楽しい旅は「安全の下ごしらえ」から。 本稿は、出発前に宿・移動・避難を同じ物差しで点検するための実践ガイドです。
気象・地形・建物・ルート・連絡の5軸チェックに、地域別(海・山・都市・離島)と同行者別(子ども・高齢者・妊婦・障がい)の観点、判断テンプレ(GO/DELAY/CANCEL)、到着15分ルーティン、48時間前〜当日朝のチェック表を加え、家族旅行・一人旅・出張までそのまま使えるように整えました。
旅の安全設計:5軸で全体像をそろえる
旅の条件を“数字”に置き換える(前提の見える化)
- 人数・年齢・体力:最年少/最高齢、15分連続歩行の可否、車酔いの有無。
- 到着時刻と日没:到着が日没後なら、夜間移動の距離を1km以下に抑える設計へ。
- 連泊か移動型か:移動型は代替行程(屋内候補×2)を事前に用意。
ハザードの5軸(気象・地形・建物・ルート・連絡)
- 気象:大雨・強風・猛暑・寒波・雷・濃霧。
- 地形:低地・川沿い・海沿い・山あい・雪道・狭隘路。
- 建物:築年・階層・非常口・自家発電・受水槽・停電対応。
- ルート:冠水・土砂・通行止め・橋・トンネル・夜の明るさ。
- 連絡:家族/職場/宿の二重連絡線、集合場所、最寄り医療。
リスクスコア(簡易版)
各軸を0〜2点で採点(0=低/1=中/2=高)。合計6点以上は行程見直し、8点以上は一部中止を検討。
軸 | 判定基準(例) | 点 |
---|---|---|
気象 | 警報級予報=2/注意報=1/平常=0 | _ |
地形 | 低地・川沿い・崖下=2/坂多い=1/平地=0 | _ |
建物 | 非常口不明・停電弱い=2/一部不安=1/整備=0 | _ |
ルート | 夜間・橋多数・迂回無し=2/一部難所=1/選択肢多=0 | _ |
連絡 | 集合点未設定=2/片線のみ=1/二重化=0 | _ |
同行者 | 要配慮多数=2/一部=1/なし=0 | _ |
判断テンプレ:合計0–5=GO/6–7=DELAY(到着時刻変更/区間短縮)/8以上=CANCEL(行程再設計)。
全体設計の“ひな形”
- 到着日(昼):宿チェック→避難経路→近隣の集結点確認。
- 到着日(夜):外出せず、非常口と階段だけ復習。夜間は移動を短く。
- 中日:朝8時の時点で天候・運行・体調を見て行程更新。
旅のリスク早見表(5軸×主な症状)
軸 | 代表的なリスク | 旅行への影響 | 事前対策 |
---|---|---|---|
気象 | 大雨・強風・雷・猛暑 | 交通遅延・停電・熱疲労 | 代替日程・朝の再判定 |
地形 | 低地・川沿い・急斜面 | 冠水・土砂・通行止め | 高台・別ルートを事前に |
建物 | 非常口不明・停電弱い | 退避遅延・空調停止 | 平面図で非常階段把握 |
ルート | 夜間の暗さ・橋・トンネル | 視認性低下・詰まり | 昼到着・複ルート準備 |
連絡 | 電波弱・伝達遅れ | はぐれ・情報不足 | 集合場所とSMS定型文 |
宿のハザード確認:建物・部屋・周辺を三層でみる
建物(共用部)の確認ポイント
- 非常口・非常階段:部屋→最近階段まで何歩か数える(停電時の行動に効く)。
- 設備:自家発電・非常灯・受水槽の有無。停電時の空調/エレベーター運用をフロントで確認。
- 集合場所:屋外の広場・駐車場。雷・落下物時の屋内代替も確認。
部屋(専用部)の安全設計
- 階層:2〜6階は階段避難しやすい。津波・冠水域では低層回避。高層なら階段位置を先に把握。
- 通路:荷物で出入口をふさがない。夜は懐中電灯を枕元へ。
- 窓:風向き側はカーテン閉。破損時の退避ルートと靴の置き場を決める。
周辺(外)での見取り図
- 高低差:段差の上・高台・橋の手前を地図に記す。
- 24時間施設:コンビニ・交番・救急入口の方向と距離。
- 夜の明るさ:暗い道を避け、街灯の多い通りを選ぶ。
宿チェックの“到着15分テンプレ”
時刻 | 行動 | チェック |
---|---|---|
+0分 | チェックイン | 身分証・現金の分散確認 |
+5分 | 部屋へ移動 | 近い非常階段を確認(何歩か数える) |
+10分 | 周辺確認 | 集合場所・24h施設の方向をメモ |
+15分 | 共有 | 家族グループへ写真とテキスト送信 |
移動のハザード確認:飛行機・鉄道・車・徒歩
飛行機(空港〜ホテル)
- 到着時間:日没前着を優先。夜間陸路はできるだけ短く。
- 空港の代替動線:連絡バス・鉄道・タクシーの第2乗り場を把握。
- 悪天候時:欠航・振替の基準とオンライン手続きを出発前に確認。
鉄道(駅〜宿)
- 構内の足元:濡れ床・金属板を避け、手すりを使う。
- 遅延時:改札外の安全地帯(明るい店前・交番前)で待機。
- 最終便:逃す前提で徒歩ルート・深夜バスを準備。
車(レンタカー・自家用)
- 雨量・路面:橋・合流・トンネル出口は横風で取られやすい。早めの減速。
- 山道:落石・動物に注意。退避帯を地図で事前確認。
- 給油:1/2残量で給油するルール。夜は人のいるスタンド。
徒歩(街歩き・ハイキング)
- 靴と歩き方:濡れた白線・金属板を踏まない。足裏フラット→親指付け根で荷重。
- ルート:川沿い・低地は雨量で変更。夜は明るい幹線へ回す。
- 合流点:店の軒→交番→広場の順で番号を振る。
移動手段×主なリスク×先に決めること
移動 | 主なリスク | 先に決めること |
---|---|---|
飛行機 | 欠航・振替・夜間移動 | 早着便・振替基準・空港連絡動線 |
鉄道 | 遅延・人混み・足元 | 改札外待機点・徒歩予備ルート |
車 | 大雨・横風・渋滞 | 速度余裕・退避帯・給油1/2ルール |
徒歩 | 濡れ床・暗がり | 白線回避・明るい通り・合流番号 |
避難と連絡:はぐれを起こさない“2本線”
集合場所(屋外・屋内)の二重化
- 屋外:広場・駐車場(落下物少・見通し良)。
- 屋内:駅ビル・公共施設の庇(雷・落下物時)。
- 移動順:1→10分で2へ。進捗はSMS定型文で共有。
連絡の段取り(音声→テキスト→現地)
- 音声:つながらない前提で最初の一報のみ。
- テキスト:端末に定型文登録。「今○○、10分で××へ。返信不要」。
- 現地:交番・店の固定電話を借用。
医療・持病の備え
- 服薬・アレルギー:薬の写真・用量を端末+紙で携行。
- 受診:最寄り救急入口と時間外入口の位置をメモ。
連絡・合流テンプレ(配布用)
【集合1】ホテル前広場 → 【集合2】駅ビル入口(10分後)
【SMS】「○○に集合。10分で××へ移動。返信不要。」
【固定電話】交番/コンビニで借用可
持ち物と分散:現金・充電・紙情報(48時間前〜当日)
分散の原則(身・手荷物・部屋)
- 身につける:少額現金・顔写真付き身分証・緊急連絡カード。
- 手荷物:高額紙幣・保険書類・予備充電。
- 部屋(隠し):小分け現金・身分証の両面コピー。
充電計画(移動中を切らさない)
- モバイル電源:容量違い×2台、短いケーブルで軽量化。
- 節電:機内モード・低電力・画面輝度を調整。
- ホテル:充電置き場を一箇所に固定。出発前の残量コールを習慣化。
紙情報の強さ
- 地図・合流テンプレ・連絡先をA6の紙に印刷。
- 停電・圏外でも使え、第三者に見せやすい。
旅行前48時間・荷造りチェック表
時点 | やること | 実施 |
---|---|---|
T-72〜48h | 行程草案・代替候補(屋内×2) | □ |
T-24h | 現金・身分証の分散/SMS定型文登録 | □ |
T-12h | モバイル充電/紙情報印刷 | □ |
当日朝 | 天候で行程更新・集合場所復唱 | □ |
地域別・同行者別:設計のコツ(海・山・都市・離島/子・高齢・妊婦・障がい)
地域別の要点
- 海沿い:潮風と横風。防風柵の内側、高台の避難路を確認。橋の手前で待機点を設定。
- 山あい:落石・倒木・霧。退避帯と明るい幹線への逃げ道を地図に。
- 都市:濡れた鏡面床・人混み。屋根続き動線を優先。夜は明るい通りへ切り替え。
- 離島:欠航・物資遅延。予備日と現金の多め分散、宿の自家発電を確認。
同行者別の配慮
- 子ども:合流点を細かく、声かけテンプレを紙で携行。
- 高齢者:段差と階段距離の把握、日中到着の徹底。
- 妊婦:休憩間隔を短く、医療機関の時間外入口を事前確認。
- 障がい:段差回避ルート、**エレベーター代替(停電時)**を設計。
地域×同行者の注意点マトリクス
地域/同行 | 子ども | 高齢者 | 妊婦 | 障がい |
---|---|---|---|---|
海沿い | 風で体が流れる→屋内合流 | 階段避け→緩い坂 | 休憩密度↑ | 斜路・手すり確認 |
山あい | 落石情報→幹線へ | 坂連続→距離短縮 | 車移動多め | 段差回避マップ |
都市 | 濡れ床→白線回避 | エスカレーター混雑回避 | 座れる場所地図 | エレベーター位置 |
離島 | 欠航→予備日 | 医療・薬の在庫確認 | 船揺れ対策 | 送迎・車椅子有無 |
オフライン準備:地図・連絡・翻訳・お金
地図と連絡の二本立て
- 地図:主要エリアを端末に保存+A6紙。集合1→2の矢印を記入。
- 連絡:定型文を日本語/英語で登録。
【日本語SMS】「今○○にいます。10分後××へ移動。返信不要。」
【英語SMS】”At ○○ now. Moving to ×× in 10 min. No reply needed.”
簡易翻訳テンプレ(見せる用)
- 場所:”I need shelter. Where is the nearest police box or shop entrance?”
- 病気:”I need help. I have an allergy to ○○.”
お金の運用
- 少額現金を身につける(千円札×3〜5)。
- 高額は手荷物内ポケット、小分けは部屋の見えにくい場所へ。
Q&A(よくある疑問)と用語辞典
Q&A
Q1.到着が夜になりそう。安全に移動するコツは?
A.空港/駅から屋根続きのルートを選び、改札外の明るい店前を中継点に。タクシー不足に備え徒歩予備ルートも用意。
Q2.子ども連れ。最優先で確認すべきは?
A.宿の非常階段までの歩数と集合場所、24h施設の位置。荷物は通路をふさがない配置に。
Q3.悪天候で予定が崩れた。
A.朝に行程を丸ごと更新し、行かない判断も選択肢に。屋内代替を2つ用意。
Q4.現金はどのくらい?
A.少額は身につけ、高額は手荷物、小分けは部屋。電子決済一本化は避ける。
Q5.英語が苦手。どう伝える?
A.紙の連絡テンプレ(施設名・電話番号・宿名)を見せる。指差し+短文が最速。
Q6.高層ホテルは危険?
A.階数より非常階段までの動線把握が重要。夜の靴と懐中電灯を枕元へ。
Q7.離島で欠航が出た。
A.****予備日と宿の延泊可否、別航路を同時に確認。現金の残量を声出しで確認。
用語辞典(やさしい言い換え)
- 庇(ひさし):建物入口の出っ張り。雨や落下物をよける。
- ピロティ:建物1階が抜けた空間。雨や風をよけやすい。
- 待避:危険から一時的に離れること。
- 集合場所:はぐれたとき落ち合う場所。
- 固定電話:店や交番の置き電話。電波に左右されにくい。
まとめ:旅の自由は“準備の自由”から
気象・地形・建物・ルート・連絡の5軸で同じフォーマットを回せば、どの土地でも安全の見取り図が描けます。到着15分チェック、移動の予備案、集合場所の二重化、紙情報の携行、そしてGO/DELAY/CANCELの判断テンプレ。準備の自由が、旅の自由を確実に広げます。