パンがふくらむ理由は、とても小さな生き物「イースト菌(こうぼ)」のはたらきと、小麦粉の力(グルテン)が合わさるから。
この記事では、パンがふくらむしくみ、イースト菌の正体、発酵のコツ、イースト菌以外のふくらませ方、自由研究に使える観察ポイント、かんたんレシピ、失敗しないコツまで、図鑑みたいにたっぷり解説します。
パンがふくらむ理由は?基本のしくみを知ろう
生地の材料と役わり
- 小麦粉:水とまざるとグルテンという粘りの強いネットができ、気体(泡)を閉じこめる袋になります。
- 水:粉をまとめ、グルテンを作る土台。イースト菌の暮らす場にも。
- イースト菌:砂糖などを食べて二酸化炭素と少量のアルコールを作る“ふくらまし隊長”。
- 砂糖:イースト菌のエサ。焼き色や香りにも貢献。入れすぎると逆に動きがにぶることも。
- 塩:味を引きしめ、生地をしまらせる。入れすぎるとイースト菌が苦手。
- 油(バター・植物油):生地をしっとりさせ、さめてもやわらかく保つ。
- ミルク・卵:コクや甘み、焼き色アップ。やわらか食感に。
グルテンのネットが“泡の家”になる
こねると生地の中にグルテンの細かいネット(膜)ができ、イースト菌が作ったガスの泡を逃がさずキャッチ。これがふわふわのもとです。グルテンは、のびやすい「グリアジン」と、強さを出す「グルテニン」というたんぱく質が手をつないだイメージ。よくこねると風船のゴムのようにのびます。
ふくらみの主役は二酸化炭素
イースト菌が出す二酸化炭素の泡が生地の中に広がり、オーブンの熱でさらに大きくなって、パンがぷくーっとふくらみます。焼きはじめの数分で一気にふくらむ現象をオーブン・スプリングと呼びます。
材料と役わり 早わかり表
| 材料 | 主なはたらき | 入れすぎたときの注意 |
|---|---|---|
| 小麦粉 | グルテンのネットで泡を閉じこめる | 種類で吸水が変わる(強力粉は水をよく吸う) |
| 水 | まとめ・発酵の場づくり | 多すぎるとだれ、少なすぎるとこねにくい |
| 砂糖 | イースト菌のエサ・焼き色・風味 | 多すぎると発酵が遅い |
| 塩 | 味・生地をしめる | 多すぎると発酵しにくい |
| 油 | しっとり・口どけ | 多すぎるとふくらみにくい |
| ミルク・卵 | コク・香り・焼き色 | 入れすぎると重くなる |
| イースト菌 | ガスと香りを作る主役 | 高温で死ぬ(約50℃以上) |
イースト菌ってどんな生き物?
身近にいる“こうぼ”の正体
イースト菌は酵母という微生物。目では見えませんが、果物の皮や空気、自然の中にもいます。パン作りではパン用イースト(ドライ/生イースト)を使います。ドライは保存しやすく、少量でも扱いやすいのが長所です。
発酵で生まれる「泡」と「香り」
イースト菌が砂糖を分解すると、二酸化炭素(泡)とアルコールが生まれます。アルコールや香りの成分は焼くあいだにとび、焼きたての良い香りになります。香りはパンのおいしさサイン!
どんな環境が好き?(温度・時間・エサ・空気)
- 温度:30〜40℃くらいが得意。10℃以下ではのんびり、50℃以上で弱る/死んでしまう。
- 時間:ゆっくり発酵させると風味が増す。急ぎすぎると香りが弱い。
- エサ:砂糖があると元気。砂糖ゼロでも小麦のデンプン由来の糖で動けます(ゆっくり)。
- 空気(酸素):はじめに空気が少しあると増えやすい。生地がまとまったら酸素は少なめでもOK(発酵へ)。
イースト菌の元気度 チャート
| 条件 | イースト菌のようす | 生地の変化 |
|---|---|---|
| 5〜10℃ | 休みがち | ほとんどふくらまない(冷蔵発酵はとってもゆっくり) |
| 25〜30℃ | 活発 | しっかりふくらむ・香りよし |
| 35〜40℃ | とても活発 | 早くふくらむが過発酵に注意 |
| 50℃以上 | 危険 | イースト菌が弱る/死ぬ |
パン作りの流れと発酵のコツ
基本の6ステップ
- まぜる・こねる:材料を合わせ、のびのある生地に。
- オートリーズ(休ませ):こねの途中で10〜20分休ませると、粉に水がなじみこねやすくなる。
- 一次発酵:生地全体をふくらませ風味作り。
- パンチ(ガス抜き):大きな泡をならし、きめを整える。
- 成形 → 二次発酵:形を作り、焼く前の最終ふくらみ。
- 焼成:高温で一気に“オーブン・スプリング”。必要ならスチームで皮をパリッと。
成功のサイン「発酵の見きわめ」
- 一次発酵:指に粉をつけ、生地にそっと差して穴がゆっくり戻る→OK。
- 二次発酵:生地がひとまわり以上ふくらみ、表面がなめらか。
- 過発酵のサイン:すっぱさ・べたつき・ガス抜けでしぼむ。
失敗しないコツ(温度・塩・水分・こね)
- 水温:夏は冷たく、冬はぬるめに。仕込み温度を調整。
- 塩の分量:粉に対して**1.8〜2%**が目安。入れすぎ注意。
- 水分量:粉に対して**60〜70%**前後(配合で変わる)。やわらかめはふんわり、かためは形が作りやすい。
- こね上げ温度:生地温度が27〜28℃前後だと発酵が安定。
発酵のコツ まとめ表
| 観察ポイント | 良い状態 | 困ったときの対策 |
|---|---|---|
| 生地の手ざわり | なめらか・のびる | こね不足→追加でこねる/休ませる |
| ふくらみ量 | 2倍前後(一次) | 寒い→温かい所へ/暑い→時間短縮 |
| 香り | ほんのり甘く香ばしい | すっぱい→過発酵。次回は温度・時間を短く |
| 焼き色 | きつね色 | 焼き過ぎ→温度か時間を下げる |
| 表面 | ピンと張っている | 乾燥→発酵中はラップや濡れ布で保湿 |
もっとくわしく!焼くときの“ふくらみの魔法”
オーブン・スプリングはなぜ起きる?
- 気体の温まり:二酸化炭素や水蒸気が熱でふくらむ。
- アルコールの気化:発酵でできたアルコールが蒸発し、気泡を押し広げる。
- グルテンの固まり始め:高温でグルテンが固まり、形をキープ。
- メイラード反応:表面で色と香りが深くなる“おいしい化学反応”。
スチーム(蒸気)の役目
最初にスチームを入れると表面がやわらかく、ふくらみやすい。水を霧吹きする/耐熱容器に熱湯を入れるなどで代用OK(やけど注意)。
イースト菌以外のふくらませ方と世界のパン
ベーキングパウダー・重曹(ふくらし粉)
- しくみ:水や熱、酸と反応して二酸化炭素を出す化学の力。
- 特徴:待ち時間が少ない。ケーキ、蒸しパン、スコーンなどに向く。
天然酵母・サワー種(酸味のある種)
- 天然酵母:ぶどう・りんご・米などから育てた酵母。発酵がゆっくりでうまみ・香りが深い。
- サワー種:小麦粉と水を育てた酸味のある種。ライ麦パンなどで活躍。
ふくらまないパン(フラットブレッド)
- ナン/ピタ/トルティーヤなど、薄くのばして焼くタイプ。ふくらみは少なくても、焼き方・水分で食感が変わります。ピタは高温で焼くと**ポン!**と袋のようにふくらむよ。
ふくらませ方 比較表
| 方法 | 主な力 | 待ち時間 | 風味 | 向くパン |
|---|---|---|---|---|
| イースト菌 | 発酵ガス | 必要(一次・二次) | 香り豊か | 食パン・ロール・菓子パン |
| 天然酵母 | 発酵ガス(ゆっくり) | 長い | うまみ深い | カンパーニュ・ハード系 |
| ベーキングパウダー | 化学反応 | 短い | さっぱり | 蒸しパン・スコーン |
| ふくらませない | なし | ほぼ不要 | 焼き方で差 | ナン・ピタ・トルティーヤ |
自由研究にぴったり!発酵の観察とミニ実験
実験1:温度でどれだけふくらみが変わる?
- やり方:同じ生地を3つに分け、10℃/30℃/40℃で30〜60分発酵。
- 観察:体積の増え方、香り、手ざわりをメモ。グラフにしよう。
実験2:砂糖・塩の量と発酵の速さ
- やり方:砂糖0%、5%、10% / 塩1%、2%、3%を変えて発酵。
- 結果:砂糖は少しあると速い、塩は増えるほど遅くなる傾向。
実験3:グルテンのちからを見てみよう
- やり方:こねた生地を水で洗い、白いデンプンを流すとゴムのような塊(グルテン)が残る。これが“泡の家”。
実験4:風船イースト実験(安全に!)
- びんにぬるま湯・砂糖・イーストを入れ、口に風船をつける。しばらくすると風船がふくらむ=二酸化炭素が出ている証拠。
観察ノートの作り方
- 日付/配合/温度/時間/生地の体積(高さ)/香り/焼き上がりの色と食感を、表にして記録しよう。できれば写真も!
かんたんレシピ(基本の丸パン・8個分)
材料(めやす)
- 強力粉 250g/砂糖 15g/塩 5g/ドライイースト 3g/水 160g(30〜35℃)/バター 20g
作り方
- 粉・砂糖・塩・イーストをボウルへ(塩とイーストは離して入れる)。
- 水を加えて混ぜ、ひとまとまりに。台で10分こね、バターを加えてさらに5〜8分。
- 丸めてボウル、ラップ。一次発酵(30℃前後で40〜60分/2倍)。
- ガス抜き→8分割→丸めて休ませ10分。
- 成形→天板に並べ、二次発酵(30℃前後で30〜45分)。
- 180〜190℃で12〜15分焼く。きつね色になったら完成!
アレンジ
- チョコ・レーズンを二次発酵前に混ぜこむ/上にチーズをのせる/ごまをまぶす など。
もうひと品!ピザ生地(薄焼き・2枚)
材料:強力粉200g/薄力粉50g/塩4g/砂糖5g/ドライイースト2g/水160g/オリーブ油10g
作り方:混ぜてこね→一次発酵(30〜40分)→2分割→丸め休ませ10分→薄くのばし、具をのせて250℃で7〜10分。
トラブル早見表(困ったときのレスキュー)
| 症状 | おもな原因 | すぐできる対策 | 次回の工夫 |
|---|---|---|---|
| ふくらまない | 低温/古いイースト/塩多い | あたためる・新しいイーストに | 仕込み温度UP・塩2%以内 |
| 酸っぱいにおい | 過発酵 | 早めに焼く | 発酵時間短縮・温度下げる |
| 表面しわしわ | 焼成不足/冷まし方 | 追加で2〜3分焼く | 二次発酵をやりすぎない・網で冷ます |
| べたつく | 水分多い/こね不足 | 打ち粉少し・休ませる | 吸水を下げる・こね時間UP |
| かたくて重い | こね不足/発酵不足 | 低温で少し延長発酵 | こねを丁寧に・一次発酵を2倍まで |
| 焼き色が薄い | 砂糖少/温度低い | 1〜2分延長 | 砂糖少し増・温度見直し |
よくある質問(Q&A)
Q1:発酵しない!どうすればいい?
A:水温が低すぎる/イースト期限切れ/塩入れすぎが多い原因。水をぬるめに、イーストを新しいものに、塩は粉の2%前後に。
Q2:すっぱいにおいがするのはなぜ?
A:過発酵のサイン。温度を下げる・時間を短くする・砂糖を増やしすぎないなど調整を。
Q3:表面がしわしわにしぼむのは?
A:焼く前のふくらませすぎや、焼成不足、冷まし方が急すぎると起きやすい。二次発酵は“ひとまわり大きい”程度で止め、しっかり焼いて網で冷ます。
Q4:ドライイーストと生イーストはどう違う?
A:水分量と風味の出方が少し違う。生イーストは香り豊か、ドライは扱いやすく保存しやすい。
Q5:砂糖なしでもふくらむ?
A:可能。小麦の糖でゆっくり発酵するが、時間がかかる。風味はすっきり。
Q6:冷蔵庫でゆっくり発酵させてもいい?
A:OK。冷蔵発酵は香りがよくなり作業もしやすい。乾燥防止を忘れずに。
Q7:切り込み(クープ)は必要?
A:ハード系は切り込みでふくらみの出口を作ると美しく割れる。やわらかパンは不要。
用語じてん(やさしいことばで)
- イースト菌/酵母:パンをふくらませる微生物。
- 発酵:イースト菌がエサを食べ、ガスや香りを作るはたらき。
- 二酸化炭素:イースト菌が作る気体。泡の正体。
- グルテン:小麦粉と水をこねるとできる粘りのあるたんぱく質。泡の家。
- 一次発酵/二次発酵:最初のふくらみ/成形後の最終ふくらみ。
- 焼成:オーブンで焼くこと。
- 膨張剤(ふくらし粉):ベーキングパウダーや重曹など、化学の力でふくらませる粉。
- 天然酵母:果物や穀物から育てた酵母。ゆっくり発酵で香り深い。
- オーブン・スプリング:焼きはじめに一気にふくらむ現象。
- オートリーズ:こねの途中で生地を休ませ、なじませる工程。
安全ガイド(おうちで作るとき)
- オーブンや熱湯は大人といっしょに。
- 発酵中は乾燥注意。ふきんやラップでやさしく保護。
- 台所を片付けてから始めると安全・スムーズ。
まとめ
パンがふくらむカギは、イースト菌が作る二酸化炭素の泡と、泡を抱きかかえるグルテンのネット。温度・時間・塩や砂糖のバランスを整えると、ふわふわで香りのよいパンが焼けます。
ベーキングパウダーや天然酵母など、ふくらませ方のいろいろを知ると、パンの世界はもっと楽しく広がります。観察ノートをつけて、家族や友だちとパンの科学を味わおう!


