「どうして小学校には運動会があるの?」――その答えは、ただ“たのしいから”だけではありません。運動会は、からだ・心・あたまをいっしょに育てる学びの場であり、友だち・先生・家族・地域みんなでつくる大切な学校文化です。
この記事では、運動会の目的、身につく力、歴史、安全の工夫、準備と当日のコツ、終わったあとの振り返りまで、たっぷり・やさしく・実用的に紹介します。
この記事の見取り図(まずここから)
- 何がわかる? 運動会の意味/身につく力/安全と準備/練習と本番のコツ/振り返り方法。
- だれ向け? 小学生と保護者、先生、地域のサポーター。
- どう使う? 練習前→「目的と準備」を確認/本番前→「チェック表」を確認/本番後→「振り返りノート」で成長を見える化。
運動会はなぜあるの?目的をやさしく解説
からだ・心・あたまを同時に育てる
運動会は「走る・跳ぶ・投げる」などの基本の動きを通して体力を高めるだけでなく、作戦や順番、練習計画を考えることで“考える力”も育てます。さらに、緊張や悔しさと向き合い、気持ちのととのえ方を学ぶことで“心の強さ”が身につきます。
チームで学ぶ社会のルール
リレーや団体種目は、合図を守る、順番を守る、役割分担をする、といった社会の約束事を体験的に学べる場です。「助け合い」「ゆずり合い」「相手をたたえる」姿勢は、教室でも家庭でも役立つ一生ものの力になります。
目標と成長を“見える化”
運動会は、練習→本番→振り返りの流れで、努力の成果がはっきり分かります。「去年より速く走れた」「友だちと息を合わせられた」など、成長を実感できるのが大きな魅力です。
自分を好きになる“自己効力感”
小さな達成(例:バトンパスのミスを1回へらした)を積み重ねることで、「やればできる」という気持ち=自己効力感が育ちます。これは勉強や生活の自信にも広がります。
種目別にみる「育つ力」
走る・跳ぶ・投げるで育つ力
- かけっこ・短距離…スタートの集中、姿勢づくり、最後まで走り切る粘り強さ。
- リレー…バトンパスの技術、仲間を信じてつなぐ責任感、作戦会議での話し合い。
- 障害物走・跳びこし…状況判断、バランス、転んでも立ち上がる心。
- 玉入れ・的当て…ねらいを定める集中力、腕や体幹の使い方。
- 長なわ・短なわ…リズム、タイミング、掛け声でペースを合わせる協調性。
みんなで力を合わせる種目で育つ力
- 綱引き…合図で同時に力を出す協調、体重移動と足のふんばり。
- 大玉ころがし・大玉送り…声かけ、役割分担、ペース合わせ。
- ダンス・表現…リズム感、表情や姿勢、見ている人を思いやる表現力。
- 台風の目・ムカデ競走…歩幅をそろえる、合図でいっせいに動く、事故を防ぐ声かけ。
応援・係活動で育つ力
- 応援団・放送・得点係…ことばで勇気づける力、正確さ、責任感。
- 準備・片付け係…安全確認、時間管理、道具の扱い。
- 記録・広報係…写真やメモで“学び”を残す力、ことばで伝える力。
種目×育つ力 早見表
| 種目 | 主に育つ力 | 上達のコツ | 家での練習アイデア |
|---|---|---|---|
| かけっこ | 姿勢・腕ふり・集中 | 目線は前、腕は後ろへ大きく、短いダッシュをくり返す | 10〜30mのダッシュ、もも上げ、足うらほぐし |
| リレー | 連携・責任・判断 | バトンは“手のひらで迎えにいく”、声で合図 | 新聞紙を丸めた“バトン”で受け渡し練習 |
| 綱引き | 協調・体幹・ふんばり | 足はすべりにくく広く、体をやや後ろへ、合図で同時 | タオル綱でタイミング合わせゲーム |
| 玉入れ | 集中・ねらい・反復 | “高く放る→カゴの上から落とす”イメージ | 洗たくカゴでシュート練習、紙玉づくり |
| 大玉ころがし | 声かけ・役割分担 | 前後左右の確認、ペースを声で合わせる | ビーチボールでコース取り練習 |
| ダンス・表現 | リズム・姿勢・表現 | 8拍で区切って覚える、鏡で姿勢チェック | 家族に見てもらい“よかった点”を聞く |
| 長なわ | タイミング・集中 | 「入る合図」を決める、足はそろえて軽やかに | 短なわでリズム練習→長なわへ |
学年・役割別アドバイス
学年別のコツ
| 学年 | ねらい | 練習のポイント |
|---|---|---|
| 低学年 | 楽しく体を動かす/合図を守る | 短時間で回数多く、合図(音・旗)を見て動く練習 |
| 中学年 | 基本動作の質アップ | スタート姿勢・腕ふり・バトン角度など“1か所”に集中 |
| 高学年 | チーム運営・作戦力 | 並び順の理由を説明、係活動での段取り・安全確認 |
役割別のコツ
| 役割 | 事前準備 | 当日のポイント |
|---|---|---|
| 走者 | 靴・くつ下・ひもチェック | スタート前は深呼吸→合図だけを見る |
| 応援 | コールを3種類用意 | 名前+短い言葉でテンポよく |
| 放送 | 原稿にふりがな | ゆっくり・はっきり・聞き手を見る |
| 得点 | 二重チェック体制 | 記録後に相互確認・サイン |
2週間モデル練習プラン(例)
| 日数 | 目的 | 具体メニュー | 振り返りメモ |
|---|---|---|---|
| 1 | 目標決め | 種目確認/安全ルール共有 | 目標を書き出す |
| 2 | 姿勢づくり | 準備運動・体幹・もも上げ | 姿勢の写真でチェック |
| 3 | スタート集中 | スタブロなしダッシュ×6 | 合図に反応できた? |
| 4 | 技術1 | バトン受け渡し/玉入れフォーム | 1か所だけ直す |
| 5 | 技術2 | 綱引き合図合わせ/ダンス8拍×4 | 声かけことば決定 |
| 6 | ミニ通し | 半分の距離で通し練習 | うまくいった点3つ |
| 7 | 休息&確認 | 体ケア/ルール再確認 | 体調チェック表 |
| 8 | 通し1 | 本番順に通し | 水分タイミング確認 |
| 9 | 技術復習 | 直したい1点に集中 | できた/未の理由 |
| 10 | 通し2 | 応援も入れて通し | 応援ことば磨き |
| 11 | 調整 | 疲労が強い所のケア | 睡眠・入浴の工夫 |
| 12 | 本番直前 | 持ち物・係最終確認 | 役割の再共有 |
| 13 | 本番 | 落ち着いていつも通り | 笑顔であいさつ |
| 14 | 振り返り | 良かった点・改善点 | 次の目標1つ |
安全・準備・裏方の工夫(先生と地域の見えない努力)
先生と地域の安全計画
プログラムの配列、救護体制、給水ポイント、コースの幅、日陰の設置など、事前に細かく点検。地域ボランティアや保護者と連携し、安心して楽しめる環境を整えます。
熱中症・けが予防チェックリスト
| 項目 | 具体例 | 当日のポイント |
|---|---|---|
| 水分・塩分 | 水筒、塩分タブレット | 競技前後でひと口ずつ、のどが渇く前に |
| 休けい | 日陰・テント | こまめに休む、帽子を活用 |
| 服装 | 通気のよい体操服、はき慣れた靴 | くつ下はズレない長さ、ひもは二重むすび |
| 準備運動 | 関節回し、ストレッチ | 朝と出番前に短く複数回 |
| 応急 | けがの連絡経路 | 倒れた人がいたら近くの大人へ合図 |
| 紫外線 | 日やけ止め、日よけ | 首タオル・腕の直射日光対策 |
| アレルギー | 事前申告・医療情報 | 教職員・保護者で共有 |
持ち物&当日の過ごし方 早見表
| 分類 | 必要なもの | ワンポイント |
|---|---|---|
| 基本 | 体操服、赤白帽、運動靴、名札 | 名前を書いて取り違え防止 |
| 体調 | 水筒、タオル、ハンカチ | タオルは首元の日よけにも |
| 休けい | レジャーシート、帽子 | 日かげを選んで座る |
| 便利 | ばんそうこう、ポリ袋 | 汚れ物入れやごみ袋に |
| 応援 | うちわ、応援ボード | 通路のじゃまにならないサイズ |
ユニバーサルデザイン(みんなにやさしい運動会)
- 合図は音+旗+掲示の多重化。
- スタート位置やコースに色テープで目印。
- 参加方法は複数案(走る/応援/係/記録)。
- しんどい時は休む合図を事前に決める。
環境にやさしい工夫(SDGs)
- マイ水筒の推進/ごみの分別。
- 使い捨てをへらし、道具は修理して長く使う。
- 校庭の植物や土を大切に扱う。
もっと楽しく!家族・地域・心の準備
練習を楽しむ“3つのC”
- ちいさく(Compact)…短い時間で集中して練習。
- 回数(Count)…毎日すこしずつ回数を重ねる。
- ほめ合い(Compliment)…できた所を言葉にして伝え合う。
※ カタカナ語はできるだけ日本語に言いかえています。
家族ができる応援
声をかけるタイミング(出番前は簡単に、終わったら具体的にほめる)、写真は安全優先、暑さ寒さの見守りなど、陰のサポートが子どもたちの力になります。
応援・撮影のマナー
- 通路をふさがない、脚立は使わない。
- 他の児童が映りこむ配信はしない。
- 大声でのヤジ・相手チームへの失礼な声かけはしない。
思い出を“振り返りノート”に
「できたこと」「くやしかったこと」「次にためす工夫」を1ページに。写真や友だちのことばも貼っておくと、来年の力になります。
終わったあとの体ケア&こころケア
| 分類 | やること | くわしいポイント |
|---|---|---|
| 水分・栄養 | 水・お茶、汁物、たんぱく質 | がんばった直後は消化のよい物→夕食でしっかり |
| 入浴 | ぬるめのお湯 | あたため→軽ストレッチで筋肉ほぐし |
| 眠り | 早めの就寝 | 画面は短め、深呼吸でリラックス |
| こころ | 気持ちの整理 | 良かった3つ/次の1つを家族と共有 |
教科につながる“学び”のひろがり
- 算数…タイム計測、平均・グラフ化。
- 理科…てこの原理(綱引き)、摩擦(靴と地面)、心拍数。
- 国語…応援スピーチ、発表原稿、ニュース記事作成。
- 図工・音楽…応援旗づくり、リズムづくり。
- 社会…地域ぐるみの行事の意味。
運動会の歴史と世界の行事
日本のはじまりと変化
明治時代、体づくりと団結を目的に始まった行事が、地域ぐるみの「運動会」として広がりました。時代とともに種目やルール、安全対策も見直され、だれもが参加しやすい形へ進化しています。
世界にもある“体の学びの日”
各国には「スポーツデー」「フィールドデー」など、子どもが体を動かし、協力や礼儀を学ぶ日があります。踊りや民族競技が入る国もあり、文化が色濃く出るのも特色です。
いまの運動会は“安全・多様性・学び”へ
熱中症対策やけが予防、応援マナーの徹底、見せるだけでなく“学びを言葉にする振り返り”など、現代の学校に合った形が増えています。
年代でみる運動会のうつり変わり
| おおよその年代 | 特徴 | よく見られた種目・工夫 |
|---|---|---|
| 明治〜昭和前期 | 体力づくり・地域一体 | 行進、騎馬戦、綱引き、大玉、地域対抗 |
| 昭和後期〜平成 | 安全重視・学年別色分け | リレー、表現運動、全校ダンス、応援合戦 |
| 令和 | 多様性・学びの可視化 | 熱中症対策、振り返りシート、係活動の拡充 |
運動会の“意味・学び”まとめ表
| ポイント | 身につくこと | 具体例 |
|---|---|---|
| 体を動かす | 体力・姿勢・バランス | かけっこ、障害物走、準備運動 |
| 心を育てる | あきらめない心、切り替え | 転んでもゴールへ、深呼吸で気持ちを整える |
| 協力する | チームワーク、思いやり | リレーの声かけ、道具の受け渡し |
| ルールを守る | 安全、順番、フェアプレー | 合図でスタート、反則をしない |
| 学びを言葉に | 振り返り、次の目標 | 「良かった点・次の一手」をノート化 |
| 地域とつながる | 応援・運営の協力 | 保護者ボランティア、地域の救護・警備 |
Q&A(よくある質問)
Q1. 勝てなくてくやしい。どうすればいい?
A. くやしさは成長のしるし。まずは深呼吸で心を落ち着かせ、「できたこと」を3つ書き出してみよう。次に“1か所だけ”直すポイントを決めて練習へ。
Q2. 運動が苦手。楽しめるコツは?
A. 得意な役割(応援・係・作戦)も立派な力。短時間の家練習(10mダッシュや玉入れの動作)を“毎日少し”続けると変化が出ます。
Q3. 本番で緊張してしまう。
A. 出番前の“ルーティン”を決めよう(手をグー・パー×5回→深呼吸→笑顔)。練習どおりの動きに集中すればOK。
Q4. 雨で延期になったら?
A. 体調と道具の準備をそのままキープ。プログラムが変わることもあるので、掲示や連絡を確認しよう。
Q5. 転んだり失敗したら?
A. 立ち上がってゴールする姿が一番かっこいい! けががあればすぐ大人へ合図。仲間は拍手で背中を押そう。
Q6. 応援が苦手。何を言えばいい?
A. 名前+短い言葉が最強。「○○、いいペース!」「ナイス!」など、リズムよくくり返すと伝わります。
Q7. 暑さが心配。対策は?
A. 水分は“ちょこちょこ飲み”。帽子・首タオル・日陰休けい。無理はしない合図を家族と決めておこう。
Q8. 係活動が不安。
A. 手順を“声に出して”練習しよう。分からない所に付せんを貼り、当日は早めに集合して確認。
Q9. 靴がすべる/合わない。
A. 砂や泥を落として乾かす。ひもは二重むすび。かかとがカポカポする靴は中敷きで調整。
Q10. 並び順や走順に納得いかない。
A. 作戦や安全が理由のことが多いよ。先生に“理由を聞く→自分の役割でベストを出す”が上級者の姿勢。
Q11. 緊張でおなかが痛い。
A. 直前の食べすぎはさけ、ぬるい白湯を一口。腹式呼吸(4秒吸って6秒吐く)で楽になります。
Q12. 室内開催になったら?
A. 靴のはき替えや動線が変わるので、掲示をよく見る。声量は控えめに、合図を目で確認。
用語辞典(やさしいことばで)
- 団体種目…みんなで力を合わせる競技。例:綱引き、大玉送り。
- フェアプレー…正しいルールでたたかい、相手を思いやること。
- バトンパス…リレーで棒(バトン)を仲間へ渡すこと。
- アンカー…リレーの最後を走る人。
- リレーゾーン…バトンを受け渡してよい区間。
- 作戦会議…並び順や合図、声かけを話し合って決める時間。
- 準備運動…けがをふせぐための体ならし。関節回し・ストレッチなど。
- 熱中症…暑さで体調が悪くなること。水分・塩分・休けいが大切。
- 応援席…なかまと家族が見守る場所。マナーを守って応援する。
- プログラム…当日の順番を書いた表。
- ルーティン…いつも同じ手順で心を落ち着かせるやり方。
- ユニバーサルデザイン…だれにとっても使いやすい工夫。
さいごに(まとめ)
運動会は、体をきたえ、心を育て、仲間と学び合う“ぜんぶ入りの学習”です。勝ち負けだけでなく、準備・本番・振り返りの全部が宝物。安全に気をつけながら、友だち・先生・家族・地域のみんなで、今年もいちばんの笑顔の一日をつくりましょう!


