風で“倒さない”、雨で“流さない”、塩で“枯らさない”。 家庭菜園・小規模農の台風対策は、支柱・誘引の強化、防風網の設計、排水と土の保全、そして通過後48時間の回復作業で成否が決まる。
この記事では作物別の具体手順、道具と結び方、畝づくりと水の逃がし方、沿岸/内陸/高地の違い、鉢・プランターの都市型対策、人の安全確保まで盛り込み、保存版の表と手順でまとめた。最後にQ&A、用語辞典、印刷向けチェック表も付し、今日からそのまま使える実践書とする。
台風の風雨が畑に与える影響と優先順位
風・雨・塩・泥の四重リスクを見える化
- 風:倒伏・茎折れ・果実の打ち傷・擦れ傷。背の高い作物(トウモロコシ、オクラ、ひまわり)は要注意。
- 雨:根腐れ・病気の誘発・肥料流亡。低地や粘土質は水はけ改善が急務。
- 塩:沿岸部は塩害で葉焼け、根の吸水低下。真水の散水で希釈・洗い流しが有効。
- 泥:泥はねで葉がふさがり、病気の入り口になる。敷き藁・マルチで抑える。
対策の優先順位=固定→保護→排水→収穫→記録
- 固定(支柱・誘引):倒伏ゼロを狙う。
- 保護(防風網・べた掛け・すだれ):風を弱め、葉の擦れを減らす。
- 排水(畝の形・溝の確保):根に空気を戻す。
- 収穫(熟果・倒れやすい房は先取り):重みと損失を同時に減らす。
- 記録(写真・高さ・水位・風向):次回の改善点を残す。
地域と立地で変わる弱点
立地 | 主な弱点 | 先に打つ手 |
---|---|---|
沿岸 | 塩害・横風 | 真水の散水計画、風上に網、実の洗浄 |
内陸低地 | 冠水・泥はね | 高畝+逃がし溝、敷き藁厚め |
山沿い | 突風・斜面水 | 三角支え+横つなぎ、流路の確保 |
ベランダ | 飛散・転倒 | 鉢の連結、受け皿外し、屋内退避 |
タイムライン(72時間前〜通過後)
時刻/時期 | 何をする | 目的 |
---|---|---|
72〜48時間前 | 予報確認・資材点検・不足分を購入 | 作業の前倒し |
48〜24時間前 | 支柱の打ち直し・追加、誘引の再結束 | 倒伏の防止 |
24〜12時間前 | 防風網/べた掛け設置、道具の回収、熟果の先取り | 破損・飛散防止、重さ軽減 |
12〜0時間前 | 排水溝の掘り直し、鉢は風下へ集約、電源の確保 | 冠水回避、停電への備え |
通過直後 | 折損部の切除、泥はね洗浄、通風回復 | 病害予防 |
24時間後 | 追肥の見直し、根起こし・支え直し | 回復促進 |
48〜72時間後 | 作柄・被害の記録、配置の改善案作成 | 次回に生かす |
作物別・リスク早見表(拡張)
作物 | 風 | 雨 | 塩 | 一手目 | 二手目 |
---|---|---|---|---|---|
トマト/キュウリ | 高 | 中 | 中 | T型支柱+8の字誘引 | 果房下に補助支柱 |
ナス/ピーマン | 中 | 中 | 中 | 2〜3本仕立ての結束強化 | 風抜き剪定 |
トウモロコシ | とても高い | 低 | 低 | 周囲にロープ囲い | 土寄せで根増やし |
サツマイモ | 低 | 中 | 中 | つる固定+泥はね対策 | つる返しで風面を減らす |
葉物(レタス等) | 中 | 高 | 中 | べた掛け+排水確保 | 早どりで被害前に収穫 |
いも類(じゃがいも等) | 中 | 中 | 低 | 土寄せ増量 | 茎折れ部は早めに除去 |
支柱・誘引の強化(作物別実践)
つるもの(トマト・キュウリ・インゲン)
- 支柱:T字/合掌/平行二本のいずれか。地中30〜40cm以上差し込み、株元から離し気味に。
- 誘引:8の字で茎に遊びを持たせる。針金×直結は禁止(茎が擦れて切れる)。
- 補助:果房下へ短い補助支柱を足し重み分散。重い実は房ごと吊ると折れ防止。
茎が太いもの(ナス・ピーマン・オクラ)
- 支柱:株ごと一本+横つなぎ。三角形を意識して倒れる方向を消す。
- 剪定:混み合う枝を間引き、風の抜けをつくる。
- 結束:柔らかいテープやマイカー線で8の字。食い込み防止に古布の当てを使う。
背が高いもの(トウモロコシ・ひまわり)
- 群生支え:畝の外側に杭を打ち、ロープで囲う。ロープは2段(腰・胸の高さ)。
- 株元固め:土寄せで根を増やし、株間に踏み固めを入れる。
- 倒伏後:早めに起こして片側から支え、茎の折れは清潔に切除。必要に応じ逆側からも支え。
樹木・果樹苗(みかん・柿・オリーブ等)
- 主幹の二点固定(地中杭+幹テープ)。
- 実の数を間引き重さを軽くして枝折れを防ぐ。
- 根本の土留めでえぐれを防止。
支柱・誘引の材料と使い分け
材料 | 強度 | 再利用 | 向く作物 | メモ |
---|---|---|---|---|
イボ竹 | 中 | 高 | 多用途 | すべりにくく結束が安定 |
金属支柱 | 高 | 高 | 背高い作物 | 風が強い地域向け |
木杭 | 高 | 中 | ロープ囲い | 地中で腐りに注意 |
麻ひも | 低 | 低 | 軽作物 | 伸びやすい→二重に |
マイカー線 | 中 | 高 | ほぼ全般 | 茎に当てないよう8の字 |
幹テープ | 中 | 中 | 果樹苗 | 食い込みを防げる |
結び方の基本(覚えておくと早い)
- 8の字結び:茎と支柱の間に遊びを作る基本。
- 巻き結び:ロープを柱に固定する時。
- 引き解け:通過後の解体が速い。
防風網・簡易風よけの設計
「風を止めずに弱める」が基本
開口率(目合い)40〜60%の網を風上側に設置。完全に塞ぐと逆流・巻き上げが起こり、被害が拡大する。網は上に逃がす角度(わずかに風上へ傾ける)が効果的。
高さ・距離・角度・固定の目安
- 高さ:作物の1.2〜1.5倍。
- 距離:作物列から50〜80cm離す。
- 角度:風上へ5〜10度傾け、上へ逃がす。
- 固定:支柱深さ30cm以上、上端と中段をロープでつなぐ。地際はU字ピンで押さえる。
小規模・ベランダ菜園の風よけ
- プランター群は背の低い順に風上から並べ、大型は内側へ。
- 鉢の連結:結束ベルトで2〜3鉢を一体化。
- 目隠しパネルは四隅+中央を固定したるみゼロ。
- 受け皿は外し、底足で排水を確保。
防風資材の比較表
資材 | 開口率 | 強度 | 向く場面 | 注意点 |
---|---|---|---|---|
防風網(目合い中) | 40–60% | 中 | 畑の周囲 | 風上設置・上逃げ |
不織布(べた掛け) | 透風 | 低 | 葉物・苗 | こすれ対策にピン多め |
寒冷紗 | 中 | 中 | 夏苗・葉焼け防止 | 雨は通すが擦れに注意 |
合板/波板 | 0% | 高 | 一時的な壁 | 風を抱えやすい→控え柱必須 |
すだれ | 中 | 低 | 家庭菜園 | 手軽、雨もやや散らせる |
雨対策:排水と土の保全、鉢・プランターの扱い
畝と溝で“水の逃げ道”を確保
- 高畝:通路より10〜15cm高く。
- 肩落ち:畝肩を緩やかに落として水を溝へ。
- 逃がし溝:区画の角から外へV字の逃がし溝を作る。
- 点検:溝入口の落葉を除去、土の固結はくわで割る。
土を守る:マルチ・敷き藁・泥はね対策
- フィルムマルチで土の流亡を抑える。
- 敷き藁/チップで泥はね抑制→病気予防。
- べた掛けは葉の擦れ防止に有効(ピンで浮かせる)。
- 風上の裾は重しや土かぶせでめくれ防止。
鉢・プランターは“水抜き優先”で配置換え
- 受け皿は外す、底足をかませ排水性UP。
- 壁際から離す(溜まり水回避)。
- 風下にまとめて連結、重しを入れて転倒防止。
- 軽い土は赤玉土多めの重い配合に見直す。
排水・土壌対策の早見表
対策 | 効果 | 追加の一手 |
---|---|---|
高畝 | 冠水回避 | 肩落ちで流路を作る |
逃がし溝 | 水はけ改善 | 雨後に土を戻して平し |
マルチ | 流亡防止 | ピンは多めに、風でめくれない |
敷き藁 | 泥はね減 | 虫の隠れ場にならぬよう薄め |
土寄せ | 根張りUP | 倒伏防止と水はけ改善 |
通過後の復旧と病害防除SOP
0〜6時間:まず“清潔”と“通風”
- 泥はねを洗い流す(やさしい水圧)。
- 折れ/裂けは清潔なはさみで斜めに切除し、癒合テープで保護。
- 葉の重なりを解き、風の通り道を作る。
- 塩害疑いは真水で葉面洗い。
6〜24時間:根を起こし、栄養は控えめ
- 倒伏株を起こし、支柱で仮固定。
- 過剰施肥は×。海藻エキス/微量の液肥など回復系に留める。
- 病斑(黒点・白粉)を早期に除去。
- 敷き藁やマルチの破れは仮補修。
24〜48時間:見直しと記録
- 追肥計画を再設定(流亡を考慮)。
- 写真・メモで水位・風向・破損点を記録し、次回の支柱配置や網の高さを更新。
- 使ったひも/ネットの劣化部品は交換。
- 必要なら早どりで回復の負担を減らす。
復旧チェック表
項目 | 実施 | 備考 |
---|---|---|
泥はね洗浄 | □ | 葉裏も軽く |
折損切除 | □ | 清潔な刃で |
通風確保 | □ | 重なり解消 |
倒伏起こし | □ | 仮固定→本固定 |
肥料見直し | □ | 回復系中心 |
べた掛け補修 | □ | ピン追加 |
記録・反省 | □ | 写真3枚以上 |
資材・道具の基本セット(常備)
区分 | 品名 | 使い道 | 備考 |
---|---|---|---|
支柱 | イボ竹/金属支柱/木杭 | 倒伏防止 | 長さと本数に余裕 |
結束 | 麻ひも/テープ/マイカー線 | 誘引・固定 | 8の字結束で余裕 |
網 | 防風網/寒冷紗/不織布 | 風除け・擦れ防止 | 開口率40–60%が基本 |
土壌 | マルチ/敷き藁/底足 | 流亡・泥はね防止 | 底足で排水UP |
排水 | くわ/スコップ/U字ピン | 溝作り・固定 | 入口の落葉掃除 |
安全 | 手袋/長靴/帽子/合羽 | 作業中の安全 | 無理な高所作業は避ける |
Q&A(よくある疑問)
Q1.防風網は高いほど良い? 作物の1.2〜1.5倍が目安。高すぎると風を抱え、支柱が負ける。
Q2.完全に囲えば安全? 風は抜かないと逆効果。開口率40〜60%で上へ逃がすのが基本。
Q3.塩害はどう対処? 可能なら真水で洗い流し、根元へは塩水を入れない。鉢は雨水で流す配置に。
Q4.倒れたトウモロコシは起こせば復活する? 早ければ回復。土寄せ+支柱で固定し、折れた茎は切除。
Q5.べた掛けは雨でも使える? 使えるが、葉の擦れに注意。ピンを増やし、浮かせ気味に。
Q6.マルチが風でめくれる。 ピンの数を増やす、端を土で押さえる、風上側は重ね代を多めに。
Q7.施肥はいつ再開? 通過後24〜48時間は回復優先。根の動きが戻ってから少量から。
Q8.先取り収穫はどれくらい? 赤く色づいた実・重い房を中心に。樹の負担と落果を同時に減らせる。
Q9.人の安全はどう確保? 暗くなる前に作業終了。高所・脚立作業は避ける。雷の兆しがあれば即退避。
用語辞典(園芸のことばをやさしく)
倒伏:風で株が倒れること。
誘引:茎やつるをひもで支柱に軽く結ぶこと。
株間:株と株の間の距離。
畝(うね):作物を植える細長い山。
マルチ:畝表面を覆う資材(フィルムなど)。
敷き藁:藁やチップを地面に敷くこと。
べた掛け:不織布を作物に直接かける防護。
開口率:網の目のすきまの割合。
土寄せ:株元へ土を寄せて支える作業。
癒合テープ:傷口を保護し乾き過ぎを防ぐテープ。
まとめ:台風対策は固定→保護→排水→収穫→記録の順で迷わない。支柱は深く・結束は8の字・網は風を抜く。通過後48時間の清潔・通風・控えめ施肥でダメージを最小化し、写真と数値で次回の配置を改善する。今日、支柱とひも・防風網・溝掘り道具を一式まとめ、**“風が来る前に15分でできる型”**を作っておこう。