非常食は主食・主菜・副菜で揃える|栄養設計完全ガイド

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防災

停電・断水・物流遅延のなかでも体力を落とさず動ける食事は作れます。鍵は、非常食を主食(エネルギー)/主菜(たんぱく質)/副菜(ビタミン・ミネラル・食物繊維)でそろえ、水・火・時間の制約に合わせて調理負担を最小化すること。

本ガイドは3日/7日/14日の備蓄設計、家族構成別の必要量アレルギー・持病・年齢差への配慮、ローリングストック運用、具体献立と台所オペレーションまでを一気通貫でまとめました。収納設計、費用の目安、味の工夫、衛生管理も実務レベルで解説します。


  1. 要点先取り(まずここだけ)
  2. 1.非常食の栄養設計:主食・主菜・副菜と基準値
    1. 1-1.主食(エネルギー源)
    2. 1-2.主菜(たんぱく質・鉄・亜鉛)
    3. 1-3.副菜(ビタミン・ミネラル・食物繊維)
    4. 1-4.簡易“基準値”早見表(大人)
  3. 2.3日・7日・14日の数量設計と箱分け
    1. 2-1.人数×日数の基本式
    2. 2-2.モデル在庫(大人2・小学生1の3人家族)
    3. 2-3.箱分け(三層+側面ポケット)
    4. 2-4.家族構成別の概算(例:大人2+高齢1+幼児1=4人)
  4. 3.火・水・時間の制約別メニューと調理法
    1. 3-1.水・火なし(初動24時間)
    2. 3-2.水あり・火なし
    3. 3-3.水・火あり(炊事可能)
    4. 3-4.季節・環境別の配慮
  5. 4.年齢・体調・制限食への対応
    1. 4-1.乳幼児・高齢者
    2. 4-2.アレルギー・食事制限
    3. 4-3.妊娠・授乳・重労働者
    4. 4-4.代替早見表(抜けを埋める置き換え)
  6. 5.ローリングストックと台所オペレーション
    1. 5-1.入替ルール(台帳の作り方)
    2. 5-2.“月1回・10分”の棚卸し手順
    3. 5-3.水・燃料・道具の紐づけ
    4. 5-4.収納設計(住宅事情に合わせる)
    5. 5-5.費用の目安(3人×7日)
  7. 6.具体献立:主食・主菜・副菜で1日を組む
    1. 6-1.“水・火なし”の1日例
    2. 6-2.“水あり・火なし”の1日例
    3. 6-3.“水・火あり”の1日例
    4. 6-4.7日間の循環献立(例)
  8. 7.味・衛生・ゴミの最小化(失敗しない実務)
    1. 7-1.味の工夫
    2. 7-2.衛生管理
    3. 7-3.ゴミ抑制と臭気対策
  9. 8.主要アイテム比較表(保存性・手間・栄養・用途)
  10. 9.アレルギー・宗教・嗜好の整理(運用を止めない工夫)
  11. Q&A(よくある疑問)
  12. 用語辞典(やさしい言い換え)
  13. まとめ:非常食は“足し算”ではなく“組み合わせ”

要点先取り(まずここだけ)

  • 主食:主菜:副菜=3:2:1の比率で箱に区分すると欠品・偏りが出にくい
  • 1人1日目安エネルギー2,000±400kcal/たんぱく質60g前後/食物繊維15g以上/水2〜3L。汗を多くかく日は塩分・電解質を追加。
  • “即食3食分”(開封してすぐ食べられる)を最上段に常備。次段は短時間調理、最下段は加熱調理
  • 調理の手間=水と燃料の消費無洗米・アルファ化米・乾麺・缶詰・レトルトを軸に、**鍋ひとつ(ワンポット)**で完結させる。
  • 期限は“月”で貼る→月末に使って同数補充。家族が見ても分かる大きい文字のラベルが基本。
  • 収納は“箱+台帳+役割”で運用。台所・寝室・持ち出し袋に分散し、一か所消失に備える。

1.非常食の栄養設計:主食・主菜・副菜と基準値

1-1.主食(エネルギー源)

  • 役割:活動の燃料。ごはん・パン・麺・芋。疲労時ほど安定供給が大切。
  • 候補:アルファ化米、無洗米、もち、乾麺(うどん・そば・パスタ)、クラッカー、乾パン、オートミール
  • コツ:水量の明記戻し・ゆで時間で棚を分ける。粉物は湿気対策(乾燥剤・密閉容器)。

1-2.主菜(たんぱく質・鉄・亜鉛)

  • 役割:筋肉・免疫・回復の材料。
  • 候補:魚缶(さば・いわし・鮭)/鶏肉缶/ツナ/焼き鳥缶/高野豆腐/大豆ミート/レトルト豆/卵粉末
  • コツ:油漬け缶は高エネルギー水煮は味付け自由。歯の弱い人向けにやわらか食も用意。

1-3.副菜(ビタミン・ミネラル・食物繊維)

  • 役割:代謝・整腸・疲労低減。汗で失われるカリウム・マグネシウムも補給。
  • 候補:カットわかめ、乾燥野菜ミックス、野菜ジュース、レトルト野菜スープ、青菜粉末、切干大根、乾しいたけ、ドライフルーツ
  • コツ:汁物1品水分+ミネラルを同時確保。海藻・乾物は薄味でも満足度が高い。

1-4.簡易“基準値”早見表(大人)

項目1日目安補足
エネルギー1,600〜2,400kcal体格・活動で調整
たんぱく質50〜70g缶詰+豆+高野豆腐で安定
食塩6〜10g汗量で増減、むくみ注意
2〜3L飲用2L+調理0.5〜2L
食物繊維15g以上乾物と豆で確保

2.3日・7日・14日の数量設計と箱分け

2-1.人数×日数の基本式

  • 主食:1人1日主食換算3食(ごはん茶碗3杯相当)。
  • 主菜:1人1日たんぱく質60g前後(魚缶・肉缶・豆の組み合わせ)。
  • 副菜:1人1日野菜200〜300g目安(レトルト・乾物・ジュース換算)。

2-2.モデル在庫(大人2・小学生1の3人家族)

期間主食例主菜例副菜例補助備考
3日分アルファ化米9食、無洗米1kg、クラッカー1箱さば缶6、ツナ缶3、豆レトルト3乾燥野菜2袋、レトルトスープ6、野菜ジュース6味噌汁粉末、ふりかけ、塩、油、梅干し水 18〜27L(飲用+調理)
7日分アルファ化米15食、無洗米2kg、オートミール1袋さば缶10、ツナ缶7、鶏むね缶6、豆レトルト7、高野豆腐1袋乾燥野菜4袋、野菜ジュース14、海藻各種マルチビタミン、電解質粉、砂糖、蜂蜜水 42〜63L
14日分無洗米5kg、アルファ化米20食、乾麺6束魚缶20、鶏缶10、豆レトルト10、高野豆腐2袋乾燥野菜8袋、野菜ジュース28、切干・海藻油2本、粉末だし、香辛料、黒糖水 84〜126L

2-3.箱分け(三層+側面ポケット)

  • 上段:即食ゾーン…開けてすぐ食べられる(クラッカー、レトルト粥、ツナ缶、野菜ジュース、ゼリー)。
  • 中段:短時間調理ゾーン…アルファ化米、レトルト丼、乾燥スープ、春雨。
  • 下段:加熱調理ゾーン…無洗米、乾麺、高野豆腐、雑穀。
  • 側面ポケット使い切り塩・砂糖・油・粉末だし・スプーン・割りばし・紙皿・手袋・ラップ・アルミホイル

2-4.家族構成別の概算(例:大人2+高齢1+幼児1=4人)

  • 主食:1日12食換算(ごはん12杯相当)×7日=84食
  • 主菜:たんぱく質合計約240g/日×7日=1,680gを、魚・肉・豆で配分。
  • 副菜:野菜約1kg/日をレトルト・乾物・ジュースで確保。

3.火・水・時間の制約別メニューと調理法

3-1.水・火なし(初動24時間)

  • 主食:レトルト粥/クラッカー/乾パン。
  • 主菜:ツナ缶・鶏むね缶・豆パウチ。
  • 副菜:野菜ジュース・ドライフルーツ・乾燥わかめの水戻し。
  • 工夫:開封→即食→食器最小。体調不良者にはゼリー飲料湯を使わない味噌汁粉

3-2.水あり・火なし

  • 主食:アルファ化米を水戻し(時間は長めでも燃料ゼロ)。
  • 主菜:さば水煮+粉末味噌+水で即席汁。
  • 副菜:乾燥わかめ+水戻し+缶汁で和え物。
  • 小技保温袋に入れて戻し時間短縮。缶汁は捨てず調味へ転用。

3-3.水・火あり(炊事可能)

  • 主食:無洗米+固形燃料で湯取り式。乾麺はワンポットでゆでる。
  • 主菜:高野豆腐+ツナで煮含め、鶏缶で親子風煮
  • 副菜:乾燥野菜と油揚げで味噌汁、切干大根で即席煮
  • 燃料節約鍋をタオルで包む保温調理沸騰後は弱火ふた厳守

3-4.季節・環境別の配慮

  • 猛暑電解質粉+水、冷たい水戻しごはん、塩分を梅干し・塩昆布で。
  • 寒冷期温かい汁物を1食に必ず、油漬け缶でエネルギー確保。
  • 粉じん多い環境食品は密閉開封後はすぐ食べ切り

4.年齢・体調・制限食への対応

4-1.乳幼児・高齢者

  • やわらか食:レトルト粥、豆腐ハンバーグ缶、スープ。
  • 小分け:小容量パウチで衛生と食べ残し防止
  • 水分:ゼリー飲料・経口補水粉。むせに注意しとろみを活用。

4-2.アレルギー・食事制限

  • 特定原材料箱の外側にも大きく表示。代替表を用意。
  • 低塩・低カリウムが必要な人はだし・香辛料で味を補い、汁は量を調整
  • 小麦を控える場合は米・米麺・春雨・雑穀を主力に。

4-3.妊娠・授乳・重労働者

  • 妊娠・授乳鉄・葉酸・たんぱく質を増やす(魚缶+豆+海藻)。
  • 重労働者油漬け缶・ナッツ・羊羹・黒糖即エネルギー補給。

4-4.代替早見表(抜けを埋める置き換え)

不足・避けたい代替の例ねらい
小麦を避ける米・米麺・春雨主食の継続
動物性を減らす豆・高野豆腐・大豆ミートたんぱく質維持
野菜が不足乾燥野菜・海藻・ジュースミネラル確保
塩分を控えるだし・香辛料満足度維持

5.ローリングストックと台所オペレーション

5-1.入替ルール(台帳の作り方)

項目記載例
食品名さば水煮缶 190g
賞味期限2027-03
在庫数12
先入先出2/月消費→月末に2補充
保管場所台所・寝室・持ち出し

5-2.“月1回・10分”の棚卸し手順

1)期限が近い順に前出し。
2)普段の献立に組み込んで消費
3)食べた分だけ補充(箱単位で購入)。
4)台帳更新→箱前面の期限ラベル張り替え。

5-3.水・燃料・道具の紐づけ

  • :飲用+調理で1人1日3〜5L想定。ペットボトルは大小混在で運搬を容易に。
  • 燃料:固形燃料・カセットガス(屋内は換気・警報機・離隔)。火災警報器消火具もセット。
  • 道具:小鍋・飯ごう・折りたたみボウル・計量カップはさみラップアルミホイル厚手手袋

5-4.収納設計(住宅事情に合わせる)

  • 高温を避ける(直射日光・熱源近くは不可)。
  • 高低分散(床下収納+吊戸棚)で水害・地震の両方に備える。
  • 持ち出し袋には即食1日分+水1Lを常備。

5-5.費用の目安(3人×7日)

項目数量概算
主食(米・アルファ化米・乾物)30食7,000〜10,000円
主菜(魚・肉・豆)21〜30品8,000〜12,000円
副菜(乾物・汁物)21〜30品4,000〜6,000円
水・電解質50〜60L3,000〜5,000円
合計22,000〜33,000円

6.具体献立:主食・主菜・副菜で1日を組む

6-1.“水・火なし”の1日例

  • :レトルト粥+ツナ+野菜ジュース
  • :クラッカー+鶏むね缶+ドライフルーツ
  • :オートミール水戻し(缶汁+粉末スープ)+さば缶

6-2.“水あり・火なし”の1日例

  • :アルファ化米の水戻し+梅干し+青菜粉末スープ
  • :春雨サラダ(ツナ・わかめ・缶汁)
  • :雑炊(レトルト粥+高野豆腐+粉末だし)

6-3.“水・火あり”の1日例

  • :白飯+味噌汁(乾燥野菜)+のり
  • :うどんワンポット+さば水煮
  • :ごはん+豆カレー(レトルト)+切干大根

6-4.7日間の循環献立(例)

1レトルト粥+鮭缶クラッカー+鶏缶ごはん+豆カレー+わかめ汁
2オートミール+果物缶うどん+ツナごはん+さば味噌+乾燥野菜汁
3白飯+卵粉末スープ春雨+豆ごはん+焼き鳥缶+切干大根
4粥+梅干し+海苔乾パン+いわし缶ごはん+高野豆腐煮+味噌汁
5オートミール+ナッツパスタ少量+ツナごはん+鶏缶親子風+青菜汁
6粥+ドライフルーツそば+豆レトルトごはん+鮭缶+野菜スープ
7白飯+味噌汁クラッカー+さば水煮ごはん+カレー+サラダ(乾物)

7.味・衛生・ゴミの最小化(失敗しない実務)

7-1.味の工夫

  • ふりかけ・梅干し・缶汁で単調さ回避。香辛料を少量入れると満足度が上がる。
  • 油漬け缶の油炒め油・あえ物に再利用。無駄がない

7-2.衛生管理

  • 手指の清潔・加熱が基本。開封品は速やかに食べ切り
  • 缶切り・はさみは毎回洗浄またはアルコール拭き
  • 夏場常温放置を避ける。残った食品は小分け密閉→早期消費

7-3.ゴミ抑制と臭気対策

  • 紙皿+ラップで洗い物を減らす。
  • 空き缶は水切りにおう物は二重袋回収日に出しやすい形に。
  • 外袋に区分表示(可燃/不燃/資源)で後処理を楽に。

8.主要アイテム比較表(保存性・手間・栄養・用途)

食品群保存性調理手間エネルギー(/100g)たんぱく質(/100g)用途・備考
アルファ化米◯(湯/水)360kcal6g水でも戻るが時間長め
無洗米△(炊飯要)360kcal6g燃料・水が必要
クラッカー/乾パン400kcal8g即食、喉が渇きやすい
オートミール◎(水戻し可)380kcal13g甘味・塩味どちらも可
乾麺(うどん等)△(ゆで)340kcal8gワンポットで省水
もち◯(焼/煮)230kcal4g少量で高エネルギー
ツナ缶(油漬)280kcal18g油も活用可
さば水煮缶200kcal20g汁は汁物へ
鶏むね缶140kcal25g低脂質・高たんぱく
高野豆腐△(戻し)520kcal50g高たんぱく・高脂質
レトルト豆140kcal8g食物繊維も確保
乾燥野菜/わかめ◯(戻し)50kcal3gミネラル・食物繊維
野菜ジュース40kcal1gビタミン補助
ナッツ・種実600kcal15〜20g間食・非常時の即補給
羊羹・黒糖300kcal1g速効エネルギー

数値は代表値の目安。製品により差があります。


9.アレルギー・宗教・嗜好の整理(運用を止めない工夫)

  • 家族の禁止食材一覧表にして箱ふた裏へ。
  • 代替調味(しょうゆ→塩+酢、乳→豆乳など)をメモ。
  • 辛味・香りは別添えで後入れ

Q&A(よくある疑問)

Q1.ごはん派でもパン派でも満足できる?
A. 主食は米+粉物二刀流が安定。アルファ化米+クラッカー+乾麺を組み合わせましょう。

Q2.子どもが野菜を食べない。
A. 野菜ジュース・乾燥野菜の味噌汁・ドライフルーツで補い、ふりかけでごはんを進めます。

Q3.缶詰ばかりで塩分が心配。
A. 水煮・減塩タイプを混ぜ、汁は量を調整。汗が多い日は電解質粉を活用。

Q4.ガス・電気が止まったら炊けない?
A. 水戻し可の主食(アルファ化米・オートミール)と固形燃料小鍋調理に切り替えます。

Q5.賞味期限がすぐ切れてしまう。
A. 月末に使い→同数を補充の循環に。期限は“月”で記録し、箱の前面に貼ります。

Q6.たんぱく質が不足しがち。
A. 魚缶+豆+高野豆腐1日3枠入れると安定します。

Q7.甘い物が欲しくなる。
A. 羊羹・黒糖・干し芋少量。疲れの回復と気持ちの安定に役立ちます。

Q8.鍋や食器が少ない。
A. 紙皿+ラップ湯せん調理ワンポット洗い物最小に。

Q9.高齢の親が固い物を噛みにくい。
A. 粥・煮物・スープ中心に。魚水煮缶+豆腐+乾燥野菜やわらか主菜を。

Q10.非常食の味に飽きる。
A. 香辛料・酢・ごま油一滴味変で食欲が戻ります。

Q11.水が足りない。
A. 即食中心へ切替。調理は缶汁・レトルト汁を活用し水使用を圧縮

Q12.便秘がちになる。
A. 乾物・豆・海藻水分を意識して増やし、温かい汁物を毎食に。


用語辞典(やさしい言い換え)

主食:体の燃料になる食べ物(ごはん・パン・麺・芋)。
主菜:体を作る材料になる食べ物(魚・肉・大豆製品)。
副菜:体の調子を整える食べ物(野菜・海藻・きのこ)。
ローリングストック:普段から食べ、食べた分を補充する備蓄法。
アルファ化米:水や湯で戻して食べられるようにした米。
ワンポット:鍋ひとつで調理する方法。
電解質:汗で失われる塩分など、体の水分調整に必要な成分。
保温調理:加熱後に鍋を布や袋で包み、余熱で火を通す方法。


まとめ:非常食は“足し算”ではなく“組み合わせ”

非常食は個別の品を足していくより、主食・主菜・副菜1食の形に組むと抜けが出ません。即食→短時間調理→加熱三層棚で並べ、水・燃料・道具をセットで管理。月1回の棚卸し家族での試食を習慣にすれば、どんな非常時でも身体が動く食を安定供給できます。備蓄は見える化・小分け・回すの三原則。今日から一箱作るところから始めましょう。

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