停電・通信障害・配送遅延が重なる非常時は、現金と燃料を「増やす前に、減らさない」運用が生死や回復速度を左右する。
ここでは、初動48〜72時間の方針→日次の配分→補給戦術→近隣連携→家族別の運用までを実務目線で体系化し、表・チェックリスト・テンプレとしてまとめた。家族やチームでそのまま共有して使える運用書として設計し、安全・節約・再配分の三本柱で解説する。
初動48〜72時間の作戦立案|現金・燃料を一気に使わない
1-1.最初の30分:棚卸しと封印
最初に手持ち現金(紙幣・硬貨)と燃料(ガソリン・軽油・灯油・カセットガス)を見える化する。現金は生活費封筒・医療封筒・移動封筒・予備封筒に分け封印(テープ)。燃料は車両・発電・調理/暖房・予備に用途ラベルを貼る。ここで持ち出し制限ルール(単独判断禁止/二人承認)を決め、鍵の所在と家族の合言葉を共有する。
1-2.最初の6時間:消費を止めるオペレーション
移動・発電・加熱は即停止→必要性の確認→短時間再開の順。スマホは機内モード+必要時のみ通信。冷蔵庫は開閉回数ゼロ作戦(まとめ取り→内容を紙に書いて扉に貼る)で電力節約。車はアイドリング禁止、暖房は衣服の重ね着→局所加温へ切替える。発電機や火気は屋外・換気・離隔を徹底する。
1-3.48〜72時間の意思決定枠組み
命→健康→衛生→移動→快適の順で支出と燃料を割当てる。現金は1日上限、燃料は時間上限を設ける。外出は2回/日まで、買い物はリスト制、給油は同乗2名体制(安全・交代)とする。並ぶ/移動/調理/発電の各行動に終了時刻をあらかじめ決めてから開始する。
初動の配分イメージ
資源 | 0〜6時間 | 6〜24時間 | 24〜48時間 | 48〜72時間 |
---|---|---|---|---|
現金 | 緊急医療と水のみ | 食料・燃料を少量補充 | 衛生・通信に最小限 | 予備封筒の点検のみ(未開封) |
燃料 | 停止→点検 | 調理5〜10分/食、短時間発電 | 移動は要件限定、夜間発電は原則しない | 発電は昼間のみに集約、移動は三角移動 |
現金マネジメントの芯|優先順位・封筒法・小口化・記録
2-1.優先支出の順位と上限
命に直結→健康維持→衛生→情報→移動の順。日ごとの上限額は所持現金の1/7(最低3日確保)。予備費(最後まで未開封)は医療と長距離移動にのみ開放する。
2-2.封筒法(現金の分割運用)
生活費・医療・移動・予備の4封筒に分け、各封筒に日割り上限を記す。支払いは原則1000円単位にし、おつりの硬貨は生活費封筒へ戻す。買い物役と監督役を交代制にして判断の偏りを防ぐ。
2-3.小口化と釣り銭対策
停電時は釣り銭不足が起きやすい。千円札・百円硬貨・十円硬貨を多めに保持。家族で小口袋(各500〜1000円)を持ち、並び直しの手間を減らす。
2-4.レシートが無い時の記録テンプレ
ノート1ページを日付で区切り、時刻/用途/金額/封筒名/残高/承認者を記入。削除線の二重取り消しを禁止し、誤記は赤で追記する。
支出優先表(例)
項目 | 優先度 | 上限/日 | 代替の工夫 |
---|---|---|---|
飲料水 | 最高 | 必要量 | 浄水器・煮沸・給水所利用 |
医薬品 | 最高 | 必要分 | 後発品・共同購入 |
主食 | 高 | 1〜2食分 | 乾物の水戻し・配給 |
燃料 | 高 | 用途別枠 | 相乗り・徒歩・自転車 |
衛生 | 中 | 最小限 | ティッシュ節約・手洗い徹底 |
通信 | 中 | 少額プリペイド | 公衆無線・ラジオ |
嗜好品 | 低 | 0 | 代替飲料・休止 |
燃料マネジメントの実務|車・発電・調理/暖房・保管安全
3-1.車両用燃料:移動の要件定義
移動は通院・給水・補給・連絡の4要件に限定。相乗り・用事の束ねで走行距離を減らす。携行缶の保管は換気良好・火気厳禁・直射日光回避。給油所は混雑時間(昼前後)を避けて早朝に並ぶ。
3-2.発電と給電:時間割運用
発電機は30〜60分/回の時間割で運転し、蓄電池・端末・照明を集中充電。屋内使用は厳禁、排気は人から離す。一酸化炭素警報器を使用。延長コードは定格を超えない。
3-3.調理・暖房用燃料の切替
カセットガスは短時間調理に最適。灯油暖房は換気と警報器を徹底。固形燃料・アルコールは屋外・不燃面で使用。火気は消火具を手元に置き、子ども・高齢者の近傍での単独使用は不可。
3-4.保管と期限管理
カセットボンベはさび・へこみ・高温を避ける。灯油はシーズン持越しを避け、古いものは専門回収へ。ガソリンは密閉缶・規定量・換気、静電気対策に留意する。
燃料消費の目安(概算)
用途 | 目安消費 | 備考 |
---|---|---|
乗用車移動 | 10km/L前後 | 渋滞で悪化、相乗りで改善 |
発電機(1kVA級) | 0.5〜0.7L/時 | 充電集中で運転回数を減らす |
カセットガス調理 | 1本/60〜90分 | とろ火で稼働時間を延ばす |
灯油暖房(小型) | 0.2〜0.4L/時 | 断熱・着衣で時間短縮 |
消費を減らす設計|移動計画・温度・電力・食事の工夫
4-1.移動計画:三角移動とまとめ買い
回遊ではなく三角移動(A→B→C→A)で走行距離を抑える。給水・買い物・連絡を1本の動線に束ね、空ぶかしゼロ・待機はエンジン停止を徹底する。
4-2.温度マネジメント:服装と断熱で燃料節約
重ね着・ネックウォーマー・手袋で体感温度を上げ、暖房時間を1/2に。窓に段ボールや毛布、床にマットで室温低下を遅らせる。夏は日中は窓を閉め、朝晩に換気。
4-3.電力の配分:必要機器に優先順位
通信端末→照明→冷蔵庫→その他の順で充電。冷蔵庫は保冷剤と保冷バッグで開閉ゼロ。炊飯は昼間に行って蓄熱で夕食へ回す。
4-4.食事運用:水戻し・保温・無加熱メニュー
米・乾麺・乾燥豆・切り干しなどは水戻しで主食・副菜を確保。温めが必要な場合は保温容器で加熱5分→保温20分などに短縮する。
1日のエネルギー配分表(例)
時間帯 | 行動 | 電力/燃料の使い方 |
---|---|---|
朝 | 連絡・給水・炊飯 | 発電30分→端末/照明/保冷剤充電 |
昼 | 補給・調理 | ガス5〜10分の加熱で主食用意 |
夕 | 片付け・記録 | 低照度ライト・通信は最低限 |
夜 | 休息 | 発電停止・断熱で保温 |
補給戦術と近隣連携|並ぶ技術・交換・情報・防犯
5-1.補給のタイムライン
1日目:近隣店舗・給水所の営業状況地図を作る。2日目:早朝の短時間給油、配給の整理券方式を確認。3日目以降:現金は小口化、燃料は用途別に再配分し、買い足しは不足分のみに絞る。
5-2.並ぶ技術と持ち物
二人交代で体力を温存。台車・折りたたみ椅子・飲料・雨具・防寒具を携行。買い物リストは金額合計を先に書く。
5-3.物々交換のルール
定価の目安と数量限定を共有し、等価交換を心がける。衛生品・医薬品は未開封のみ。記録ノートに品目・数量・相手・時刻を残す。
5-4.セキュリティと情報の扱い
現金の持ち歩きは最小限、分散所持。掲示板やSNSの情報は複数で確認。家の出入り時刻は家族ノートに記録し、所在を明確にする。
補給・連携のチェックリスト
- 営業中の店舗・給水所・給油所を地図化
- 現金は千円札・百円硬貨を中心に小口化
- 並ぶときは2名体制(交代・防犯)
- 交換は未開封、量と期限を記録
- 給油後は車内にレシート/メモを残す
家族構成別の運用|乳幼児・高齢者・持病・ペット
6-1.乳幼児がいる世帯
粉ミルク・離乳食・紙おむつは日割り表を作り、前倒し消費を避ける。湯沸かしは昼間にまとめて実施し、保温ボトルで夜間の燃料を削減。
6-2.高齢者がいる世帯
段差解消・夜間照明を優先。外出は付き添いをつけ、並ぶ時間を短縮。服薬の時間を家族で共有し、医薬品は優先封筒から支出。
6-3.持病のある人がいる世帯
常備薬・処方箋の写し・服薬表を防水袋で携行。電源が必要な医療機器は蓄電池の優先配分と昼間の充電集中で切らさない。
6-4.ペットがいる世帯
フード・水・排泄用品を日数で割り振り。外出時は相乗りを徹底し、炎天下の長時間待機を避ける。
蓄電の配分テンプレ|容量の見える化と優先順位
7-1.よくある機器の消費めやす
機器 | 目安消費 | 備考 |
---|---|---|
スマホ | 10〜15Wh/回 | 省電力設定で半減 |
LEDランタン | 3〜5W | 低照度で長持ち |
小型扇風機 | 10〜20W | 断熱と併用 |
ノートPC | 40〜60W | 充電は昼間のみ |
7-2.300Wh蓄電池の配分例
使い道 | 時間/回 | 回数/日 | 消費 | 備考 |
---|---|---|---|---|
スマホ充電 | — | 3台×1回 | 約40Wh | 家族分まとめて |
LED照明 | 4時間 | 1 | 約20Wh | 低照度運用 |
小型扇風機 | 2時間 | 1 | 約30Wh | 就寝前のみ |
予備 | — | — | 約210Wh | 医療機器・PC等 |
よくある失敗と回避策|やってはいけない例をゼロにする
- 初日に大量購入 → 在庫切れと現金枯渇を招く。上限と封筒で抑える。
- 発電機の屋内使用 → 一酸化炭素中毒の危険。屋外・離隔・警報器を徹底。
- カセットボンベの直射日光保管 → 過熱・変形の恐れ。日陰・室内の涼しい場所へ。
- 釣り銭不足で買えない → 小口化を最優先、千円札中心で支払い。
- 並び直しで時間ロス → 二人交代・金額メモ、要件は1つに絞る。
書式テンプレ|そのまま写して使える
9-1.封筒ラベル例
- 生活費(上限__円/日)
- 医療費(上限__円/日)
- 移動費(上限__円/日)
- 予備(開封禁止/責任者__)
9-2.日報テンプレ
- 日付:__/__ 天気:__
- 外出回数:__ 目的:__
- 現金残高:生活__円/医療__円/移動__円/予備__円
- 燃料残量:車__L/灯油__L/ボンベ__本/発電用ガソリン__L
- 本日の決定事項:__
- 明日の優先行動:__
9-3.買い物リスト(上限__円)
- 水(__L)/主食(__)/衛生(__)/医薬(__)/その他(__)
Q&A|よくある疑問と答え
Q1.クレジットやQR決済が使えない時は? 停電や通信障害では停止することがある。現金の小口化と現金対応の有無を確認。端数を作らない支払いで釣り銭不足を回避。
Q2.発電機がない場合の充電は? 車の電源→蓄電池で昼間のみ補給。排気ガスに注意し、アイドリングは最小。公共の充電スポットも併用。
Q3.燃料が尽きかけたら? 移動を停止→徒歩/自転車へ切替。水戻し・保温調理を活用。暖房は衣服と断熱で代替。
Q4.現金が乏しいが買うべき優先品は? 水・主食・医薬品・衛生の順。嗜好品・大型買いは後回し。
Q5.並ぶ時間が長い。効率化のコツは? 早朝到着・要件を1つ・二人交代。台車・椅子・防寒で体力を守る。
Q6.治安が不安。持ち歩き方は? 小口分散し、見えないポケットへ。大金は家で保管し、所在は家族ノートに。
用語辞典(やさしい言い換え)
封筒法:現金を用途別に分ける方法。使いすぎを防ぐ。
相乗り:複数人で1台に乗ること。燃料節約に有効。
時間割運転:発電機を短時間だけ回して集中充電する運用。
小口化:千円札・百円硬貨など細かいお金にしておくこと。
三角移動:三点を一筆書きで回る移動。走行距離が短い。
一酸化炭素警報器:見えない有毒ガスを知らせる器具。発電機や灯油暖房のそばに。
まとめ|「増やす前に減らさない」が非常時の正解
非常時は、現金は封筒で分け、燃料は用途で分け、時間で使う。初動48〜72時間で使いすぎを止める仕組みを作り、日次の上限と記録でブレをなくす。補給は早朝短時間・小口化・二人交代、消費は移動と加熱の削減。家族別の優先順位と蓄電の配分まで型にしておけば、不足前提の数日間を静かに・確実に乗り切れる。