ペットフード保存食の選び方と備え方完全ガイド|災害時に命を守る実務

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知識 経験

停電・断水・物流停止――私たちの暮らしが止まるとき、ペットの食事も同時に止まります。いざという場面で慌てないために、ふだんの食事を軸に保存できるペットフードへと備えを重ねておくことが要です。本稿では、必要性の整理から種類と特性、体重別の必要量、保存と管理、持ち出し品、しつけ準備、医療・迷子対策までを今日から実践できる形で丁寧にまとめました。犬・猫ともに応用できる内容です。


  1. なぜペットにも保存食が必要か(前提の整理)
    1. 供給途絶と購入困難は同時に起きる
    2. 食事変更はそのままストレスになる
    3. 家族全員の避難を円滑にする
    4. 避難所・一時預かりの現実
  2. ペット用保存食の種類と特性(長所と注意点)
    1. 乾燥タイプ(ドライフード)
    2. レトルト・缶詰タイプ(ウェット)
    3. 凍結乾燥(フリーズドライ)
    4. 療法食・高栄養食・補助食品
    5. 手作り派の非常時対応
  3. 賢い選び方と量の決め方(成分・体重・水)
    1. 成分表示と体質の確認
    2. 一日必要量の考え方(成犬・成猫)
    3. 活動量・年齢で補正する
    4. 飲み水の目安と給水の工夫
  4. 14日分の備蓄設計(犬猫・家族同時運用)
    1. 必要量の早見表(1頭あたり)
    2. 7日×2週の食事モデル(例)
  5. 保存・管理・与え方(回して守る)
    1. ローリングストックで常に新しい状態に
    2. 保管環境と容器
    3. 与え方の切り替え(急な変更を避ける)
    4. 栄養と衛生の小ワザ
  6. 役立つ用品と持ち出し袋(実務セット)
    1. 給水・食器・衛生の三点
    2. 薬・記録・身元情報
    3. 多頭・年齢別の配慮
  7. トイレ・衛生・環境づくり(においと汚れを制す)
    1. 猫のトイレ
    2. 犬の排せつ
    3. 室内環境
  8. 与えてはいけない食品・注意点(事故予防)
    1. 禁止食品の代表例
    2. 飲み込み・誤嚥への配慮
    3. 体調の変化を見逃さない
  9. しつけ・慣らし(平時にやっておく)
    1. クレート・キャリー訓練
    2. 首輪・胴輪・口輪の慣らし
    3. 車・人混み・音への慣れ
  10. 医療・迷子・書類(命綱のセット)
    1. 常備・応急の医療品
    2. 迷子対策
    3. 書類セット
  11. 年間カレンダー(点検と入れ替え)
  12. よくある疑問(Q&A)
  13. まとめ:ふだんの食事をそのまま備える

なぜペットにも保存食が必要か(前提の整理)

供給途絶と購入困難は同時に起きる

大きな災害では物流が止まり、店舗が閉まり、通信も不安定になります。買いだめや品薄が重なると、いつもの銘柄が数日〜数週間手に入らないことも珍しくありません。事前の備蓄が唯一の安定供給です。

食事変更はそのままストレスになる

犬や猫は急な味や匂いの変化に敏感です。突然の切り替えは食欲低下・嘔吐・下痢の引き金にも。非常時ほどふだんと近い食事で心身の負担を減らすことが重要です。

家族全員の避難を円滑にする

ペットが落ち着いて食べられると、家族の心配が一つ減る。結果として移動・衛生・休息の質が上がり、避難生活全体が回ります。ペットの備え=家族の備えです。

避難所・一時預かりの現実

受け入れ体制やルールは地域で差があります。ケージ・口輪・マナー用品を携行し、自給できるフードと水を持参するのが基本です。事前に自治体の方針を家庭の防災メモに書き留めましょう。


ペット用保存食の種類と特性(長所と注意点)

乾燥タイプ(ドライフード)

常温で長く保存でき、軽くて扱いやすいのが利点。小袋の個包装なら開封後の劣化を抑えられます。注意点は湿気・高温・酸化。開封後は密閉容器+乾燥剤で守り、先入れ先出しを徹底します。

レトルト・缶詰タイプ(ウェット)

調理不要でそのまま与えられ、飲水が少ない子でも水分がとれるのが大きな強み。缶は丈夫、レトルトは軽量で携帯に向きます。開封後は早めに使い切ること。においに敏感な子には温めず常温が無難です。

凍結乾燥(フリーズドライ)

軽くて常温長期、戻し水で香りが立ち、食欲が落ちた時の起爆剤に。戻し汁まで与えれば水分補給にもつながります。戻し過ぎの放置は傷みやすいので注意。

療法食・高栄養食・補助食品

腎臓・消化・体重管理など病気別の療法食は、医師の指示の範囲で銘柄を切らさないことが最優先。食が細い・老齢・病中病後の子には、少量で栄養がとれるペースト・ゼリー・粉末が役立ちます。

手作り派の非常時対応

ふだん手作りの家庭も、災害時は食材・水・燃料が不足します。既製の保存食を基本にし、落ち着いてから段階的に手作りに戻すと安全です。


賢い選び方と量の決め方(成分・体重・水)

成分表示と体質の確認

たんぱく質・脂肪・繊維・灰分・水分を確認し、ふだんの主食と近い配合を選びます。アレルギーや苦手な原料(小麦、鶏、乳製品など)がある場合は避ける。迷ったら少量で試す→問題なければ箱で備蓄が安全です。

一日必要量の考え方(成犬・成猫)

目安は下表。銘柄で差があるため、普段量を基準に調整してください。

体重犬:ドライ(g/日)犬:ウェット(g/日)猫:ドライ(g/日)猫:ウェット(g/日)
3kg60〜80220〜26040〜55150〜200
5kg90〜120300〜38055〜70180〜230
10kg150〜200500〜650
20kg260〜360900〜1200

備蓄量の求め方

  • ドライ:(一日量g)×(日数)×(頭数)×1.1(余裕1割)
  • ウェット:(一日量g)×(日数)×(頭数)
  • おやつ:一日量の10%以下を上限に(多すぎると主食が入らない)

活動量・年齢で補正する

  • 子犬・子猫:表示量の**+10〜20%**目安(急成長期)
  • 老齢:**-10%**から開始し、体重推移で微調整
  • 寒暑:**暑さで–5%/寒さで+5%**を目安に様子を見る

飲み水の目安と給水の工夫

  • 犬:体重1kgあたり約50ml/日
  • 猫:体重1kgあたり約40〜60ml/日(ウェット併用で減らせる)

工夫:皿を複数置く、ウェットに少量のぬるま湯を混ぜる、においの弱い水を常備。携帯給水ボトルも用意します。


14日分の備蓄設計(犬猫・家族同時運用)

必要量の早見表(1頭あたり)

区分小型犬3〜5kg中型犬10kg大型犬20kg成猫3〜5kg
ドライ(14日)1.3〜2.0kg2.1〜2.8kg3.6〜5.0kg0.8〜1.0kg
ウェット(14日)3.1〜5.3kg7.0〜9.1kg12.6〜16.8kg2.5〜3.2kg
水(最低)2.1〜3.5L7.0L14.0L1.7〜4.2L
予備(1割)各+10%各+10%各+10%各+10%

※水は気温・体調で増減。**夏場は+20%**を目安に上乗せ。

7日×2週の食事モデル(例)

犬(小型)

  • 1〜3日目:ドライ基準、ぬるま湯でふやかす日を交互に。
  • 4〜5日目:ウェットを1/3混ぜて水分補給。
  • 6〜7日目:凍結乾燥トッピングで嗜好性を維持。二週目は順序を入れ替え。

  • 1〜4日目:ウェット主体、ドライ少量混ぜで慣れ維持。
  • 5〜7日目:ドライ主体、ウェットで食欲回復
  • 二週目:香りの強い銘柄を朝だけ使用して食べ始めを促す。

保存・管理・与え方(回して守る)

ローリングストックで常に新しい状態に

ふだんの銘柄を少し多めに買い置きし、使った分を補充。賞味期限が近い順に前へ。月に一度、在庫と期限を5分で点検しましょう。

保管環境と容器

直射日光・高温・湿気を避ける冷暗所が基本。ドライは未開封のまま外袋ごと密閉容器に入れると、ロット番号や原材料表示も保持できます。開封後は乾燥剤・防虫カードを併用。ウェットは箱で立て保管し、落下防止を。

与え方の切り替え(急な変更を避ける)

非常時の切り替えは急激に行わないのが原則。数日かけて旧:新=7:3→5:5→3:7混ぜ替え。においが強いと食べない子は、清潔な器・静かな場所で落ち着かせてから与えます。

栄養と衛生の小ワザ

  • ドライは少量のぬるま湯で香りを立て、食べ始めを促す。
  • ウェットは半分ずつ与えて、残りは密閉して短時間で使い切る
  • 器は使い捨てライナーラップで覆い、水節約で衛生維持。

在庫表テンプレ(例)

品目目標数現在数賞味期限補充日備考
ドライ小袋(200g)30182026/04毎月1日1袋/日換算
ウェット(85g)60442026/01第2土曜2袋/日換算
凍結乾燥(10g)28202027/03季節替り食欲不振対策
給水ボトル500ml2818月末1日2本想定

役立つ用品と持ち出し袋(実務セット)

給水・食器・衛生の三点

折りたたみ食器・携帯給水ボトル・使い捨てスプーン。器は割れにくい材質で。排せつ用の袋・消臭材・ウェットティッシュも一緒に。手指消毒は無香料が無難です。

薬・記録・身元情報

常用薬(写真つきのメモ)・接種記録・持病のメモ・迷子札・写真を一式で。首輪・胴輪・予備の名札は重ね持ち。避難先で飼い主確認がすぐ行えます。

多頭・年齢別の配慮

  • 子犬・子猫:消化にやさしいやわらか食を多めに。
  • 老齢小粒・とろみ付きを用意し、水分を多めに。
  • 大型犬大袋+量りで計量を確実に。運搬用の台車があると安全。

持ち出し袋チェック表(例)

区分品目目安
ドライ小袋、ウェット、栄養補助3〜7日分
飲料水、携帯給水ボトル体重×日数×50ml
道具折りたたみ器、スプーン、開封具各1
衛生排せつ袋、ティッシュ、消臭材1日数枚
安全首輪・胴輪・名札・リード予備各1
記録写真、接種・病歴メモ各1

トイレ・衛生・環境づくり(においと汚れを制す)

猫のトイレ

  • 猫砂:1頭あたり7〜10L/週目安。軽量タイプを小袋で複数。
  • 簡易トイレ:折りたたみ箱+防水シートで代用可。消臭剤とセットに。
  • スコップ・密閉袋においと虫を遮断。

犬の排せつ

  • トイレシート:1頭あたり1日3〜6枚目安(サイズと回数で調整)。
  • 夜間や荒天は屋内スペースでの排せつも想定。滑りにくい床を用意。

室内環境

  • ケージ・キャリー覆布で視界を狭めると落ち着く。
  • は風の通り道、は底冷え対策(段ボール+毛布)。

与えてはいけない食品・注意点(事故予防)

禁止食品の代表例

ねぎ類・にら・にんにく・チョコレート・ぶどう・レーズン・キシリトール・アルコール・香辛料・カフェインは厳禁。鶏骨・魚骨の加熱骨は割れて危険。猫は生の青魚を多食すると不調の原因になります。

飲み込み・誤嚥への配慮

不安から早食いになりやすいので、浅い器少量ずつ。飲み込みにくい子はぬるま湯でやわらげ、器の高さを胸の位置に合わせます。

体調の変化を見逃さない

下痢・嘔吐・元気消失が続く場合は与える量を減らし、水分をこまめに。相談先の連絡先を平時から控えること。


しつけ・慣らし(平時にやっておく)

クレート・キャリー訓練

毎日5分、おやつを中に置いて自分から入る練習。扉を閉める→短時間→静かに開けるを繰り返し、安全な場所として覚えさせます。

首輪・胴輪・口輪の慣らし

サイズ調整→短時間装着→褒めるの順。ダブルリード(首輪+胴輪)の練習は、迷子対策として効果的。

車・人混み・音への慣れ

短距離ドライブ、台車の音・サイレン音小さな音量から段階的に慣らすと、避難時の恐怖を軽減できます。


医療・迷子・書類(命綱のセット)

常備・応急の医療品

常用薬、胃腸薬、消毒、ガーゼ、包帯、体温計、爪切り、目薬。服薬は写真つきの手順にして第三者でも対応できるように。

迷子対策

迷子札(電話)・名札入り首輪・写真2枚(全身・顔)・マイクロチップ番号最新の写真紙と端末の両方に保管。

書類セット

接種証明、病歴、アレルギー、食事の銘柄・量、かかりつけ連絡先透明袋で防水し、持ち出し袋の一番外ポケットへ。


年間カレンダー(点検と入れ替え)

見直しポイント
1月寒さ対策、毛布・底冷え対策の追加
3月花粉期の目薬・洗浄、避難訓練の再確認
6月梅雨の湿気対策、乾燥剤と防虫の更新
8月猛暑の水と電池の増量、留守時の換気計画
10月台風期の持ち出し袋再点検、台車・折り畳み用品確認
12月年末在庫棚卸し、賞味期限の繰り上げ消費と補充

よくある疑問(Q&A)

Q1. 人の保存食を分けてもよい?
A. 原材料を必ず確認ねぎ類・香辛料・甘味料などが入ると危険です。ペット専用を前提に備えましょう。

Q2. どのくらいの量を持ち出す?
A. 3〜7日分が目安。移動距離や季節で調整し、水は重いので現地補給策(給水所、浄水タブレット)も併用。

Q3. 冷凍ストックは使える?
A. 停電時は先に使い切る対象。常温の主力は別に確保しておくと安心です。

Q4. 食欲が落ちたときの一手は?
A. 凍結乾燥を少量トッピングぬるま湯で香りを立てる、器や場所を変える。続く場合は医療相談へ。


まとめ:ふだんの食事をそのまま備える

非常時こそいつもの味と匂いが安心を生みます。同じ銘柄を多めに持ち、使いながら補充する――これだけで、ペットは落ち着き、家族も動けます。今日、このあと一袋だけ多く買い足す。袋に購入日と期限を書いて棚の手前へ。小さな一歩が、いざという時のいのちの備えになります。

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