家の傷みは外側から静かに始まる。小さなひび、痩せた目地、緩んだ金物は、放置すると雨水浸入・腐朽・シロアリ・耐震低下へつながります。
本記事は、素人でも安全に・短時間で・見落としなく確認できるよう、点検の順番・判定の目安・記録の方法・応急処置・専門家に渡す情報までをまとめました。表・チェックリスト・撮影例のポイント・季節ごとの回り方まで網羅し、今日から自宅の健康診断が始められます。
1.まずここから:セルフ点検の基本設計
1-1.安全第一と点検の順番
- 晴れた日・明るい時間帯に実施。雨天・強風・夜間は避ける。雨の翌朝は水の流れの跡が見やすく、排水不良の発見に有利。
- 地面→基礎→外壁→金物→付帯部の順で下から上へ回ると見落としが少ない。逆順は危険と見落としが増える。
- 脚立は二人一組、足元は平坦、肩より上で無理に作業しない。段差や犬走り(基礎周りのコンクリート)では滑り止め付き靴を使う。
点検の順番早見表
ステップ | 見る場所 | 重点 | 所要目安 | 補足のコツ |
---|---|---|---|---|
1 | 地面・周囲 | 水はけ・沈下・植栽根 | 5分 | 雨の痕、泥だまり、白い堆積を確認 |
2 | 基礎 | ひび・欠け・白華・蟻道 | 15分 | 角・配管まわり・通気口を重点 |
3 | 外壁 | 目地・反り・塗膜・浮き | 15分 | 日当たり差で劣化速度が違う |
4 | 金物 | 緩み・錆・欠落 | 10分 | 触れて動くか・音が鈍くないか |
5 | 付帯 | 雨樋・水切り・換気 | 10分 | 排水口の詰まり、勾配を確認 |
季節別の回り方(年2回+荒天後)
時期 | 狙い | 重点 |
---|---|---|
春(黄砂/花粉期後) | 表面の汚れ・詰まりの確認 | 雨樋、換気口、外壁の粉ふき |
秋(台風期後) | 風雨の被害点検 | 棟板金の浮き、目地の割れ、ベランダ排水 |
荒天・地震後 | 変化の検出 | 新しいひび、白華、蟻道、金物の緩み |
1-2.用意する道具と服装
- 軍手・長袖・滑りにくい靴・帽子。目を守るための保護メガネがあると安心。
- ライト・メジャー・細マジック(ひび幅の当て線用)。名刺や硬貨も0.3mm超の目安になる。
- スマホ/カメラは同じ角度で定点撮影。水平・垂直の目印(窓枠や目地)を画面に入れる。白い紙はチョーキング判定に使用。
- あると便利:双眼鏡(屋根や高所の遠望)、紙テープ(ひび位置に日付を添える)、養生テープ(一時マーキング用)。
1-3.記録のコツ(後で比較できるように)
- 写真は全体→中景→アップの順で1箇所3枚。同じ距離・角度で撮れば変化が分かる。
- ひびは方角・位置・長さ・幅の目視目安を書き込む。例:「南面・基礎出隅、斜め、0.4mm、30cm」。
- 立面スケッチに番号を振り、写真と番号でひも付け。ファイル名は「2025-10-02_南_基礎_01.jpg」のように日付→方角→部位で統一。
- 点検は家族二人で役割分担(見る/書く)。声に出して読み上げながら記録すると漏れが減る。
2.基礎のセルフ点検:ひび・欠け・湿気の見極め
2-1.ひびの種類と危険度の目安
すべてのひびが危険ではないが、幅・方向・場所で優先度が変わります。幅は乾いた状態で見ます。
種類 | 見た目の特徴 | 目安幅 | 危険度 | 初期対応 |
---|---|---|---|---|
ヘアクラック | 表面の細い筋、塗膜のみ | 0.2mm未満 | 低 | 経過観察・再塗装時に補修 |
乾燥収縮ひび | 短いひびが点在 | 0.2〜0.3mm | 中 | シーリングで止水、記録 |
斜めひび(45°付近) | 開口部角から斜め | 0.3mm超 | 高 | 早期相談、構造確認 |
貫通ひび | 表裏で連続 | 幅不問 | 高 | 直ちに専門家へ |
欠け・ジャンカ | 骨材露出、表面荒れ | 大小 | 中〜高 | 欠損補修、再発原因調査 |
方向と原因のおおまかな傾向(あくまで目安)
方向 | よくある要因 | 見る場所 |
---|---|---|
水平 | 地盤のわずかな沈下差 | 長い面の中央付近 |
垂直 | 乾燥収縮・温度差 | 日当たりの差が大きい面 |
斜め | 応力集中・開口部影響 | 出隅/入隅・窓や配管まわり |
※名刺が差し込めるひびは0.3mm以上の目安。表裏連続は要注意。同じ場所で広がる動きは早めに相談。
2-2.湿気・白華・蟻道のチェック
- 白華(白い粉):水が染み出して乾くサイン。表面を拭いても再発する場合は水の通り道を疑い、止水・換気・排水の見直しを。
- 蟻道(細い土の筋):基礎と土台の境・配管まわりを重点確認。見つけたら壊さずに撮影→連絡。壊すと通り道の証拠が消える。
- 基礎天端の濡れ:水切りや雨樋の排水方向が悪い可能性。犬走りに水の流れ跡があれば是正を検討。
- においの手掛かり:湿った土の匂い、かび臭は見えない裏面に水が回っている合図。換気口の吸い込み具合も併せて確認。
2-3.角・開口部まわりの要注意ポイント
- 基礎の出隅・入隅は欠けやすい。小さな欠けは清掃→乾燥→樹脂補修で進行を止める。
- 通気口・配管貫通部はシーリングの痩せを確認。段差・隙間があると雨が吸い上がる。
- アンカーボルト露出や鉄筋露出は錆の拡大に直結。赤さび→膨らみ→割れの順に進行しやすい。早めの手当てが肝心。
基礎点検チェックリスト
項目 | 正常 | 注意 | 要相談 | 記録メモ |
---|---|---|---|---|
幅0.2mm未満の細いひび | ● | 次回も撮影 | ||
幅0.3mm超/斜め・長い | ● | 尺度入りで撮影 | ||
表裏で連続するひび | ● | 即連絡 | ||
白華/湿りが続く | ● | 雨後の再確認 | ||
蟻道・鉄筋露出 | ● | 壊さず写真 |
3.外壁のセルフ点検:材ごとの見方とサイン
3-1.サイディング(窯業系)の見方
- 目地シーリング:ひび・剥離・痩せ。指で押して弾力が無いなら要補修。端部の切れは雨の入口になりやすい。
- 板の反り/浮き:釘頭の周りに黒い輪や段差が出ていないか。目地の段違いがあれば要記録。
- 塗膜劣化:白い粉がつくチョーキングは再塗装の合図。手のひらで外壁を軽くこすり、粉の量を比較して劣化の進みを把握。
- 留め付けピッチの乱れや端部の欠けも要記録。長物の影は反りの手掛かり。
3-2.モルタル外壁の見方
- ひびの地図状(クラックマップ)は表面劣化が進行のサイン。雨筋のたまりとセットで見ると原因に近づく。
- 窓角から斜めは応力集中。幅・長さと雨後に濡れるかを記録。濡れるなら止水を先行。
- 打診音(軽く指で叩く)で浮きを確認。高所は無理しない。地上から双眼鏡で雨筋や影を観察。
3-3.タイル・ALCの見方
- タイル:目地欠け・浮き・割れ。雨筋の多い面は剥離前兆に注意。目地のひび→白華→浮き音の順で悪化しやすい。
- ALC:目地シーリングと塗膜が命。表面の粉化は塗替え時期。目地の痩せは先に手当て。
- ベランダ笠木(上部の金物)との取り合いも雨の入口。段差・隙間・動きがないか指で触れて確認。
外壁材別チェック早見表
材種 | 重点ポイント | 劣化サイン | 応急 | 記録の仕方 |
---|---|---|---|---|
サイディング | 目地・反り・塗膜 | 目地痩せ/チョーキング | 目地補修・清掃 | 目地断面のアップ写真 |
モルタル | ひび・浮き | 地図状ひび/斜めひび | クラック補修材で止水 | ひび全景+定規アップ |
タイル | 目地・浮き | 目地欠け/雨筋 | 目地充填・専門相談 | 斜め光で陰影を撮る |
ALC | 目地・塗膜 | 粉化/目地割れ | 目地打替え・再塗装 | 面全体→目地の寄り |
4.金物と付帯部:小さな緩みが大きな被害に
4-1.金物(外部に見えるもの)の確認
- アンカーボルト頭部・座金:錆・緩み。スパナで軽く当てた音が鈍いなら錆進行の可能性。触って動くならすぐ記録と連絡。
- ホールダウン金物露出部:基礎との境のひび・隙間。茶色の筋は錆水の痕。
- 手すり・庇金物:動かしてガタがないか。固定ビスの浮きや割れも撮影。
4-2.付帯部(雨樋・水切り・換気口・ベランダ)
- 雨樋:継ぎ手抜け・たわみ・詰まり。落ち葉は手袋で除去。勾配が逆になっていないかも確認。
- 水切り金物:外壁下端の浮き・隙間は毛細管現象で雨水を吸い上げる。押して動くなら一時養生を検討。
- 換気口:割れ・目詰まり。防虫網の破れは交換。結露の水筋があれば断熱・換気の見直しをメモ。
- ベランダ床:防水層のひび・立上りの隙。排水溝は常に開口。鉢受け皿の水が長期に残ると劣化が早まる。
4-3.屋根をのぞくときの注意
- 無理に登らない。地上から双眼鏡で棟板金の浮き・瓦のずれを遠望。異常があれば写真を添えて相談。風の強い日は観察のみで作業しない。
付帯部の劣化サイン表
部位 | よくある不具合 | 放置リスク | 先にできること | 観察のコツ |
---|---|---|---|---|
雨樋 | たわみ・詰まり | 外壁汚れ・基礎濡れ | 清掃・継手点検 | 雨の日に滴下位置を観察 |
水切り | 浮き・隙間 | 吸い上げ浸水 | 隙間の一時シール | 下地への当たり音を確認 |
換気口 | 目詰まり・割れ | 結露・カビ | 清掃・網交換 | 手のひらで吸排気の強さ確認 |
ベランダ | 防水ひび | 室内漏水 | 排水口清掃・養生 | 斜め光で細いひびを探す |
5.記録・優先順位・相談の出し方(応急〜専門)
5-1.優先順位の付け方(危険×浸水×面積)
- 人の安全に直結(斜め/貫通ひび、金物緩み)=最優先。立ち入りを制限する判断も。
- 雨水が入る(目地切れ、外壁割れ、ベランダ防水ひび)=次点。止水と流路の確保を先に。
- 広がる汚れ(白華、チョーキング)=計画対応。掃除で見え方は改善するが原因の是正が大切。
優先順位マトリクス
重大性/緊急性 | 高 | 低 |
---|---|---|
高 | 斜めひび/貫通ひび/金物緩み | 連続するヘアクラック |
低 | 目地痩せ・雨樋たわみ | チョーキング・白華 |
5-2.応急処置の基本と限界
- 止水・汚れ拡大の抑制が目的。構造の補強は専門工事。DIYは高所・広範囲を避ける。
- クラックは清掃→乾燥→充填の順。雨天直後は避ける。砂や粉が残ると密着しない。
- 破片・錆粉の除去は保護具を着けて安全に。マスキングで仕上がりを整える。
- 応急の養生は原因調査の後に本補修。見た目だけで終わらせない。
5-3.専門家に相談する時の情報の出し方
- 撮影3枚セット(全体・中景・アップ)+スケッチ番号+ひび幅の目安。同じ場所の過去写真があれば添付。
- 発見時期と変化(昨年→今回で広がったか)。雨の前後で濡れ方が違うかも有力情報。
- 周辺状況(雨樋詰まり、近年の地震や工事、隣地の掘削)も伝えると診断が早い。床下点検口の有無も記載。
点検記録テンプレ(貼って使える)
番号 | 場所/方角 | 変状 | 幅/長さ | 写真 | 優先 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
01 | 基礎・南/出隅 | 斜めひび | 0.4mm/30cm | 3枚 | 高 | 雨後に濡れ拡大 |
02 | 外壁・西/窓下 | 目地切れ | —/50cm | 3枚 | 中 | 触ると弾力無し |
Q&A(よくある疑問)
Q1.ヘアクラックは放置して良い?
A. 0.2mm未満・表面のみなら再塗装時に対応で良いことが多い。ただし同じ場所が増える/広がるなら記録を持って相談を。
Q2.名刺が入るひびを発見。どうする?
A. 0.3mm超の目安。表裏連続・斜め・長いなら早期に専門相談。雨天前は一時止水を。
Q3.シーリングの打ち直しは自分でできる?
A. 短い区間・非高所なら既存除去→養生→下塗り→充填→均しで可能。ただし高所・長尺・ALCの目地は無理せず依頼。
Q4.白華は洗えば消える?
A. 表面は落ちるが**原因(浸水・乾燥の繰り返し)**が続けば再発。水の流れを直すのが先決。
Q5.どのくらいの頻度で点検?
A. 年2回(春・秋)+大雨/地震後が基本。同じルート・同じ順番で回ると変化に気づきやすい。
Q6.屋根の不具合を見つけた。登って直して良い?
A. 不可。滑落・破損の危険が大。地上から観察→記録→相談の手順で。
Q7.基礎の白華を削り落として良い?
A. 表面清掃は可だが、再発原因の是正(止水・排水・換気)が先。清掃だけでは根本は解決しない。
用語辞典(やさしい解説)
- 白華(はっか):コンクリートの白い粉。水が出入りして乾くと出やすい。
- 蟻道(ぎどう):シロアリが作る土のトンネル。壊さず撮影→相談が鉄則。
- ジャンカ:打設不良で骨材が見える荒れ。欠損補修が必要な場合がある。
- チョーキング:外壁をこすると白い粉が付く現象。塗膜劣化のサイン。
- 目地シーリング:外壁板の継ぎ目のゴム状材料。痩せ・割れは雨水の入口に。
- 犬走り:基礎の周りの細いコンクリート部。水はけの確認場所。
- 雨仕舞(あまじまい):雨水を建物外へ導く工夫。水切り・勾配・重ねなどの総称。
まとめ
点検は安全な日・下から上へ・同じ順番で。ひびは幅と方向で判断し、名刺が入る/斜め/貫通は優先相談。外壁は目地・反り・塗膜、付帯は雨樋・水切り・換気を押さえ、写真3枚セット+スケッチで記録を残す。止水と清掃は応急まで、構造は専門へ。今日、玄関に点検チェック表・紙テープ・マーカーを置く――それが自宅を守る第一歩です。