「紙に水がつくと、すぐやぶれちゃうのはなぜ?」——ふだんはメモや工作、ノートなどで大活やくの紙が、ひとたび水にふれるとふにゃっと弱くなるのは、紙の中にあるせんいのならび方と水の入りこみ方に理由があります。
この記事では、紙の正体から、水と出会ったときに起きるミクロの変化、家でできる観察、紙を守る工夫、世界の紙の知恵、そして未来の紙まで、たっぷり楽しく解説します。自由研究用の観察シートやQ&A、用語辞典もついているので、読みながらすぐに試せます。
1.紙の正体とつくり:木のせんいが作る“見えない網(あみ)”
1-1.木から生まれるせんい(繊維)
紙は、木や竹、ワラ、古紙などをくだいて取り出した細いせんい(糸のような細長い部品)を、水にまぜ、うすい板の上にひろげてから乾かして作ります。せんいの主成分は植物の中のセルロースという物質。細くてもコシがあり、たくさん集まると大きな強さが生まれます。日本の伝統的な和紙は、長いせんいをていねいにからませて作るので、うすくても丈夫なのが特ちょうです。
1-2.重なり合い・からみ合いが強さのもと
出来上がった紙を大きな虫メガネで見ると、せんい同士が網の目のように重なり、あちこちでからみ合っています。たくさんの接点(つながる場所)があるほど、引っぱっても破れにくくなります。ふだんの紙の丈夫さは、この見えない網がつくり出しているのです。和紙のようにせんいが長くてからみが多い紙は、ぬれても比較的強さを保ちやすいというちがいもあります。
1-3.小さなすき間は“空気と水の通り道”
せんいとせんいの間には小さなすき間が無数にあります。ここに空気や水が出入りします。書きごこちやインクのにじみ方、手ざわり(つるつる/さらさら)は、このすき間の大きさや数によって変わります。紙を作るときに表面をなめらかに押しつけると、すき間が小さくなり、字が書きやすくなります。
1-4.紙にも“ながれの向き”がある
紙は作るときの水の流れに合わせて、せんいが少しだけ同じ方向にならびます。これをここではながれの向きとよびます。ながれの向きと同じ方向に破るとビリッとまっすぐ裂けやすく、直角に破るとギザギザになりやすい——この性質は工作でも役立ちます。
| 紙の要素 | はたらき | 生活での感じ方 |
|---|---|---|
| せんいの長さ・量 | 長い・多いほどからみ合いが増えて強くなる | 画用紙はしっかり、ティッシュはやわらかい |
| すき間の大きさ | 大きいと水や空気が入りやすい | 新聞はにじみやすい、コピー用紙はにじみにくい |
| 表面のならし | 押しつけて平らにすると密着が増す | ノートは書きやすい、和紙は風合いがある |
| ながれの向き | 破れやすさや反りに影響 | 同じ方向に折るときれいに折れる |
2.ぬれると破れやすくなる科学:水がほどく“見えない結び目”
2-1.水を吸ってふくらむ→つながりがゆるむ
紙のせんいは水となかよし。水が入ると、せんいがスポンジのようにふくらみます。すると、ぴったりくっついていた接点が少しずつゆるんでずれ、網の目がほどけやすくなります。結果として、指先で押すだけでもびりっと破れやすい状態になります。たとえるなら、乾いた手でしっかり握手していたのが、手がぬれてすべりやすくなった感じです。
2-2.“見えないのり”の力が弱まる(やさしい科学)
せんい同士は、乾いたときにぴたっと寄りそってくっつく力(水分が抜けると表面どうしが引き合う性質)で支え合っています。ところが水が入ると、この“見えないのり”がはがれやすくなり、結び目がほどけます。だからぬれた紙=もろいのです。和紙のようにせんいが長くからんでいる紙は、結び目が多いぶん、ぬれても持ちこたえやすいことがあります。
2-3.折り目・うすい部分が先に切れる
折り目や角(かど)は、もともとせんいが偏って少ない場所。そこへ水がしみこむと、いちばん先に力の限界を超えて切れます。「端から破れた」「折り目だけ裂けた」という経験は、このためです。ノートの端、ホッチキスの近く、パンチ穴のまわりなどは特に注意!
2-4.にじみ・波うち・反りはなぜ起きる?
紙のすき間を水が伝わって広がる現象を、ここではしみこみとよびます。しみこみが大きいと、インクの色水が広がってにじみます。さらに、部分的に水を吸うと、吸ったところだけふくらんで、紙全体が波うちや反りを起こします。
ワンポイント:一度しっかり水を吸った紙は、乾かしても元どおりの並びには戻りにくいため、しわ・反り・波うちが残り、強さも落ちやすくなります。
| 状態 | 見た目・手ざわり | 強さの目安 | よく起きること |
|---|---|---|---|
| 乾いた紙 | 平らでピンと張る | 引っぱりに強い | にじみにくい・書きやすい |
| ぬれた紙 | しんなり・ふにゃふにゃ | ごく弱い | にじむ・破れやすい |
| 乾かした後 | しわ・反り・波うち | 場所により弱い | 角がめくれる・紙が丸まる |
3.おうちでできる観察・実験:見て・さわって・くらべて学ぶ
3-1.強さくらべ実験(安全に・ゆっくり)
コピー用紙を同じ大きさに2枚用意し、どちらも半分に折ります。片方の折り目だけに水を綿棒でうすくぬり、10秒後にゆっくり引っぱってみましょう。どこから裂けるか/力の入り方が、ぬれた方で大きく変わるはず。観察ノートに、見た目・手ざわり・裂けた場所を記録します。
3-2.紙の種類でどれだけ差が出る?
ティッシュ、キッチンぺーパー、新聞紙、コピー用紙、画用紙、和紙の6種類を同じ大きさに切って、同じ量の水をたらします。10秒後にそっと持ち上げてやぶれやすさを比較。キッチンぺーパーがぬれてもそこそこ強いのは、せんいのからみを増やしたり、つくりを工夫しているからです。
3-3.文字とにじみの観察
同じ紙にえんぴつ・水性ペン・油性ペンで短い文字を書き、霧吹きで遠くから細かく水をかけます。にじむ/にじまないの違い、紙の波うちの度合いをくらべましょう。大切なプリントを守るには、どの筆記具が安心かも分かります。
3-4.紙橋(かみばし)実験
紙を5cm×20cmに切り、机と本の間に橋のように渡します。乾いた状態で1円玉を何枚のせられるか、その後、紙の中央に水を1滴落としてから同じことをして、ぬれるとどれだけ弱くなるかを比べます。※高く積みすぎないよう注意。
3-5.乾かし方で差は出る?
ぬらした紙を①そのまま自然乾燥、②平たい本ではさむ、③やわらかい布の上で上から軽く押さえる、の3通りで乾かして、しわの出方を比較します。平らに保ちながらゆっくり乾かすと変形が少ないことが体感できます。※温風や高温は焦げやすいので使わない/必ず大人といっしょに。
3-6.観察シート(メモしてみよう)
| 紙の種類 | 水の量 | にじみ | 手ざわり | 強さ | 気づいたこと |
|---|---|---|---|---|---|
| 例:コピー用紙 | 1滴 | すこし | しんなり | 弱い | 角から破れた |
| 例:和紙 | 1滴 | 少ない | しゃっきり | 中くらい | 長いせんいで粘る |
4.紙をもっと上手に使う・守る:毎日の工夫と特別な紙
4-1.日常でできる“ぬれ予防”
- 飲みものの近くにプリントを置かない
- 雨の日はクリアポケットに入れて持ち歩く
- カバンの底にビニール袋を一枚入れておく
- 机で水を使う実験のときは、紙の下に新聞紙を敷く
こんな小さな工夫で、紙はぐっと長持ち。大切なテストや手紙・作品は、さらにファイルに入れて保管しましょう。
4-2.防水紙・耐水紙・加工ってなに?
屋外の地図やメニュー、運動会の番号札などには水に強い紙が使われます。代表例は、せんいの表面をうすい膜でおおったコーティング紙や、紙の中に水を通しにくい材料をまぜた耐水紙。また、出来上がった紙を透明の膜で包むラミネートも有効です。さらに、石の粉から作られた合成紙(やぶれにくく水に強い)という仲間もあります。
4-3.目的に合う紙選び
工作なら画用紙、印刷ならコピー用紙、水ぬれの心配があるなら耐水タイプ。紙の厚さ・白さ・手ざわりを比べて、用途にぴったりの一枚を選びましょう。古紙を再利用した再生紙は、資源を守る選択にもなります。
| 紙の種類 | 特徴 | 水への強さ(目安) | 向いている用途 |
|---|---|---|---|
| 新聞紙 | うすくて吸いこみやすい | 弱い | 練習用・下敷き・包装 |
| コピー用紙 | 表面が平らで書きやすい | ふつう | 学習プリント・印刷 |
| 画用紙 | 厚くてコシがある | ふつう〜やや強い | 工作・作品 |
| キッチンぺーパー | 吸水性が高く破れにくいよう工夫 | 中くらい | 水ふき・実験の下敷き |
| 耐水紙 | 水がしみこみにくい | 強い | 屋外掲示・地図・メニュー |
| ラミネート | 透明の膜で全面保護 | とても強い | 長期掲示・カード |
| 合成紙 | 石や合成の材料で作る | 非常に強い | 野外用ポスター・地図 |
4-4.ぬれてしまった紙を救うコツ
- まずこすらない(こするとすぐ破れる)
- やわらかい布でそっと押さえて水分をとる
- コピー用紙なら、平らな本ではさんでゆっくり乾かす
- ページが多い本は、各ページにキッチンぺーパーをはさんで風通しよく
5.世界と昔の知恵:和紙と洋紙、くらしの工夫
5-1.和紙が“うすいのに強い”理由
和紙は、長いせんい同士を水の中でよくほぐし、トロロアオイなどの植物のねばりで広く静かにひろげて作ります。長いせんいがしっかりからみ合うため、ひっぱりに強く、やぶれにくいのが特ちょう。うすい障子紙でも、乾いた状態ならかなりの力に耐えます。
5-2.洋紙(コピー用紙など)の良さ
洋紙は、表面が平らでなめらかなので、文字や図がくっきり印刷でき、にじみにくいよう作られています。日々の学しゅうやプリント配布にぴったり。紙によっては書きやすいように表面に特別な工夫(にじみ止め)がされています。
5-3.暮らしの中の紙の知恵
- 障子やふすま:光をやわらげ、風を通しつつ目かくしもできる
- 紙ひも・紙袋:重ねてよるととても丈夫。リサイクルもしやすい
- 紙食器:防水の工夫で野外でも使える。使い終わったら資源として回収
6.まとめ・Q&A・用語辞典:今日から役立つ紙の知識
6-1.まとめ:ポイントは「せんいの網」と「水の入りこみ」
紙はせんいの網が作る丈夫な材料。ところが水が入ると、せんいがふくらみ、見えない結び目がほどけ、折り目や端から破れやすくなります。大切な紙はぬらさない・平らに保つ、必要なら防水の工夫をする——これが上手なつき合い方です。和紙と洋紙のちがいを知ると、用途にあった紙選びも上手になります。
6-2.Q&A(よくある疑問)
Q1.なぜティッシュはすぐ破れるの?
ティッシュは、やわらかさを大切にしてせんいのからみを弱めに作られています。さらに水を吸いやすいので、ぬれると一気にもろくなります。トイレットペーパーは、トイレで流せるように水でほどけやすい設計です。
Q2.乾かせば元どおりになる?
完全には戻りません。ぬれたときにせんいの位置関係が変わるため、乾いてもしわ・反りが残り、強さも落ちやすいのです。平らにしてゆっくり乾かすと変形は減らせます。
Q3.えんぴつ文字はなぜにじみにくい?
えんぴつの黒は粉のつぶ(黒い粒)が紙の表面にのっている状態。水に溶けにくいため、ペンほどはにじみません。ただし、こすると広がります。
Q4.水に強い折り紙はある?
あります。表面に薄い膜をつけた折り紙や、しっかりした和紙は水はねに強いものがあります。水に入れる作品には、透明膜で包むなど追加の工夫を。
Q5.キッチンぺーパーはぬれても強いのはなぜ?
せんいのからみを増やしたり、紙の重ね方や模様で力が分散するように設計されているからです。とはいえ、強く引っぱると破れるので注意。
Q6.湿気(しっけ)が多いと紙はどうなる?
空気中の水分を吸ってふくらみやすくなり、波うちや反りが出ます。プリントの保管は風通しのよい場所で。
6-3.用語辞典(やさしい言いかえつき)
- せんい(繊維):植物から取り出す細い糸のような材料。紙のもと。
- セルロース:せんいの主な中身。植物のからだを支える成分。
- からみ合い:せんい同士が多くの場所でひっかかって支え合うこと。
- すき間:せんいの間にできる小さな空間。空気や水が通る道。
- コーティング:表面を薄い膜でおおう加工。水や汚れを入りにくくする。
- ラミネート:紙を透明の膜でサンドイッチのようにはさみ、強くする方法。
- 合成紙:石や合成の材料から作られた紙の仲間。水に強い。
- 湿気(しっけ):空気にふくまれる水分。多いと紙がふくらみやすい。
7.未来の紙と地球のこと:やさしく、つよく、むだなく
これからの紙づくりは、森を守りながら、リサイクルを進め、必要な強さだけをかしこく使う方向に進んでいます。雨の日でも安心な防水紙、植物以外の材料で作る合成紙、使い終わった紙を何度も生まれ変わらせる技術などが発達中。紙をむだにしない使い方(両面印刷・必要な分だけ切り取る)も、地球を守る大切な一歩です。
最後に:紙は正しく使えばとても頼もしい素材。水との相性を知って上手に守り、学習や工作、暮らしの中でその力を最大限に活かしましょう。観察や実験で分かったことを家族や友だちに伝えると、紙とのつき合いがもっと上手になります。


