空き巣は無計画に動きません。入念な下見(見回り)を行い、「人に見られにくい時間」「侵入に手間がかからない場所」「逃げやすい動線」を見極めてから標的を決めます。裏を返せば、下見をさせない・下見で嫌がらせる環境を作れれば被害の確率は大きく下げられます。本稿では、下見が多い時間帯をランキングで示し、その理由、見抜き方、実際の対策までを今日から動ける手順で詳述。表・チェック表・運用の型まで用意しました。
1. 空き巣が下見をする時間帯ランキング(理由つき)
1-1. 第1位|午前10時〜午後3時(昼間)
在宅率が下がる時間帯。共働き・通学で家が空きやすく、住宅街でも人通りの谷間ができます。配達・点検・検針を装いやすく、門前の様子や視線の抜け方を堂々と観察できるのが理由です。晴天時は洗濯物の有無で不在を読まれやすい点にも注意。
よくある偽装:チラシ配布、アンケート、外壁点検、植木剪定の見積り。
露見リスク:表札・ポスト・犬の有無・インターフォンの反応をまとめて見られる。
1-2. 第2位|深夜2時〜4時(真夜中)
街が最も静まり、物音が目立ちにくい。車の動きも少なく、逃走経路の確認やセンサーの反応を確かめるのに適しています。雨音や風が強い夜は接近音をかき消しやすく、下見が増えやすい傾向。
よくある挙動:低速走行で周回、ライトを絞って停車、外灯前で一瞬停止。
露見リスク:防犯カメラの死角・白飛びを探る、点灯時間の長さを計る。
1-3. 第3位|夕方5時〜7時(薄暮)
日没に重なり、明るさと暗さが交じる時間。在宅確認(照明のつき方)や買い物・送迎で不在になる短時間を計りやすいのが特徴です。部屋の明かりが一定で、日替わりの変化がない家は「パターンが読みやすい家」と見られます。
よくある挙動:ポスト覗き、塀の外からカーテンの透け具合確認。
露見リスク:家族の帰宅ルート・駐車パターンを把握される。
1-4. 第4位|早朝4時〜6時(朝方)
新聞配達や通勤の時間に紛れ、不自然になりにくい。ゴミ出し時の施錠忘れや小窓の閉め忘れを拾いやすい時間帯です。薄暗さで顔認識が甘くなるため、通りからの目も届きにくくなります。
よくある挙動:犬の散歩風を装い周辺を往復、曲がり角で立ち止まる。
露見リスク:裏道・勝手口の位置関係を把握される。
1-5. 曜日・連休・天候による変動
- 曜日:平日昼は増、土日昼は減る一方で日曜夜〜月曜未明は動きが出やすい。
- 連休:旅行不在が読みやすく、前後の夕方に下見が増えやすい。
- 天候:雨・強風は足音や物音が消えやすく、真夜中の下見が増加。
時間帯別・下見の狙い早見表
順位 | 時間帯 | ねらい | よく見る行動 | 注意点 |
---|---|---|---|---|
1 | 10:00〜15:00 | 不在確認・門前観察 | 配達装い、メモや視線を多用 | 表札・ポスト・犬の有無を見られる |
2 | 02:00〜04:00 | 静音確認・逃走路確認 | センサー反応テスト、車で周回 | 外灯と防犯カメラの死角を探す |
3 | 17:00〜19:00 | 在宅確認・短時間不在 | 照明のつき方、カーテン操作を観察 | 送迎や買い物の隙を狙う |
4 | 04:00〜06:00 | 施錠忘れ拾い・足場下見 | 住宅横を通過、裏道の確認 | ゴミ出しで玄関開放に注意 |
2. 下見の手口と見抜き方(玄関・窓・周辺)
2-1. 玄関まわりでの観察
ポストの滞留、表札の見えやすさ、のぞき穴の位置、チャイムの反応をチェックされます。「チラシ配布」「点検」を装い、インターフォンの応答や留守の頻度を測るのが定番です。置き配の山、宅配ボックスの開閉状況も観察対象。
2-2. 窓・裏手での観察
カーテンの運用(昼レース/夜厚手)、ベランダの足場、防犯フィルムの有無を確認。植木・物置・脚立などよじ登りの足場も要チェック。窓のクレセント周りをしつこく見る仕草、網戸を押す素振りは要注意。
2-3. 周辺動線の観察
逃走しやすい路地、車の転回スペース、近隣の見通しを確認。「同じ道をゆっくり何度も通る」、「スマホを見ながら立ち止まる」など時間稼ぎの所作が出やすい。ごみ集積所・公園・コインパーキングなど待機できる場所の位置も見られます。
2-4. マーキングに注意
ポスト口の小さなチョーク跡、塀の目立たないテープ、石を置くなど、合図のような痕跡が続く場合は警戒(自然や子どものいたずらの可能性もあるため、慌てず写真で記録→撤去→様子を見る)。
下見サインの見抜き表
サイン | 具体例 | 警戒度 | すぐやる対策 |
---|---|---|---|
偽装の来訪 | 点検・調査を名乗るが証明が曖昧 | 高 | 玄関外対応・身分確認・録画 |
同一人物の再訪 | 時間帯を変えて数日内に再登場 | 高 | 日誌化・家族共有・通報検討 |
視線が低い | 窓下や鍵位置をしつこく見る | 中 | 視線の先を強化(補助錠・フィルム) |
周回車両 | ゆっくりと同じ区画を数周 | 中 | 車種・色・時刻を記録、近隣共有 |
マーキング | チョーク・テープ・小石など | 中 | 写真記録→撤去→以後の動き観察 |
3. 下見をさせない家に変える(実装ステップ)
3-1. 光と記録で「見られている」空間に
人の動きで点灯する外灯を玄関・駐車場・裏口に配置。影ができない角度で顔と足元を照らし、防犯カメラは顔の高さで逆光にならない方向へ。「防犯カメラ作動中」の表示は目線の高さに貼ります。表札・番地は見やすくし、特定されやすい=逃げにくい心理も与えましょう。
3-2. 生活の見せ方を調整(不在を悟らせない)
タイマー付き照明で夕方〜夜の点灯を作り、点灯時刻は日ごとにばらす。ラジオ小音量で在宅の気配を演出。郵便の一時止めや近隣への受け取り依頼で長期不在のサインを消します。置き配は長時間放置しない運用に。
3-3. 物理強化で「5分の壁」を作る
玄関は高性能シリンダー+補助錠の二重化。窓は補助錠+厚手の防犯フィルムで鍵回しを遅らせる。ベランダや塀の足場(物置・ベンチ・脚立)は撤去し、植栽を剪定して死角を減らす。郵便受け・ドアスコープのすき間対策も忘れずに。
今日→今週→今月の行動計画
期間 | すること | ねらい |
---|---|---|
今日(30分) | 玄関・裏口の明るさ点検、表示シール仮貼り、全戸締まり | 今すぐの抑止 |
今週 | 窓補助錠の取り付け、防犯フィルムの見積、照明タイマー設定 | 5分の壁づくり |
今月 | 外灯の追加、カメラ配置、植栽剪定・足場撤去、近隣連絡網 | 下見を諦めさせる土台 |
4. 時間帯別の重点対策(ねらいに先回り)
4-1. 昼間(10〜15時)対策
玄関先の見通しを確保し、表札・番地を見やすくして「特定されやすい=逃げにくい」心理を与える。宅配ボックスは施錠型、チラシ受けは満杯にならない仕組みに。庭の物の片づけで足場を消す。
4-2. 真夜中(2〜4時)対策
人感外灯の点灯時間は短め(10〜20秒)で十分。照明の角度を斜め横にし、顔が白飛びしないよう調整。録画は自動保存+通知を有効化。車庫のシャッター施錠も忘れずに。
4-3. 夕方(17〜19時)対策
帰宅・買い物の動線を明るくし、玄関は固定弱+人感の併用。カーテン運用(昼レース/夜厚手)で室内の見え方を統一。置き配回収の時間を家族で決める。
4-4. 朝方(4〜6時)対策
ゴミ出し時の開け放しをしない。声かけ当番制で就寝前の全戸締まりを定着。小窓・浴室窓に補助錠を追加。散歩やランニングの時間帯は玄関前の物を出しっぱなしにしない。
時間帯×対策の対応表
時間帯 | よくある狙い | 先回り対策 | 補足 |
---|---|---|---|
昼間 | 不在確認・門前観察 | 表示・外灯・見通し確保 | 表札・番地の可視化 |
真夜中 | 静音・センサー確認 | 短時間点灯・録画通知 | 角度調整で白飛び回避 |
夕方 | 在宅確認・短時間不在 | 固定弱+人感、カーテン運用 | 点灯時刻は日替わり |
朝方 | 施錠忘れ拾い | 小窓補助錠・声かけ習慣 | ゴミ出し中の戸締まり |
5. 住まいの形・家族構成別の優先ポイント
5-1. 一戸建て(通り沿い)
人通りはあるが死角が点在。人感外灯は通行人へ眩しすぎない角度にし、表示は目線の高さへ。駐車場と玄関の動線が見えるよう物の配置を見直す。
5-2. 一戸建て(路地裏・旗竿地)
見張られにくい反面、接近もされやすい。補助錠とフィルムを優先。砂利敷きで足音を出し、表札・番地の明確化で逃げにくい心理を作る。
5-3. 集合住宅(低層階)
ベランダからの接近と共用部の死角に注意。窓補助錠・レール突っ張り、クレセント周りのフィルムを優先。共用灯の不具合は管理へ連絡。
5-4. 集合住宅(高層階)
玄関対策が中心。サムターンカバーと上部補助錠で内側回し対策。宅配の受け取り動線を見直し、置き配の長時間放置を避ける。
5-5. 子ども・高齢者がいる家庭
段差と暗がりを減らし、ブザー誤作動時の止め方を分かりやすく。鍵の所在表を作り、合鍵の扱いを家族で共有。合言葉を決め、知らない相手にドアを開けない教育を徹底。
6. 来訪対応の会話台本(玄関外で完結)
6-1. 身分確認の型
「お名刺・身分証の提示をお願いします。 こちらで確認できるまで扉は開けません」
6-2. 断りの型
「今は対応できません。 必要な場合はこちらから連絡しますので資料をポストに入れてください」
6-3. しつこい時の型
「録画しています。 それ以上は警察へ相談します」
ポイント:玄関の外で完結。チェーン越し対応は避ける(切断されやすい)。録画表示を見える位置に。
7. 緊急時の初動・通報・証拠保全
7-1. 不審者を見たら(安全第一)
無理に近づかず、家の中から施錠を強化。照明を一斉点灯して人目を集め、110番。外に出て追いかけないこと。
7-2. 通報のテンプレート(短く正確に)
- 場所(住所・目印)
- 状況(人物の特徴・行動・向かった方向)
- 危険度(道具の有無・人数)
- 自分の安全(家の中から通報中、施錠済み)
7-3. 証拠を残す
玄関前のやり取りは録画、触れた物はさわらない。カメラの録画保存、時刻の記録、近隣の目撃情報を集める。
7-4. 緊急時カード(冷蔵庫に掲示)
項目 | 記入例 |
---|---|
自宅住所・地番 | ( ) |
最寄り交番・電話 | ( ) |
近隣連絡先 | ( ) |
家族の役割 | 通報( )/照明( )/近所連絡( ) |
非常合言葉 | ( ) |
8. よくある失敗・つまずきと改善策
- 表示ステッカーの色あせ → 季節ごとに貼り替え。雨に強い材質を。
- 外灯の影が濃い → 角度を変え、面で照らす配置に。明るさも調整。
- ブザーの誤作動 → 止め方と再設定を家族で共有、電池交換日をカレンダーに。
- フィルムの端が浮く → 端部圧着と角の処理を再実施。夏場の熱割れに注意。
- 合鍵の所在が不明 → 所在表を作成し、保管箱を導入。
- 置き配の山 → 回収時間を家族で決め、長時間放置しない。
9. Q&A(実務の疑問に短く答える)
Q1. ダミーカメラだけでも効果はある?
A. 抑止の足しにはなります。本物の外灯・表示と組み合わせ、一台は録画可能な実機を設置すると効果が安定。
Q2. 防犯フィルムは薄い物でも良い?
A. 薄手は主に飛散防止。防犯目的なら厚手を選び、四隅の密着と鍵周りの覆いを重視。
Q3. 賃貸でもできる?
A. 貼ってはがせる補助錠、表示・砂利・小型灯など原状回復しやすい策から。管理者へ事前確認を。
Q4. 一人暮らしで最初の3点は?
A. 就寝前の全戸締まり、玄関上部の補助錠、照明タイマー。次に窓補助錠と表示を追加。
Q5. 高齢者のいる家での注意は?
A. 段差と暗がりを減らし、誤作動時のブザー停止を分かりやすく。鍵の所在表を掲示。
Q6. 夜間の外回り点検は危険では?
A. 一人での巡回は避け、家の中から見える範囲を確認。必要なら近隣と時間を合わせて実施。
10. まとめとチェック表(見抜く→防ぐ→習慣化)
10-1. 要点の総括
- 最頻時間帯は昼間(10〜15時)。ただし真夜中・夕方・朝方も油断禁物。
- 下見のサイン(偽装の来訪、同一人物の再訪、周回車両、マーキング)を記録・共有。
- 光(外灯)・記録(カメラ)・表示で見られている雰囲気を作る。
- 補助錠+防犯フィルム+足場撤去で5分の壁を作る。
- 住まい・家族構成に合わせた優先順位で段階的に底上げ。
10-2. 自宅点検チェックリスト(増補版)
項目 | できている | 要改善 | メモ |
---|---|---|---|
玄関・裏口に人感外灯がある | □ | □ | 角度は顔と足元を照らす |
防犯カメラ・表示シールがある | □ | □ | 目線の高さに掲示 |
窓の補助錠と防犯フィルム | □ | □ | 小窓・浴室窓も対象 |
植栽・脚立・物置の見直し | □ | □ | 足場にならない配置 |
タイマー照明で在宅感を演出 | □ | □ | 点灯時刻は日替わり |
郵便の一時止め・チラシ対策 | □ | □ | 滞留させない |
置き配の即回収ルール | □ | □ | 回収担当・時間を決める |
近隣との連絡体制 | □ | □ | 不審者情報を即共有 |
10-3. 30日で整える実行計画
- 1〜7日:表示・点灯角度・全戸締まりの習慣化。
- 8〜14日:窓補助錠・レール突っ張り・郵便一時止めの準備。
- 15〜21日:防犯フィルム導入(小窓→掃き出し窓)、植栽剪定。
- 22〜30日:カメラ設置・連絡網作成・緊急時カード掲示。
最後に:空き巣は**「短時間・無音・人目なし」を好みます。だからこそ、時間をかけさせ、音と光で目立たせ、人の目を増やす。この三本柱を組み合わせ**、今日→今週→今月と段階的に底上げしましょう。下見に向かない家は、狙われにくい家です。