医療機器ユーザーの電源計画|CPAP・吸引器の電力ガイド

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防災

停電でも“今夜使えるか”で不安にしない。 本稿は、在宅でCPAP(持続陽圧呼吸)や口腔・鼻腔の電動吸引器を使用する人が、必要電力量を数値で見積もり今夜と明日夜の連続運転を現実的に確保するための実務ガイドです。

自宅の分電盤から持ち運べる電源、車からの充電、発電機や太陽光パネルの併用まで、安全第一・再現性・家族共有の3原則でまとめました。※個別の治療は主治医の指示を最優先してください。


  1. 1.まず把握:機器ごとの消費電力と“必要電力量”
    1. 1-1.CPAPの消費電力の考え方
    2. 1-2.吸引器の消費電力と使い方の癖
    3. 1-3.必要電力量(Wh)の出し方と“安全率”
  2. 2.電源の選び方:ポータブル電源/鉛シールド電池/自動車/発電機/太陽光
    1. 2-1.ポータブル電源(リチウム)
    2. 2-2.鉛シールド電池(ディープサイクル)
    3. 2-3.自動車(シガー/走行充電/外部給電コンセント)
    4. 2-4.小型発電機(ガソリン/ガス)
    5. 2-5.太陽光パネル(携帯型/固定型)
      1. 電源方式の比較早見表
      2. インバータ波形と相性(AC運転時)
  3. 3.“何時間持つ?”を数字で決める:計算と実例
    1. 3-1.基本式(AC運用)
    2. 3-2.DC直結運用の目安(CPAP)
    3. 3-3.実例:容量別の持ち時間(目安)
    4. 3-4.デプス・オブ・ディスチャージ(DoD)
  4. 4.停電時の運用手順:今夜の安心を最優先
    1. 4-1.停電発生〜就寝までの“準備の段取り”
    2. 4-2.就寝前5分チェック(貼り紙向け)
    3. 4-3.翌日以降:昼は補充電、夜は温存
  5. 5.安全・保守・家族共有:事故を防ぐ仕組み
    1. 5-1.感電・過熱・一酸化炭素中毒の回避
    2. 5-2.配線・コネクタの基本
    3. 5-3.月次の試運転・記録
    4. 5-4.家族・支援者に渡す“運転カード”
    5. 5-5.消耗品・予備の管理
  6. 6.モデル別の所要容量早見表(目安)
  7. 7.太陽光+車の“ハイブリッド”で持たせる
    1. 7-1.折りたたみ太陽光の実効出力
    2. 7-2.運用テンプレ(晴れ/くもり)
    3. 7-3.角度・設置・安全
  8. 8.ケーススタディ:三つの家庭の実践例
    1. 8-1.Aさん(単身・CPAPのみ)
    2. 8-2.B家(保護者+お子さん・吸引多め)
    3. 8-3.C家(CPAP+酸素濃縮器)
  9. Q&A(よくある疑問)
  10. 用語辞典(やさしい言い換え)
  11. まとめ:数値で準備、手順で守る

1.まず把握:機器ごとの消費電力と“必要電力量”

1-1.CPAPの消費電力の考え方

  • 本体のみ:20〜40Wが目安(機種・圧設定・リーク量で変動)。
  • 加温加湿あり:60〜90Wへ上昇。加湿レベル(低/中/高)や室温・湿度でさらに上下。
  • 使用時間:多くは6〜8時間/夜。予備として**+1時間**を見込むと安心。

加湿レベル別の概算(目安)

設定本体W加湿W合計W備考
加湿OFF25〜35025〜35省電力・乾燥対策は寝室環境で補う
加湿弱25〜3515〜2540〜60冬は上振れ
加湿強25〜3535〜5560〜90結露・消費増に注意

1-2.吸引器の消費電力と使い方の癖

  • 定格:50〜120W(携帯型は低め、据置型は高め)。
  • 使用パターン:連続ではなく1回1〜3分を数回。合計10〜30分/日が多い。
  • 起動時立ち上がりの突入電流で一時的に負荷が上がることがある。

1-3.必要電力量(Wh)の出し方と“安全率”

式:必要電力量(Wh)=消費電力(W)×使用時間(h)
推奨:計算値に +30%の安全率(寒冷・劣化・突入対策)

機器と設定想定W時間必要Wh(1日)30%上乗せ備考
CPAP(本体のみ)30W8h240Wh312Wh加湿なし・省電力
CPAP(加湿あり)70W8h560Wh728Wh冬期は上振れ
吸引器(携帯型)60W0.5h(合計)30Wh39Wh1回2分×15回想定
吸引器(据置型)100W0.5h(合計)50Wh65Wh余裕を見て+20%でも可

ポイント:CPAPは加湿の有無で必要Whが倍近く変わることがあります。停電時は主治医の許可の範囲で加湿OFFを選べると電源の自由度が高まります。


2.電源の選び方:ポータブル電源/鉛シールド電池/自動車/発電機/太陽光

2-1.ポータブル電源(リチウム)

  • 長所:軽量、残量表示保護回路(BMS)正弦波インバータ内蔵が一般的。USB/DC出力も豊富。
  • 確認容量(Wh)定格出力(W:連続)瞬間最大(W)AC/DC端子の有無。
  • 相性CPAPのDC直結ケーブル対応機種は変換ロスが少なく長持ち

2-2.鉛シールド電池(ディープサイクル)

  • 長所安価・寒冷に強い。シンプルな構成で信頼性。
  • 注意重い深放電に弱い(寿命短縮)。密閉型でも過充電時のガスに注意。
  • 相性吸引器の短時間高負荷に強いが、持ち運びは不向き

2-3.自動車(シガー/走行充電/外部給電コンセント)

  • 長所:停電中の補充電源。車種によっては**外部給電コンセント(AC出力)**を備える。
  • 注意一酸化炭素・排気ガス。屋内・車庫・ベランダ内側でのアイドリング禁止バッテリー上がり防止の管理。
  • 使い分け:昼に充電→夜は室内で医療機器運転が基本。

2-4.小型発電機(ガソリン/ガス)

  • 長所:燃料確保で長期停電に対応。家族の照明・冷蔵庫なども同時運用可能。
  • 注意屋外専用・騒音・振動・燃料保管。感電・逆潮流防止の知識とルール厳守。
  • 実務:日中にポータブル電源へ充電、夜は無音の蓄電運転に切り替えると家族が休みやすい。

2-5.太陽光パネル(携帯型/固定型)

  • 長所燃料不要。晴れれば日中に蓄電できる。
  • 注意:出力は天気・角度に大きく依存。100Wパネル1枚で実発電は50〜70W相当のことが多い。
  • 実務100〜200Wの折りたたみパネル+MPPT充電器で、昼の追い充電に。曇天は期待し過ぎない。

電源方式の比較早見表

電源容量/出力の目安使い勝手騒音維持費向き
ポータブル電源300〜2,000Wh/300〜2,000Wほぼ無音夜間・屋内・携行
鉛シールド電池200〜1,200Wh/DC供給△(重い)無音低〜中定置・短時間高負荷
自動車充電源(12V/外部AC)〇(要外気)日中の補充電
小型発電機0.9〜2.0kVA△(手間)中〜高長期停電の母艦
太陽光パネル100〜400W(実効は半分〜)△(天候依存)無音晴天下の追い充電

インバータ波形と相性(AC運転時)

波形相性注意
正弦波家庭コンセント相当医療機器は原則こちらを選ぶ
矩形/疑似正弦モーター類で不具合例CPAP・吸引器では非推奨

3.“何時間持つ?”を数字で決める:計算と実例

3-1.基本式(AC運用)

連続運転時間(h)= ポータブル電源の容量(Wh)×0.85 ÷ 機器消費電力(W)
(0.85は変換ロス寒冷・劣化の安全率)

3-2.DC直結運用の目安(CPAP)

連続運転時間(h)= 容量(Wh)×0.92 ÷ 機器W(変換ロスが小さいため係数を大きく)

3-3.実例:容量別の持ち時間(目安)

電源容量CPAP30W(加湿OFF)CPAP70W(加湿ON)吸引100W(合計30分/日)
300Wh約8.5h約3.6h5日以上カバー可能
500Wh約14.1h約6.1h同上
1,000Wh約28.3h約12.1h同上

コツ“今夜8時間+翌夜8時間”=16時間を確保するなら、加湿OFFで500〜1,000Wh級が現実的。加湿ON継続なら1,000Wh級+昼の補充電が目安。

3-4.デプス・オブ・ディスチャージ(DoD)

  • リチウム(LiFePO4など)は80〜90%放電でも劣化が少ない設計のものが多い。
  • 鉛電池50%放電を超えると寿命低下が速い——容量に余裕を。

4.停電時の運用手順:今夜の安心を最優先

4-1.停電発生〜就寝までの“準備の段取り”

  1. 必要時間の確保:今夜のCPAP 7〜8hを最優先。
  2. 設定の見直し:主治医の許可がある場合、加湿OFF・省電力モードを選択。
  3. 電源の割当:ポータブル電源はCPAP専用、吸引器は予備電源/車に。
  4. 寝室環境室温・湿度・枕高を整え、加湿OFFでも呼吸が楽な環境づくり。
  5. 配線手が届く位置に電源を置き、足元を横切らないケーブル取り回し。

4-2.就寝前5分チェック(貼り紙向け)

  • 残量%と推定時間を確認
  • 加湿設定マスク装着を再確認
  • 排気口のふさがり無し電源の放熱確保
  • 万一時の合図(家族を起こすコール方法)を確認

4-3.翌日以降:昼は補充電、夜は温存

  • :自動車・太陽光・発電機でポータブル電源を満充電へ。
  • 医療機器専用で使用し、スマホ・照明は別系統に回す。
  • 衛生:マスク・チューブは湯または消毒でケア。電気が乏しい日は自然乾燥を活用。

5.安全・保守・家族共有:事故を防ぐ仕組み

5-1.感電・過熱・一酸化炭素中毒の回避

  • 発電機は屋外専用。屋内・車庫・ベランダ内側での使用禁止
  • 合計消費電力<電源の定格を厳守。延長タップのたこ足は避ける。
  • 端子の緩み・発熱・異臭を定期確認。異常があれば即停止

5-2.配線・コネクタの基本

  • 太めのケーブル(許容電流に余裕)を使い、巻いたままのドラム式延長は避ける。
  • 極性表示(+−)を合わせ、DCプラグの緩みを毎回確認。
  • ヒューズは定格を守り、替えヒューズを予備で持つ。

5-3.月次の試運転・記録

  • 月1回・2時間の通電試験。何時間で何%減ったかを記録し、季節差を把握。
  • 気温10℃以下屋内保管満充電。高温も劣化を招くため車内放置は避ける

5-4.家族・支援者に渡す“運転カード”

  • 今夜の必要時間(例:CPAP 8h、吸引計30分)
  • 電源の場所(寝室・廊下・車内)
  • 緊急連絡先(主治医・訪問看護)
  • 禁止事項(屋内での発電機使用・ケーブル踏みつけ)

5-5.消耗品・予備の管理

  • CPAPマスク・クッション予備1セット
  • 吸引チューブ・カテーテル使い切りの予備。
  • ヒューズ・車載ケーブル型番を控える
  • アルコール綿・潤滑ジェルなど衛生備品も人数分。

6.モデル別の所要容量早見表(目安)

下表は一般的な負荷想定。個々の機器仕様で増減します。

目的組み合わせ1夜の必要Wh2夜分推奨電源容量備考
省電力CPAPのみCPAP30W×8h240Wh480Wh500〜1,000Wh500Whで2夜可(加湿OFF)
CPAP+短時間吸引240Wh+50Wh290Wh580Wh700〜1,000Wh晴天時は昼追い充電で余裕
加湿ありCPAP560Wh560Wh1,120Wh1,200〜1,500Wh冬季は上振れ
吸引集中(在宅ケア)100W×1h100Wh200Wh300〜500Wh予備と二系統化推奨
CPAP+酸素濃縮器70W+300W2,960Wh/夜*5,920Wh大容量+昼補充電*濃縮器を10h稼働仮定

:酸素濃縮器は定格250〜500W級が一般的。別系統電源昼の補充電を前提に計画しましょう。


7.太陽光+車の“ハイブリッド”で持たせる

7-1.折りたたみ太陽光の実効出力

  • 100Wパネル1枚で晴天時50〜70W相当が目安。6時間×60W=約360Wh
  • 200Wパネル × 6時間 ≒ 700Wh前後(角度最適・快晴時)。

7-2.運用テンプレ(晴れ/くもり)

  • 晴れ:昼は太陽光+車ポータブル電源を満充電→夜はCPAP専用
  • くもり加湿OFF寝室の湿度対策で消費を抑え、車充電を多めに。

7-3.角度・設置・安全

  • パネルは直射・無風安定の場所に。風で煽られない固定を。
  • 濡れた手でコネクタを触らない影が落ちない位置に設置。

8.ケーススタディ:三つの家庭の実践例

8-1.Aさん(単身・CPAPのみ)

  • 機器:CPAP(加湿OFF 30W)。
  • 電源:500Whポータブル。
  • 結果2夜(14h)連続可。月1回の試運転で劣化を把握。

8-2.B家(保護者+お子さん・吸引多め)

  • 機器:吸引器100W(合計30分/日)+保温用の小電力加湿器(必要時のみ)。
  • 電源:700Whポータブル+車充電。
  • 結果5日分相当の吸引用余力。夜は静音、昼に追い充電。

8-3.C家(CPAP+酸素濃縮器)

  • 機器:CPAP(70W)+酸素濃縮器(300W)。
  • 電源:1,500Whポータブル+発電機+太陽光200W。
  • 結果夜間は医療機器優先、日中に発電機で蓄電分岐で回路を分け誤使用を防止

Q&A(よくある疑問)

Q1.CPAPの加湿を切っても大丈夫?
A.主治医の指示を優先。 停電で電力が不足するときの一時的対策として、室温・湿度・鼻腔ケアを整えると不快感が減ります。

Q2.ポータブル電源の“定格出力”はどこを見る?
A.本体銘板・取扱書定格(連続)Wを確認。瞬間最大Wだけでは足りません。

Q3.車からの充電はどのくらい時間がかかる?
A.機種と出力で数時間〜半日。 昼の移動中に追い充電→夜は医療機器専用が効率的。

Q4.延長コードを使ってもよい?
A.太めで短いものを。ドラム式を巻いたままは発熱リスクが高いので避けます。

Q5.発電機はあった方がいい?
A.長期停電リスクが高い地域複数機器を使う家庭では有効。ただし屋外限定保守の手間を受容できるかで判断。

Q6.酸素濃縮器も使っている
A.定格250〜500W級が多く、別系統電源や昼の補充電**を前提に。回路の分離で誤接続を防ぎます。

Q7.マンションでベランダ充電はできますか?
A.共用部のルール厳守。延長コード引き回しや屋内発電機**は不可。日中の車充電が無難です。

Q8.UPS(無停電電源)は使える?
A.短時間の橋渡しには有効。 ただし容量が小さいモデルが多く、長時間の夜間運転には不向きです。


用語辞典(やさしい言い換え)

Wh(ワット時):電気の“量”。何Wを何時間使うかで決まる。
W(ワット):電気の“強さ”。機器が一度にどれだけ使うか。
正弦波:家庭のコンセントと同じ形の電気。機器が安定して動きやすい。
DC/AC:直流/交流。電池は直流、家のコンセントは交流。
変換ロス:直流→交流などに変えるときに失われる分。
定格出力:続けて出せる力。瞬間最大よりも重要。
DoD(放電深度):電池をどれだけ使ったかの深さ。
BMS:電池を守る頭脳。過充電・過放電を防ぐ仕組み。
V2L/外部給電:車から外に電気を出すこと。
UPS:無停電電源装置。短時間の停電対策用。


まとめ:数値で準備、手順で守る

“今夜8時間”を守るには、①必要Whを出す→②電源容量を選ぶ→③昼の補充電と夜の専用運用→④安全手順と家族共有の4ステップ。加湿の使い分けDC直結の工夫で、同じ電源でも運転時間は伸ばせます。月1回の試運転と記録をクセにして、停電でも落ち着いて眠れる夜を確保しましょう。

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