まず結論:月5分の“型”を家族で共有すれば、迷いは消える
5分で回す訓練の全体像
避難訓練は短く・同じ手順で・毎月が続く。オンライン通話と紙のチェック表を組み合わせ、**5分で「確認→実演→更新」**を回す。やることが多いほど続かない。**型(テンプレ)**を固定し、穴(更新点)だけを埋めるのがコツ。さらに四半期に1度の拡張回(15分)を入れて、夜間版・雨天版・停電版を実地に切り替えると実効性が跳ね上がる。
オンライン訓練の利点
離れて暮らす家族でも同時に集合できる。静かな声でも聞こえるため、実災害の夜間運用に近い。録画やメモで進歩が見える。合図・集合・伝言の言い回しが揃うことが最大の効果だ。加えて、移動を伴わないので継続率が高く、小さな子や高齢者にとっても体力負担が少ない。
成果の指標(見える化)
- 集合コールから30秒以内に応答(スタンプ/短文で可)。
- 一次集合の呼び名が全員同じ(例:「時計台前」で統一)。
- 家族カードの更新日が1か月以内、持出袋の期限表が最新。
- 危険箇所の共有数が1回につき最低1つ、前回からの改善が1件。
月5分テンプレ|オンライン避難訓練の進め方
1分目:集合コールと点呼
- 家族代表が通話アプリで「訓練開始」を送信。
- 全員30秒以内にスタンプ/短文で応答。既読だけは禁止。
- 点呼順は固定(例:保護者→子→祖父母)。欠席時の代理も事前に決める。
2分目:非常連絡の“定型文”読み合わせ
- 代表が短文テンプレを読み上げ、全員が自分の言葉で復唱。
- 例:「無事/家にいる/○○公園へ向かう/15分後合流」。
- 合図の確認:笛3短=助けて、1長=集合、ライト2点滅=合流。手旗(白×白)の左右振り=危険回避も追加可。
3分目:地図で集合ルートの照合
- 画面共有で**地図(一次→二次→最終集合)**を表示。
- 橋・踏切・崖沿い・水路暗渠など危険箇所を1つずつ指差し確認。
- 雨天ルート(浸水回避)と夜間代替地点(照明あり)を一言で説明。ペット同伴ルートや車いす回避ルートも併記。
4分目:家族カードと持ち物の更新
- 家族カード(氏名・ふりがな・緊急連絡3件・集合地点)をカメラに映す。
- 連絡先の変更がないか全員チェック。勤務先/学校の連絡網も点検。
- 持出袋の消費期限(水・食品・薬・電池)を口頭で確認、交換担当を即決。
5分目:役割と次回日程の確定
- 掲示担当・迎え担当・札作成担当を月ごとに交替。
- 次回日時をチャットに固定文で残す(例:「毎月第一日曜20:00」)。
- 15分拡張回のテーマ(夜間/雨天/停電)を四半期ごとに計画。
追加:60秒あればやる“超短縮ドリル”
- 代表が一言で出題:「夜・停電・雨のうち、今どれ?」→全員が対応ルートを一言で返す。
事前準備と道具|紙・通話・光の三点セット
必要最小の道具(全員分)
- 家族カード(名刺サイズ):氏名・ふりがな・緊急連絡3件・集合地点・持病/服薬。
- ホイッスルと小型ライト:合図の確認用。夜間は点滅モードを練習。
- A6耐水メモ+油性ペン:伝言札の練習用。裏面に合図の意味を印刷。
代表が用意するもの(1セット)
- 地図画像(一次・二次・最終集合を赤丸/雨天は青、夜間は黄)。
- オンライン会議リンク(固定URL)。
- 5分テンプレ台本(下記をそのまま読む)。
5分テンプレ台本(読み上げ用)
1)「今から訓練開始、応答してください」→全員応答
2)「短文で状況:無事/現在地/次の場所/到着予定」
3)「一次→二次→最終の順で地図確認、危険1か所ずつ」
4)「家族カード見せ、連絡先変更ありません」
5)「役割交替、次回は第一日曜20:00。四半期テーマ:夜間」
通信・停電のフェイルオーバー設計表
事象 | 第1手段 | 第2手段 | 第3手段 |
---|---|---|---|
通話が混雑 | 音声通話 | テキスト | ラジオ合図/札 |
端末が電池切れ | 予備バッテリー | 近所で充電 | 紙の合図・掲示 |
停電・暗闇 | ヘッドライト | ランタン | 笛+反射材 |
役割分担と運用ルール|誰が何をするかを固定する
月替わりの三役
- 掲示担当:玄関の掲示板に日付・次回日程を張り替える。集合マップを季節ごとに更新。
- 迎え担当:子どもや高齢者の迎えルートを紙で持つ。バス/鉄道の代替も記載。
- 札作成担当:**連絡札(耐水)**を補充し、持出袋に追加。既製の札に日付・時刻欄を作る。
子ども・高齢者・配慮が必要な家族への工夫
- 子ども:大きな文字と絵記号、合図は口で練習。ポイントカード式で参加を可視化。
- 高齢者:ふりがな・服薬欄、ライトは頭につける型。予備眼鏡の置き場を固定。
- 外国語が要る家族:日本語+ふりがな+やさしい英語の三段表記。地名はローマ字も。
夜間・雨天・停電時の切替え
- 夜間:最重要のみ大音量、合図はライト点滅を追加。**寝間着での足元保護(靴/スリッパ)**を確認。
- 雨天:河川敷→屋根付き広場へ切替。側溝の増水に近づかない。
- 停電:通話優先→紙の札・掲示へ移行。冷蔵庫温度計の扱いも決める。
家族ポリシー(貼り出し用)
ルール | 文言(短く) |
---|---|
迷ったら命優先 | ものは後で取りに戻る |
移動は二人以上 | はぐれたら次の集合へ |
笛とライトは常時携行 | 3短=助けて、1長=集合 |
表でわかる|訓練の設計とチェック
月例訓練の設計表
項目 | ねらい | 基準 | 担当 |
---|---|---|---|
応答速度 | すぐ集まる癖 | 30秒以内 | 全員 |
定型文 | 短く伝える | 10秒以内 | 代表 |
ルート確認 | 危険回避 | 危険1か所共有 | 迎え担当 |
カード更新 | 情報の鮮度 | 1か月以内更新 | 各自 |
役割交替 | 運用継続 | 毎月交替 | 代表 |
期限管理 | 持出袋の鮮度 | 消耗品は月1点交換 | 札担当 |
伝言札の書き方(例)
要素 | 書き方例 |
---|---|
名字 | 山田 |
時刻 | 14:30 |
次の場所 | ○○公園時計台前 |
同行 | 大2・子1 |
状態 | 無事 |
次の予定 | 15:00 学校体育館へ |
集合地点の三段構え(再確認)
段階 | 場所の条件 | 例 |
---|---|---|
一次 | 自宅から徒歩30分以内、開けた場所 | 近所の公園中央 |
二次 | 通学・通勤圏の中心、公的施設前 | 学校体育館入口 |
最終 | 宿泊できる親戚宅/広域避難所 | 親戚宅(□□市) |
端末設定の時短チェック
項目 | 設定の目安 |
---|---|
緊急通知 | 最重要は常時鳴動 |
おやすみ | 最重要のみ例外 |
バッテリー | 就寝前80%以上 |
ケース別の練習課題|弱点をピンポイントで鍛える
子どもが先に下校しているとき
- 合流の合図(ライト2点滅)を動画で見せて練習。
- 学校→二次集合へ直行のルールを復唱。
- 迎え担当の名前を子どもが自分の言葉で言えるか確認。ランドセルの札にも記載。
夜勤・単身赴任がいる家庭
- 時間帯を反転したテンプレを用意(昼=夜の設定)。
- 最終集合は中間地点の公的施設に。
- 鍵の受け渡し方法(ポスト・合言葉)を決める。重要書類の保管場所も共有。
ペット同伴のとき
- クレートの固定・移動ルートを画面共有で確認。
- 水・餌・シーツの消費期限を口頭で更新。
- 避難所での約束(鳴き声・排泄の配慮)を共有。ペット同行可の避難先を地図に印。
介助が必要な家族がいるとき
- 階段/段差の代替ルートを事前に設定。
- 押す・持つ・誘導の担当3名を固定(交替制)。
- **医療情報(服薬・アレルギー)**を家族カードにも追記。
雨・強風・積雪のとき
- 雨:用水路・地下道を避け、屋根付き広場へ。
- 強風:落下物・ガラス片を避け建物沿いを歩かない。
- 積雪:車の排気口に注意、徒歩優先へ切替。
よくある失敗と回避策
- 既読だけで済ます → 短文必須にして、テンプレ送信を義務化。
- 集合名の言い換えがバラバラ → 呼称表を作り、看板写真を台紙に貼る。
- カードが古い → 月末に必ず日付を書き替える当番制。
- ライトが電池切れ → **就寝前80%**ルール+予備電池を玄関に。
- 危険箇所が曖昧 → 毎月1か所、写真と地図で更新。
Q&A(よくある疑問)
Q1.毎月5分で本当に身につく?
A.短いから続く。同じ手順を繰り返すことで体が先に動く。年2回の**ロング回(15分)**で補完すれば十分。
Q2.通話が苦手な高齢家族がいる。
A.映像は不要。音声+紙で十分。ふりがな・大きな字の台本を用意し、ライトの点滅合図を重視する。
Q3.子どもが飽きる。
A.役割交替で飽き対策。司会・地図指差し・合図係を順番に回すと主体性が生まれる。
Q4.集合地点が使えないときは?
A.雨天代替・夜間代替を先に決める。地図に青と黄で描き分けると混乱しない。工事情報も事前に確認。
Q5.録画や記録はした方がよい?
A.短いメモでOK。応答秒数・更新項目だけ残す。個人情報は映さない運用が安心。紙の記録帳に写すと家族で共有しやすい。
Q6.参加できない家族が続いたら?
A.欠席連絡→翌日5分の補講を標準化。月5分×2回までを上限に調整。
Q7.マンションと戸建てで違いは?
A.集合場所の高さと階段/エレベーターの運用が違う。マンションは共用部の掲示と管理組合のルールも事前に確認。
用語辞典(やさしい言い換え)
オンライン避難訓練:家族が通話で集まり、短く練習すること。
家族カード:名前・連絡先・集合地点をまとめた紙のカード。
一次/二次/最終集合:順番に集まる場所。来られなければ次へ進む。
合図:笛・ライトで伝える短い約束(3短=助けて)。
連絡札:集合地点に貼って残すメモ。耐水紙が良い。
雨天ルート:水がたまる所を避ける道。
夜間代替地点:明かりがある・見通しがよい集まり場所。
まとめ
家族のオンライン避難訓練は、月5分の同じ型で十分に機能する。集合→定型文→地図→カード→役割の順で回し、合図と言い回しをそろえよう。続けるほど迷いが減り、動作が速くなる。
四半期に一度の拡張回(夜間/雨天/停電)を差し込み、弱点1件の改善を積み上げる。今すぐ第一日曜20:00を家族のカレンダーに入れ、台本の最初の一行を読むところから始めよう。