の背後に川・運河・低地が続く場所。津波は川をさかのぼる。橋と堤防の切れ目は最優先で避け、橋は渡らず登るを基本にする。
- 黄(注意):海沿いの商店街・港湾。建物はあるが路地が細い。車は使わず徒歩が原則。倉庫や塀の倒壊物にも注意。
- 緑(安全寄り):海から見て“高い場所が近い”海岸。高台・丘陵・津波避難施設までの分単位距離を地図に書き、最短2本の代替ルートを線引きしておく。
地形×時間帯×潮位のリスク早見表
地形 | 朝の満ち潮 | 昼の引き潮 | 夕方の満ち潮 |
---|---|---|---|
砂浜(背後低地) | 高 | 中 | 高 |
堤防(川合流) | 高 | 中 | 高 |
海食崖・丘のふもと | 中 | 低 | 中 |
1-2.“行かない”判断のしきい値
- 津波注意報/警報が出たらレジャーは中止。情報が微妙でも滞在を短縮し、波打ち際に近づかない。
- 遠くの地震の情報がある日は海岸線の長い浜を避ける。高台が遠い浜は見送り。
- 家族連れ・体力不安がある場合は階段・スロープが近い浜だけを候補にする。
1-3.合流と連絡を10秒で伝えられる文にする
- 集合1:海の家の裏・道路側/集合2:最寄り神社の石段下。屋外で段差がある場所を優先。
- 短文メッセージ定型:「今○○浜。揺れ→集合1→10分後集合2。返信不要。」
- 紙の連絡カード:氏名・連絡先・集合1→2をA6サイズで全員が所持。
出発前チェック表(印刷用)
項目 | 決めごと | 実施 |
---|---|---|
高台の方向と分数 | ○○神社へ徒歩5分 | □ |
集合1→集合2 | 海の家裏→神社石段下 | □ |
車は使わない | 徒歩・自転車のみ | □ |
家族別の役割 | 先導/連絡/荷物 | □ |
代替ルート | 坂道A・坂道B | □ |
2.現地到着15分ルーティン:見て、数えて、置き換える
2-1.海から背を向けた“退き写真”を撮る
- 海→背中の方向にある高台・階段・坂を写真2枚。曲がり角の色や看板も入れる。停電・混雑でも思い出せる目印になる。
- 港・堤防では階段・非常はしご・スロープの位置を近景+遠景で撮る。
2-2.高台までの“分数”を人数別に決める
- 大人ふつう:100m=1分、子ども/高齢:100m=2分を目安に。最遅の人で所要分を決める。
- 荷物は置き換え:水・身分証・連絡カード以外は車か海の家に預ける。両手を空ける。
2-3.集合1→集合2の“段差ある場所”を選ぶ
- 石段・スロープなど高さが感じられる場所を集合2に。屋内は避ける(崩落・閉じ込め回避)。
- 津波避難施設・避難タワーがある場合は施設名と入口の色を覚える。
到着15分チェック表
分 | 行動 | チェック |
---|---|---|
+0 | 写真(退き写真) | 目印入り2枚 |
+5 | 高台までの分数 | 大人/子どもで設定 |
+10 | 集合1→集合2共有 | 文面を短文メッセ化 |
+15 | 荷物を軽くする | 水・身分証・連絡カードのみ |
3.津波避難の初動と高台ルート:揺れ・引き波・サイレンに迷わない
3-1.“迷わず動く”3合図
- 強い揺れを感じたら:その場で低く→頭を守る→揺れが止んだら即移動。海は見に行かない。
- 引き波が急に強い/海面が下がる:地震がなくても即避難。波の様子を見ない、写真や動画を撮らない。
- サイレン・広報:集合1→10分で集合2。返信不要の一方通行連絡で迷いを減らす。
3-2.歩き方と列の作り方
- 前後で押し合わないよう横一列→2列へ切り替え。子どもは内側、大人が外側を歩く。
- 坂は外側に体を向け、足裏フラット→親指付け根で荷重。濡れた白線・金属板は避ける。
- 階段は手すり側を優先、追い越し禁止。
3-3.車・自転車は“置いていく”が原則
- 車は渋滞と閉じ込めの危険が高い。鍵は付けたまま邪魔にならぬ場所へ停めて離れる。
- 自転車は人の流れに入れない。押して歩くか置いていく。
場所別・退避ルートの選び方
場所 | 第一選択 | 第二選択 | 避けるべき |
---|---|---|---|
砂浜 | いちばん近い坂・階段 | 海から背を向けて直線で高台 | 海沿い平行移動 |
堤防 | 階段・スロープで内陸へ | 高台への道路 | 堤防上を走る |
港湾 | 倉庫街を抜けて丘へ | 鉄道駅の橋上へ | 細い路地の奥 |
兆候→初動テンプレ
兆候 | 3秒で | 30秒で | 3分で |
---|---|---|---|
強い揺れ | 低く→頭守る | 集合1へ移動 | 集合2へ移動 |
引き波/海面低下 | 後ろを見ず背を向ける | 坂へ入る | 高台到達・再集合 |
サイレン | 短文送信 | 列を2列に | 人数点呼 |
4.持ち物・装備・家族別運用:軽く、目立ち、手を空ける
4-1.最小装備(ポケットだけで逃げ切る)
- A6連絡カード(氏名・連絡先・集合1→2)。
- 少額現金・身分証(胸ポケット)。
- 小型ライト・反射材(夜間)。笛があると人混みで知らせやすい。
4-2.家族・グループの役割分担
- 先導:最遅の人に速度を合わせペース管理。
- 連絡:定型文送信と人数点呼。返信を待たない運用。
- 荷物:水と救急小物のみ。両手を空ける。
4-3.子ども・高齢者・妊婦・車いす・ペットの配慮
- 子ども:手首バンド・明るい帽子で視認性UP。迷子札を内側に。
- 高齢者:段差の少ないスロープを優先。休憩は短く回数多く。
- 妊婦/車いす:最短かつ緩い傾斜を選び、押し手役を事前に決める。
- ペット:短いリードで人の外側に。抱っこ紐は両手が空く形にする。
目的別・持ち物表
目的 | 最優先 | 次点 | あると安心 |
---|---|---|---|
夜間 | 反射材・小型ライト | 笛 | 予備電池 |
長距離 | 水・塩分 | 帽子 | 絆創膏 |
子連れ | 連絡カード | 迷子札 | 小さなおやつ |
ペット同行 | 短いリード | うんち袋 | 小型給水器 |
5分ドリル(現地で練習)
1)退き写真を撮る→2)高台まで歩く分数を計り引き返す→3)集合1→2の短文を全員で送る。
5.Q&Aと用語辞典:迷いを減らす“言葉の備え”
5-1.Q&A(よくある疑問)
Q1.高台が遠い浜しかない。どう計画する?
A.最初から滞在時間を短くし、階段・スロープ・神社・学校など段差のある施設を必ず2か所確認。潮位の高い時間帯は避ける。
Q2.サイレンが聞こえない/情報が遅い地域では?
A.合言葉は「揺れ→背を向ける→上へ」。引き波だけでも避難。見に行かないが鉄則。
Q3.車で逃げるのは絶対ダメ?
A.原則徒歩。やむを得ず車を使うときは広い道路のみ、逆走しない、早めに高台の駐車場へ。人優先を徹底。
Q4.観光で土地勘がない。
A.到着直後に退き写真を撮り、“分数”で距離を共有。集合1→2の一方通行連絡で迷いを断つ。
Q5.子どもが怖がって動かない。
A.合図は「手を上げて右へ寄る」の短い言葉。先に大人が動くと歩きやすい。
Q6.夜の海で停電していたら?
A.****反射材・小型ライトを全員が持ち、街灯のない道は明るい幹線へ回す。広い駐車場の出入口を目印に。
Q7.外国語が通じない観光地では?
A.****地図に印を書いて見せるのが早い。神社・学校・病院など分かりやすい言葉を使う。
5-2.用語辞典(やさしい言い換え)
- 引き波:津波の前ぶれで海の水が急に沖へ引くこと。見に行かず背を向ける。
- 退き写真:海に背を向けた方向の避難目印入り写真。停電でも思い出せる。
- 集合1/集合2:はぐれた時の二段階の合流点。10分差で移動。
- 一方通行連絡:返信不要の短文を全員が同じ言葉で送ること。判断の遅れを防ぐ。
- 津波避難施設:高台の代わりとなる高い建物や塔。入口の位置と色を覚える。
まとめ:背を向ける勇気がいのちを守る
揺れ・引き波・サイレンのどれか一つで迷いなく背を向け、上へ。退き写真・分数・集合1→2を到着15分で整えれば、家族でも一人でも同じ動きができます。潮位と時間帯を念頭に、最短2本の高台ルートを用意。海辺の楽しさは、退く準備が支えています。