「犬はどうしていつも地面や物のにおいをかいでいるの?」――その答えは、犬の“鼻”が世界を読むためのいちばん大切な道具だから。
この記事では、犬がにおいをかぐ理由、驚くべき嗅覚(きゅうかく)の力、くらしでの活躍、鼻を使った遊び、鼻のケアとマナー、犬種や年齢でのちがい、そして科学コラムまで、小学生にもわかる言葉でたっぷり解説します。自由研究のネタや、おうちでできる観察ゲームも満載です。
犬はなぜにおいをかぐの?基本の理由を知ろう
においで世界を読む「犬の新聞」
犬にとってにおいは、目で見る地図よりも正確な情報源。地面や草、電柱、ベンチには「誰がいつ通ったか」「オスかメスか」「元気かどうか」などの“においの手紙”が残っています。犬はそれを一つずつ読みながら、世界の出来事をチェックしています。においは薄れていくので、鼻のよい犬は“ついさっき起きたこと”と“昨日のこと”もかぎ分けられます。
あいさつとコミュニケーションのことば
犬どうしはおしりのにおいをかいで「はじめまして」。これは失礼ではなく、れっきとしたあいさつ。相手の年れい、性別、体調、気分など、においだけで多くのことを知ることができます。くんくんの長さは関係の深さの目安にもなり、「仲良くしたい?」「ちょっと緊張してる?」などの気持ちも読み取っています。
食べ物・危険・道しるべを見分ける
野生時代の名残で、犬はにおいで「食べられるか」「安全か」「どの道を行けばいいか」を判断します。知らない物や場所をまず“くんくん”するのは、危険を回避するためのたいせつな行動。落ちている食べ物や薬品、動物の足あと、人の足跡、雨上がりの土の変化…においは“外の世界の地図”そのものです。
時間の手がかりも読める
同じ場所でも“古いにおい”は薄く、
“新しいにおい”は濃くはっきり。犬はこの濃さの違いから、出来事の時間の順番を推理します。これを利用して足跡を逆らわずにたどる「トレーリング」も得意です。
犬の嗅覚のひみつと人間とのちがい
鼻の中はセンサーだらけ!嗅覚のしくみ
犬の鼻の奥には、においを感じる「嗅上皮(きゅうじょうひ)」が広く広がり、嗅覚細胞がびっしり。鼻の中は迷路のように折りたたまれ(鼻甲介=びこうかい)、空気の一部が“におい専用ルート”へ分かれて流れるので、におい分子を効率よくキャッチできます。
人間とくらべてどれくらいすごい?
犬は人間よりもはるかに小さなにおいを感じ取れます。犬種によりますが、嗅覚細胞の数は人間の数十倍〜100倍以上、感度は1万倍〜100万倍とも言われます。たとえば大きなプールにスプーン1杯の物質をまぜても、犬は気づけるほど。さらに、左右の鼻で時間差をつけて吸い込み、においの“方向”や“広がり方”もつかめます。
鼻がぬれている・ひくひく動く理由
鼻がしめっていると、におい分子が表面にくっつきやすくなります。犬が鼻をひくひく動かすのは、風向きや濃さの違う空気を細かく取り込み、情報を“重ね取り”しているから。ひくひくのリズムで、速く広く→ゆっくり狭く、とスキャンの仕方を切り替えています。
追加のひみつ:鋤鼻器(じょびき)と“鼻紋”
口の奥にはフェロモンの合図を感じる特別な器官「鋤鼻器」があります。これで仲間の情報をさらに深く読み取ります。また、犬の鼻の模様(鼻紋)は一頭ずつちがい、指紋のように個体識別に使えるほどユニークです。
くらしに役立つ犬の嗅覚—リアルな活躍例
警察犬・災害救助犬・探知犬
事件現場に残ったにおいから人や物を見つける警察犬、地震でこわれた建物の中から人を探す災害救助犬、空港であやしい荷物を見つける探知犬。目に見えない“手がかり”を鼻で追う、頼もしいヒーローたちです。
介助犬・医療の分野でも
盲導犬や聴導犬だけでなく、てんかんや低血糖の前ぶれ、特定の病気のにおいを察して知らせる“医療アラート犬”もいます。人の汗・息・皮ふのにおいの変化から体調の異変を読み取る力が注目されています。
野外調査・保全の現場
外来生物の発見、絶滅危惧種のフンや巣の捜索、害虫・カビ・カシナガなどの早期発見、木の中のキクイムシのにおいまでキャッチする林業支援も。トリュフ(キノコ)を探す“トリュフ犬”も世界で活躍中です。
家庭での見守り
家では、家族のにおいを覚えて安心したり、いつもと違う足音やにおいに反応して知らせたり。迷子の持ち物のにおいを手がかりに探すことができた、という例もあります。
犬と楽しむ「におい遊び」と観察
おやつ宝さがしゲーム(ノーズワーク)
- 部屋の隅や布の下に小さなおやつを隠す
- 合図で探してもらう
- 見つけたらほめる&ごほうび!
レベルアップ:箱を並べて一つだけおやつ入り/屋外で落ち葉の中に隠す/においの弱い食材→強い食材へ段階アップ。
※飲み込み注意。小さすぎる物は使わない。最初は簡単、徐々に難しくがコツ。
においの“道”を作るトレイル遊び
コットンにスープを少しだけしみこませ、庭や公園で点々とつけて「においの道」を作成。最後におやつ。最初は直線、次はカーブ、最後は分かれ道も。風向きに対して横切る形にすると難易度が上がります。
散歩で「におい読み解きノート」
散歩コースで愛犬が長く嗅ぐスポットをメモ。天気・風・時間帯で変化を比べると、「雨上がりは草むら」「朝は電柱付近」など、においの法則が見えてきます。自由研究にもおすすめ。地図アプリにピンを打つのも楽しい!
五感ミックスのリラックスごはん
ごはん前に30秒だけ“においタイム”。器を床に置く→上に置く→少し離して置く、の順で難易度を変え、鼻を使わせてから食べると満足度がぐんと上がります。
犬の鼻を守るためのケアとマナー
嗅ぐ自由を尊重する散歩術
急がない散歩も大切。安全を確かめたうえで、においを嗅ぐ時間を適度に確保しましょう。におい探しは犬の“心の栄養”。ただし「行こう」の合図で切り替えられる練習もして、だらだら嗅ぎ続けないバランスが大切です。
NGにおい・危険物から守る
除草剤・融雪剤・タバコの吸い殻・ペンキ・農薬・乾燥剤・とがった破片などは、嗅いだり口に入れると危険。道ばたの未知の物は距離をとり、拾い食い防止の練習もしておきます。清掃用の強い香りや芳香剤も鼻に負担。
季節のケア(乾燥・熱中症・花粉)
冬は乾燥で鼻がひび割れることも。加湿と水分補給、ワセリン等を薄く塗る場合は舐めても安全なものを少量に。夏は朝夕の涼しい時間に散歩、熱いアスファルトは肉球と鼻に負担。花粉の季節は帰宅後に顔まわりをやさしく拭き、鼻をこすりすぎないよう見守ります。
おうちのニオイ環境をととのえる
香水・柔軟剤・強い消臭剤は控えめに。空気の流れを作り(換気)、湿度を保ち、床のほこりをこまめに掃除。これだけで犬の“におい疲れ”が軽くなります。
犬種・年齢・体質でのちがい
長い鼻・短い鼻
ビーグル、ジャーマンシェパードなど“長い鼻”の犬は空気の通り道が長く、におい情報を集めやすい傾向。一方、短頭種(フレンチブル、パグ等)は構造上空気量が少なめでも、集中して上手に嗅ぐ子が多いです。個体差を大切に。
こども犬とシニア犬
子犬は世界がにおいで新発見だらけ。安全を見守りつつ、短時間で楽しく。シニアは感度がゆるやかに低下することがありますが、ノーズワークは脳トレ・気分転換に最適。疲れやすいので休憩多めで。
体調・気分との関係
ストレスや体調不良で嗅ぎ方が変わることも。いつもより“においに無関心”“同じ所を執拗に舐める”などの変化は、早めに記録して獣医師に相談を。
科学ミニコラム:においは物理!風・温度・湿度の法則
- 風:追い風はにおいが前へ流れて広がり、向かい風はにおいがこちらへ届きやすい。横風は“においの川”を横切るので難易度アップ。
- 温度:暖かいとにおい分子がよく飛び、寒いと地面付近にとどまりがち。朝夕で嗅ぎポイントが変わるのはこのため。
- 湿度:適度な湿気はにおいが立ちやすい。雨上がりは“におい日和”。
散歩前チェックリスト(安全&集中アップ)
- 首輪・ハーネスのゆるみはない?
- リードの金具は傷んでいない?
- ポケットにおやつ・うんち袋・水は入ってる?
- 今日の気温・風・地面温度は大丈夫?
- 「行こう」「待って」「探して」など合図の確認OK?
犬と人間の“におい力”くらべ表
| 比べるポイント | 犬 | 人間 |
|---|---|---|
| 嗅覚細胞の数 | 人の数十倍〜100倍以上 | 犬より少ない |
| 感度(においの強さ) | 1万〜100万倍感じやすい | においに気づきにくい |
| 鼻のつくり | 嗅上皮が広い/空気の分流ができる/鼻甲介が発達 | 嗅上皮は狭い |
| 両鼻の使い分け | 左右で時間差吸気→方向推定 | ほとんど意識しない |
| 情報の集め方 | においで地図を作る・時間の経過も読める | 主に目で見る・音で聞く |
| 役立つ場面 | 警察犬・救助犬・探知犬・医療支援・野外調査 | 料理・香りを楽しむ |
| 特別な器官 | 鋤鼻器でフェロモンを感じる | 退化的 |
よくある質問(Q&A)
Q1. どうして犬はおしりのにおいをかぐの?
A. におい袋(肛門腺)の情報から、相手の性別・年れい・体調・気分などを知るための“あいさつ”です。
Q2. 鼻をずっと地面につけて歩くのはやめさせたほうがいい?
A. 基本はOK。ただし危険物やゴミが多い場所では短く切り上げ、コマンド(「ちょっと待って」「行こう」)で切り替えできるよう練習しましょう。
Q3. 雨の日にいつもよりクンクンするのはなぜ?
A. 雨で地面のにおいが立ちのぼり、情報が濃くなるから。風が弱い雨上がりは“におい読み”のベストタイムです。
Q4. 鼻が乾いている=病気?
A. 寝起きや暖房で一時的に乾くのはふつう。ひび割れ、出血、変色、食欲不振が続くなら動物病院へ。
Q5. 年を取るとにおいを感じにくくなる?
A. 個体差はあるものの、加齢で感度が下がることがあります。ノーズワーク遊びで適度に刺激すると脳トレにもなります。
Q6. 香水や柔軟剤は犬に負担?
A. 強い香りは“においの嵐”になり、ストレスの原因に。外出前は控えめに、換気を。
Q7. 拾い食いを防ぐコツは?
A. 「オフ(離して)」「レイヴイット(触らない)」などの合図を練習。におい探しのごほうびを使って、地面を見続けない時間も作る。
Q8. 犬同士のにおいあいさつ、止めるべき時は?
A. 相手が嫌がっている/体調が悪そう/混雑して危険/長引きすぎる時はやさしく中断。
用語辞典(やさしい言葉で)
- 嗅覚(きゅうかく):においを感じる力。鼻から入ったにおい分子を脳で読み取るしくみ。
- 嗅上皮(きゅうじょうひ):鼻の奥にある“においセンサー地帯”。ここでにおいをキャッチする。
- 嗅覚細胞:におい分子を受け取る細胞。たくさんあるほど細かいにおいまで分かる。
- 鼻甲介(びこうかい):鼻の中のヒダ。空気の流れをコントロールし、においを集めやすくする。
- 鋤鼻器(じょびき):フェロモンなど特別なにおいの信号を感じる器官。
- マーキング:おしっこなどで自分のにおいを残す行動。「ここに来たよ」のサイン。
- フェロモン:仲間同士の合図になるにおいの物質。気分や情報を伝える役目がある。
- ノーズワーク:鼻を使って宝さがしをする遊びや学習。体と頭と心のいい運動になる。
- トレーリング:人や動物の残したにおいの筋(すじ)をたどること。
- 鼻紋(びもん):鼻の模様。指紋のように一頭ずつちがう。
まとめ
犬は“においの世界”で生きています。においはニュースであり、手紙であり、地図であり、あいさつのことば。超高性能の鼻は、人には見えない情報をたくさん教えてくれます。
散歩でのクンクンは、犬にとって大切な学びと楽しみ。安全に気を配りながら、におい遊びや観察を取り入れて、愛犬との毎日をもっと豊かにしましょう。今日から「においの時間」を少しふやすだけで、犬の満足度と笑顔がぐんとアップします。


