要点先取り:3日分は“耐える”、1週間分は“回す”——違いはメニュー設計と在庫循環
同じ「備蓄」でも3日分と1週間分では、買い方・置き方・食べ方・使い切り方がまるで違います。3日分は停電・断水でも火と水を最小にして体力を落とさない食事に集中。1週間分は通常生活の延長として献立を回転させ、栄養の偏りと飽きを抑える設計が必要です。
本稿は家族会議でそのまま使えるメニュー表・在庫表・回転表付きで、買う→しまう→食べる→補充のサイクルを丸ごと組み立てます。
まず今日やる3ステップ:①家族人数×9食を“3日棚”に集約、②曜日ローテを紙に固定、③回転表を冷蔵庫に貼る。これだけで7割の備蓄運用は整います。
1.3日分と1週間分の基本設計:“量”より“順番”
1-1.目的の違いと到達目標
- 3日分(72時間):救助・復旧を待つ短期耐久。洗い物ゼロ化と一鍋が柱。目標:火と水の使用を半分以下。
- 1週間分(7日):栄養・多様性・士気を維持。主食の回転とたんぱく質の確保が柱。目標:主食を毎日変え、味の飽きを防ぐ。
1-2.火と水の使い方(節約の型)
- 3日分:カセット1本/週の節約運用、保冷剤リレーで冷蔵延命。湯せんと直食できる袋飯中心。
- 1週間分:一日1回の調理集中(まとめ茹で・まとめ炊き)、食器は使い捨てで水節約。調理後の余熱利用で二品目を作る。
1-3.賞味期限の設計思想(並べ方で勝つ)
- 3日分:長期保存食+水不要食品を前面に。砂糖・塩・油などの基礎調味は小分けに。
- 1週間分:通常食品を“日常消費で回す”(ローリング)。期限の近い物が自然と先に減る陳列にする。
1-4.家族属性で変える“配分”
区分 | 主食比率 | たんぱく比率 | 補助(野菜・果物) |
---|---|---|---|
乳幼児 | 50% | 25% | 25%(ペースト可) |
成人 | 45% | 30% | 25% |
高齢 | 40% | 30% | 30%(食べやすさ優先) |
比較早見表
観点 | 3日分 | 1週間分 |
---|---|---|
目的 | 体力維持・簡便 | 多様性・栄養・士気 |
調理 | 一鍋・湯せん中心 | まとめ調理・アレンジ |
水 | 飲用優先、洗い物ゼロ | 飲用+簡易洗浄 |
在庫 | 長期保存寄り | 日常品を回転 |
管理 | 専用“3日棚”固定 | 台所下段で循環 |
2.3日分メニュー設計:火と水を最小、体力は最大
2-1.一日モデル献立(例:大人1人)
- 朝:おにぎりパック+味付きツナ、野菜ジュース
- 昼:クラッカー+缶詰ハンバーグ、果物ゼリー
- 夜:アルファ米雑炊(乾燥野菜+サバ缶)
- 間食:ナッツ・羊かん・ビタミンタブレット
2-2.3日×3食の“具体メニュー”
回 | 主食 | たんぱく | 補助 |
---|---|---|---|
朝1 | おにぎりパック | ツナパウチ | 野菜ジュース |
昼1 | クラッカー | 焼鳥缶 | ゼリー |
夜1 | アルファ米雑炊 | サバ缶 | 乾燥野菜 |
朝2 | 即食ご飯 | ちいさな豆パウチ | フルーツ缶 |
昼2 | ビスケット | ミートボール缶 | コーンスープ |
夜2 | レトルト粥 | サケ中骨缶 | わかめ |
朝3 | おこわ缶 | ささみ缶 | トマトジュース |
昼3 | クラッカー | いわし缶 | くだものゼリー |
夜3 | アルファ米 | カレー缶 | 乾燥ねぎ |
2-3.3日間分の品目と数(成人1人)
区分 | 品目 | 数 |
---|---|---|
主食 | アルファ米/即食ご飯/クラッカー | 9食分(+予備1) |
たんぱく | ツナ・サバ・焼鳥缶、豆パウチ | 9個(味を分散) |
野菜・果物 | 野菜・トマトジュース、乾燥野菜、ゼリー | 9本/個 |
間食 | 羊かん・ナッツ・ビスケット | 9個 |
飲料 | ペット水500ml | 6〜9本(気温で増減) |
2-4.“洗わない・こぼさない・燃やさない”調理手順
- 湯せん→袋のまま盛る→袋で捨てるで洗い物ゼロ。
- 一鍋雑炊:アルファ米+缶汁+水少量→3〜5分。
- 保冷剤リレー:冷凍→冷蔵→クーラーボックスへ順移動。
- ごみは二重袋、におい物はベランダ側へ仮置き。
3.1週間分メニュー設計:回転で飽きを止め、栄養を整える
3-1.主食ローテーション(7日を崩さない)
曜日 | 主食 | 仕込み | アレンジ |
---|---|---|---|
月 | ごはん | まとめ炊き→冷凍 | 雑炊・焼きおにぎり |
火 | パン | 冷凍保存 | 卵液で甘じょっぱく |
水 | うどん | まとめ茹で→油絡め | 焼うどん・スープうどん |
木 | パスタ | まとめ茹で→小分け | ナポリ風・和風ツナ |
金 | ごはん | まとめ炊き→保温 | カレーリメイク |
土 | そば | 茹で置き少量 | ぶっかけ・温そば |
日 | おかゆ | レトルト粥 | 卵雑炊・梅茶漬け |
3-2.たんぱく質の“二段構え”と一皿化
- 段1(常温):魚・肉・豆の缶詰、魚ソーセージ、レトルト。
- 段2(冷蔵/冷凍):卵、冷凍鶏むね、冷凍豆腐、冷凍枝豆。
- 一皿化:主食+たんぱく+野菜を丼・スープ・焼き物にまとめ、洗い物ゼロへ。
3-3.彩りと食物繊維を足す定番
- 乾燥野菜ミックス、切り干し大根、乾燥わかめ。
- 冷凍ブロッコリー、コーン。
- 海苔・ごま・梅干しで塩分と食欲を補う。
3-4.家族属性別アレンジ(子・高齢・忙しい)
区分 | 向く主食 | たんぱくの工夫 | 食べやすさ |
---|---|---|---|
子ども | うどん・粥 | つぶしやすい具 | 小盛りを複数回 |
高齢 | おかゆ・柔らかパン | 卵・豆腐 | 温かい汁物を添える |
忙しい | パスタ・パン | ツナ・ソーセージ | 片手で食べられる形 |
4.在庫を“回す”設計:ローリングの型と記録シート
4-1.買う→しまう→食べる→補充のルール
1)先入れ先出し(賞味期限が短い物から前面へ)。
2)1消費=1補充(食べた日か翌日に同じ物を1つ買う)。
3)月末点検(棚を空にして期限と数を記録)。
4)**人数×日数の“式”**を扉裏に貼る(例:4人×7日=主食28食)。
4-2.回転の記録シート(テンプレ)
日付 | 品目 | 出庫 | 入庫 | 残 |
---|---|---|---|---|
4/1 | アルファ米(梅) | 1 | 1 | 9 |
4/3 | サバ缶 | 2 | 2 | 12 |
4/6 | 乾燥野菜 | 1 | 0 | 3 |
4-3.置き場所の“分散配置”と棚どり
- 台所下段:毎日回す1週間分(手前が期限短、奥が長)。
- 寝室クローゼット:3日分の非常用(手を付けない)。
- 車・職場:行動不能対策のミニセット。
- 棚の並べ順:主食→たんぱく→補助→間食で取り出し時間を短縮。
4-4.在庫数の“答え合わせ”(家族人数別)
家族構成 | 3日分(主食/たんぱく/飲料) | 1週間分(主食/たんぱく/飲料) |
---|---|---|
1人 | 9食/9個/6本 | 21食/14個/14本 |
2人 | 18食/18個/12本 | 42食/28個/28本 |
4人 | 36食/36個/24本 | 84食/56個/56本 |
4-5.買い方の型(無駄にしない)
- 同じ味は3個まで:飽きを防ぐ。
- 箱買いは半箱に:置き場を圧迫しない。
- 値引きは“先入れ先出し”が守れる数だけ。
5.運用の細則:栄養・衛生・節約・家族会議
5-1.栄養の骨組み(PFC+彩り)
- P(たんぱく):缶詰・卵・豆腐・魚ソーセージ。
- F(脂質):オイル漬け缶・ナッツ。
- C(炭水化物):米・麺・パン。**彩り(緑黄赤)**は海苔・トマト缶・コーンで補う。
- 甘味・塩味の調整:蜂蜜・黒糖・塩昆布・梅で少量でも満足感。
5-2.衛生とごみ(洗い物ゼロ化)
- 使い捨て皿×耐熱袋で洗浄水ゼロ。
- 缶は水切り→踏み潰し→袋へ。
- におい物は二重袋+ベランダ側で仮置き。
- 手洗いの順:流水→なければウエット→アルコール。
5-3.燃料と火の管理
- カセットボンベは3本/家庭/週を目安。
- 耐熱ボード・換気・1m離隔を徹底。
- ろうそく禁止、LED一択。
- 一酸化炭素警戒:頭痛・気分不良で即停止→換気。
5-4.家族会議の型(毎月15分)
- 買い足しリストを回覧→承認。
- 回転表を確認→期限間近を献立へ。
- 新規食品の試食→口に合う物だけ採用。
- 役割カード(水番・火番・在庫番)で参加感を高める。
5-5.非常持出との連携(台所からの切り出し)
- 3日棚の一部を持出袋へ移す訓練を季節ごとに実施。
- 子ども用・高齢者用は軽量・食べやすさを最優先。
Q&A(よくある疑問を一気に解決)
Q1.アルファ米が苦手。どう食べやすく?
A.雑炊アレンジが最短。ツナ缶+梅+乾燥ねぎで香りと塩気を足す。
Q2.缶詰ばかりで塩分が心配。
A.汁は全部使わず必要量だけ。海藻・野菜ジュースでカリウムを足すとバランスが良い。
Q3.子どもが飽きる。
A.曜日固定メニューで予測性を持たせ、**味変(ふりかけ・ソース)**を2〜3種常備。
Q4.在庫の置き場がない。
A.ベッド下・押入れ上段を活用。平箱(段ボール)に品目別でまとめ、表に数量ラベル。
Q5.停電中、冷凍品はどうする?
A.開閉最小+保冷剤で数時間延命。先に解凍された物から食べ切る。
Q6.賞味期限がバラバラで管理が大変。
A.“月末点検日”を固定し、その日に期限短い順へ前出し。回転表に転記するだけで回る。
Q7.食物アレルギーがある。
A.成分表示を紙で控え、安全な代替を必ず一つ用意。配給食品は疑わしきは食べない。
Q8.水を使わず栄養を足すには?
A.野菜ジュース・果物ゼリー・海苔・ごまを常備。粉末スープで温かさも補える。
用語辞典(やさしい言い換え)
- ローリング:普段食べる→買い足すを繰り返し、在庫を新しく保つやり方。
- 先入れ先出し:先に買った物から使うルール。
- 一鍋化:一つの鍋で料理を完結させ、洗い物と燃料を減らす。
- 保冷剤リレー:冷凍→冷蔵→クーラーへ順に移し替え、冷却を長持ちさせる。
- 回転表:食べたら書く→同じ数を買うためのメモ。
- 3日棚:3日分専用の置き場所。非常時の触らない在庫。
まとめ
3日分は“耐える”、1週間分は“回す”。この違いを踏まえ、メニューの型(72時間は一鍋、7日はローテ)、在庫の型(3日は長期保存、7日は日常回転)、**運用の型(先入れ先出し・1消費1補充・月末点検)**をセットで回しましょう。
今日、家族数×9食の3日分と、曜日ローテの1週間分を紙に落として、台所の扉裏に貼れば準備は完了。次の買い物から、備蓄はもう“暮らしの一部”です。