「同じ漢字なのに、どうして読み方がちがうの?」――たとえば「生」は「せい」「しょう」「い(きる)」「う(まれる)」「なま」など、場面ごとに読みが変わります。
これは、中国から来た発音(音読み)と、日本にもともとあった言葉(訓読み)が出会って混ざり合い、さらに時代・地域・生活の変化が重なって生まれた、日本語ならではの豊かな特徴です。本記事では、小学生にも分かることばで、たっぷり丁寧に、しかも今日から役立つ覚え方まで紹介します。
漢字の読み方がたくさんある理由(歴史と出会い)
中国からの文字と発音が来た(音読み)
漢字は中国で生まれ、日本に伝わったとき中国語の発音もいっしょに伝わりました。これが音読みです。時代や地域によって来た道すじがちがい、「呉音」「漢音」「唐音」などの仲間に分かれます。
たとえば「明」は「めい(漢音)」「みょう(呉音)」の両方が使われ、熟語(例:証明・文明・開明)でよく登場します。耳で聞くと少し違う響きがあり、時代の空気も感じられます。
日本語に合わせた読みを当てた(訓読み)
日本には漢字が来る前から「やま」「かわ」「たべる」などの日本語がありました。そこで、漢字の意味に日本語を当てはめた読みが生まれました。
これが訓読みです。例:山=やま、水=みず、話=はなす。動詞や形容詞には送り仮名がつき、意味がはっきり分かります。「行う」「楽しい」のように、ひらがながヒントになるのが特長です。
日本で作られた言葉(和製漢語)もある
日本人が日本で作った熟語もたくさんあります。これを和製漢語といい、例として電話・会社・鉄道・文化など、今の生活でよく使う言葉が多いのがポイント。音読みどうしを組み合わせて新しい意味を作った、日本語の発明です。
時代・地域・生活で読みが増えた
日本は南北に長く、昔から方言も多彩。さらに生活の変化や新しいものの登場で、同じ漢字でも読みが増えたり減ったりしました。たとえば「生」は「い・う・なま・せい・しょう」など、場面に合わせて読み分けます。これは日本語が生きて動くことばである証拠でもあります。
音読みと訓読みのちがい・使い分け
音読みの特徴と主な例
音読みは中国語に近い響きで、漢字が二つ以上つながる熟語に多く使われます。例:電話(でんわ)・高校(こうこう)・新幹線(しんかんせん)・生徒(せいと)。四字熟語も音読み中心で、一期一会(いちごいちえ)・百発百中(ひゃっぱつひゃくちゅう)などが有名です。学校の教科名(国語・理科・社会・音楽)にも音読みが多いですね。
訓読みの特徴と主な例
訓読みは日本語の意味に合わせた読み。山(やま)・川(かわ)・話す(はなす)・生きる(いきる)のように、一字でも意味が分かりやすく、送り仮名がつくものが多いのが特徴です。名まえや地名では特別な訓読みが使われることもあります(今日=きょう/明日=あした・あす/大人=おとななどは特別な熟字訓)。
まざる読み(湯桶読み・重箱読み)
一語の中で音読みと訓読みがまざることがあります。訓→音の順を湯桶読み(ゆとうよみ)、音→訓の順を重箱読み(じゅうばこよみ)といいます。例:駅前(えきまえ=音→訓)/手当(てあて=訓→音)/荷物(にもつ=音→音)。仕組みが分かると、初めて出会う言葉の読みも推理できます。
送り仮名は読み分けのサイン
「行く/行う」「上がる/上げる」など、同じ漢字でも送り仮名で意味と読みが分かります。送り仮名=訓読みの目印と覚えておくと迷いにくくなります。
よく変わる漢字の読み事典(例を深掘り)
「生」「行」「上・下」を読み分け
生:せい・しょう(音)/い・う・なま(訓)→生活/誕生/生たまご/生き方/再生
行:こう・ぎょう(音)/いく・ゆく・おこなう(訓)→銀行/行事/行く/行う
上:じょう・しょう(音)/うえ・あがる・のぼる(訓)→上昇/地上/上がる/川上
下:か・げ(音)/した・さがる・おりる(訓)→地下/上下/下がる/下車
特別な読み(熟字訓)の代表例
今日=きょう/明日=あした・あす/一昨日=おととい/大人=おとな/土産=みやげ/神酒=みき。二字以上をまとめて一つの日本語として読むタイプで、歴史や暮らしの中から生まれました。
名前・地名の特別な読み
人名や地名では、ふつうとは違う読みが現れます。例:一(はじめ/かず)・二三(ふみ)・小鳥遊(たかなし)・月見里(やまなし)・石動(いするぎ)。土地の歴史や言い伝えが読み方に隠れていることも。地図や由来を調べると、社会や歴史の学びにも広がります。
当て字と新しい言葉の読み
外国から入った言葉に音や見た目で漢字を当てたものを当て字といいます。例:寿司(すし)・珈琲(こーひー)・煙草(たばこ)・合羽(かっぱ)・天麩羅(てんぷら)・蒲公英(たんぽぽ)。意味より音を重視した読みで、日本語の工夫が光ります。
読み分けのコツ(実戦ガイド)
文の中の手がかりを探す
①送り仮名がある→訓読みの可能性大/②二字以上の熟語→音読みが多い/③教科・道具・制度→音読みが多い(例:図書館・研究・委員会)/④自然・動作・気持ち→訓読みが多い(例:雪・走る・悲しい)。
意味が変わると読みも変わる
例:「上手」はじょうず(うまい)、「上手」はかみて(舞台の右側)、「手紙」はてがみ。同じ字でも文脈で決まります。周りの言葉をしっかり読むことがコツ。
読みのペアをまとめて覚える
「せい/しょう」「か/げ」「めい/みょう」のように、音読みペアをセットで覚えると応用が利きます(例:生命・現象/地下・下車/証明・明瞭)。
読み方まとめ表・用例をたっぷり
使い分け早見表(主な漢字と読み・用例)
| 漢字 | 音読み | 訓読み | よくある用例 | 覚え方のヒント |
|---|---|---|---|---|
| 生 | せい/しょう | い・う・なま | 生活/人生/誕生/生放送 | 「せい」は命・生活、「しょう」は性・現象に多い |
| 行 | こう/ぎょう | いく・ゆく・おこなう | 銀行/行事/行く/行う | 動作は訓、組織・制度は音になりやすい |
| 上 | じょう/しょう | うえ・あがる・のぼる | 上昇/地上/上がる/川上 | 場所は訓、抽象(向上など)は音 |
| 下 | か/げ | した・さがる・おりる | 地下/以下/下がる/下り坂 | 上下は音、身の回りの動きは訓 |
| 明 | めい/みょう | あかるい・あける | 説明/証明/文明/明るい | 四字熟語は音、感覚を表すときは訓 |
| 新 | しん | あたらしい | 新幹線/新聞/新学期/新しい | 出来事・制度は音、物の性質は訓 |
| 言 | げん/ごん | いう・こと | 発言/宣言/伝言/言う | 述べる行為は音、具体の言葉は訓 |
| 食 | しょく/じき | たべる・くう・くらう | 食事/定食/朝食/食べる | 生活用語(朝食など)は音、行為は訓 |
| 楽 | がく/らく | たのしい・たのしむ | 音楽/楽譜/娯楽/楽しむ | 芸術・学問は音、気持ちは訓 |
| 長 | ちょう | ながい | 学長/社長/長文/長い | 役職は音、長さは訓 |
| 青 | せい/しょう | あお・あおい | 青年/青春/青空/青い | 人や時代は音、色そのものは訓 |
| 会 | かい/え | あう | 会社/会議/絵画(えが関係)/会う | 集まりは音、行為は訓。読み分け注意(え/かい) |
湯桶読み・重箱読みの代表例(覚えやすいセット)
| 分類 | 読みの型 | 例 | メモ |
|---|---|---|---|
| 湯桶読み | 訓→音 | 手当(てあて)/朝礼(あされい) | 生活語+制度で起こりやすい |
| 重箱読み | 音→訓 | 文具(ぶんぐ)/荷下ろし(におろし) | ジャンル語+具体の動作で起こりやすい |
| 音+音 | 音→音 | 図書館(としょかん)/委員会(いいんかい) | 学習や制度の語で多い |
| 訓+訓 | 訓→訓 | 手紙(てがみ)/山道(やまみち) | 身近な物・自然に多い |
歴史ミニ年表(ざっくり)
いつ、どの読みが増えた?
- 古代:漢字が伝来。中国の読みが入り、音読みの芽が出る。
- 奈良~平安:和歌・物語が広まり、訓読みや熟字訓が育つ。
- 中世~江戸:学問や商いが発達。和製漢語が増える。
- 明治以降:科学・社会の言葉を大量に作成。音読み熟語が一気に拡大。
- 現代:外来語・当て字・固有名の読みが多様化。辞書と相性のよい時代。
学びを深めるアクティビティ
ミニテストに挑戦(声に出して読もう)
- 生命/現象/下車/明確/青空/会議/楽しむ
- 上手(じょうず/かみて)を文で使い分けてみよう。
- 「生」を使って音読みの熟語を3つ、「訓読みのことばを3つ書こう。
観察ノートの作り方
①見つけた言葉を写す→②読みを書く→③意味と例文を書く→④音・訓・熟字訓・当て字のどれかを分類→⑤週の終わりに家族に発表。これで記憶が定着!
難読クイズ(名字・地名)
- 五月女/小手指/不知火/御徒町/御釜神社(こたえは調べてみよう!)
よくある質問(Q&A)
Q1.漢字が二つなら必ず音読み?
A.多くは音読みですが、例外もあります(例:手紙(てがみ)は訓+訓)。言葉の歴史で決まってきたものも多いので、用例で覚えるのが近道です。
Q2.読みが多すぎて覚えられません。
A.まずはよく使う読みから。次に、意味のまとまりで分類(「せい=生命・制度」「しょう=現象・名称」など)。自分の例文を作ると定着します。
Q3.名前や地名の読みはどう調べる?
A.地図・名簿・学校配布物など身近な資料を活用。由来を調べると、社会・歴史の学びが広がります。
Q4.同じ字で意味がちがうときは?
A.文脈が答え。前後の言葉を読んで、何を表しているか考えよう(例:上手(じょうず)な歌/舞台の上手(かみて))。
Q5.四字熟語の読みを早く覚えるコツは?
A.二字ずつに区切って音読みを確認(例:温故|知新)。意味といっしょに短文を作ると忘れにくい。
Q6.当て字はぜったい覚えないとダメ?
A.日常ではひらがな・カタカナで書くことが多いので、読むだけ分かればOK。興味があればコレクションしてみよう。
Q7.音読みの種類(呉音・漢音・唐音)はどう区別する?
A.学校では区別できなくても大丈夫。響きの違いに気づけたら上級者!辞書の注を活用しよう。
Q8.外国の地名や人名の漢字表記は?
A.音訳(おんやく)といって、音に合わせて漢字を当てたものがあります(例:亜米利加=アメリカ)。今はカタカナ表記が主流です。
Q9.テストで迷ったら?
A.①送り仮名を見る/②熟語かどうかを見る/③教科・制度なら音読み寄り/④最後は辞書で確認。迷い方の手順を決めておくと強い!
用語辞典(やさしいことば)
- 音読み:中国語に近い発音の読み。
- 訓読み:日本語の意味に合わせた読み。
- 送り仮名:動詞・形容詞にそえるひらがな。
- 湯桶読み:訓→音の順に読ませる語。
- 重箱読み:音→訓の順に読ませる語。
- 熟字訓:二字以上を一つの日本語として読む特別な読み(今日=きょうなど)。
- 和製漢語:日本で作られた漢字の熟語(電話・文化など)。
- 国字:日本で作られた漢字(例:働・峠・畑)。
- 表外読み:教科書や常用表にのっていない特別な読み。
- ルビ:漢字にそえる小さなふりがな。
まとめ:漢字に読みが多いのは、音読み・訓読みの共存に、時代・地域・生活の変化と日本の発明(和製漢語・熟字訓)が重なったから。仕組みを知り、例で慣れ、ゲームや観察で楽しく増やせば、読む力・語い力・考える力がどんどん育ちます。
最後に1週間チャレンジ:月=読み3語収集/火=熟語10語暗唱/水=四字熟語1つ調べる/木=難読地名を1つ/金=当て字を1つ/土=家族に発表/日=復習。今日から「読み方ハンター」をはじめて、日本語の世界を大きく広げましょう!


