【登山中のケガやトラブル対策Q&A|安全な山行のための“現場で効く”実践ガイド】

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登山

登山は心身を満たす最高の体験ですが、自然相手のアクティビティである以上、転倒・捻挫・切創・低体温・熱中症・道迷い・動物遭遇・装備故障などのリスクは常に隣り合わせです。

大切なのは「ゼロリスク」を目指すことではなく、起きやすい事態を想定し、予防し、起きたときに素早く正しく対処すること。本記事は、初心者からベテランまでそのまま現場で使えるよう、Q&A形式に手順・チェックリスト・早見表・テンプレ文を盛り込んだ実践ガイドです。


  1. 応急処置と現場判断の“黄金ルール”
    1. 1) 安全最優先(Scene Safety)
    2. 2) STOP原則(Stop / Think / Observe / Plan)
    3. 3) ABCDE一次評価(簡易)
    4. 4) 撤退基準の先取り
  2. 転倒・捻挫・切り傷など“外傷”Q&A(手順つき)
    1. Q. 足首をひねった(捻挫)/転倒した直後は?
    2. Q. 出血を伴う切創・裂創の応急手当は?
    3. Q. 打撲・骨折が疑わしいときは?
    4. Q. 靴擦れ・マメの最速対処は?
    5. Q. 目に砂や虫が入った/鼻血が止まらない
  3. 体調不良・高山病・熱関連障害・低体温Q&A
    1. Q. 高山病の初期サインと現場対応は?
    2. Q. 熱中症・脱水の見分けと対処は?
    3. Q. 低体温の兆候と手順は?
    4. Q. 胃腸トラブル・急な下痢は?
  4. 道迷い・遭難・気象急変・動物遭遇Q&A
    1. Q. 迷ったかも…最初にすべきことは?
    2. Q. 視界<50mのガス・濃霧になったら?
    3. Q. 雷・強風の稜線でどう動く?
    4. Q. クマ・イノシシ・サル・シカに遭遇したら?
    5. Q. ビバーク(緊急野営)が必要になったら?
  5. 装備・持ち物の“困った”Q&A(現場の応急ワザ)
    1. Q. 雨具が破れた/ファスナーが壊れた
    2. Q. ザックのショルダーが切れた/バックル破損
    3. Q. ストックが曲がった/ロック不良
    4. Q. スマホ・GPSが不調/電池切れ
  6. ファーストエイドキット&“軽量なのに効く”追加装備
  7. 緊急連絡・救助要請のテンプレ(そのまま使える)
    1. SMS/通話で伝える要点
    2. 例文(メモアプリに保存推奨)
  8. 役割分担と搬送の基本(複数人行動時)
  9. 予防が最大の対策:出発前チェックリスト(印刷推奨)
  10. よくある登山トラブル“超”早見表(拡張版)
  11. まとめ:備え・判断・行動が“安全に帰る力”になる

応急処置と現場判断の“黄金ルール”

1) 安全最優先(Scene Safety)

  • 落石・雷・崩落・増水・強風・通行の妨げを確認。危険の二次被害を断つ位置へ移動。

2) STOP原則(Stop / Think / Observe / Plan)

  • 止まる→考える→観察→計画。焦りは判断ミスの最大要因。まず深呼吸。

3) ABCDE一次評価(簡易)

  • A 気道B 呼吸C 循環(出血)D 意識E 低体温・全身観察。重大サインを優先して対処。

4) 撤退基準の先取り

  • 痛み増悪/歩行困難/視界不良/雷・強風/予定遅延>60分」のいずれかで短縮・撤退に切替。

迷ったら安全側。**“行ける”ではなく“安全に帰れる”**かで判断。


転倒・捻挫・切り傷など“外傷”Q&A(手順つき)

Q. 足首をひねった(捻挫)/転倒した直後は?

A. RICE+固定+撤退判断

  1. 安静:座る・荷を下ろす。
  2. 冷却:保冷剤/沢水で15–20分冷やす(凍傷に注意)。
  3. 圧迫:伸縮包帯で8の字。痛み・しびれ・爪色で締め過ぎ確認。
  4. 挙上:心臓より高く。
  5. 固定:トレッキングポールや枝+包帯で簡易スプリント。
  6. 撤退歩行痛が増す/支持なしで3歩不可/腫脹急増は下山・受診。

Q. 出血を伴う切創・裂創の応急手当は?

A. 直圧止血→洗浄→被覆

  • 止血:清潔なガーゼで数分間しっかり圧迫。噴出する出血は圧迫を継続。
  • 洗浄:流水(飲料水)で砂・泥を除去。深部異物は無理に抜かない
  • 被覆:滅菌ガーゼ+テープ。関節は屈曲位で固定。動脈性出血止まらない出血は救助要請。

Q. 打撲・骨折が疑わしいときは?

  • 変形・異常可動・激痛→骨折疑い。無理な徒手整復はしない。
  • 固定:患部を挟んで上下の関節まで固定(板・ポール・マット)。
  • 搬送:歩行困難なら動かさないが原則。体温保持を最優先し、救助要請を検討。

Q. 靴擦れ・マメの最速対処は?

  • 違和感の瞬間に止まって対応。ホットスポットへテープ。
  • マメ形成後はドーナツパッドで圧分散。破る場合は清潔針で一点穿刺→排液→被覆。感染兆候(発赤・熱感・膿)は受診。

Q. 目に砂や虫が入った/鼻血が止まらない

  • :強くこすらず、清潔な水で洗眼。角膜痛・視力低下は受診。
  • 鼻血:座位で前屈み、小鼻を10分連続圧迫。仰向け禁止。

体調不良・高山病・熱関連障害・低体温Q&A

Q. 高山病の初期サインと現場対応は?

  • 症状:頭痛・吐き気・めまい・倦怠。
  • 対応上昇を止める/休息/保温/水分(電解質)。改善なければ高度を下げる。鎮痛薬は補助、無理な行動は×。
  • 予防:ゆっくり登る・睡眠・前夜の飲酒回避・重装低速。2,500m超は特に慎重に。

Q. 熱中症・脱水の見分けと対処は?

  • サイン:頭痛・悪心・足攣り・会話ぎこちない・尿濃色。
  • 初動:日陰へ→衣服緩め→頸部/腋/鼠径を冷却→電解質+水少量頻回
  • 撤退:意識障害/嘔吐持続/歩行困難は即下山・救助要請
  • 低Na血症を疑う(頭痛・むくみ・混乱・水だけ大量摂取歴)なら飲水を控え電解質を優先。

Q. 低体温の兆候と手順は?

  • 兆候:震え→動き鈍い→意識低下。濡れ・風・疲労で悪化。
  • 手順:濡衣脱→乾いた保温着+レイン→地面断熱→温糖飲料→動かさず保温。重症は急な体温再上昇を狙わず救助要請

Q. 胃腸トラブル・急な下痢は?

  • 原因:冷え・不衛生な水・食当たり・疲労。
  • 対処:保温・経口補水液・脂っこい食事中止。発熱・血便・意識低下は受診。

道迷い・遭難・気象急変・動物遭遇Q&A

Q. 迷ったかも…最初にすべきことは?

A. STOP+位置の“言語化”

  • Stop:動かない。
  • Think/Observe:往来の足跡・テープ・踏み跡・尾根/沢を確認。
  • Plan:地図アプリ+紙地図+コンパスで現在地を言葉で説明できるまで特定(例:○○尾根の××分岐から30分、標高1,650m、北面のトラバース道)。

Q. 視界<50mのガス・濃霧になったら?

  • 速度を落とし、要所ごとに停止→方位と距離を口で確認。尾根・主歩道を優先。
  • レイン上着で汗冷え回避、体温保持。分岐で確信が持てないなら引き返す

Q. 雷・強風の稜線でどう動く?

  • 黒雲・遠雷・冷たい突風・雹=雷の前兆。稜線・独立峰・高木下は避け、低い鞍部へ。
  • ストック・ポールは束ねて地面へ。足を閉じてしゃがむ。通過まで待機。
  • 風速8–12m/sで体感激変。コース短縮・撤退をためらわない。

Q. クマ・イノシシ・サル・シカに遭遇したら?

  • 原則:近づかない・走らない・餌を見せない。ゆっくり後退し距離を取る。
  • 予防:会話・鈴・ラジオで存在を知らせる/匂いの強い食材・ゴミを出さない
  • 子連れ/給餌場は特に危険。挑発行為(撮影の接近等)は厳禁。

Q. ビバーク(緊急野営)が必要になったら?

  • 場所:落石・増水・倒木の恐れが少ない広めの場所を選ぶ。
  • 装備:エマージェンシーシート/ツェルト/マットで地面断熱
  • 行動:濡れ物は脱ぎ、保温着+レインで風を遮断。飲水・糖分を少量ずつ。

装備・持ち物の“困った”Q&A(現場の応急ワザ)

Q. 雨具が破れた/ファスナーが壊れた

  • ダクトテープ/補修テープで裏から貼る。雨脚が強いときはレイン上にポンチョ重ね

Q. ザックのショルダーが切れた/バックル破損

  • タイラップ・ロープ・カラビナで応急連結。荷重をヒップベルト中心に再配分。

Q. ストックが曲がった/ロック不良

  • 曲がりは無理に戻さず短く固定。片ストック+歩幅小さめで下山。

Q. スマホ・GPSが不調/電池切れ

  • 機内モード+GPS ONでログ再開。寒冷時は内ポケットで保温。オフライン地図の二重化・紙地図の併用を標準に。

ファーストエイドキット&“軽量なのに効く”追加装備

カテゴリ最低限あると強い
止血・創傷滅菌ガーゼ、テープ、絆創膏、三角巾止血パッド、はさみ、ピンセット、滅菌水パック
捻挫・固定伸縮包帯、テーピング軽量スプリント、弾性ネット、サポーター
体温管理エマージェンシーシート超軽量ツェルト、薄インサレーション
照明・通信ヘッデン+予備電池予備ライト、ホイッスル、モバイルバッテリー
水・栄養電解質タブ、ジェル/行動食折りたたみボトル、浄水タブレット

重量対効果が高いのは「エマージェンシーシート/伸縮包帯/止血パッド/ホイッスル」。常にザック上段へ。


緊急連絡・救助要請のテンプレ(そのまま使える)

SMS/通話で伝える要点

  • 場所:山域・コース名・標高地形(尾根/沢/コル/分岐)・近くの目印
  • 症状:意識・呼吸・出血・歩行可否
  • 人数:要救助者・同行者・年齢層
  • 対処:実施した応急処置(止血・保温・補給)
  • 目印:派手色のレイン、ライト点滅、ホイッスル三回×繰り返し

例文(メモアプリに保存推奨)

「○○山△△コース、標高約1,720mの尾根上、××分岐から東へ20分。同行2名。1名が転倒し右足首強い痛み、歩行困難。止血不要、包帯固定・保温実施。赤いレインを掲示、ヘッドライト点滅中。現在安全な場所で待機、連絡はこの番号へ。」

SOS信号:ホイッスルやライトで短短短—長長長—短短短(国際信号)。音・光は3回を1セットが遭難信号の基本。


役割分担と搬送の基本(複数人行動時)

  1. 指揮(状況把握・撤退判断)
  2. 応急手当(止血・固定・保温)
  3. 連絡(位置特定・通報・山小屋連絡)
  4. 環境整備(落石防止・風よけ設営・断熱)

無理な担ぎ下ろしは禁物。体温保持・水分・糖分を切らさないことが命を守る最優先。


予防が最大の対策:出発前チェックリスト(印刷推奨)

項目チェック
計画書・登山届を提出し共有した
天気・風・雷予報/コース状況を確認した
早出早着の行程で“短縮案・撤退基準”を決めた
紙地図+アプリ地図(オフラインDL)を準備した
レイン上下・保温着・ヘッデン・予備電池を入れた
ファーストエイド(止血・固定・保温)を入れた
水1.5〜2L+電解質/行動食を用意した
予備電源・ホイッスル・携帯トイレを入れた
靴・靴下・ザックのフィットを最終確認した

よくある登山トラブル“超”早見表(拡張版)

トラブル兆候/原因初動撤退基準NG行動
捻挫・転倒不整地・疲労・滑りRICE→固定3歩不可/痛み増悪/腫脹急増我慢の続行・無理な矯正
切創・出血岩・枝での裂傷直圧止血→洗浄→被覆止血不可/噴出血/深部露出何度もガーゼを剥がす
熱中症高温・脱水・風弱陰→冷却→電解質意識障害/嘔吐持続/歩行困難水だけ大量に飲む
低体温濡れ・風・休憩長い乾かす→保温→断熱震え停止/意識低下濡れ着のまま歩かせる
高山病急登・睡眠不足休憩・保温・補給改善なし/悪化上昇継続・無理な行動
道迷い分岐ミス/ガスSTOP→位置言語化確信なき前進走って探す・沢へ下る
雷・強風黒雲・突風・雹稜線回避→鞍部風8–12m/s超高木下停滞・金属掲示
動物遭遇子連れ・餌場後退・距離確保追ってくる接近撮影・給餌
装備故障長期使用・荒天応急補修・再配分重要装備不能そのまま核心突破

まとめ:備え・判断・行動が“安全に帰る力”になる

ケガやトラブルを完全にゼロにすることは不可能。だからこそ、予防(計画・装備)→早期発見(兆候)→即応(初動)→撤退の流れを体に染み込ませておきましょう。現場では、安全確保→STOP→ABCDE→保温・補給→連絡の順で落ち着いて対処すること。帰宅できてこそ登山は成功です。今日の山行から、チェックリストとテンプレ文をスマホに入れて出発してください——“安全に帰る”力は準備で育つのです。

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