結論:備蓄は「勢いのまとめ買い」より、月予算を袋分けしてジャンルごとに分割購入し、在庫量(目標)→消費量(実績)→補充量(差分)の順で毎月同じ型で回すのが最短です。鍵は、①優先順位づけ(水・主食・たんぱく・衛生・電源)、②購入サイクル(週・月・季節)、③回転=先入れ先出し、④価格基準(最安・標準・買い控えの三本線)、⑤置き場の定量化、⑥期限の見える化の6点。
本稿では月1万円/2万円/3万円の三段ロケットを土台に、世帯別モデル・年間カレンダー・価格帳・在庫カードまで、今日から回せる形で提示します。
戦略の骨格:月予算×ジャンル分割×回転
1. 月予算を「3つの袋」に分ける(守る・育てる・楽しむ)
- 必須袋(60%):水・主食・たんぱく缶・医療衛生・電池。ここは固定出費として毎月積む。
- 改善袋(30%):野菜・果物缶、調味、口腔・快適用品。食べやすさと健康度を底上げ。
- 自由袋(10%):嗜好・非常食の試食と入替、子ども・ペット用の楽しみ枠。
2. ジャンル分割の基本5領域(抜けがちな順に並べ替える)
1)水、2)主食(米・麺・パン缶・アルファ米)、3)たんぱく(魚・肉・豆・卵系)、4)医療衛生(薬・消毒・生理用品・おむつ・手袋)、5)電源・灯り(電池・充電・ランタン・ガス)。
3. 回す仕組み:月末点検→差分発注→先入れ先出し
- 月末に在庫カードを見て不足だけを補う(差分発注)。
- 入庫日・期限を記入し、古い前/新しい後で一目回転。
- 月1回は非常食を食べて補充→味の確認も兼ねる。
4. 指標を決める(達成度が見えると続く)
- 水の在庫日数=(総L)÷(人数×3L)。目標:7〜14日。
- 主食の在庫日数=(合計合数+乾麺換算)÷(人数×0.5合)。
- たんぱく缶の食数=(缶数×1食)÷(人数)。1人7食を目安。
月1万/2万/3万円の「買い方テンプレ」+世帯別補正
月1万円プラン(まずは1か月分の骨格を作る)
- 水:2L×24本=48L
- 主食:米5kg+乾麺1.5kg+レトルトご飯6
- たんぱく:鯖缶6・ツナ6・豆缶6
- 医療衛生:消毒500ml×2・絆創膏・解熱鎮痛・マスク箱
- 電源・灯り:単三24・単一8・乾電池ランタン1
配分例:必須6,000/改善3,000/自由1,000円。
月2万円プラン(2〜3か月分へ厚み)
- 上記にアルファ米10・パン缶6、肉缶6、野菜缶・果物缶各6、カセットガス×6本・簡易コンロ、女性・乳幼児用品の上乗せ。
月3万円プラン(3〜6か月分の安心帯)
- 水+48L、米+10kg、高たんぱく缶+12、調味(塩・砂糖・油・だし)、モバイル電源、口腔ケア・衛生紙類の箱買いまで拡張。
予算別・配分早見表(目安)
月予算 | 必須(60%) | 改善(30%) | 自由(10%) | 到達目標 |
---|---|---|---|---|
1万円 | 6,000 | 3,000 | 1,000 | 1か月分の骨格 |
2万円 | 12,000 | 6,000 | 2,000 | 2〜3か月分へ |
3万円 | 18,000 | 9,000 | 3,000 | 3〜6か月分へ |
世帯別・優先購入の並べ方(例)
世帯 | 1か月目の重点 | 2か月目の重点 | 3か月目の重点 |
---|---|---|---|
1人暮らし | 水48L・米5kg・魚缶12 | 電池・消毒・乾麺1.5kg | 野菜缶・果物缶12・肉缶6 |
2人世帯 | 水96L・米10kg・魚缶12 | ガス6本・簡易コンロ・豆缶12 | パン缶6・口腔ケア・調味一式 |
4人世帯 | 水192L・米15kg・魚缶24 | ガス12本・乾麺3kg・肉缶12 | 衛生紙・生理用品・子ども用補助 |
優先順位の決め方:水→主食→たんぱく→衛生→電源
水:人数×1日3L×日数(最優先)
- 飲む2L+調理1Lが目安。最低3日=9L/人、できれば7〜14日。
- 置き場は床に近い低い棚。料理で回して買い足す方式で期限切れゼロ。
主食:米・麺・保存パンを三本柱で
- 米:日量0.5合/人。無洗米+計量カップで水と手間を節約。
- 麺:乾うどん・パスタが主力。そばを少量で味の変化。
- 保存パン:パン缶・乾パンを朝食代替として分散配置。
たんぱく:魚→豆→肉の順で底上げ
- 魚缶(鯖・イワシ・鮭)は脂とカルシウムを補える。
- 豆缶(大豆・ひよこ豆・金時)で常温たんぱくを確保。
- 肉缶・レトルトは満足度が高く、交互に食べて飽きを防ぐ。
衛生:医療・口腔・女性・乳幼児
- 解熱鎮痛・胃腸・経口補水、口腔ケア、生理用品、おむつを切らさない。
- 消毒・手袋は**流行期に+20〜40%**上乗せ。
電源・灯り:静かで長持ちが正解
- 乾電池+LEDランタン、ヘッドライト、モバイル電源。
- カセットガスは月6本を下限に、冬は+6本。
価格基準と買い時:基準単価・買い控え単価・最安単価
単価の三本線を引いて、機械的に買う
- 基準単価:ふだんの妥当価格(例:米¥300/合、鯖缶¥150、2L水¥70)。
- 買い控え単価:これ以上は待つ(米¥350、鯖缶¥190、2L水¥100)。
- 最安単価:見つけたら自由袋から追加(米¥250、鯖缶¥120、2L水¥58)。
週・月・季節の「安い波」を掴む
- 月初の特売:主食。
- 週末のまとめ値引き:缶・飲料。
- 季節替わり:防寒・防暑用品は逆季節で。
価格基準・記録テンプレ
品目 | 基準単価 | 買い控え単価 | 最安単価 | 最安店/日付 |
---|---|---|---|---|
米(合) | 300 | 350 | 250 | |
鯖缶 | 150 | 190 | 120 | |
2L水 | 70 | 100 | 58 | |
単三電池(本) | 60 | 80 | 45 | |
カセットガス(本) | 180 | 230 | 150 |
置き場設計と在庫カード:回るほど強くなる
置き場は「重いもの低く、期限近いもの手前に」
- 水・米は床側、缶・レトルトは目線、軽い紙類は上段。
- 1列1ジャンルで棚割りし、前=古/後=新の順で差し替えやすく。
在庫カードの書き方(手書きで十分)
- 品目/数、入庫日、期限、使用メモ(料理名・体調の変化など)。
- 残2で赤丸=補充合図。月末に差分だけ注文。
1か月の点検ルーチン(10分で終わる)
1)棚の正面だけ整える→期限1年切りを前列へ。
2)在庫カードに消費数を転記→差分を翌月発注。
3)非常食は月1品を食べて補充(味の確認)。
在庫カードひな形
品目 | 現在数 | 目標数 | 入庫日 | 期限 | 補充数 |
---|---|---|---|---|---|
2L水 | 36 | 48 | 2025/09/01 | 2030/09 | 12 |
米5kg | 2 | 4 | 2025/09/15 | 2026/03 | 2 |
鯖缶 | 18 | 24 | 2025/08/20 | 2028/08 | 6 |
実践編:4週間ローテーションと12か月カレンダー
4週間ローテーション(例:月2万円)
- Week1(必須):水24L、米5kg、電池、解熱鎮痛。
- Week2(たんぱく):魚缶12、豆缶6、肉缶6。
- Week3(主食+衛生):乾麺1.5kg、レトルトご飯6、消毒・マスク。
- Week4(改善+自由):野菜缶・果物缶12、嗜好、非常食の試食と補充。
12か月カレンダー(例)
月 | 強化テーマ | 重点品目 |
---|---|---|
1月 | 防寒・電源 | カセットガス、電池、カイロ |
2月 | 主食底上げ | 米、麺、油、だし |
3月 | 水更新 | 2L水48L更新、ポリ容器点検 |
4月 | 医療衛生 | 常備薬・消毒・手袋・生理用品 |
5月 | たんぱく | 魚・豆・肉レトルト |
6月 | 梅雨対策 | 除湿・防臭、ゴミ袋強化 |
7月 | 夏バテ対策 | 経口補水、塩飴、冷食下ごしらえ |
8月 | 防暑・停電 | 充電、ランタン、冷感用品 |
9月 | 防災週間 | 非常食一巡試食・更新 |
10月 | 防寒立上げ | カセットガス追加、鍋具材缶 |
11月 | 主食再強化 | 米・乾麺・パン缶 |
12月 | 総点検 | 期限棚卸し・在庫カード清書 |
世帯別・月次買い回りモデル(例)
世帯 | Week1 | Week2 | Week3 | Week4 |
---|---|---|---|---|
1人 | 水12L・米2.5kg | 魚缶6・豆缶3 | 乾麺0.75kg・消毒 | 野菜缶6・果物缶3 |
2人 | 水24L・米5kg | 魚缶12・豆缶6 | 乾麺1.5kg・マスク | 野菜缶12・果物缶6 |
4人 | 水48L・米7.5kg | 魚缶24・豆缶12 | 乾麺3kg・ガス6本 | 野菜缶24・果物缶12 |
ありがち失敗と即時修正
失敗 | 症状 | すぐやる処置 |
---|---|---|
まとめ買い過多 | 置き場圧迫・期限切れ | 差分発注に切替、自由袋を一時停止 |
水の未回転 | ペットボトルが古くなる | 料理で回す→同数補充の週次ルール |
価格に流される | 使わない食品が増える | 常食寄せ(普段食)以外は買わない |
Q&A:迷いどころを即解決(拡張)
Q1. 何から買うべき?
A. 水→主食→たんぱく→衛生→電源の順。まず水48L/人、米10kg/世帯が骨格。
Q2. 置き場が足りない。
A. 重いものは床下・ソファ下、缶は本棚の下段。空き箱で仕切り、1列1ジャンルで圧縮。
Q3. 期限切れが出る。
A. 月1品試食→即補充。在庫カードの残2アラートを徹底。
Q4. 物価が上がって買えない月がある。
A. 基準単価を守り、自由袋を一時停止。主食と水だけは死守。
Q5. 子ども・高齢者がいてメニューが限られる。
A. 常食に寄せる(普段食べている缶・レトルトを採用)。非常時だけの特別食は最小限。
Q6. ガスと電池、どちらを先に?
A. 調理=ガス、灯り=電池。鍋+蓋+弱火で省ガス調理を基本に、電池はLED中心で長持ち運用。
Q7. アレルギー持ちがいる。
A. 成分を在庫カードに明記。代替食品(米粉・豆乳など)を常食寄せで確保。
用語辞典(やさしい言い換え)
- ジャンル分割:水・主食・たんぱく・衛生・電源など、用途で予算を分けること。
- 先入れ先出し:先に入れた在庫から先に使う回し方。
- 基準単価:ふだんの妥当価格。買う/待つの境目。
- 買い控え単価:その価格なら買わないで待つ上限。
- 最安単価:見つけたら多めに買う底値。
- 差分発注:今ある数と目標数の差だけ買うやり方。
まとめ:小さく買い、確実に回す
備蓄は月予算を袋分けしてジャンルごとに淡々と積むのがいちばん強い戦略です。水・主食・たんぱく・衛生・電源を柱に、価格の三本線と在庫カードで差分発注→先入れ先出しを回すだけ。今日から水と主食を第一ターンとして4週間ローテを始めれば、1か月で骨格が完成し、3か月で安心が形になります。