キャッシュレスが使えない瞬間は突然やってくる。通信障害、停電、端末故障、レジ更新待ち——非接触決済が止まったときに“買える・動ける”を保つ鍵は、現金運用の型と紙クーポンの即応、そして後払いの段取りである。
本ガイドは、優先順位の決め方、金種のそろえ方、封筒管理、店舗別の使い分け、紙クーポンの落とし穴、つけ払いの台本まで、今日から実装できる手順でまとめた。一覧表・チェックリスト・Q&A・用語辞典も付した。
要点先取り:①電子が止まる日は釣り銭が枯れる、②身分証コピーや保険証が本人確認の代替になる、③現金+紙クーポン+後払いの連絡票で三層防御にしておく、④小銭・小口・小分けでレジ詰まりを避ける。
1.想定する停止シナリオ|何が止まり、どこが生きるか
1-1.代表的な停止要因と“前ぶれ”
- 通信障害:QR/タッチ決済、交通系ICが広域で不可。改札のエラー音増加、レジでの再読込連発は前ぶれ。
- 停電:レジ・決済端末・釣り銭機が落ちる。発電機のある店・現金手計算ができる店は生きる。
- 端末故障/更新:一部レジのみ停止。現金のみ対応に切替の可能性。
- 回線混雑:大規模イベント・災害時に発生。通信は生きていても応答遅延で決済不能になる。
1-2.店舗別の影響イメージと備え
- 個人店:レジが簡易なら現金対応に即移行しやすい。領収書は手書きへ。顔なじみ優位。
- チェーン:本部方針で現金のみや販売一時停止が決まることも。現金レーンを探す。
- 無人機(自販機/券売機):停電で停止。通電後は硬貨のみ復帰の場合あり。紙幣読み取り不可に注意。
- 医療機関:会計が混雑。払込書・振込への切替が比較的通りやすい。
1-3.先に決める“買える順番”と家庭レベルの優先度
- 手元現金→紙クーポン→振込/払込書→つけ払い(連絡票)の順で動く。まずは現金で必需品を確保。
- 家庭の優先度(例):①水・食料・衛生、②薬・通院、③燃料・移動、④情報ツール(乾電池等)。
1-4.停止中も動く代替の種類
- 現金購入:最強。小銭優先で行列短縮。
- 紙クーポン/商品券:対象店で現金同等に近い。お釣り不可の可能性に注意。
- 振込/払込書:医療・公共で有効。証拠が残る。
- つけ払い(連絡票):個人店で有効。連絡先と返済日を明記。
1-5.停止状況の“現場サイン”早見表
サイン | 予測される状況 | 取るべき行動 |
---|---|---|
レジで決済端末の再起動を繰返す | 回線/端末不調 | 現金レーンへ並び替え |
改札でICエラー音が増える | 交通系ICの遅延 | 現金切符/回数券へ切替 |
レジ横の釣り銭機カバーが開いている | 小銭不足 | ぴったり出しを準備 |
店頭に「現金のみ」の貼紙 | 決済全面停止 | 紙クーポン可否を確認 |
2.代替手段の優先順位と在庫設計|足るを作る
2-1.支払いの優先順位(非常時モデル)
優先 | 手段 | 使える場面 | 強み | 注意点 |
---|---|---|---|---|
① | 現金(小銭優先) | ほぼ全店 | 通信不要・即時 | 釣り銭不足に巻き込まれる |
② | 紙クーポン/商品券 | 取扱店 | 現金同等に近い | 釣り銭不可や使用条件あり |
③ | 振込/払込書 | 医療・公共 | 証跡が残る | 窓口/時間帯の制約 |
④ | つけ払い(連絡票) | 顔なじみ店 | 緊急時に融通 | 身分証と連絡先の信頼が前提 |
2-2.家庭の現金在庫(人数別モデル)
世帯 | 食料・衛生(3日) | 交通・医療 | 燃料(車あり) | 推奨金種 |
---|---|---|---|---|
1人 | 5,000〜7,000 | 5,000 | 5,000 | 千円札+100円硬貨中心 |
3人 | 10,000〜15,000 | 10,000 | 10,000〜20,000 | 千円札多め+10円・1円を少量 |
5人 | 15,000〜20,000 | 15,000 | 20,000〜30,000 | 千円札を厚め、100円束を別封筒 |
迷ったら千円札と100円を厚めに。五千円札・二千円札は最少に。
2-3.金種パック例(レジで詰まらない形)
パック名 | 内容 | 用途 |
---|---|---|
小銭スターター | 100円×10、10円×10、1円×20 | 自販機/釣り銭不足対策 |
千円薄型 | 1,000円×10 | コンビニ/診療費 |
急ぎ燃料 | 1,000円×20 | ガソリン/灯油 |
医療・薬局 | 千円×5、百円×10 | 処方薬・救急用品 |
2-4.現金の分散と保管
- 家/通勤バッグ/車内の三か所に分散。同じ場所に置かない。
- 耐火・防水ポーチを1つ用意。レシートや払込書も一緒に保管。
- 子ども用ミニ封筒(千円×2+100円×5)を緊急袋として用意。
2-5.紙クーポン/商品券の在庫と見える化
- 取扱店マップを冷蔵庫に貼る。有効期限・おつりの可否をメモ。
- 小口券(500/1,000)中心。高額券は計画買いで消費。
- 使用条件(酒・たばこ・切手・金券不可など)を券面に手書きしておく。
3.現金運用の実務|封筒・釣り・身分確認
3-1.封筒管理(使いすぎ防止)
- 目的別封筒:「食料」「医療」「交通」「燃料」を色分け。
- 日別/週別封筒で配給のように分けると予算崩壊を防げる。
- 使った金額は封筒の外にメモ。家計簿より早い。
3-1-補足|封筒ラベルの書式(例)
封筒名:食料 上限:3,000円 期日:10/5
買う物:米・乾麺・缶詰・野菜・牛乳
使った額:____ レシート在中:□
3-2.会計を速くするコツ
- 金額を口に出す→札から先に出す→小銭で調整。
- 行列中に小銭を用意し、レジで迷わない。
- 釣り銭不要のぴったり出しを狙う。百円玉を束で持つと速い。
3-3.本人確認の準備と“つけ払い”の台本
- 身分証(保険証・運転免許・学生証)をコピーで同封。
- 緊急連絡票(氏名・住所・電話)を店に渡せるように1枚用意。
- 台本(個人店向け):
- 「通信障害で決済が使えません。千円分だけ食料を“連絡票”でお願いできますか。氏名と電話を書きます」
- 「返済は○日(◯曜日)に来ます。こちらが身分証の写しです」
3-4.「買い物トート」固定装備
品目 | 目安量 | メモ |
---|---|---|
封筒(色分け) | 4〜6 | 目的別に管理 |
小銭パック | 1〜2 | 100円・10円・1円 |
ボールペン・メモ | 各1 | 連絡票/領収書の記入 |
身分証/保険証コピー | 各1 | つけ払いの根拠 |
クリップ/輪ゴム | 数個 | レシート・券の束ね |
小型電卓 | 1 | 端数調整が速い |
3-5.盗難・紛失の抑え方
- 見せない・分ける・すぐしまう。
- 財布を2つ(支払い用/予備)に分ける。
- 人混みでは前ポケット。カバンは体の前で持つ。
4.紙クーポン・商品券・回数券の使い分け|“使える店から使う”
4-1.紙クーポンの基本運用
- 有効期限・お釣りの有無を券面に書き込む。
- 小口券から消費し、高額券はまとめ買いで使用。
- 身分証と連絡票を合わせると店側も安心しやすい。
4-2.商品券/地域振興券の注意
- 取扱店ロゴが店頭に出ていても一時休止の場合あり。会計前に確認。
- 返金不可が多い。返品の可能性がある品は現金を選ぶ。
- 金券・たばこ・切手など対象外品目の事前確認を。
4-3.回数券・プリペイドカードの活用
- 通院/交通は紙の回数券が復旧前でも使えることが多い。
- 路線図の“紙”情報と窓口の営業時間をスマホと別に控える。
- 銭湯・コインランドリーの回数券/メダルも有効。
4-4.店舗別・支払い可否の目安
店舗 | 現金 | 紙クーポン | 振込/払込書 | つけ払い |
---|---|---|---|---|
コンビニ | ◎ | ○ | △ | × |
スーパー | ◎ | ○ | △ | × |
ガソリン | ◎ | △ | × | △(顧客次第) |
個人薬局 | ◎ | ○ | ○ | △ |
クリニック | ○ | △ | ◎ | △ |
個人商店 | ◎ | △ | × | ○(要相談) |
飲食店(個人) | ◎ | △ | × | ○(小口) |
自販機/券売機 | ◎(硬貨) | × | × | × |
目安。地域・店舗方針で変動する。
4-5.やってはいけないこと(失敗例)
- 高額券しか残っておらず少額で使う→お釣りが出ず損。
- 券の対象外品に使おうとする→会計やり直しで行列悪化。
- レジで券面の説明を読み始める→後ろの視線が痛い。事前に確認。
5.生活シーン別の運用シナリオ|今日から回せる
5-1.食料・衛生の調達
- 朝の開店直後は釣り銭に余裕。千円札+小銭でまとめ買い。
- 日持ち食(米・乾麺・缶・レトルト)と即食(パン・惣菜・バナナ)を半々に。
- 衛生品(せっけん・紙類・消毒)は家族人数×7日分まで確保。
5-2.交通・通院
- 紙の回数券を現金で購入。領収書は通院費控除の根拠に。
- タクシーは現金のみ運用になる場合あり。出発前に確認。
- 診察→処方→会計で振込/払込書に切替できるか最初に相談。
5-3.燃料・暖房
- ガソリン/灯油は千円札で。現金限定窓口が臨時開設されることがある。
- ストーブ用灯油はポリ缶の数で上限が決まることも。身分証を持参。
5-4.子育て・高齢者・出張中のケース
- 子育て家庭:粉ミルク・おむつ・レトルト離乳食は現金優先で確保。小口券で補完。
- 高齢者世帯:紙の回数券・地域商品券の使い方メモを冷蔵庫に貼る。
- 出張中:ホテルはカード不可時に現金前清算を求められることあり。領収書をその場でもらう。
5-5.“その日の使途”を見える化するメモ
目的 | 上限額 | 支払い手段 | 実行タイミング |
---|---|---|---|
食料 | 3,000 | 現金(千円×3) | 朝の開店直後 |
衛生 | 1,000 | 商品券(500×2) | 午後のすいた時間 |
交通 | 1,500 | 回数券購入 | 帰宅時に駅窓口 |
燃料 | 5,000 | 現金(千円×5) | 夕方の給油所 |
医療 | 3,000 | 振込/払込書 | 受付で相談→後払い |
5-6.“連絡票(つけ払いメモ)”の雛形
店名:________________
日付:__年__月__日 受取金額:____円
氏名:________________
住所:________________
電話:________________
返済予定日:__年__月__日 署名:____
(用途:食料・衛生・医療・その他)
Q&A|よくある疑問に実務で回答
Q1.千円札が足りない。どう揃える?
朝イチのレジで高額札を崩す。郵便局の両替、自治体の両替機も活用。
Q2.紙クーポンはお釣りが出ないの?
券種と事業ごとに異なる。券面と店頭掲示を確認。迷う時は現金でぴったり。
Q3.身分証がない家族の支払いは?
保険証コピー+緊急連絡票を用意。連絡先の確認が取れれば後払いに応じる店もある。
Q4.自販機しかない場所で飲料が欲しい
硬貨優先で復帰することが多い。100円硬貨の束が役に立つ。
Q5.個人店で“つけ”をお願いしてもいい?
小口・短期・明細記載を前提に。連絡票を渡し、返済予定日を記入。
Q6.災害支援の紙クーポンはいつ届く?
発行条件・時期はばらつく。届いたら期限と対象品目を券面にメモし、小口券から使用。
Q7.ATMや銀行窓口も止まったら?
手元在庫で3日持つ設計が基本。家族・近所と物資交換も視野に。
Q8.領収書が出ないと言われた
但し書き付き手書き領収か受取メモをもらう。日付・金額・店名・担当者を記入して保全。
Q9.偽札が心配
高額は避け千円札中心に。受け取り時は透かし・手触りを確認。怪しければ別の札で支払い。
Q10.ホテルや宿の支払い
現金前清算を求められる場合あり。宿泊証明をもらい、領収書を保管。
用語辞典(やさしい言い換え)
非接触決済:スマホやカードをかざして払う方法。通信や電源が必要。
紙クーポン:自治体や企業が配る紙の値引き券/支払い券。対象と期限がある。
商品券:お店で現金のように使える紙の券。お釣りの可否は発行元による。
回数券:電車やバス、銭湯などで使う複数回分の紙券。
払込書/振込:後から窓口やATMで払う方法。証拠が残る。
連絡票(つけ払いメモ):氏名・住所・電話・金額・返済日を書いて店に渡す紙。
釣り銭機:レジ横のお金を出し入れする機械。停止すると会計が遅くなる。
まとめ|“小銭・小口・小分け”+“小台本”で詰まりを避ける
非接触が止まる日は、行列と釣り銭不足が同時に起きる。小銭・小口・小分けの三点を先に用意し、現金→紙クーポン→振込/連絡票の順で回す設計にしておけば、買い物も受診も滞らない。さらに、店でのお願いは短い台本にしておくと通りやすい。封筒と金種パックを今日つくる——それだけで、次の停止日に家族の生活を守る余白が生まれる。