結論:黄砂やPM(微小粒子)は風向き・風の強さ・時間帯で室内侵入量が大きく変わります。窓は勘で開け閉めせず、①風向き→②粒子の濃さ→③住まいの向き→④時間帯→⑤換気方式の順に判断すれば、換気の効果を保ちながら粉じんの侵入を最小化できます。
本稿は、地図と方位の合わせ方、窓の開け方の型、住まい・家族別シナリオ運用、チェック表と道具置き場、やってはいけない行為まで、今日から使える手順を数値目安付きでまとめた保存版です。
風向きの読み方と家の方位をそろえる(基礎)
家の「風下」「風上」を地図で決める
- 地図アプリや玄関前の景色で現在の風向き(どの方角から吹いてくるか)を確認し、あなたの家に対して風が当たる面=風上/抜ける面=風下を決める。
- 基本形は、風上側の窓は閉じる/風下側の窓だけを細く開ける。これで室内への直撃を避けつつ、弱い通り道を作れる。
時間帯で変わる風(海風・陸風・山風)
- 沿岸部:昼は海→陸(海風)、夜は陸→海(陸風)。昼は内陸側を細く/夜は海側を細く。
- 山沿い:午後は山からの下り風が強まり、夜〜明け方は谷を上がる風で空気が澄みやすい。夜間の短時間換気が有利。
風速と粒子の舞い上がり(目安)
- 3m/s超:舞い上がり・飛来が増える。開放は10分以内。
- 5m/s超:外窓は閉、内循環+空気清浄機 強→中。
- 通り雨直後は一時的に落ち着くが、強風が重なると再飛散しやすい。
方位×風向×窓の基本 早見表
風向 | 風上側(閉) | 風下側(細く開) | ワンポイント |
---|---|---|---|
北風 | 北 | 南 | 北面のすき間を重点封止 |
南風 | 南 | 北 | 日射による上昇気流で舞いやすい |
東風 | 東 | 西 | 朝は短時間、午後は様子見 |
西風 | 西 | 東 | 夕方の突風に注意 |
黄砂・PMの違いと「窓の開閉ルール」(判断フロー)
粒子の性格と侵入しやすさ
- 黄砂:粒子は比較的大きい。強風で一気に来て一気に去る。風が弱まれば下側のすき間対策が効きやすい。
- PM(PM2.5含む):とても小さく長く滞留。風が弱くても侵入するため、開ける時間を短く・回数を減らすのが要点。
開ける/閉めるの基本判断(簡易フローチャート)
1)風向きが家の背面から? → はい:背面の風下面窓を2〜5cm、対面は閉。→ いいえ:外窓は閉。
2)黄砂/PMが高い?(鼻目に違和感/空が白っぽい など) → はい:開放は5〜10分×2回/日、台所・浴室の局所換気で補う。→ いいえ:20〜30分×2回/日の交差換気へ。
3)風速5m/s超? → はい:窓は閉、空気清浄機 強→中。→ いいえ:上記の範囲で短時間換気。
室内機器の併用ルール
- 空気清浄機は換気中もON。開始5分は強、以降中。吸い込み口を風下側の窓に近づけると効率UP。
- エアコンは**内部循環(再熱・除湿)**で。外気取り込み型は停止。
- 加湿は弱〜中で粒子を落とす(窓の結露には注意)。
目安となる濃さと運用(体感ベース)
体感・見え方 | 窓運用 | 機器運用 |
---|---|---|
軽い違和感・遠景が少し白 | 風下面2〜3cm×10分×2回 | 空清 強→中、内循環 |
目がしみる・遠景が白い | 開放5分×1〜2回 | 空清 強連続、局所換気活用 |
匂い・せき・視界白濁 | 窓閉 | 空清 強連続、除湿・サーキュレーターで空気循環 |
窓の開け方の型:方角・時間帯・住まいの種類で最適化
典型的な間取り(南向きリビング)
- 午前(北風/東風が入りやすい):北or東の“風下”窓を2〜5cm、南は閉。
- 午後(南風が強まる):南は閉、西or北の“風下”窓を細く。
- 夜間:風が弱ければ北窓1〜2cm、空気清浄は中で連続。
海・川に近い家(昼:海風/夜:陸風)
- 昼:海側が風上→海側窓は閉、内陸側窓を2〜3cm。
- 夜:陸側が風上→陸側窓は閉、海側窓を2〜3cmで短時間換気。
高層階(10階以上)・気密の高い家
- **風の剪断(上下の風向差)**が出やすい。ベランダ側は閉、共用廊下側を細く。
- 強風注意報級では窓は閉、玄関のすき間をドラフトストッパーで抑える。
- 24時間換気は弱〜中で継続(停止すると逆流が起きやすい)。
木造・RC・築年数での差
- 木造・築古:すき間風が多い→窓開放幅はより小さく、すき間テープで補う。
- RC・築浅:気密が高い→開ける窓は1枚だけ、室内ドアを少し開けて通り道を作る。
実践ツール:5分で決める開閉チェック表と置き場
その日の「窓運用」チェック表(朝/昼/夜)
時間 | 風向き | 風速 | 黄砂/PM | 今日は | 窓運用 | 機器運用 |
---|---|---|---|---|---|---|
朝 | 北/北西など | 2m/s | 低/中/高 | 通常/注意/警戒 | 風下2cm×10分 | 空清 強→中 |
昼 | 南/南西など | 4m/s | 低/中/高 | 通常/注意/警戒 | 開放なしor2cm×5分 | 内循環/除湿 |
夜 | 風弱い | 1m/s | 低/中/高 | 通常/注意/警戒 | 北1〜2cm維持 | 空清 中連続 |
「今日は」の欄は体感(目のかゆみ・のどの違和感・子のぜんそく症状)も判断材料に。体感が悪ければ窓は閉、空気清浄を上げる。
隙間対策の道具と置き場
- すき間テープ(サッシ上下)/ドラフトストッパー(玄関下)/マグネット網戸(虫対策兼ねる)を季節の入口で交換。
- 玄関内に**“外から帰った時セット”**(使い捨てマスク、目洗いボトル、押し拭き用シート)を常備。
- 空気清浄機の予備フィルタと掃除機の紙パックは流行期前に補充。
室内の粉じんを増やさない家事順序
- 朝:押し拭き→短時間換気/昼:換気なしで内循環/夜:北側1〜2cmでそっと。
- 掃除機は最後。最初は濡れ押し拭きで舞い上がりを防ぐ。
5分点検ルーチン(毎朝)
手順 | やること | 目安 |
---|---|---|
1 | 風向・風速を確認 | 体感+天気アプリ |
2 | 住まいの風上/風下を判断 | 風下窓だけ開ける準備 |
3 | 空清ON(強→中) | 5分後に中へ |
4 | 風下窓を2〜3cm×10分 | 体感悪化なら即閉 |
5 | 玄関マットを湿らせる | 再侵入防止 |
季節・地域別の傾向と一日の中のクセ
季節の傾向
- 春:黄砂・花粉・強風が重なりやすい。開放は最小限、室内除湿で浮遊を抑える。
- 夏:夕立後の再飛散に注意。夜間の短時間換気が有利。
- 秋:空気が澄みやすいが乾燥で舞い上がりやすい。
- 冬:**季節風(北西)**が続きやすい。北面封止・南面短時間が基本。
地域の特徴(例)
- 沿岸都市:昼の海風が強い→昼は窓閉、夜に短時間換気。
- 内陸盆地:朝の冷え込みで空気が滞留→午前遅めの換気が向く。
一日の中のクセ
- 朝日で室内が温まる前は空気が重く、短時間なら侵入しにくい。
- 午後の強風帯は無理に開けない。夕方以降に回す。
住宅の換気方式と気密で変わる運用(第一種・第三種ほか)
24時間換気の基本
- 停止しないのが原則。止めると逆流・結露・臭い滞留の原因に。
- 粉じん高濃度日は弱運転に落とし、窓開放をより短く。
換気方式別のコツ
- 第一種(給気・排気とも機械):給気口の簡易フィルタを清掃・交換。窓開放は1枚だけで十分。
- 第三種(排気のみ機械):給気口の位置を確認し、風上側の給気口は最小、風下側窓を細く。
- 局所換気(台所・浴室):窓閉でも使える換気。匂い・湿気の排出に優先。
気密の差を埋める道具
- すき間テープ、ドア下ブラシ、カーテンの裾重りで隙間風を抑える。
- サーキュレーターは窓方向へは向けず、室内の空気を回すだけに使う。
家族構成・生活シーン別の運用シナリオ
乳幼児・ぜんそく持ちがいる家
- 開放は最小限、就寝1時間前は窓閉→空清中で寝室の粒子を落とす。
- 帰宅時は玄関で衣類を払わず、洗面所直行→洗顔・うがい。
在宅ワーク(長時間滞在)
- 午前中に5〜10分×2回を確保し、午後は窓閉・除湿で集中。
- 匂い・こもりは局所換気を活用。
介護・ペット同居
- トイレ・ケア手順で局所換気を先に回してから短時間換気。
- 散歩帰りの足裏拭きを玄関で徹底(再侵入防止)。
測定と記録:見える化で迷いを減らす
簡易チェックのやり方
- 窓際の白紙に指でなぞった粉の量、鼻・目の体感、遠景の見え具合を朝・昼・夜にメモ。
- 空清のフィルタの汚れ方も指標。表面が灰色なら強運転を増やす。
記録シート(例)
日付 | 風向/風速 | 体感 | 開放時間 | 空清設定 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
10/09 | 北西/4m | 目かゆい | 5分×2 | 強→中 | 夕方は閉維持 |
トラブルシュート
- 開けたのに匂いが取れない:風上側を開けている可能性→風下側だけに修正。
- 粉っぽさが増した:掃除機を先にかけた可能性→押し拭き→掃除機の順に変更。
やってはいけないこと・よくある誤解
NG行為(窓・換気)
- 風上面を大開放(粉じん直撃)。
- 強風時の長時間開放(侵入+家具の微傷)。
- 空気清浄機をOFFにして換気(粒子が室内で再浮遊)。
NG行為(家事)
- 乾いたモップで強くこする(舞い上がる)。
- ベランダで布団を強く叩く(再拡散)。
- 洗濯物の外干し(付着→室内持ち込み)。
よくある誤解
- 「雨だから窓を開けてOK」:通り雨直後は再飛散しやすい。風が落ち着くまで待つ。
- 「深夜は粒子が少ない」:地形風で集まる場合も。風向を再確認してから開ける。
Q&A:迷いどころを即解決
Q1. 何cmくらい開ければ安全?
A. 2〜5cmが基本。風下の窓だけ細く開け、対面は閉で短い通り道を作ります。
Q2. どれくらいの時間が目安?
A. 10分×2回/日。黄砂・PMが高い日は5分×1〜2回に短縮。空清は強→中で。
Q3. 観葉植物や布団はどうする?
A. 窓際から1m離す。布団は室内干し、観葉は葉を押し拭きしてから。
Q4. 子どものぜんそくが心配。
A. 開放は最小限、内循環+空清連続。就寝前30分は窓閉→空清中で寝室の粒子を落とします。
Q5. 匂いがこもる時は?
A. 台所・浴室の局所換気を5〜10分使い、窓開放は0〜2cmに抑えます。
Q6. 扇風機や送風機は使ってよい?
A. 窓方向へは向けない。室内の空気循環だけに使い、空清の近くに置くと効果的。
Q7. 車通勤で窓は開けてよい?
A. 内気循環+窓閉が原則。曇り防止は除湿・送風弱で対処します。
用語辞典(やさしい言い換え)
- 風上/風下:風が当たる側/抜ける側。開けるのは風下の窓。
- 風速:風の強さ。5m/s超は窓閉→内循環の合図。
- PM2.5:とても小さい粒子で長く滞留。
- 内循環:外の空気を入れず、室内だけで回すこと。
- 交差換気:離れた2か所を開けて空気を通すこと(粉じん日は片側だけが基本)。
- 押し拭き:こすらず上から押して粒子を布に移す拭き方。
まとめ:風向き→濃さ→家の向き→時間帯→換気方式
窓の開閉は風向きに従うのが最も効きます。風上側は閉/風下側を2〜5cmだけ、高濃度日は短時間換気+内循環。時間帯ごとに開ける向きを変え、空気清浄機は常にON(強→中)。5分点検ルーチンと道具の置き場固定を今日から始めれば、換気の効果を保ちながら黄砂・PMの侵入を最小化できます。