天気アプリやテレビで表示される**「時間雨量(mm/h)」は、数字を眺めるだけでは身を守れない。大切なのは、その数値が現場でどう見え、どう聞こえ、足元がどう変わり、どの時点で何をやめて何を始めるか**を即決できることだ。
本ガイドは、体感換算表・行動トリガー・地域別リスク・装備と家屋対策・日常の体得法を、表・チェックリスト・台本に落とし込んだ。Q&A・用語辞典・まとめまで網羅する。
要点:①数値は音・視界・足元で実感に変える、②行動は**“ここで中止/ここで退避”のしきい値を家族で統一、③地形と排水**のクセを先に把握しておく。
1.時間雨量を“体感”に置き換える|音・視界・足元の3指標
1-1.音でわかる(屋根・窓・道路)
- 10〜20mm/h:トタン・庇にパラパラ→パタパタ。会話は通常。
- 30〜50mm/h:屋根音がザーッに変化。屋内でもテレビ音量を上げるレベル。
- 80mm/h以上:打ち付け音が連続し、声を張らないと通じにくい。屋外の会話成立が困難。
1-2.視界でわかる(道路・ライト・標識)
- 10〜20mm/h:アスファルトに水の膜。白線が薄ぼんやり。
- 30〜50mm/h:車のライトがカーテン状に拡散。標識の文字がにじむ。
- 80mm/h以上:対向車のライトが白の塊。視程50m以下を感じ、歩行者の発見が遅れる。
1-3.足元でわかる(靴・側溝・勾配)
- 10〜20mm/h:マンホールから細い流れ。歩道の水たまりはつながり始め。
- 30〜50mm/h:側溝の渦が見える。踵まで浸水が始まる。
- 80mm/h以上:足首以上。舗装のうねりや段差が見えない。流速が増し転倒リスク。
1-4.体感換算 早見表(mm/h → 状況 → 行動)
時間雨量 | 屋外の見え方・音 | 足元の変化 | すぐ取る行動 |
---|---|---|---|
10 | 小雨強め。白線が薄い | 水たまり点在 | 屋外作業短縮、排水口確認 |
20 | 雨音はっきり | 横断歩道がにじむ | 自転車中止、徒歩は防水靴 |
30 | 強い雨。視界低下 | 側溝が渦を巻く | 車は減速、外出見合わせ検討 |
50 | バケツをひっくり返す | かかと浸水 | 低地退避開始、地下に降りない |
80 | 滝のよう。会話困難 | 足首以上 | 避難行動、水路・橋に近づかない |
迷ったら30mm/hを境に外出をやめる、50mm/hで退避を始める、と覚える。
1-5.“持続時間”と“直前の雨”で危険は跳ね上がる
- 同じ30mm/hでも、1時間続く30mmと10分だけの30mm相当では影響が違う。
- 前日までの連続降雨があると、少雨でも排水が追いつかず危険度が上がる。
- 体感メモには強さ×長さを必ずセットで記録する。
2.数値を“行動トリガー”にする|中止・退避・通行禁止
2-1.外出・交通の基準
- 20mm/h:自転車・バイクは原則中止。徒歩は防水靴+反射材。
- 30mm/h:車での移動を延期。やむを得ない場合は迂回路と高台駐車を確保。
- 50mm/h:地下・アンダーパス進入禁止。鉄道遅延を前提に早帰り。
2-2.家庭の守り(家・ベランダ・室外機)
- 20mm/h:排水口のごみを取る。鉢は受け皿外し+固定。
- 30mm/h:窓の縁取りテープ、ベランダの排水再確認。
- 50mm/h:玄関前の一時止水(段ボール+ゴミ袋)を設置。停電の灯り点検。
- 80mm/h:屋外作業中止。室内の安全導線(懐中電灯・長靴)を玄関へ。
2-3.避難の判断(家族内ルール)
- **“上げる・離れる・止める”**で統一:
- 上げる:車は前上がり、家の電源タップを机上へ。
- 離れる:川・水路・海岸から距離を取る。
- 止める:地下移動・橋上停止を止める。
2-4.登下校・通勤・買い出しの基準例(家族掲示用)
用事 | 20mm/h | 30mm/h | 50mm/h |
---|---|---|---|
登下校 | 連絡網確認、徒歩は防水靴 | 自宅待機を検討 | 休校・迎えを協議 |
通勤 | 早出/早帰り検討 | 在宅へ切替 | 外出中止 |
買い出し | 短時間で済ます | 延期 | 中止 |
2-5.行動トリガー カード(印刷して玄関へ)
20mm/h:自転車中止/排水口掃除/外出は防水靴
30mm/h:車移動やめる/窓テープ/ベランダ排水再確認
50mm/h:地下禁止・早帰り/玄関一時止水/停電灯り点検
80mm/h:避難行動・橋/水路NG/近所へ声かけ
3.地域別リスクのクセ|同じmm/hでも被害は違う
3-1.都市部(下水・アンダーパス・地下街)
- 短時間集中でマンホールから噴出。歩道の高低差で流路が変わる。
- アンダーパスは数分で冠水。前車が通れたは当てにならない。
- 地下街・地下駐車場は入口が坂。20→30mm/hで早めに退避。
3-2.郊外・農地(用水路・未舗装路)
- 用水路の越流が早い。暗くなる前に水面と地表の段差を確認。
- 未舗装路はぬかるみでスタック。車は高台に回避。
- 田畑の排水路清掃は前日までに済ませる。
3-3.山間部(谷筋・土砂・橋)
- 谷筋に水が集まり流速が増す。橋のたもとは流木の堰き止めが起きやすい。
- 斜面のひび・湧水は土砂の前ぶれ。音が低くうなるのもサイン。
- 橋の上で停車しない。退避は高所の広い場所へ。
3-4.地域別 重点チェック表
地域 | 重点ポイント | 行動 |
---|---|---|
都市 | アンダーパス・地下入口 | 通行回避・早帰り |
郊外 | 用水路・未舗装 | 水位と段差確認・高台駐車 |
山間 | 谷筋・橋のたもと | 橋を避ける・斜面音と湧水観察 |
3-5.“家の周りだけ”の地図を作る(10分)
1)自宅から半径500mの地図を印刷またはスマホ保存。
2)低地・坂の下・川沿い・アンダーパスに赤丸。
3)集合場所(高所・公園の高い側)に星印。
4)玄関の内側と避難袋に同じ地図を入れておく。
4.装備と家屋の守りを“雨量別プリセット”にする
4-1.身につける物(通勤・通学・買い出し)
- 20mm/h:防水靴・雨具上下・反射バンド。バッグは口を上向きに。
- 30mm/h:長靴+レインキャップ。紙の地図と現金小口を携帯。
- 50mm/h:ヘッドライト・非常用笛・替え靴下を追加。両手が空く背負い式が基本。
4-2.家の守り(雨量別の小技)
- 20mm/h:ベランダ排水・窓の水抜き穴掃除。
- 30mm/h:窓の縁取りテープ、室外機前後20cm確保。
- 50mm/h:玄関一時止水、床上の電源タップ退避、冷蔵庫“強め”。
- 80mm/h:屋外作業停止、室内の避難動線を空ける。
4-3.小さな備えが効く物リスト
品名 | 目的 | メモ |
---|---|---|
反射バンド | 視認性 | 夜間・豪雨の歩行に必須 |
ヘッドライト | 両手を空ける | 停電・冠水時の移動 |
防水袋(ジッパー) | 書類保護 | 身分証・保険証・薬手帳 |
ガムテープ | 仮止水・補修 | 段ボール止水の固定 |
笛 | 呼びかけ | 視界不良時の合図 |
厚手の手袋 | 破片対策 | 片付け時のけが防止 |
替え靴下 | 体温維持 | 濡れた後の冷え対策 |
4-4.家族の役割分担(3人想定の例)
役割 | 担当範囲 | 合言葉 |
---|---|---|
大人A | 玄関・外回り | 飛散物ゼロ/一時止水設置 |
大人B | 窓・ベランダ・室外機 | テープ縁取り/排水再確認 |
子ども・高齢者 | 室内 | 懐中電灯点検/飲料補充 |
5.雨量のクセを日常で“体得”する|記録・復習・会話
5-1.記録する(自分なりの換算)
- 雨のたびに体感(音・視界・足元)をmm/hと一緒にメモ。
- 例:「30mm/h=標識にじむ+側溝渦+傘が裏返る」。
5-2.復習する(写真・動画・地図)
- 通勤路の低地、冠水しやすい交差点を地図に赤丸。
- 同じ雨量でどこが先にあふれるかを家族で共有。
- 雨が止んだら水跡(泥線)を写真に残し、次回の判断材料に。
5-3.会話にする(家族の合言葉)
- **「20で備える、30で中止、50で退避」**を合言葉に。
- 学校・職場の早退ラインもmm/hで統一。
- 近所の方へも声かけし、合言葉を共有すると行動が揃う。
5-4.“体得メモ”テンプレ(スマホのメモに)
今日の最大雨量:__mm/h(時刻:__)
見え方:__(白線/標識/ライト)
足元:__(側溝/水位/流速)
音:__(屋根音/会話)
続いた時間:__分/時
前日までの雨:__(有/無)
次回の行動:__(外出中止/退避/装備)
5-5.ありがちな誤解と落とし穴(回避のコツ)
- “前の車が通れたから自分も通れる” → 不可。水位・路面状況は秒単位で変わる。
- “雨雲が遠いから安心” → 不可。山地や上流の雨が遅れて流れてくる。
- “短時間だから大丈夫” → 不可。排水能力を超えると一気に溢れる。
Q&A|よくある疑問を実務で解決
Q1.“mm/h”って、何時間降るかの予報?
その1時間に降った量(強さの目安)。降る長さは別の予測で確認する。
Q2.同じ30mm/hでも安全な時がある?
地形・排水・前日までの雨量で変わる。連続降雨後は少量でも危険。
Q3.豪雨のとき、最優先でやることは?
地下に行かない、橋に近づかない、車は水位を見て引き返す。
Q4.雨量計がなくても判断できる?
本記事の体感指標(音・視界・足元)でしきい値を決めておく。家の周りの水跡を観察して次に生かす。
Q5.アプリの数値が外れたら?
自分の目と耳で危険を感じたら早めに行動。数値より命を優先。
Q6.夜間はどうする?
反射材・ヘッドライトを活用し、車道側を避ける。橋や水路には近づかない。
Q7.子ども・高齢者の配慮は?
歩行速度が落ちる前提で、早めの退避と付き添いを徹底する。
用語辞典(やさしい言い換え)
時間雨量(mm/h):1時間に降った雨の量。強さの指標。
視程:どれくらい遠くまで見えるかの目安。
越流:水が堤や路肩をこえて流れること。
アンダーパス:道路が低く潜る場所。冠水しやすい。
一時止水:段ボールや袋で入口に水の壁をつくる簡易対策。
連続降雨:前日までの降り続き。地面や排水が水を抱えた状態。
まとめ|数値を“動き”に変えれば、迷いが消える
時間雨量は、音・視界・足元の自分の感覚に結びつけて初めて力を持つ。20で備える、30で中止、50で退避という行動トリガーを家族の合言葉にし、地域のクセと装備プリセットを重ねれば、急な豪雨でも迷わない。今日の雨から、強さ×長さをメモする自分の換算表を作り始めよう。