停電後の一杯のぬるま湯には、確かな手順が要る。 本稿は、停電復旧後に家庭用給湯器(ガス・石油・電気貯湯型)の安全確認→初期化→再起動→動作確認を、失敗しやすい順番で解きほぐした実務ガイドです。
ガス・電気・水圧の三条件をそろえ、誤操作による再故障や二次被害を避けるために、指差しチェック表・症状別の対処表・年2回の点検メニューまで収録しました。※機器仕様は家庭ごとに異なるため、異常を感じたら無理をせず専門業者へ。
1.停電復帰の全体像:三条件をそろえる
1-1.三条件=【電気/ガス(または燃料)/水圧】
- 電気:分電盤の主幹ブレーカーON→回路ごと順番にON。コンセントの確実な差し込み・延長コードの焦げ・割れの有無を確認。
- ガス・燃料:ガスメーターの復帰(遮断表示・赤点滅時)、LPガスは元栓開度と減圧器の霜付き、石油ならタンク残量・ストレーナー詰まり。
- 水圧:断水からの回復を確認。元栓・止水栓の開度、ストレーナー(ごみ取り)や循環口フィルタの詰まりを点検。
1-2.復帰前の安全確認(家・人を守る)
- ガス臭・焦げ臭があるときは、換気→元栓閉→退避→連絡。火気・火花・スイッチの操作は避ける。
- 濡れた手で分電盤・プラグを触らない。水濡れ配線は乾燥確認まで通電しない。
- 給湯器まわりの可燃物撤去、給排気口の積雪・落ち葉・巣を除去。換気扇・窓の確保。
1-3.タイプ別の初期状態を知る(期待値を合わせる)
方式 | 代表例 | 復帰の要点 | 注意ポイント |
---|---|---|---|
ガス給湯器 | 都市ガス・LPガス | ガスメーター復帰→通電→操作盤ON | 風呂自動はふろ温度・自動保温の再設定 |
石油給湯器 | 灯油ボイラー | 通電→点火→油圧安定 | タンク残量/フィルタ、エア噛み解消に時間がかかる |
電気貯湯(エコキュート) | ヒートポンプ | 通電→時刻設定→湧き上げ再開 | 満湯まで数時間〜。夜間運転設定の再確認 |
重要:断水中は運転しない(空焚き・故障のおそれ)。水が安定してから実施。
2.手順書:再起動の正しい順番(最短で安全に)
2-1.ステップ0:停電復旧直後の5分(自己診断に任せる)
1)分電盤の主幹ブレーカーON→各回路ブレーカーを順番に入れる。
2)給湯器の専用回路は最後にON(他機器の突入電流を避ける)。
3)室内の操作盤(リモコン)電源はOFFのまま5分待機(自己診断・通信再確立)。
4)屋外機の異音・異臭・水漏れが無いか目視。
2-2.ステップ1:ガス・燃料の復帰
- ガスメーター復帰:遮断表示・赤ランプ点滅時は復帰ボタン→3分待つ(安全確認中は操作しない)。
- LPガス:ボンベの元栓開度を全開→1/4戻しで固定、減圧器の霜が消えるまで待つ。
- 石油:灯油残量・ストレーナー清掃・エア抜きの要否を確認。
2-3.ステップ2:水の流れを整える(空気抜き→エア噛み解消)
- 最寄りの水栓を「水側」から開け、空気混じりの吹き出しが収まるまで待つ。
- 次に**混合水栓の「湯側」**を短時間開閉し、エア噛みを抜く。
- 風呂自動は循環金具のフィルタを外して髪・糸くずを除去→注水運転で配管の空気を押し出す。
2-4.ステップ3:操作盤の初期化と設定(元に戻す)
- 室内操作盤をON→時刻・ふろ温度・湯温・自動保温・予約の各設定を確認。
- 入浴剤を使う予定がある場合は入浴剤対応モードの有無を確認(なければ循環を避ける)。
- 省エネ設定(学習機能・湧き上げモード・エコ運転)を希望に合わせて再設定。
2-5.ステップ4:点火試験(台所→洗面→浴室の順)
- 台所の湯栓を弱めに開く→30〜60秒でぬるくなれば成功(熱交換器が冷えていると時間がかかる)。
- 洗面→浴室の順で各所の点火を確認。急全開は避ける(エア噛み時は失火しやすい)。
- 風呂自動は注水→追いだきの順で運転、「残湯あり」誤検知を避けるため浴槽栓の密閉を再確認。
2-6.ステップ5:最終確認(におい・音・表示)
- におい:焦げ臭・ガス臭が無いか。
- 音:異常な金属音・轟音が無いか。
- 表示:エラー表示が出ないか、湯温が設定値へ安定するか。
3.症状別トラブル早見表:原因と手当て(現場で即判断)
3-1.「お湯が出ない/水のまま」
症状 | 主な原因 | すぐできる対処 | 追加メモ |
---|---|---|---|
水のまま | ガス遮断・断水・電源OFF | メーター復帰、元栓・止水栓、ブレーカー確認 | 断水復帰直後は濁り水が出ることあり |
ぬるくならない | 設定温度低い・熱交換器が冷え切り | 設定を+5℃、1〜2分待機、別栓でも試す | 冬は出湯まで時間がかかる |
点火音がしない | リモコンOFF・安全装置作動 | リモコンON、エラー解除、再起動 | 連続再点火は避け、1分間隔を置く |
3-2.「湯が途中で止まる/度々エラー」
症状 | 主な原因 | すぐできる対処 | 追加メモ |
---|---|---|---|
途中で消火 | 水圧低下・エア噛み | 水側から再度空気抜き、時間帯をずらす | 同時間帯の需要集中で水圧低下あり |
エラー表示 | 過熱・換気不足・排気口塞ぎ | 吸排気清掃・積雪落とし・再起動 | 屋外機まわり30cm以上の空間目安 |
自動湯はりが進まない | 循環口の詰まり | フィルタ掃除、髪・糸くず除去 | 入浴剤の残渣が詰まりの原因に |
3-3.「音・におい・見た目の違和感」
症状 | 可能性 | 対処 | 注意 |
---|---|---|---|
異音(ゴー) | 着火遅れ・風の吹き込み | 風除けを整える、再起動 | 改善無ければ運転停止→連絡 |
焦げ臭 | 電装の異常・煤(すす) | 直ちに停止・換気・業者連絡 | 再起動しない |
白い湯気 | 冷気との温度差 | 正常なことが多い | 甘い臭いは不完全燃焼の恐れ→停止 |
3-4.凍結・スケール・サーモ固着(番外編)
症状 | 可能性 | 家でできる範囲 |
---|---|---|
冬の無音+出湯不可 | 給水・給湯配管の凍結 | 無理に加熱・叩かない。室温で自然解凍→保温材補修 |
湯量が弱い | ストレーナー・シャワーヘッド目詰まり | フィルタ洗浄、ヘッドの酢水つけ置き(金属部は不可) |
温度が安定しない | 混合水栓サーモの固着 | 温冷を数回ゆっくり往復して解消を試みる |
4.タイプ別の要点:ガス・石油・電気貯湯(構造に合わせる)
4-1.ガス給湯器(都市ガス/LP)
- ガスメーター復帰→通電→操作盤ONの順が基本。
- 給排気口の塞がり(雪・落ち葉・巣)を除去し、強風時の吹き返しに注意。
- 追いだき配管に空気が入ると失火しやすい→注水運転→追いだきで解消。
- 浸水・冠水後は使用しない(内部腐食・漏電の恐れ)。
4-2.石油給湯器(灯油ボイラー)
- タンク残量・フィルタ/ストレーナーの清掃・エア抜きを点検。
- 冬季は寒冷地仕様の灯油を使用。燃焼室の**煤(すす)**が多いと感じたら運転停止→清掃依頼。
- 排気の熱で可燃物が焦げやすいので周囲の片付けを。
4-3.電気貯湯(エコキュート)
- 復電後は時刻設定→湧き上げ再開。**満湯まで数時間〜**が普通。
- 非常時給湯(タンク残湯の給湯)の可否と出湯温度を確認。
- 夜間電力モードのみでは回復が遅いとき、昼間の臨時湧き上げを実行。
- 漏電遮断器の作動があった場合は原因確認が先(雨水侵入・配線劣化など)。
5.再発防止と日常点検:止めない家にする
5-1.停電前の備え(平時に仕組みを作る)
- 屋外機周りの掃除(落ち葉・蜘蛛の巣・雪対策)。30cm以上の空間を確保。
- 非常時マニュアルを操作盤のそばに掲示。復帰手順・連絡先・ブレーカー位置を図で。
- ガスメーター復帰の手順を家族で共有。子ども・高齢者にもイラスト掲示。
5-2.年2回のセルフ点検(春・秋の“シーズン前点検”)
項目 | 目安 | やり方 |
---|---|---|
吸排気口 | 春・秋 | 目視清掃、巣・雪・落ち葉除去 |
循環フィルタ | 月1 | 取り外し→水洗い→乾燥 |
配管保温 | 冬前 | 破れの補修、結束バンドで固定 |
漏れ・染み | 月1 | 床まわりの水染み・錆の確認 |
屋外電源 | 半年 | コンセントの緩み・劣化点検 |
5-3.停電が長いときの切り替えと節湯
- 電気貯湯:満湯後は適温を下げる・シャワーは短時間で節湯。
- ガス・石油:仕様が許す範囲でポータブル電源や非常電源を活用(必ず機種仕様を確認)。
- 代替熱源(カセットコンロ等)での湯沸かしは換気・一酸化炭素と火傷に注意。
Q&A(よくある疑問)
Q1.停電復帰後、エラー番号が出っぱなし。どうする?
A. 電源OFF→5分待機→再起動で消えれば一時的。繰り返す場合は給排気・水圧・ガス復帰の三条件を再点検し、改善しなければ専門業者へ。
Q2.お湯が出たり出なかったりする。
A. 水圧の変動・エア噛みが典型。水側から空気抜き→湯側を短時間開閉。改善しなければ止水栓・ストレーナー詰まりを点検。
Q3.エコキュートがぬるい。
A. 復電直後は湧き上げ途中で出湯が不安定。時刻設定→湧き上げ再開を行い、満湯まで待機。それでも回復しなければ漏電遮断器・配管保温を確認。
Q4.ガス臭がする。運転して良い?
A. 運転禁止。換気→元栓閉→退避→連絡。自己判断で再起動しない。
Q5.配管が凍っているかも。
A. 無理な加熱や叩く行為はNG。室内の暖房で周囲を温め、自然解凍を待つ。解凍後は保温材の補修を。
Q6.復帰後にシャワー温度が安定しない。
A. 混合水栓のサーモ固着やフィルタ目詰まりを疑う。温冷をゆっくり往復し、フィルタ洗浄を。
Q7.停電中に給湯器を操作してしまった。
A. 復電後にブレーカー→燃料→空気抜き→操作盤→点火試験の順でやり直し。異常があれば停止。
用語辞典(やさしい言い換え)
エア噛み:配管に空気が入って流れが乱れること。空気抜きで解消。
ストレーナー:配管のごみ取り網。詰まると流れが悪くなる。
循環金具:浴槽の吸い込み・吐き出し口。ここが詰まると追いだき不良に。
湧き上げ:電気貯湯がタンクの湯を温める運転。満湯まで時間がかかる。
漏電遮断器:漏電を自動で止める安全装置。復帰前に原因確認が必要。
入浴剤残渣:入浴剤の溶け残り。フィルタ詰まりの原因。
まとめ:三条件を整え、順番を守る
停電復帰の給湯器は、電気・ガス(または燃料)・水圧の三条件がそろってはじめて正常に点火します。あわてず、ブレーカー→燃料・メーター→空気抜き→操作盤→点火試験の順番で確認。におい・音・表示の違和感が一つでもあれば停止が最善です。小さな再起動の成功体験を積み重ね、年2回の点検で止めない家を育てましょう。