浸水・強風・地震の直後に山のように出る災害ごみは、通常のごみと区分・出し方・運び方が大きく異なる。ここで迷うと回収不可や近隣トラブル、けが・感染につながる。本ガイドは、現場で即使えるように分類の軸→仕分けの順番→一時保管のレイアウト→回収/持込み手順→記録と衛生管理までを表と手順で体系化。
さらに災害種別の違い、戸建て/集合住宅の動線づくり、家電リサイクルの実務、掲示・記録テンプレも収録した。印刷して玄関に貼れるチェック表付き。迷ったら公式情報を最優先に、混ぜない・示す・運ぶの三原則で動く。
1.災害ごみの基本分類|迷ったら“材質×危険性×汚染”で見る
1-1.主な分類(臨時ルールで使われやすい区分)
- 可燃系(木・紙・布):畳・木製家具・布団・カーペット・段ボール・濡れた紙類。
- 不燃系(ガラス・金属・陶器/瓦):食器・瓦・ガラス破片・金属部品・鍋。
- 家電・大型(粗大):タンス・ベッド・マットレス・ソファ・電子レンジ・扇風機。
- 危険物(要注意):ガスボンベ・スプレー缶・乾電池・薬品・農薬・灯油・塗料。
- 家電リサイクル品:テレビ・エアコン・冷蔵庫・洗濯機/乾燥機(通常の回収に出せない)。
- 土砂・泥・瓦礫:庭土、泥、コンクリ片、瓦、ブロック、石膏ボード片。
- 混ざり物(汚泥付着):泥まみれの家具・布団・衣類など。
1-2.“材質×危険性×汚染レベル”の見取り表
材質 | 危険性 | 汚染レベル | 主な例 | 置き場の優先 |
---|---|---|---|---|
木・布・紙 | 低〜中 | 高(濡れ/泥) | 畳・布団・段ボール | 乾かして容積減→可燃区画 |
ガラス・陶器/瓦 | 中 | 中 | 食器・窓ガラス・瓦 | 不燃区画(袋は二重) |
金属 | 中 | 低〜中 | 家具金物・工具・鍋 | 不燃区画、先端養生 |
家電(リサイクル対象外) | 中 | 中 | 電子レンジ・扇風機 | 家電区画(コードまとめ) |
危険物 | 高 | 低〜中 | ボンベ・スプレー・薬品 | 危険物区画(日陰・混載不可) |
土砂・瓦礫 | 低 | 高 | 泥・瓦・コンクリ片 | 土砂/瓦礫区画、袋は小分け |
原則:混ぜない・濡れ物は乾かす・尖りは養生。迷う品目は危険側に寄せて扱う。
1-3.“通常ごみでは出せない”代表例(直行禁止)
- テレビ・冷蔵庫・洗濯機/乾燥機・エアコン(家電リサイクル対象)。
- タイヤ・バッテリー・バイク/原付(産業廃棄物や販売店ルート)。
- プロパンボンベ・灯油(供給業者や専門回収)。
1-4.災害種類で変わるごみの特徴(迷いを減らす)
災害 | 出やすいごみ | 注意点 |
---|---|---|
浸水 | 濡れた布団・木製家具・泥 | カビ・悪臭対策。まず外へ出して乾かす |
風害 | 屋根材・枝・ガラス | 飛散防止。尖り部は段ボール養生 |
地震 | 瓦礫・食器破片・家電転倒 | 足元保護と先端養生。家電の通電禁止 |
1-5.“迷った品”の判断メモ
- 臭い・油・薬品が付着:危険物側で仮置き→相談。
- 金属と木が混在:分解できる範囲で分ける(ねじ・金具は不燃)。
2.仕分けの順番と一時保管|安全・衛生・動線を整える
2-1.初動の安全装備と作業ルール
- 厚手手袋・長袖・長ズボン・底の硬い靴・保護めがね・マスクを着用。
- 釘・ガラスは火ばさみで拾い、厚紙/段ボールで包み**「危険」**と明記。
- 家電のプラグは抜く。濡れた家電は使用禁止(感電・発火防止)。
- 子ども・ペットは離す。作業は二人一組が基本。
2-2.家の中→外へ“動線”を作る(大型から順に)
- 通路確保:玄関〜屋外の直線導線から小物・破片を撤去。
- 大型から出す:畳→布団→ソファ→タンスの順で容積を減らす。
- 濡れた布団・紙は水切り→乾燥で軽量化し、可燃区画へ。
- 金属金具・ガラスは先端養生して不燃区画へ。
2-3.一時保管のレイアウト(敷地内)
区画 | 置き方 | 注意 |
---|---|---|
可燃 | ブルーシート上に積む | 乾燥で容積減、飛散防止 |
不燃 | 二重袋+先端養生 | 子どもが触れない位置 |
家電 | コード束ね貼り紙 | バッテリー外し・絶縁 |
危険物 | 日陰の別区画 | 混載不可、漏れ対策 |
土砂/瓦礫 | 小分け袋(10〜15kg) | 重量オーバー注意 |
2-4.貼り紙テンプレ(手書き用)
- 可燃(濡れ)/不燃(ガラス注意)/家電/危険物/土砂の区名と矢印を大きく。
- 回収予定日・自治体連絡先を記入(見える場所に)。
2-5.作業とけがを減らすコツ
- 持ち上げず“ずらす”:毛布・板・台車で滑らせ搬出。
- 重量分散:小袋・短い束に分ける。土砂は一袋10〜15kgまで。
- 雨天時:飛散・流出防止にひも・重しを追加。
3.回収・持込みの実務|自治体ルールへの合わせ方
3-1.情報の取り方(公式のみを見る)
- 自治体の公式サイト・防災無線・コールセンターで臨時ルール(分別区分・出し方・回収日・臨時集積所)を確認。
- 未確認のうわさ情報は使わない。常に最新発表を優先。
3-2.出し方の基本と頻出ルール
- 透明/半透明袋指定が多い。不透明袋は不可のことがある。
- ガラス・刃物は新聞紙や段ボールで包み表示(「割れ物」「刃物」)。
- 家電リサイクル品は別ルート(収集運搬券・持込み先・料金)を確認。
- 土砂・瓦礫は集積所限定や重量制限がある。袋は小分けに。
3-3.臨時集積所へ持込むときの流れ
- 入口で係員の指示に従い、区分レーンに並ぶ。
- 車は徐行・同乗者は降車禁止。子どもはチャイルドロック。
- 可燃→不燃→家電→危険物→土砂の順で降ろす(会場指示が優先)。
- 書類(受付票)がある場合は氏名・住所・数量を記入し保管。
3-4.戸別回収(路上に出す場合)の要点
- 通行の妨げにならない位置・高さに区分ごとまとめる。
- 雨天時は飛散防止(ひも・重し)を追加。排水口・消火栓はふさがない。
3-5.よくあるルール一覧(現場で確認)
区分 | 袋・結束 | 表示 | 備考 |
---|---|---|---|
可燃 | 透明袋/ひも結束 | 「可燃」 | 濡れ物は水切り後 |
不燃 | 二重袋 | 「不燃」「割れ物」 | 先端養生・重量注意 |
家電 | そのまま | 品名・状態 | 乾電池外す・絶縁 |
危険物 | 専用箱/袋 | 「危険物」 | 混載不可・日陰保管 |
土砂/瓦礫 | 小分け袋 | 「土砂」「瓦」 | 一袋10〜15kg目安 |
3-6.当日の動線メモ(簡易フロー)
家の前で区分ごとに仮置き → 車へ積む順を可燃→不燃→家電→危険物→土砂に統一
→ 集積所のレーンに合わせて降ろす → 受付票に記入 → 写真と控えを保管
4.特殊品目の扱い|危険・大型・汚染の三類型
4-1.危険物(火気・毒性・破裂の恐れ)
- ガスボンベ・スプレー缶:穴あけ禁止(破裂・引火防止)。キャップ保護し別区画へ。
- 乾電池・モバイルバッテリー:テープで端子絶縁。特にリチウムに注意。
- 薬品・塗料・農薬・灯油:混ぜない。密閉容器に移し替え、漏れ止め。
4-2.大型ごみ(家電・家具)
- 冷蔵庫・洗濯機・エアコン・テレビ:家電リサイクル対象。収集運搬券や持込みルートを確認。
- ソファ・マットレス:分解で容積減。バネ・金属は不燃へ分別。
- ベッド・タンス:引き出し分離で軽量化、取っ手の尖りを養生。
4-3.汚染度の高い物(泥・下水・油)
- 濡れた布団・カーペット:水切り→乾燥でカビ・臭いを抑え、可燃へ。
- 油が付いた布・紙:広げず一点にまとめ、可燃区画で管理。床の二次汚染に注意。
4-4.木の枝・庭木・破木
- 長さを切りそろえ、ひもで直径30cm以内に束ねる。針金結束不可の地域あり。
- 太い枝は30〜50cmに切って重量分散。とげ・割れは布で養生。
5.記録・衛生・近隣連携|後日の手続きと暮らしを守る
5-1.写真とメモ(保険・支援申請に備える)
- 排出前に、全景→品目→型番/品番の順で日付入り撮影。
- 数量・区分・搬出日時をメモ。受付票・控えは封筒で保管。
5-2.衛生管理(カビ・害虫・悪臭を防ぐ)
- 濡れ物は先に外へ。室内は対角換気+除湿。
- 手袋・長靴は作業後洗浄→乾燥。破片は粘着ローラー→掃除機の順で回収。
- 床・壁は泥の拭き取り→乾燥を優先(強い薬剤は最後に)。
5-3.近隣・管理会社との連携
- 共用部(集合住宅)は管理会社・自治会の指示に従う。廊下・階段に長期放置しない。
- 道路占用が必要な場合は自治体に相談。車両導線と歩行者の安全を確保。
5-4.掲示テンプレ(家族・近隣向け)
- 本日◯時◯分~◯時◯分 災害ごみの搬出作業を行います。
- 可燃/不燃/家電/危険物/土砂は矢印の区画へ。
- 子どもは近づかないようにお願いします。
- 連絡先:_________
付録A|現場チェックリスト(印刷用)
- □ 手袋・めがね・靴・マスクを着用した
- □ 玄関から屋外までの導線を確保した
- □ 可燃/不燃/家電/危険物/土砂の仮置き区画を作った
- □ 濡れた布団・紙を先に外へ出して乾かした
- □ ガラス・刃物は包んで表示した(割れ物・刃物)
- □ 家電の通電を止め、乾電池は外して絶縁した
- □ 土砂は10〜15kgの小分け袋にした
- □ 受付票・写真の記録を残した
Q&A|現場で迷いがちな疑問に答える
Q1.スプレー缶は穴あけして良い?
不可。破裂・引火の恐れ。中身を使い切ったうえで別区画に出す。地域の指示に従う。
Q2.泥まみれの布団は可燃でいい?
可。ただし水切り→乾燥で容積と悪臭を抑えてから出すと回収がスムーズ。
Q3.冷蔵庫やテレビは臨時回収してくれる?
多くの地域で家電リサイクル対象は別ルート。収集運搬券・持込み先・料金を確認。
Q4.ガラスの破片はどう包む?
厚紙・段ボールで覆い、二重袋にして**「割れ物」表示**。無色透明袋が基本。
Q5.土砂はどのくらいの重さで袋詰め?
10〜15kgが目安。過重量は破袋・運搬事故のもと。
Q6.住所・氏名の記入は必須?
会場や時期により受付票への記載が求められることがある。指示に従う。
Q7.薬品がこぼれた容器は?
密閉できる容器に入れ替え、危険物区画へ。混ぜないことが最重要。
Q8.畳や木材が乾かない。どうする?
立てかけ・風通しで乾かし、可燃区画に。長期放置は臭い・害虫の原因。
用語辞典(やさしい言い換え)
臨時集積所:災害時に一時的にごみを集める場所。
家電リサイクル品:テレビ・エアコン・冷蔵庫・洗濯機/乾燥機のこと。通常回収に出せない。
危険物:燃えやすい・爆発しやすい・毒性がある物。混載禁止。
不燃:燃えない素材(ガラス・金属・陶器)中心の区分。
土砂・瓦礫:泥・砂・瓦・コンクリ片など重い残渣。
先端養生:尖った部分を厚紙や布で覆い、けがや袋破れを防ぐこと。
まとめ|“混ぜない・示す・運ぶ”で回る
災害ごみの要点は、混ぜない(材質×危険×汚染で分ける)、示す(貼り紙・表示)、運ぶ(小分け・安全導線)の三つ。これに自治体の臨時ルールを重ね、写真と受付票の記録を残せば、回収は速く、安全も守れる。迷ったら危険側で扱い、公式情報を優先。小さな段取りの積み重ねが、生活再建の近道になる。