結論:霧の日は視界の確保と被視認性(見つけてもらうこと)が命綱です。歩行は足もと確認と側方確認の頻度を2倍、自転車は常時点灯+速度半分、自動車は速度半分・車間倍・ライト適正が基本。さらにルート判断と停車の作法を決めておけば、濃霧でも事故確率を大きく下げられます。本稿は「見えるようにする・見つけてもらう・間合いを取る」の三本柱で、徒歩・自転車・自動車の具体動作、装備の選び方、前夜準備〜出発直前60秒チェック、やってはいけない行為までを一冊で網羅しました。
霧の仕組みとリスクの見立て(まず知る)
霧が発生する主な場面と時間帯
- 放射霧:夜〜明け方、地表が冷えると発生。河川沿い・田畑・谷筋で濃くなる。
- 移流霧:湿った空気が冷たい地表に流れ込み沿岸部〜内陸で発生。海霧が街に押し寄せることも。
- 蒸気霧/工場周辺:水面や温排水の近くで寒暖差が大きい時に局地発生。
霧の日に増える事故の型
- 見落とし(横断歩行者・自転車・二輪)。
- 追突・玉突き(車間不足・ブレーキ灯の見落とし)。
- コースアウト(中央線/路肩を見失う)。
- 多重危険(霧+濡れ路面+逆光/対向車のまぶしさ)。
体感と実害のズレを埋める指標
- 視程(見通し距離):200m以下で警戒、100m以下で運転見合わせ検討、50m以下は原則停止/待避。
- 路面含水:霧でも路面は濡れがち→制動距離が伸びる。
- 風:無風は霧がたまり、橋・高架は風で急に晴れ/急に濃くなる。
視程別・対応早見表(徒歩/自転車/自動車)
視程の目安 | 歩行 | 自転車 | 自動車 |
---|---|---|---|
約200m | 反射材+小型ライト | 点灯・速度7割 | 速度7割・車間1.5倍・ロービーム+前フォグ |
約100m | 透明傘・横断は信号優先 | 速度5〜6割・ベル活用 | 速度5〜6割・車間2倍・リアフォグ(装備車) |
約50m | 同行者と手つなぎ・待避 | 走行見合わせ・歩道押し歩き | 安全地帯で待機・路肩停止は極力回避 |
歩行・自転車の安全行動(見える+見つけてもらう)
歩行:足もと確保と被視認性アップ
- 足もと照明:小型ライトを足先/手元へ向け、段差・白線・側溝を確認。
- 側方確認:交差点・駐車場出入口は左右2回。耳でエンジン音・タイヤの水音も拾う。
- 服装:反射材(腕・足・背中)+明色。傘は視野を遮らない透明が良い。
自転車:減速・点灯・ライン取り
- 常時点灯+点滅(前白・後赤)。前は配光を少し下げ、霧への反射を抑える。
- 速度は晴天の半分、車間は2倍。ブレーキは前後を弱く長く。
- 白線を物差しに直進。路肩寄りを回避し、段差・側溝を避ける。
子ども・高齢者の付き添い
- 手つなぎ+反射バンド。背面にも反射を配置する。
- 横断は一度停止→耳で確認→合図→渡り始め。もう一歩前へ出ない。
歩行/自転車の装備 早見表
場面 | 必須 | あると良い | NG |
---|---|---|---|
歩行 | 反射材・小型ライト | 透明傘・帽子 | 濃色上下のみ |
自転車 | 前後ライト常時点灯 | 反射ベスト・ベル調整 | 無灯火・傘差し |
児童登下校 | 手つなぎ・反射タスキ | 防水シューズ | フード深被り |
歩行ルートのつくり方(見えやすい道を選ぶ)
- 店舗や住宅が多い通り(照明が多い)を優先。
- 川沿い・空き地沿い・谷筋は回避。見通しが利かないカーブ連続は避ける。
- 横断は信号機のある交差点へ集約。抜け道・裏道は使わない。
自動車の運転術(ライト・速度・車間・視線)
ライトの使い方(見える/見られるの両立)
- ロービーム基本。ハイビームは霧に反射して眩惑。前フォグがあれば併用。
- スモール+前後フォグ+リアフォグ(装備車)で被視認性を上げる。
- ハザードは限定使用:停止時/渋滞最後尾の警告に絞る。
速度と車間(晴天の半分・倍が基準)
- 巡航は通常の50〜70%。視程が縮むほどさらに落とす。
- 車間は2倍以上。タイヤの見え方や時間間隔2.5〜3秒以上を基準に。
- ブレーキは早め・弱め。ブレーキ灯で後続に予告してから加減速。
視線配分とライン取り
- 白線・路肩反射材・ガードレールで道路の向きを読む。中央線を凝視しない。
- 右左折時は横断歩行者の見落としに注意。Aピラー死角を1回ずらす。
- 窓/ミラーの曇りはデフロスター+内気循環で素早く除去。
霧の日の車両設定 早見表
項目 | 推奨設定 | ねらい |
---|---|---|
ヘッドライト | ロー+(前)フォグ | 前方反射を抑え路面照射 |
リアフォグ | 装備車はON(遠方後続に配慮) | 追突防止 |
エアコン | デフロスター+内気循環 | 窓の曇り除去 |
ワイパー | 断続(INT) | 水滴除去・油膜チェック |
雨や夜と重なる時の上書き対策
- 夜+濃霧:リアフォグ+速度さらに落とす。対向車のライトに視線を持っていかれない。
- 雨+霧:ワイパーINT+ウォッシャーで薄い膜を切る。タイヤ溝の残量を意識。
- 上り/下り坂:下りは早め減速、上りは見通し変化に備える。
ルート判断・停車・非常時の作法(迷ったら安全側)
ルート変更の基準
- 視程100m以下が続く区間は別ルート。峠・谷筋・河川沿いを避け、市街/幹線へ。
- 橋梁・高架は風で視界が急変。進入前に減速、路面の濡れに注意。
停車・待避の型
- 原則路肩停止は避ける(後続の誤進入)。SA/PA/コンビニ駐車場など安全地帯へ。
- やむを得ず路肩なら三角表示板+ハザード、車外に出ない、出る場合は歩道側へ。
事故/渋滞尾部の警戒
- ブレーキの点滅で予告→ハザード→車間拡大で巻き込まれ防止。
- 最後尾に付いたら1台分余裕を残し、追突の逃げ代を確保。
進む/停まる 判断表
状況 | 進む | 停まる |
---|---|---|
視程200m前後 | 速度70〜80%・フォグ併用 | — |
視程100m以下 | 速度50〜60%・別ルート検討 | 安全地帯で一時待機 |
視程50m以下 | — | 直近の安全地帯で停止 |
現場対応メモ(連絡・記録)
- 場所(道路名/キロポスト)・時間・視程の感覚値をメモ。
- 非常連絡は落ち着いて状況→位置→台数の順で伝える。
装備・メンテ・前夜の準備(見える道具を手元に)
車の装備と整備
- フォグ・リアフォグの動作確認。ヘッドライトの黄ばみは研磨/交換で透過率回復。
- フロントガラスの油膜は前夜に除去。撥水は薄めにし、白にじみを抑える。
- ワイパーゴムはビビり/段差が出たら交換。ウォッシャー液は十分に。
- タイヤ:適正空気圧・溝深さ・偏摩耗を点検。濡れ路面の停止距離増を織り込む。
徒歩・自転車の装備
- 反射バンド/タスキ・明色上着。小型ライトは面発光が眩惑少なくおすすめ。
- 靴底グリップが弱い靴は避け、濡れた路面でも滑りにくいものを選ぶ。
出発前60秒チェック(家族で共有)
- 車:ライト設定→窓の曇り→ガソリン残量→三角板→反射ベスト→携帯ライト。
- 歩行/自転車:ライト点灯→反射材装着→透明傘→靴底確認→予備電池。
霧対策・持ち物チェック表
区分 | 必携 | 追加で安心 |
---|---|---|
車 | フォグ/リアフォグ、三角板 | 反射ベスト、携帯ライト、予備ワイパー |
歩行 | 反射材、透明傘、小型ライト | 帽子、予備電池、携帯笛 |
自転車 | 前後ライト、ベル、反射板 | 予備ライト、レインカバー、反射ベスト |
やってはいけないこと・誤解の訂正
NG行為(歩行/自転車)
- 無灯火・濃色服のみ・フード深被りで視野を狭める。
- スマホ見ながら・大音量イヤホンで周囲音を遮断。
NG行為(運転)
- ハイビーム常用(霧に反射)。
- 速度維持(晴天時の感覚で走る)。
- 路肩停止(追突誘発)。
- 自動運転支援(車線維持)に過信:濃霧時は警報のみ活用へ切替。
よくある誤解の是正
- 「ライトを消すと相手にまぶしくない」→消灯は逆効果。ロー+フォグが正解。
- 「リアフォグはまぶしいだけ」→濃霧時の後続警告灯。必要時のみ点灯。
- 「大型車の陰は安全」→近づき過ぎは巻き込み・跳ね水で危険。車間を広く。
ケーススタディ:都市/郊外/山間・時間帯別のコツ
都市部(交差点・駐車場が多い)
- 歩行者の飛び出し/車の鼻出しに注意。交差点進入前に減速。
- ビル風で霧が切れたり濃くなったり。視程の変化に合わせて速度調整。
郊外(直線長い・照明少ない)
- 白線・反射材を頼りに中央寄り過ぎない。路肩の側溝/段差を意識。
山間・海沿い(濃霧多発)
- 谷筋・峠は視程が乱高下。カーブ手前で減速、橋梁は風で一変。
時間帯:夜明け前/夜間
- 夜明け前は放射霧のピーク。出発を30分遅らせる選択肢。
- 夜間はライトのにじみが増える。スピードさらに控えめ。
Q&A:迷いどころを即解決
Q1. 霧で窓がすぐ曇る。最速の対処は?
A. デフロスター+A/C+内気循環で温度差を解消。ガラス内面の油膜取りも効く。
Q2. 山道の濃霧、フォグが無い車は?
A. ロービーム+スモールで配光を下げ、速度をさらに落とす。必要なら安全地帯で待機。
Q3. 歩行中、車が突然近づく音がする
A. 路肩から半歩離れる→ライトを振る/反射材で示す→一旦停止してやり過ごす。
Q4. 自転車のライトは点滅と点灯どちらが良い?
A. 前:点灯+弱点滅の併用、後:点滅+反射が目立ち、眩惑も少ない。
Q5. 大型車の後ろが安心?
A. 車間を広げれば目安に可。ただし近付き過ぎは巻き込み・跳ね水で危険。
Q6. リアフォグはいつ消す?
A. 後続車のライトがはっきり見える/視程が回復したら消灯。晴れ/小雨では消す。
Q7. 視程の見積もり方は?
A. 標識や電柱の間隔を基準に数える。見えなくなる距離がおおよその視程。
Q8. 霧の日にサングラスは有効?
A. 黄/淡色レンズはコントラスト向上に限り有効。濃色は暗くなり危険。
用語辞典(やさしい言い換え)
- 視程:どれくらい先まで見えるかの距離。100m以下は要警戒。
- フォグランプ:低い位置から広く照らすライト。霧・雨・雪に強い。
- リアフォグ:後ろに自車位置を知らせる強い後部灯。濃霧時のみ点灯。
- デフロスター:窓の曇りを取る送風機能。
- 被視認性:相手から見つけてもらいやすさ。
まとめ:見える・見つけてもらう・間合い
霧の濃い日は、自分が見えるだけでなく他人から見えることが安全の土台です。歩行・自転車は反射+ライト+減速、自動車はロー+フォグ+速度半分+車間倍。迷ったら安全地帯で待機を選ぶ。今夜のうちにライト・反射材・油膜取り・ワイパーを整え、明日も視界と間合いで安全をつくりましょう。