「遠回り=遅い」とは限らない。 通行止めに直面したら、車・徒歩・自転車・鉄道・バス・タクシーまでを候補に並べ、渋滞係数×距離のスグ算で最短ではなく“最速”を選ぶ。
本稿は、現場で30秒あれば使える判断の型を中心に、渋滞係数の目安表、徒歩換算の境い目、悪天候・家族連れ・荷物多めの補正、費用とリスクの比較、誤差の扱いまで徹底整理した。結論は三つ──①距離より係数、②最短より最速、③安全と体力に余白。この3点を守れば、混乱時でも判断はぶれない。
1.まず何をする?30秒スグ算の基本フロー
1-1.距離×渋滞係数=到着目安(基準式)
到着時間 ≒ 距離(km)×渋滞係数(分/km)。係数は状況で変わるが、平常=2分/km、混雑=4分/km、激混み=6〜8分/kmを基準に置く。片側交互通行・事故処理などの規制は係数を**+2〜4**上乗せして評価する。
1-2.徒歩・自転車・鉄道・バスの“比較軸”
- 徒歩:12分/km(時速5km)、信号密度が高ければ15分/km。
- 自転車:5分/km(時速12km)。雨や向かい風で7〜8分/km。
- 鉄道:乗車時間+乗換歩行+待ち時間(平均5〜10分)。
- バス:乗車分+待ち分(時刻表の間隔+信号混雑の遅れ**+5分**を安全側に)。
1-3.30秒で答えを出すミニ手順(口唱え)
- 残距離をつかむ(地図不可なら案内標識の残距離、電柱の街区表示、橋のキロポスト)。
- 車の係数を決め、徒歩/自転車/鉄道/バスの係数(または所要の内訳)を並べる。
- 一番小さい数=暫定解。最後に安全(歩道・照明・体力)と費用の観点で実行可否を確認。
1-4.安全・体力の余白を確保(バッファの考え方)
- 時間の余白:計算結果に**+10〜20%**の余白をのせる。
- 体力の余白:徒歩の上限は平地6km・坂道4kmを目安に小休止10分/2kmを挿入。
- 夜間の余白:明るい通りに寄せる遠回りを選択。反射材(足首・手首)を足す。
到着目安の係数早見表(実務用)
手段 | 係数(分/km)基準 | 悪条件時の補正 | 備考 |
---|---|---|---|
車(平常) | 2 | 雨+1、事故+2、狭路+1 | 幹線は流れ出すと速い |
車(混雑) | 4 | 工事+2、通学時+1 | 右折の多い区間は+1 |
車(激混み) | 6〜8 | 片側交互+2 | 本線復帰の合流で+1 |
徒歩 | 12 | 信号多+3、雨+2、坂+2 | 家族連れは+3〜6 |
自転車 | 5 | 雨+2、向かい風+1、坂+2 | 押すと10〜12 |
鉄道 | 実乗車+乗換歩行 | 遅延+α、ホーム遠+3分 | 待ち5〜10分を別途 |
バス | 実乗車 | 待ち間隔+信号遅れ+5 | 交通状況に左右大 |
2.渋滞係数を読む:道・時間・天気・地形で変わる
2-1.道の種類:幹線/生活道路/山道・狭路
- 幹線道路:信号周期が長い。流れ出すと速いが、事故・工事で止まりやすい。係数2→4→6と段階的に悪化。
- 生活道路:交差が多く、歩行者・自転車で速度が出にくい。係数3→5。
- 山道・狭路:離合待ち・見通し不足で係数5〜8。雨天は**+2**、積雪は**+3**。
2-2.時間帯:通勤通学・学童下校・観光帰り
- 通勤通学(7–9時、17–19時):係数**+2**。
- 学童下校(15–16時):横断多で**+1**。
- 観光帰り(日曜夕方):幹線**+2〜3**、高速出口付近は**+3**。
2-3.工事・事故・片側交互通行・踏切
- 片側交互:信号待ち+隊列再始動で**+2**。
- 事故処理:+2〜4、見物渋滞でさらに+1。
- 踏切多発区間:遮断機の周期で**+1〜2**。鉄道振替の検討価値が高い。
2-4.地形と路面:坂・橋上・川沿い・未舗装
- 坂道:上りで徒歩+2、自転車**+2〜3**。
- 橋上:強風で自転車△、徒歩**+3**。
- 川沿い:迂回路が橋に集中し、合流部で**+1**。
- 未舗装・工事鉄板:雨で滑りやすく徒歩+2。
渋滞係数の補正表(重ねがけ可)
状況 | 係数への加減 | 注記 |
---|---|---|
通勤通学帯 | +2 | 学校・駅周辺は横断多 |
雨/雪 | +1〜+3 | 視界・制動距離の悪化 |
片側交互 | +2 | 先頭通過まで固定遅延 |
工事車両出入り | +1 | 出入口付近に注意 |
学校前/横断多 | +1 | 誘導に従い減速 |
右折多数交差点 | +1 | 右折待ち列が延びる |
踏切集中区間 | +1〜+2 | 遮断時間の偏り |
3.徒歩換算の判断:歩くほうが速い“境い目”
3-1.基準判定:車の係数が徒歩の半分以下か
車の係数×距離と徒歩の係数×距離を比べ、車の係数 ≤ 徒歩係数/2(≒6分/km)なら車続行、それ以上は徒歩が有利。ただし夜間・雨・坂では徒歩係数を15〜18に引き上げて再評価。
3-2.信号密度・横断頻度・坂・荷物の補正
- 信号が250mおき=徒歩**+3分/km**。
- 横断頻度が高い商店街=徒歩**+1**。
- 上り坂=徒歩**+2**、自転車**+2〜3**。
- 荷物5kg以上=徒歩**+2**、子ども同伴=+3〜6。
3-3.「自転車を押す」も比較に入れる
自転車は乗る=5分/km、押す=10〜12分/km。雨・段差・人混みでは押す>乗るが到着の安定につながる。押す判断は転倒リスク回避と傘の片手操作を重視。
3-4.歩く際の安全スクリーニング(5項目)
- 歩道の有無 2) 照明 3) 橋・狭路 4) 踏切 5) 避難できる建物。2つ以上×なら鉄道・バス・タクシーの検討を優先。
徒歩・自転車・車の比較表(残距離別)
残距離 | 車(係数6) | 徒歩(12) | 自転車(5) | 備考 |
---|---|---|---|---|
1km | 6分 | 12分 | 5分 | 自転車優位/車続行も可 |
2km | 12分 | 24分 | 10分 | 自転車有利/車拮抗 |
3km | 18分 | 36分 | 15分 | 自転車>車>徒歩 |
4km | 24分 | 48分 | 20分 | 車/自転車>徒歩 |
※車係数が8へ悪化→2km以内は徒歩拮抗、3km以内は自転車が優位に転じる。
4.ケース別テンプレ:家族・悪天候・鉄道振替・費用
4-1.家族連れ(子ども/高齢者)
- 子ども連れ徒歩:基準15分/km、雨は**+2**。抱っこ有はさらに**+3**。休憩5分/2kmを必ず。
- 高齢者同行:歩幅小+休憩5分/2km。段差・仮設スロープは**+2分/箇所**。夜間は遠回りでも明るい通りへ。
4-2.悪天候(強雨・強風・積雪・酷暑)
- 強雨:車**+1〜2**、徒歩**+2**、自転車**+2**。
- 強風:橋上・海沿いは自転車×、徒歩**+3**。
- 積雪:徒歩**+5**、自転車は押す=15分/km。
- 酷暑:徒歩**+3**、給水休憩を10分/3kmで計上。
4-3.鉄道・バス・タクシーを入れた“混成ルート”
- 鉄道:徒歩10分→乗車12分→乗換歩行5分→徒歩8分=35分。道路が係数8×3km=24分でも、信号・踏切次第で鉄道が安定。
- バス:待ち7分+乗車18分=25分。道路係数が6以内なら車相当、8なら鉄道優位。
- タクシー:降車場所の近接性が強み。短距離でも乗り場待ちがある地域は**+5〜10分**を見込む。
4-4.費用と時間の天秤(簡易スコア)
- 1分あたりの価値(自分基準)を仮に50円/分と置き、時間短縮(分)×50円が運賃の差を上回るなら有料手段を選ぶ。
状況別・補正まとめ表
条件 | 車 | 徒歩 | 自転車 | 鉄道 | バス | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
子ども連れ | ±0 | +3〜6 | +2 | ±0 | ±0 | 休憩5分/2km |
高齢者同行 | ±0 | +3+休憩 | +3 | ±0 | ±0 | 明るい通り優先 |
強雨 | +1〜2 | +2 | +2 | ±0 | +5遅れ | 滑り・視界 |
強風 | +1 | +3 | ×(押す10〜12) | ±0 | +5遅れ | 橋上は回避 |
積雪 | +3 | +5 | 15分/km(押す) | ±0 | +10遅れ | 凍結路面 |
酷暑 | +1 | +3 | +2 | ±0 | ±0 | 給水加算 |
5.実例で学ぶ:迂回ルートの選び方と時間計上
5-1.例A:幹線が通行止め、生活道路で抜ける
- 残距離3.5km。幹線は片側交互+事故。車係数8として28分。
- 生活道路経由は距離**+0.8kmだが係数5で(4.3km×5=21.5分)**。遠回りが7分短い。
- 合流点で**+2分の再加算をしても25.5分**で優位。
5-2.例B:雨の夕方、駅まで歩いて振替
- 残距離2.2km、車係数6で13.2分+信号待ち。
- 徒歩は12→雨+2=14分/kmで30.8分。
- 徒歩10分→電車12分→徒歩6分=28分で電車が優位。改札混雑+3分の余白を加えても勝る。
5-3.例C:自転車で坂道、向かい風
- 残距離3km、自転車5→向かい風+1→坂+2=8分/kmで24分。
- 車が係数6なら18分、係数8なら24分。車の混み具合次第で選択。
5-4.例D:タクシー+徒歩の分割解
- タクシーで1.5km(係数6→実質10分)+徒歩1km(12分)=22分。
- 車一本(3km×係数8=24分)より2分短縮、降車位置の自由で玄関口に近づける。
5-5.誤差の扱い:±を前提に決める
- 道路:計算の**±20%**を誤差枠。
- 徒歩:個人差を見込み**±15%**。
- 結論:誤差込みでも優位なら採用、ほぼ同等なら安全・明るさ・休憩の取りやすさで決める。
計上テンプレ(コピペ活用)
【残距離】__ km
【道路状況】平常/混雑/激混み(係数 __ )
【天気・時間】雨/強風/積雪/通勤(補正 __ )
【車】__ km × __ 分/km = __ 分
【徒歩】__ km × __ 分/km = __ 分
【自転車】__ km × __ 分/km = __ 分
【鉄道】徒歩 __ 分 + 乗車 __ 分 + 乗換 __ 分 + 待ち __ 分 = __ 分
【バス】待ち __ 分 + 乗車 __ 分(遅れ __ 分) = __ 分
【タクシー】乗車 __ km × 係数 __ = __ 分(乗り場待ち __ 分)
【安全】歩道/照明/橋/踏切/休憩可 各○×
【費用】運賃合計 __ 円 / 短縮 __ 分 × 価値 __ 円/分
【結論】最速= ______
Q&A(よくある疑問)
Q1.地図アプリが使えない時、距離はどう測る?
A. 電柱の街区表示、橋や交差点のキロポスト、案内標識の残距離を拾い、100m単位で切り上げて計算する。歩幅×歩数の自分基準(例:100歩=70mなど)も事前に決めておくと早い。
Q2.徒歩の12分/kmが速すぎる。
A. 信号多め=15分/km、家族連れ=15〜18分/kmで再計算。雨や荷物でさらに**+2〜3**。上り坂は**+2**を必ず。
Q3.自転車は押したほうが速い?
A. 向かい風・段差・人混みでは押す10〜12分/kmが安定。乗る5分/kmは乾いた平坦路が前提。夜間の橋上は無理せず押す。
Q4.鉄道振替の待ち時間は?
A. 平均5〜10分を見込む。運行間隔が長い路線は**+10して安全側に倒す。改札混雑は+3**、エレベーター待ちは**+2**を目安。
Q5.夜間で歩道が暗い。
A. 反射材(足首・手首)を追加し、明るい通りを遠回りでも選ぶ。車の来る方向へ半歩寄せない。黒い傘より透明傘が視界確保に有利。
Q6.渋滞係数は毎回どれを使えば?
A. 平常2、混雑4、激混み6〜8を基準に、時間帯・天気・工事で**+1〜+3調整。片側交互は+2**を上乗せ。
Q7.タクシーの費用判断が迷う。
A. 短縮分(分)×自分の1分価値(円)が運賃差を上回るなら採用。降車場所の近さも利点として加点。
Q8.体力に不安がある。
A. 徒歩の上限を平地6km/坂道4kmに設定し、小休止10分/2kmを事前に織り込む。水分と糖分を携行。
用語辞典(やさしい言い換え)
渋滞係数:1km進むのに何分かかるかの目安。状況で変わる。
片側交互通行:一方ずつ交互に通す規制。待ち時間が増える。
振替輸送:他の路線・手段に乗り換えること。徒歩やバスを組み合わせる。
キロポスト:道路や橋の距離表示。残距離の手がかり。
誤差枠:計算上のゆらぎ。道路±20%、徒歩±15%を目安。
合流部:迂回路が元の道へ戻る場所。流れの乱れで遅れが出やすい。
まとめ:距離より係数、最短より最速
通行止めの遠回りは距離の損より係数の得が勝つことがある。距離×係数の30秒スグ算で車・徒歩・自転車・鉄道・バス・タクシーを並べ、安全に実行できる最速を選ぶ。
天気・時間・家族構成・地形の補正を忘れず、誤差込みでも優位な案を採用。判断テンプレを携帯すれば、緊急時でも迷いは大きく減る。最後に──最短ではなく、最速と最安全。この原則だけは崩さない。